腐った林檎

アズ

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第3章 パクス

04 暗闇に沈む

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 アペールは不安定な場所に立っている。それは比喩ではない。
 海賊船がようやく行き先が決まり、その国の港で誘拐されたシェジーを含む女達は皆そこで売られた。アペールを含む男達はというとその港で降ろされることはなかった。
 ここでアペールはシェジーと別れることになる。
 それから一日が経過し、アペールは仲間と一緒に空腹のあまり海賊達のパンを盗んでしまった。
 それまでの食事は味の薄いスープに芋が一つ入っている程度だった。
 そして、それはあっさりと見つかり、今仲間と共に甲板に出され、船から板を出し、一人一人、その板の上の端に立たされていた。
 甲板長はとても怒っていた。
「海賊相手に盗みをするとはいい度胸してやがるなぁ!!」
 船員はクスクスと笑っている。誰も止めに入る奴はいないし、むしろ余興感覚に観客として見ていた。
 海賊は皆クズだ。汚いし、臭いし、うるさいし、すぐキレるし。
「さて、誰から死ぬか……お前か?」
 甲板長に睨まれた一人の男子は泣きながら許しを求めた。
「俺達は海賊だ。盗みもする。だがな、海賊船の中で盗みをするのはご法度だ!」
 甲板長はその子の板を蹴った。男は黒い海の中へ落ちた。
 暫くの沈黙。男は浮かび上がることはなかった。
 すると、歓声があがる。
 やはり、海賊はクズだ。クズ、クズ、クズ!
「お前達は何で自分達ばっかこんな不幸なのかって。考えるだけ無駄だ。お前達は奴隷。命令に従って生きてりゃあいいんだよ!」
 また、甲板長は板を蹴る。そして、また一人男が海に落ちた。
 アペールは周囲の黒い海を見た。底の見えないそれは暗闇で、海の中がどうなっているか分からない。ただ、無事では済まないことは知っている。この海賊船以外の船は故障を起こし沈んでいく。
 アペールは前を見た。目の前に甲板長が立っている。次は自分の番だ。心臓はバクバクと鳴っている。それなのに、平静を装う自分がいた。甲板長の目には見透かされているかもしれない。だが、他の奴らみたいに泣きながら無様に懇願はしたくなかった。連中はそれを見て楽しんでいるんだ。だから、泣くもんか。
「お前は死にたいらしいな。最後に言い残すことは?」
 言い残すこと? 懇願しても助けてくれるわけじゃあない。むしろ、俺が懇願するのを待っているんじゃないのか。冗談じゃない。俺を売ろうとした奴らだ。最後くらい言ってやろうじゃないか。
「くたばれクソ野郎!」
 甲板長は先程までの表情を変えた。ケラケラと笑っていた船員も静かになる。
 そこに船長が現れた。
「甲板長、戻してやれ」
 甲板長は船長の命令通りアペールを船の中に戻した。
「あとは必要ない」
 船長がそう言った直後、残りの奴らは黒い海へと落とされた。
「さて、クソ生意気なクソガキよく聞け。お前は所詮海賊にはなれねぇ。お前みたいなガキはうちにはいらねぇんだ。だが、お前の度胸に免じて今回は鞭打ちで許してやる」
 なんだよ、許してねぇじゃんか。
 甲板長がアペールの服を破り上半身裸にすると、鞭打ちが始まった。
 何度打たれたことか。途中でアペールはそのまま無意識に沈んだ。それは多分きっと暗闇なんだろう。もしかしたら、そこは死と同じ場所かもしれない。無の世界。



 目を覚ました時、アペールは背中に激痛が走った。動かせないと分かると、うつ伏せのまま横になった。ランプの明かりがゆらゆらと船と一緒に揺れている。
 自分の背中が今どうなっているか分からない。あの甲板長は一切手加減をしなかった。あのままあれで殺されるのかと思った。激しい痛みはまるで皮膚だけでなく肉を切り裂いたみたいに突き刺さる痛みだ。そして、背中全体があつい。
 すると、重い足音が近づいてきた。
「おいお前、ついたぞ」
 アペールは必死に顔をあげ、船員を見た。巨漢の汚い海賊だ。
「いつまで寝てる。早く起きろ」
 アペールは必死に痛みをこらえながら立ち上がる。
 檻から出されたアペールは甲板を出た。
 すると、甲板から遠くの島が見えてきた。島の上に立派な城があり、周りは森だった。
 あれが連中のアジトか。
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