101 / 190
#101 鰹節を作ろう。その3
しおりを挟む
さて、出来たなまり節を鰹節にするには、燻し熱さねばならない。
この村ではベーコンを作っていて、燻製が出来る施設はある。食堂では燻製が出来る器具が無いので、借りなければならない訳だが。
「牧場に燻製小屋があるカピよ。牧場にも調理師免許を持ってる村人がいるカピ。そこで屠殺して捌いて、燻製にしたり干し肉にしたりしているカピ。その燻製小屋を借りるカピ」
「なるほどなー。そっか、外だったら人の眼もあるだろうし、サユリの時間魔法は使って貰えないな。10日ぐらい、まめに燻製小屋に通わなきゃ」
「10日……そんなに掛かるカピか」
「うん。10日程、3時間ぐらい燻して、1日外に置いて、を繰り返すんだ」
サユリは考える様に眸を閉じる。数秒後眼を開き、頷く。
「壱、卵を持って来るカピ。そうカピな、4つもあれば良いカピか」
「え、卵?」
脈絡の無い話をされ、壱は間抜けな返しをしてしまう。
「良いから持って来るカピ」
「う、うん」
問答無用に言われ、壱は厨房に降りて冷蔵庫から卵を4個出し、首を傾げながら2階に戻る。
「持って来たけど」
「では、それを茹で卵にするカピ。茹で加減はやはりやや半熟が好ましいカピ」
「わ、解った」
壱は鍋に水を張ると卵を入れ、火に掛けた。
「何分茹でるカピ?」
「沸騰してから5分ぐらいってとこかな」
「ふむ」
サユリが右前足を上げ、動かす。
「出来たカピ」
「ありがとう。これは殻剥いちゃって良いの?」
「良いカピ」
湯を零し、幾度か水を入れ替えて冷ますと、殻を剥いて行く。新鮮な卵なのでなかなか剥きにくい。殻に穴が開けられれば良かったのだが、器具も無かったので仕方が無い。
「出来たよ、茹で卵」
「うむ。ではその卵と鰹を持って、燻製小屋に行くカピよ」
「え、卵どうするの? 一緒に燻製にするの? 食べたいの?」
「良いから行くカピよ」
茹で卵の意味が判らずやや狼狽える壱を余所に、サユリは下に降りようとする。壱はそれぞれのトレイに乗せたなまり節と茹で卵を手に、後を追った。
さて、牧場に到着。敷地に入り、サユリが進む方に壱は大人しく付いて行く。
奥の小屋の近くにいた村人に、サユリが声を掛ける。
「マゼラ、少し良いカピか?」
女性だった。明るいブラウンのロングヘアを、耳の下から緩い三つ編みにしている。やや目尻が下がった温和そうな表情。声を掛けられ、柔らかな笑顔を浮かべた。
「あら、サユリさん。どうしました?」
「燻製小屋を借りたいのだカピ。この時間なら動いていると思ったのだカピが。30分もあれば良いのだカピ」
「ええ。動いてますよ。使ってください。何を作られるんですか?」
「茹で卵カピ。急に食べたくなったカピ」
「ああ! 茹で卵の燻製美味しいですよねぇ!」
マゼラは嬉しそうに両手を叩いて鳴らす。しかしすぐに真剣な表情になると。
「あ、ご承知でしょうが、ドアの開閉にはご注意くださいね」
「大丈夫だカピ。心配無いカピ」
サユリが言うと、マゼラは小さく笑って言った。
「はい。実は全然心配してません」
そう笑って言い残すと、マゼラはふわりと去って行った。
しかし、マゼラ、マゼラ。どこかで聞き覚えのある名前なのだが。
壱が首を傾げていると、サユリが口を開く。
「以前、シェムスとボニーのごたごたがあったのを覚えているカピか? マゼラはシェムスにちょっかいを掛けられて、ボニーに浮気相手と勘違いされた子カピ」
「あ、ああ!」
そうだ。あの修羅場の時に、ボニーが口走っていた女性の名前である。もうひとりいたが、今は思い出せない。また会う機会もあるだろう。
確かにマゼラのあのふんわりとした雰囲気は、男性に人気が出そうだ。
「では、行くカピよ」
サユリが小屋の前で鼻を鳴らす。壱がそっとドアを開けると、熱気が顔にぶつかり、良い香りが鼻を突いた。
「早く入って早く閉めるカピ」
サユリに言われ、壱は素早く中に入り、慌ててドアを閉める。
咳き込みそうな煙と香りの中で、壱は涙が出そうになる。
「卵は適当に置きっ放しにするカピ。鰹に時間魔法を掛けるカピ。うむ、終わったカピ」
「もう!?」
「早く外に出るカピ」
あまりにも一瞬にも近い事で、壱は慌てる。ドアを小さく開け、鰹のトレイを手に外に転がり出る。卵は手近な棚に置いて来た。
外は澄んだ空気。壱は大きく深呼吸をする。
「で、鰹は1日普通の空気に置けば良いカピな?」
「う、うん、そう」
サユリが右前足を上げる。
「終わったカピ。また中に入るカピよ」
「う、うん!」
これを10日分繰り返す。時折咳き込みながら、だが燻製小屋内では我慢して、やっと終わった時には、壱は大きく深呼吸した。
「はー! 空気が綺麗だー!」
目的は鰹節作成だったのだが、なかなかに過酷な環境に置かれて忘れそうになっていた。
しかし一緒に動いていたサユリは平気な顔。
「サユリはあの煙の中にいて大丈夫だったの?」
「我には魔法があるカピ。煙たくならないし、匂いも付かないカピ」
「なら俺も守ってよ~」
壱は肩を落とす。しかし手元の鰹を見ると、濃く色付き、そして指で弾くとしっかりと固く乾いた音がする。これは鰹節の完成なのでは無いか。
ちゃんと中心まで乾燥していると良いのだが。それは外から見ても判らない。
「サユリ、これ中まで乾燥してるかどうかって判る?」
一か八かで訊いてみる。するとサユリは眼を細め、頷いた。
「大丈夫カピ。しっかり中まで堅いカピよ」
そんな事まで判るのか。本当にサユリの魔法は凄い。
「じゃあ、鰹節の完成だ! やった!」
壱は嬉しくなって声を上げた。これで昆布と鰹の出汁で味噌汁が飲める。和食ももっと作れるだろう。
この村ではベーコンを作っていて、燻製が出来る施設はある。食堂では燻製が出来る器具が無いので、借りなければならない訳だが。
「牧場に燻製小屋があるカピよ。牧場にも調理師免許を持ってる村人がいるカピ。そこで屠殺して捌いて、燻製にしたり干し肉にしたりしているカピ。その燻製小屋を借りるカピ」
「なるほどなー。そっか、外だったら人の眼もあるだろうし、サユリの時間魔法は使って貰えないな。10日ぐらい、まめに燻製小屋に通わなきゃ」
「10日……そんなに掛かるカピか」
「うん。10日程、3時間ぐらい燻して、1日外に置いて、を繰り返すんだ」
サユリは考える様に眸を閉じる。数秒後眼を開き、頷く。
「壱、卵を持って来るカピ。そうカピな、4つもあれば良いカピか」
「え、卵?」
脈絡の無い話をされ、壱は間抜けな返しをしてしまう。
「良いから持って来るカピ」
「う、うん」
問答無用に言われ、壱は厨房に降りて冷蔵庫から卵を4個出し、首を傾げながら2階に戻る。
「持って来たけど」
「では、それを茹で卵にするカピ。茹で加減はやはりやや半熟が好ましいカピ」
「わ、解った」
壱は鍋に水を張ると卵を入れ、火に掛けた。
「何分茹でるカピ?」
「沸騰してから5分ぐらいってとこかな」
「ふむ」
サユリが右前足を上げ、動かす。
「出来たカピ」
「ありがとう。これは殻剥いちゃって良いの?」
「良いカピ」
湯を零し、幾度か水を入れ替えて冷ますと、殻を剥いて行く。新鮮な卵なのでなかなか剥きにくい。殻に穴が開けられれば良かったのだが、器具も無かったので仕方が無い。
「出来たよ、茹で卵」
「うむ。ではその卵と鰹を持って、燻製小屋に行くカピよ」
「え、卵どうするの? 一緒に燻製にするの? 食べたいの?」
「良いから行くカピよ」
茹で卵の意味が判らずやや狼狽える壱を余所に、サユリは下に降りようとする。壱はそれぞれのトレイに乗せたなまり節と茹で卵を手に、後を追った。
さて、牧場に到着。敷地に入り、サユリが進む方に壱は大人しく付いて行く。
奥の小屋の近くにいた村人に、サユリが声を掛ける。
「マゼラ、少し良いカピか?」
女性だった。明るいブラウンのロングヘアを、耳の下から緩い三つ編みにしている。やや目尻が下がった温和そうな表情。声を掛けられ、柔らかな笑顔を浮かべた。
「あら、サユリさん。どうしました?」
「燻製小屋を借りたいのだカピ。この時間なら動いていると思ったのだカピが。30分もあれば良いのだカピ」
「ええ。動いてますよ。使ってください。何を作られるんですか?」
「茹で卵カピ。急に食べたくなったカピ」
「ああ! 茹で卵の燻製美味しいですよねぇ!」
マゼラは嬉しそうに両手を叩いて鳴らす。しかしすぐに真剣な表情になると。
「あ、ご承知でしょうが、ドアの開閉にはご注意くださいね」
「大丈夫だカピ。心配無いカピ」
サユリが言うと、マゼラは小さく笑って言った。
「はい。実は全然心配してません」
そう笑って言い残すと、マゼラはふわりと去って行った。
しかし、マゼラ、マゼラ。どこかで聞き覚えのある名前なのだが。
壱が首を傾げていると、サユリが口を開く。
「以前、シェムスとボニーのごたごたがあったのを覚えているカピか? マゼラはシェムスにちょっかいを掛けられて、ボニーに浮気相手と勘違いされた子カピ」
「あ、ああ!」
そうだ。あの修羅場の時に、ボニーが口走っていた女性の名前である。もうひとりいたが、今は思い出せない。また会う機会もあるだろう。
確かにマゼラのあのふんわりとした雰囲気は、男性に人気が出そうだ。
「では、行くカピよ」
サユリが小屋の前で鼻を鳴らす。壱がそっとドアを開けると、熱気が顔にぶつかり、良い香りが鼻を突いた。
「早く入って早く閉めるカピ」
サユリに言われ、壱は素早く中に入り、慌ててドアを閉める。
咳き込みそうな煙と香りの中で、壱は涙が出そうになる。
「卵は適当に置きっ放しにするカピ。鰹に時間魔法を掛けるカピ。うむ、終わったカピ」
「もう!?」
「早く外に出るカピ」
あまりにも一瞬にも近い事で、壱は慌てる。ドアを小さく開け、鰹のトレイを手に外に転がり出る。卵は手近な棚に置いて来た。
外は澄んだ空気。壱は大きく深呼吸をする。
「で、鰹は1日普通の空気に置けば良いカピな?」
「う、うん、そう」
サユリが右前足を上げる。
「終わったカピ。また中に入るカピよ」
「う、うん!」
これを10日分繰り返す。時折咳き込みながら、だが燻製小屋内では我慢して、やっと終わった時には、壱は大きく深呼吸した。
「はー! 空気が綺麗だー!」
目的は鰹節作成だったのだが、なかなかに過酷な環境に置かれて忘れそうになっていた。
しかし一緒に動いていたサユリは平気な顔。
「サユリはあの煙の中にいて大丈夫だったの?」
「我には魔法があるカピ。煙たくならないし、匂いも付かないカピ」
「なら俺も守ってよ~」
壱は肩を落とす。しかし手元の鰹を見ると、濃く色付き、そして指で弾くとしっかりと固く乾いた音がする。これは鰹節の完成なのでは無いか。
ちゃんと中心まで乾燥していると良いのだが。それは外から見ても判らない。
「サユリ、これ中まで乾燥してるかどうかって判る?」
一か八かで訊いてみる。するとサユリは眼を細め、頷いた。
「大丈夫カピ。しっかり中まで堅いカピよ」
そんな事まで判るのか。本当にサユリの魔法は凄い。
「じゃあ、鰹節の完成だ! やった!」
壱は嬉しくなって声を上げた。これで昆布と鰹の出汁で味噌汁が飲める。和食ももっと作れるだろう。
10
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる