シング 神さまの指先

笑里

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君の名は

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「Oh my GOD!」
 ステラは圭司と女の子を交互に見て、まずそう言った。
 ——アメリカの人って驚いたらやっぱり言うよな。
 そんなことを思う圭司に、ステラは、
「圭司、あなたそんな趣味だったの! 信じられない、そんな子どもを脱がすなんて!」と叫びながら、圭司の腕から女の子を奪い取ろうとした。
「ステラ、誤解するな。ま、まず落ち着いて」
「この状況でなんの誤解が……」
「だから、誤解しないでちょっと深呼吸をして、落ち着いて聞いてくれ」
 コクコクと頷きながら圭司の言うとおりにステラが浅い深呼吸を2、3度している間に圭司が続けた。
「いいか、ステラ。俺はこの子を脱がそうなんてしてない。もし俺がそんなことをしてたなら、まず絶対に君を呼ばない。だろ? ここまでは理解した?」
 ステラが少し考えて頷いた。
「よし。俺は脱がそうとしたんじゃなくて、この子に服を着せようとしてる。だけど、男の俺はこの子に着せる服を持ってない。だから、君を呼んだ」
 再びステラが頷いた。少し落ち着いたらしい。
「この子が着られそうな服、持ってないか」
「この子小さくて細いから、さすがに私の服じゃ大き過ぎるわ。とりあえず毛布を取ってくる」
「ああ、頼む」

 しばらくしてステラから毛布を受け取りストーブの側に女の子を座らせて、その毛布で包むようにして暖を取らせた。そしてつと思いついてステラに女の子の付き添いを頼み、作り置きのコーンスープを温めた。

「さあ、飲んで。熱いから気をつけて」
 女の子に促すと、スープの入ったカップを両手のひらで包むように持って飲み始め、「……美味しい」と、2人の顔を見ながら初めて自分から口を開いた。
「どこから来た?」と話しかけてみる。
 女の子は少しためらいながら、「アミティ」とだけ答えた。
「アミティ? その格好であんな遠いところからか! どうやって?」
「……走って」
「走って? アミティからだとこの街まで30マイルはあるぞ」
 思わず圭司とステラは顔を見合わせた。
「じゃあ、もしかしてお腹すいてる?」とステラが聞くと、少女は小さく頷いた。
「わかった。待ってて」
 ステラは一度厨房に入って行き、しばらくして何やら丼を持ってきて、少女の前のテーブルに置いた。
「どうよ、私特製ターキー丼! お店じゃ出してないメニューよ」
「おいおい、そりゃまたボリュームありそうなディナーだな」
 圭司も初めて見るほど山盛りになっている。
「さっきターキーを温めたからね。30マイルも走ったらこれくらい必要よ」と、ステラが自慢げに笑った。
 最初からスプーンを添えてある。こういうところが日本人にはない感覚で、アメリカでの商売に彼女が気が利いていて助かる。
 よっぽどお腹が空いていたのだろう、その丼を女の子は一気に減らしてゆく。卵で閉じたターキーの下から大量のライスが出てきて少し驚いたみたいだが、どうやら美味しかったらしい。
 一息ついたところでもう一度圭司が「なんでそんな遠くから来たんだ」と聞くと、彼女は「逃げてきた」とだけ短く答えた。
「逃げてきた? 何から?」と言いながら圭司は顔を覗き込んだ。
 少し間をおいて「街から」と、また短く答えた。
「何か悪いことしたのか」
 今度は首を横に振り、また黙りこむ。圭司はステラをちらりと見た。
「アメリカ人って言ったな。名前は?」
「ケイ」
「ケイ? フルネームは?」
「タカハシ。ケイ タカハシ」
「なんだ、やっぱり日系人なんだな。ケイはわからないが、苗字は日本にある名前なんだよ。日本、知ってるか?」
「日本? 知らない……」
 ケイと名乗った少女は、ジッと圭司を見つめていた。汚れた衣服からは想像もできないほど深くて綺麗な瞳だった。
「ケイ タカハシね。圭司、あなたの名前と似てるね。顔も似てるかも」と、ステラが横から言う。
「ああ、君らから見たら、東洋人の顔って見分けがつけにくいって言うもんな」
「そうかなあ。似てると思うけどなあ」と言いながらステラは、圭司とケイの顔を何度も交互に見て首を捻っている。そんな仕草が圭司は可笑しかった。

 食事もとってストーブで暖まったのだろう、先程まで青ざめていた唇に血の気が戻り綺麗なやや赤みの強いピンク色に発色しているようだった。頬もうっすらと紅を刺したようだ。
「君の両親はどこに住んでる? アミティなのかい」と圭司が聞く。場合によっては今から連れて帰ろうかと思っていた。
 だが、「いないの」と、そう言ってケイは視線を落とした。
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