3 / 97
君の名は
しおりを挟む
「Oh my GOD!」
ステラは圭司と女の子を交互に見て、まずそう言った。
——アメリカの人って驚いたらやっぱり言うよな。
そんなことを思う圭司に、ステラは、
「圭司、あなたそんな趣味だったの! 信じられない、そんな子どもを脱がすなんて!」と叫びながら、圭司の腕から女の子を奪い取ろうとした。
「ステラ、誤解するな。ま、まず落ち着いて」
「この状況でなんの誤解が……」
「だから、誤解しないでちょっと深呼吸をして、落ち着いて聞いてくれ」
コクコクと頷きながら圭司の言うとおりにステラが浅い深呼吸を2、3度している間に圭司が続けた。
「いいか、ステラ。俺はこの子を脱がそうなんてしてない。もし俺がそんなことをしてたなら、まず絶対に君を呼ばない。だろ? ここまでは理解した?」
ステラが少し考えて頷いた。
「よし。俺は脱がそうとしたんじゃなくて、この子に服を着せようとしてる。だけど、男の俺はこの子に着せる服を持ってない。だから、君を呼んだ」
再びステラが頷いた。少し落ち着いたらしい。
「この子が着られそうな服、持ってないか」
「この子小さくて細いから、さすがに私の服じゃ大き過ぎるわ。とりあえず毛布を取ってくる」
「ああ、頼む」
しばらくしてステラから毛布を受け取りストーブの側に女の子を座らせて、その毛布で包むようにして暖を取らせた。そしてつと思いついてステラに女の子の付き添いを頼み、作り置きのコーンスープを温めた。
「さあ、飲んで。熱いから気をつけて」
女の子に促すと、スープの入ったカップを両手のひらで包むように持って飲み始め、「……美味しい」と、2人の顔を見ながら初めて自分から口を開いた。
「どこから来た?」と話しかけてみる。
女の子は少しためらいながら、「アミティ」とだけ答えた。
「アミティ? その格好であんな遠いところからか! どうやって?」
「……走って」
「走って? アミティからだとこの街まで30マイルはあるぞ」
思わず圭司とステラは顔を見合わせた。
「じゃあ、もしかしてお腹すいてる?」とステラが聞くと、少女は小さく頷いた。
「わかった。待ってて」
ステラは一度厨房に入って行き、しばらくして何やら丼を持ってきて、少女の前のテーブルに置いた。
「どうよ、私特製ターキー丼! お店じゃ出してないメニューよ」
「おいおい、そりゃまたボリュームありそうなディナーだな」
圭司も初めて見るほど山盛りになっている。
「さっきターキーを温めたからね。30マイルも走ったらこれくらい必要よ」と、ステラが自慢げに笑った。
最初からスプーンを添えてある。こういうところが日本人にはない感覚で、アメリカでの商売に彼女が気が利いていて助かる。
よっぽどお腹が空いていたのだろう、その丼を女の子は一気に減らしてゆく。卵で閉じたターキーの下から大量のライスが出てきて少し驚いたみたいだが、どうやら美味しかったらしい。
一息ついたところでもう一度圭司が「なんでそんな遠くから来たんだ」と聞くと、彼女は「逃げてきた」とだけ短く答えた。
「逃げてきた? 何から?」と言いながら圭司は顔を覗き込んだ。
少し間をおいて「街から」と、また短く答えた。
「何か悪いことしたのか」
今度は首を横に振り、また黙りこむ。圭司はステラをちらりと見た。
「アメリカ人って言ったな。名前は?」
「ケイ」
「ケイ? フルネームは?」
「タカハシ。ケイ タカハシ」
「なんだ、やっぱり日系人なんだな。ケイはわからないが、苗字は日本にある名前なんだよ。日本、知ってるか?」
「日本? 知らない……」
ケイと名乗った少女は、ジッと圭司を見つめていた。汚れた衣服からは想像もできないほど深くて綺麗な瞳だった。
「ケイ タカハシね。圭司、あなたの名前と似てるね。顔も似てるかも」と、ステラが横から言う。
「ああ、君らから見たら、東洋人の顔って見分けがつけにくいって言うもんな」
「そうかなあ。似てると思うけどなあ」と言いながらステラは、圭司とケイの顔を何度も交互に見て首を捻っている。そんな仕草が圭司は可笑しかった。
食事もとってストーブで暖まったのだろう、先程まで青ざめていた唇に血の気が戻り綺麗なやや赤みの強いピンク色に発色しているようだった。頬もうっすらと紅を刺したようだ。
「君の両親はどこに住んでる? アミティなのかい」と圭司が聞く。場合によっては今から連れて帰ろうかと思っていた。
だが、「いないの」と、そう言ってケイは視線を落とした。
ステラは圭司と女の子を交互に見て、まずそう言った。
——アメリカの人って驚いたらやっぱり言うよな。
そんなことを思う圭司に、ステラは、
「圭司、あなたそんな趣味だったの! 信じられない、そんな子どもを脱がすなんて!」と叫びながら、圭司の腕から女の子を奪い取ろうとした。
「ステラ、誤解するな。ま、まず落ち着いて」
「この状況でなんの誤解が……」
「だから、誤解しないでちょっと深呼吸をして、落ち着いて聞いてくれ」
コクコクと頷きながら圭司の言うとおりにステラが浅い深呼吸を2、3度している間に圭司が続けた。
「いいか、ステラ。俺はこの子を脱がそうなんてしてない。もし俺がそんなことをしてたなら、まず絶対に君を呼ばない。だろ? ここまでは理解した?」
ステラが少し考えて頷いた。
「よし。俺は脱がそうとしたんじゃなくて、この子に服を着せようとしてる。だけど、男の俺はこの子に着せる服を持ってない。だから、君を呼んだ」
再びステラが頷いた。少し落ち着いたらしい。
「この子が着られそうな服、持ってないか」
「この子小さくて細いから、さすがに私の服じゃ大き過ぎるわ。とりあえず毛布を取ってくる」
「ああ、頼む」
しばらくしてステラから毛布を受け取りストーブの側に女の子を座らせて、その毛布で包むようにして暖を取らせた。そしてつと思いついてステラに女の子の付き添いを頼み、作り置きのコーンスープを温めた。
「さあ、飲んで。熱いから気をつけて」
女の子に促すと、スープの入ったカップを両手のひらで包むように持って飲み始め、「……美味しい」と、2人の顔を見ながら初めて自分から口を開いた。
「どこから来た?」と話しかけてみる。
女の子は少しためらいながら、「アミティ」とだけ答えた。
「アミティ? その格好であんな遠いところからか! どうやって?」
「……走って」
「走って? アミティからだとこの街まで30マイルはあるぞ」
思わず圭司とステラは顔を見合わせた。
「じゃあ、もしかしてお腹すいてる?」とステラが聞くと、少女は小さく頷いた。
「わかった。待ってて」
ステラは一度厨房に入って行き、しばらくして何やら丼を持ってきて、少女の前のテーブルに置いた。
「どうよ、私特製ターキー丼! お店じゃ出してないメニューよ」
「おいおい、そりゃまたボリュームありそうなディナーだな」
圭司も初めて見るほど山盛りになっている。
「さっきターキーを温めたからね。30マイルも走ったらこれくらい必要よ」と、ステラが自慢げに笑った。
最初からスプーンを添えてある。こういうところが日本人にはない感覚で、アメリカでの商売に彼女が気が利いていて助かる。
よっぽどお腹が空いていたのだろう、その丼を女の子は一気に減らしてゆく。卵で閉じたターキーの下から大量のライスが出てきて少し驚いたみたいだが、どうやら美味しかったらしい。
一息ついたところでもう一度圭司が「なんでそんな遠くから来たんだ」と聞くと、彼女は「逃げてきた」とだけ短く答えた。
「逃げてきた? 何から?」と言いながら圭司は顔を覗き込んだ。
少し間をおいて「街から」と、また短く答えた。
「何か悪いことしたのか」
今度は首を横に振り、また黙りこむ。圭司はステラをちらりと見た。
「アメリカ人って言ったな。名前は?」
「ケイ」
「ケイ? フルネームは?」
「タカハシ。ケイ タカハシ」
「なんだ、やっぱり日系人なんだな。ケイはわからないが、苗字は日本にある名前なんだよ。日本、知ってるか?」
「日本? 知らない……」
ケイと名乗った少女は、ジッと圭司を見つめていた。汚れた衣服からは想像もできないほど深くて綺麗な瞳だった。
「ケイ タカハシね。圭司、あなたの名前と似てるね。顔も似てるかも」と、ステラが横から言う。
「ああ、君らから見たら、東洋人の顔って見分けがつけにくいって言うもんな」
「そうかなあ。似てると思うけどなあ」と言いながらステラは、圭司とケイの顔を何度も交互に見て首を捻っている。そんな仕草が圭司は可笑しかった。
食事もとってストーブで暖まったのだろう、先程まで青ざめていた唇に血の気が戻り綺麗なやや赤みの強いピンク色に発色しているようだった。頬もうっすらと紅を刺したようだ。
「君の両親はどこに住んでる? アミティなのかい」と圭司が聞く。場合によっては今から連れて帰ろうかと思っていた。
だが、「いないの」と、そう言ってケイは視線を落とした。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる