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#98 リオンの家庭の事情。その2
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壱たちは奥の端の席に掛けた。サユリはテーブルの上に。
「イチさん、うちの状況をお話します」
リオンが口を開いた。
リオンには、妹がひとりいるのだと言う。
その妹が幼い頃から特に手癖が悪く、両親もリオンも手を焼いていたのだと言う。
しょっちゅう衛兵の世話にもなっていて、両親の苦労はそれは大変なものだった。
その時、付き合っていた仲間が悪かったのか、単に妹が悪かったのか、薬物の過剰摂取で完全に我を無くした妹は、酔っ払いの様な足取りで家に戻って来たかと思うと、念の為にと防犯用に玄関脇に立ててあった斧で、家にいた両親を惨殺したのだ。
友人との約束で外出していたリオンだけが助かった。
妹は直ぐに衛兵に捕縛された。返り血で全身血塗れになり、血がべったり付着した斧を手に、気味悪く笑いながら徘徊していた所を、近所の人に通報されたのだ。
妹は衛兵の間では有名人だったので、親に知らせる為にひとりが直ぐに家に駆け付け、両親の惨殺体を発見。事の次第を把握した。
その時、妹はたったの10歳だった。
起こした事件は残忍だったが、まだ幼かったと言う事と、周囲の人間が相当に悪かった事も大きく、刑に服す期間は10年だった。
両親を失ったリオンは、その街の福祉や周りの大人に助けられながら、10年を過ごした。
そして、妹が帰って来た。
服役中に薬の中毒症状は抜けた。妹は顔を落としながら、しかし照れ臭そうにはにかみながら帰って来た。しかし直ぐに真剣な表情を浮かべ、リオンを真っ直ぐに見、これからは真面目に働くからと、そう言った。
10年という年月に、事件そのものはかなり風化した。だが妹が薬物過剰摂取の上に両親を殺害したと言う事実は、やはり周りから忘れられる事は無かった。
周りの妹への怖れ、警戒。それは無理からぬ事。
リオンですら、妹への接し方を決め兼ねていた所がある。妹であると同時に、両親の仇でもあるのだ。
ふたりの間でどの様な遣り取りがあったのか、多くは語らなかったが。
段々とその街に居づらくなる妹を見て、リオンは妹を連れて街を出る決心をする。ふたりを知らない街か村に移り住んで、いちからやり直す。
そうしてなけなしの貯金を掴み、街を出て、他の土地を目指して歩き続け、辿り着いたのが、このコンシャリド村だったのだ。
そうしてリオンは牧場に、妹は製糸工房に勤める事になり、サユリの加護もあって、平和に暮らしていた。
だが1ヶ月も経たない時、妹は起き抜けに頭を抱えて、狂った様な叫び声を上げる。
リオンが懸命に声を掛け、辛抱強く宥め、漸く落ち着く妹。泣き腫らしたまま眠りにつき、翌日の朝まで起きて来なかった。
そんな発作と言えるものが、約月に1度の単位で訪れるのだ。
それは恐らく、薬物の後遺症。薬物そのものは身体からは抜けている筈なのだが、過剰摂取の負担か、犯した罪の重さからか、両親を惨殺した意識からか、こうした症状が起こるのだ。
普段は大人しく、仕事にも普通に行き、懸命に働く。だが発作の様なそれが起こると、手が付けられなくなってしまうのだ。
重い。リオンが抱えるこれはあまりにも深刻だ。話を聞いたものの、壱に何が出来ると言うのか。言える事など何も無い。
半ば呆然としていると、ジェンが口を開いた。
「大変っすよね。でも待つしか無いっすかね」
その台詞にリオンは頷く。
「多分、時間しか解決してくれないんだと思う。まだ妹も若いから、待つしか無いんだと思う」
壱の世界だと、カウンセリングなどに通うのが良いのだろう。この村にはいないのだろうか。
しかし普通の医者もいないと聞いていたから、カウンセラーもいないと考えて良いと思う。
「イチさんすいません、こんな重い話。ただいつ発作が出るか判らないので、話しておいた方が良いかと思いました」
リオンが言い、頭を下げた。
「う、うん、あの」
何と言ったら良いか判らず、壱は言葉を探す。
「大変だろうけど、あの、俺とかが出来る事があったら、言ってね」
漸くそれだけを絞り出す。
「ありがとうございます」
リオンはまた頭を下げた。
多分、壱に出来る事など無いだろう。仕事の融通だとか、そんな事ぐらいだと思う。
後はただ、リオンたち兄妹が少しでも心穏やかに過ごせる事を、願うばかりである。
「イチさん、うちの状況をお話します」
リオンが口を開いた。
リオンには、妹がひとりいるのだと言う。
その妹が幼い頃から特に手癖が悪く、両親もリオンも手を焼いていたのだと言う。
しょっちゅう衛兵の世話にもなっていて、両親の苦労はそれは大変なものだった。
その時、付き合っていた仲間が悪かったのか、単に妹が悪かったのか、薬物の過剰摂取で完全に我を無くした妹は、酔っ払いの様な足取りで家に戻って来たかと思うと、念の為にと防犯用に玄関脇に立ててあった斧で、家にいた両親を惨殺したのだ。
友人との約束で外出していたリオンだけが助かった。
妹は直ぐに衛兵に捕縛された。返り血で全身血塗れになり、血がべったり付着した斧を手に、気味悪く笑いながら徘徊していた所を、近所の人に通報されたのだ。
妹は衛兵の間では有名人だったので、親に知らせる為にひとりが直ぐに家に駆け付け、両親の惨殺体を発見。事の次第を把握した。
その時、妹はたったの10歳だった。
起こした事件は残忍だったが、まだ幼かったと言う事と、周囲の人間が相当に悪かった事も大きく、刑に服す期間は10年だった。
両親を失ったリオンは、その街の福祉や周りの大人に助けられながら、10年を過ごした。
そして、妹が帰って来た。
服役中に薬の中毒症状は抜けた。妹は顔を落としながら、しかし照れ臭そうにはにかみながら帰って来た。しかし直ぐに真剣な表情を浮かべ、リオンを真っ直ぐに見、これからは真面目に働くからと、そう言った。
10年という年月に、事件そのものはかなり風化した。だが妹が薬物過剰摂取の上に両親を殺害したと言う事実は、やはり周りから忘れられる事は無かった。
周りの妹への怖れ、警戒。それは無理からぬ事。
リオンですら、妹への接し方を決め兼ねていた所がある。妹であると同時に、両親の仇でもあるのだ。
ふたりの間でどの様な遣り取りがあったのか、多くは語らなかったが。
段々とその街に居づらくなる妹を見て、リオンは妹を連れて街を出る決心をする。ふたりを知らない街か村に移り住んで、いちからやり直す。
そうしてなけなしの貯金を掴み、街を出て、他の土地を目指して歩き続け、辿り着いたのが、このコンシャリド村だったのだ。
そうしてリオンは牧場に、妹は製糸工房に勤める事になり、サユリの加護もあって、平和に暮らしていた。
だが1ヶ月も経たない時、妹は起き抜けに頭を抱えて、狂った様な叫び声を上げる。
リオンが懸命に声を掛け、辛抱強く宥め、漸く落ち着く妹。泣き腫らしたまま眠りにつき、翌日の朝まで起きて来なかった。
そんな発作と言えるものが、約月に1度の単位で訪れるのだ。
それは恐らく、薬物の後遺症。薬物そのものは身体からは抜けている筈なのだが、過剰摂取の負担か、犯した罪の重さからか、両親を惨殺した意識からか、こうした症状が起こるのだ。
普段は大人しく、仕事にも普通に行き、懸命に働く。だが発作の様なそれが起こると、手が付けられなくなってしまうのだ。
重い。リオンが抱えるこれはあまりにも深刻だ。話を聞いたものの、壱に何が出来ると言うのか。言える事など何も無い。
半ば呆然としていると、ジェンが口を開いた。
「大変っすよね。でも待つしか無いっすかね」
その台詞にリオンは頷く。
「多分、時間しか解決してくれないんだと思う。まだ妹も若いから、待つしか無いんだと思う」
壱の世界だと、カウンセリングなどに通うのが良いのだろう。この村にはいないのだろうか。
しかし普通の医者もいないと聞いていたから、カウンセラーもいないと考えて良いと思う。
「イチさんすいません、こんな重い話。ただいつ発作が出るか判らないので、話しておいた方が良いかと思いました」
リオンが言い、頭を下げた。
「う、うん、あの」
何と言ったら良いか判らず、壱は言葉を探す。
「大変だろうけど、あの、俺とかが出来る事があったら、言ってね」
漸くそれだけを絞り出す。
「ありがとうございます」
リオンはまた頭を下げた。
多分、壱に出来る事など無いだろう。仕事の融通だとか、そんな事ぐらいだと思う。
後はただ、リオンたち兄妹が少しでも心穏やかに過ごせる事を、願うばかりである。
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