シング 神さまの指先

笑里

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背中

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「ところで、ケイは今何歳だ?」
 ご飯をほとんど食べたケイは少しだけ考えて、「今日は何日?」と聞いた。
「何日って、今日は感謝祭だからな。11月27日だよ」
「じゃあ、まだ10歳」
 声の震えも止まっていた。
「まだ?」
「12月が誕生日なの」
「へえ、何日が?」
「12月、1日」
「1日生まれか。もうすぐだな」
「本当は生まれた日じゃないんだけど」消え入りそうな声でケイは言う。
「生まれた日じゃなければ、何の日なんだ」
 言い方が気になって聞いてみたが、それには何も言わずに床を見つめていた。

「ちょっとおっきいのはわかってるけど、とりあえずこれを着て」と、奥へ引っ込んでたステラが服を持ってきた。どうやらトレーナーとスカートのようだ。
「その前に、今着てる服をランドリーで洗ってくるから、脱いでね」
 ステラはケイにできるだけ優しく言う。そして今度は圭司に、
「ほら、レディが着替えるんだから、ジェントルマンは後ろを向いて」
と言いながらケイが見えないように間に立っている。
「わかってますよ。どうぞごゆっくりとお着替えください」
 圭司はステラとケイに恭しくかしずきながら後ろを向いたのだった。

「Oh my!」
 突然ステラが驚いたように、小さく声を上げた。圭司が後ろを向いてすぐのことだ。
「どうした、ステラ」
 ステラはちょっとためらっていたようだったが、「ちょっとだけこっちを見てくれる?」と圭司にいう。
「もう着替えたのか。早いな」
「そうじゃなくて——ケイの背中だけちょっと見てくれる?」
「いいのか」
「うん。ちょっとだけ」
「何だっていうんだい」そう言いながら圭司が振り向くと、ケイの小さな背中が見えた。そして、ステラが言わんとしていることが一眼でわかった。
 何かにいくつも傷つけられた小さな背中。まだ新しいそうな青い痣の下に、かなり前についたような黄色く変色した背中。しかも傷はひとつではない。
 圭司は言葉を失い、ごくりと唾を飲み込んで固まった。

「これはいったい……」
 少し間を置いて、やっと言葉が出た。その間にステラはケイの正面に廻り、体の前を見ていた。
「前も同じよ」
 ステラはそう言いながら、ケイの肩のあたりを指でを押さえ、「痛くない?」とケイにいうと、ケイは軽く首を横に振って、「大丈夫、ちょっと前のだから」と、小さな声で返事をした。
「ここは?」
 そう言って押さえたのは右腕の切り傷で、ケイは「アウッ」という声を出して、一瞬眉をひそめた。
「これも誰かに——やられたの?」とステラが聞くとケイは首を振った。
「逃げるときに、窓ガラスで切っちゃったの。失敗しちゃった」と言いながら、ちょっと舌を出して平気そうな顔で笑っている。まるで彼女にとってこの程度の傷は「慣れ」ていて大したことじゃないというようだった。

「さっき両親はいないって言ったな。どこで育ったんだ」
 ブカブカの服を着たケイが怯えないように、できるだけ笑いながら優しく圭司は話しかけた。だが、ケイはそれよりも大きすぎる服の方が気になるらしい。
「私、スカートって初めて」
 ケイは腰回りをピンで止めたスカートの裾を少しつまんで広げている。
「あら、そうなの? なかなか似合ってるわよ」とステラがそう言うと、ケイははにかむように微笑んだ。ステラはその様子を見て、ちらりと圭司に目くばせをする。
「もう一度聞くけど、ケイはどこで育った?」
「……アミティ」
 相変わらずスカートを気にしながらケイは返事をした。
「アミティのどこ?」
「ストロベリーハウス」
「ストロベリーハウス?」
「うん。ジョシー夫妻がやってるハウス」
 少しずつ間を置きながらケイは返事を返してくれる。そして圭司は、さっきから一番聞きたいことに少し踏み込んだ。
「その、ジョシー夫妻は……その、優しいのか」
 それまでしきりにスカートを気にしていたケイが、ぴたりと動きを止めて、そして息を大きく吸い込むのがわかった。それから顔を上げて何か言いたげに圭司の目をじっと見たのだった。
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