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#99 鰹節を作ろう。その1

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 使っていたテーブルとその周辺を掃除し、以前の職場に行くガイたちを見送った後、壱は厨房に入る。

「時間貰ってありがとう。俺も入るよ」

「ほいほい。話は聞けたかの?」

「うん。聞いた」

「うむ、なら良いかの」

 茂造は内容を察している様で、コンソメを見ながら頷いた。

「おーイチ、じゃあペペロンチーノの具材用意してくれよ!」

 カリルがミネストローネを作りながら言う。

「オッケー。具は何にしようか」

「任せる」

「バジルソースの具は何にするの?」

「まだ決めて無ぇんだ」

「んーじゃあ……」

 壱は野菜箱を見ながら考える。

「ベーコンときゃべつってどうかな」

「いいんじゃね? じゃあバジルはそーだなー、ブロッコリとたいで行こっかな」

「いいね! 美味しそう。カリフラワ茹でておく?」

「お、そりゃ助かる。よろしくな!」

 壱は鍋に水を入れて火に掛ける。カリフラワを小房に分けて、沸いた湯に塩を入れて、茹でて行く。

 その間にきゃべつをざく切り、ベーコンは短冊切りに。

 カリフラワが茹で上がったらザルに丘上げして、次はベーコンときゃべつを炒めて行く。

 そうして着々と、昼営業の仕込みが進んで行った。



 昼営業が終わる頃、裏口から厨房にひとりの男性が顔を出した。

「ういーっす」

「おや、スルト。どうしたのかの?」

かつお持って来たぜ!」

 そう言いながら、茂造にスルトと呼ばれた男性が、鰹をかかげて入って来た。

「食堂用じゃ無くて、個人的に欲しいって言ってただろ? だから早く欲しいかなって。食堂用の魚は後で来るからさ!」

「おやおや、それは有難いのう」

 鰹を1番心待ちにしていたのは壱である。客も少なくなり手が空いていたので、小走りで駆け寄る。

「ありがとうございます!」

「あ、あんたがイチ? よろしくな! オレはスルト。漁師だ」

「よろしくお願いします。壱です。鰹欲しかったのは俺で。早く持って来て貰えて嬉しいです」

 壱は嬉しさで笑みを浮かべ、頭を下げた。これだと今日の休憩時間に鰹節作りに取り掛かれるかも知れない。

「あんたかぁ、鰹欲しいって物好きは。臭みがあるからって、村人はあんま食わねぇのになぁ」

「俺たちの世界には、その臭みが気にならない食べ方があるんです」

「へぇっ!? そりゃあ楽しみだな!」

 スルトは満面の笑みを浮かべた。

「じゃ、これな! まだ生きてるからよ!」

「おっとと!」

 スルトからピチピチと跳ねる鰹を受け取り、壱は慌てて生けに走って放した。鰹はようやく息が出来る様になったと、優雅に泳ぎ始める。壱は小さく息を吐く。

「じゃあな! イチ、また今度ゆっくりな!」

 そんなタイミングがあるかどうかは判らないが、面白そうな人なので、また機会があればなと思う。

「なぁじいちゃん、あの鰹、俺さばきたい」

 壱がぽつりと言うと、茂造はやや眼を見開く。

「おや、壱、魚を捌いた事があるのかの?」

「無い。テレビとかで何回も見た事はあるんだけど。でもこれは最初から自分でやりたいなって。だからじいちゃん教えてよ。食堂で出すやつじゃ無いから、免許いらないだろ?」

「そうじゃな。壱は料理上手じゃから、魚を捌くのも出来そうじゃの。じゃあ早速やるかの?」

「いいの? まだ営業中なのに」

「もう客も殆どおらんからの。まかないが後になるがの。カリルよ、後は頼んで良いかの?」

「良いですよ。イチが免許取る日も近いな!」

 茂造が生け簀に寄り、さっき放したばかりの鰹を引き上げて来た。

「ではの、やるかの」

 茂造の笑顔に、壱はごくりと喉を鳴らした。
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