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#164 健康診断スタート
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昼営業が終わり、休憩時間に入る。壱と茂造は健康診断の為に、ノルドの診療所に向かう。勿論サユリも一緒だ。
健康診断と言っても、採血などがある訳では無い。聴診器での診察と、気になる部分があれば触診などと、話を聞くだけ。
ノルドによると、1人につき10分ほどを想定しているそうだ。
診察室に到着し、壱は声を掛ける。
「こんにちはー!」
すると待合室奥の真ん中のドアが開き、ノルドが顔を覗かせた。
「店長さん、壱くん、サユリさん、こんにちは。もう少しお待ちくださいね」
「ゆっくりで良いからの」
「はい、ありがとうございます」
茂造の台詞に、ノルドは会釈をして、ドアの向こうに消えた。前の人の検診の途中なのだろう。
壱たちはベンチに掛け、待つことにする。
あらためて待合室を見渡すと、そう言えば受付の様なものが無い事に気付く。
この村では殆ど患者は出ないだろうから、事務を含めてもノルドひとりで事足りるとも思うが、受付は必要では無いのだろうか。
後でノルド本人に聞いてみるとしよう。
少し時間が経つと、先程ノルドが顔を出したドアから、猫背気味の老婆が出て来た。続いてノルドも。
「先生、ありがとうございました」
老婆は穏やかに言い、ノルドに頭を下げる。
「いえいえ。お元気で、お話も出来て良かったです。少しでも何かありましたら、ご遠慮無くお越しくださいね、スミナさん。勿論お話だけでも」
「はい。ありがとうございます」
スミナは上品な女性だ。毎日麦畑で精を出している。猫背気味なのも、長年の畑仕事の為だろう。
サユリの加護のお陰で、大きな怪我や病気は無いのかも知れない。だが経年に寄るこうした変化は、ある程度自然に任せているのだろう。
この村にはトラクターなどの農業機械が無いので、特に農業従事者にこうした変化が多いのでは無いかと思う。
しかしこの村には、所謂定年などは無いのだろうか。スミノはもうかなりの高齢に見える。茂造よりも年上だ。
年齢を聞いた事は無いが、茂造が丁寧語で話していたので、そう思っている。
とは言え、スミノはまだまだ元気な様子。これからも健在でいて欲しいものだ。
「あらまぁ、店長さん、イチくん、サユリさん。こんにちは」
振り返ったスミノが、ここで壱たちに気付く。壱と茂造は「こんにちは」と言いながら立ち上がった。サユリのベンチの上で立つ。
「どうでしたかの? 健康診断は。初めてでしたじゃろう」
スミノはこの村で生まれ育っているのである。
「ええ、ええ。お医者さまに掛かる事しら初めてでしたからねぇ。でも痛い事もありませんし、心臓の音を聞かれて、血圧? を測られて、お話をさせていただくだけでしたよ。怖くも何ともありませんでしたよ」
スミノは安心しきった様な穏やかな笑顔で、幾度と小さく頷きながら言う。しかし。
「でもねぇ、もう高齢ですから、そろそろお仕事を引退して、ゆっくりしても良いのでは無いかと言われましてねぇ。私はまだまだ元気ですのに」
そうも言いながら、困った様に小さく息を吐いた。するとノルドが遠慮がちに口を開く。
「はい……確かにスミノさんはとてもお元気です。ですが、少しはごゆっくりされても良いのではと思ったんです。この村の定年は自己申告制だと店長さんにお伺いしました。でしたらせめて、例えば毎日では無く、2日に1日ですとか。1日の就業時間は然程長くは無く、休憩も充分に取られていると言う事で、お休みそのものを取られる方が少ないともお聞きしているものですから」
確かに壱も、この村に来て食堂で働き出してから、1日も休んだ事は無い。
仕込みに営業にと、恐らくこの村の仕事の中では、拘束時間は長い方だと思う。それでも不思議と不満を感じなかった。
それは仕事内容が好きである事と、人間関係の良さから来ているのだと思う。壱は毎日充実を感じていた。
茂造は他の街から来た人間の価値観に、「ふむ」と考え込む様にするが、そんな時間は無い事に気付いたのか、小さく首を振る。
「それはまた考えねばならんのう。儂がこの村に来た時には、既にみんな休み無く働いとったからのう。それは確かに良くは無いかものう。とは言えの、儂ひとりで決められる事では無いからの、少し待って欲しいのう。ああスミノさん、働き方については、ひとまずお任せしますからの。体調はともかく、疲れですとかの、そういうのの調子を見て、決めてくださいのう」
「はい。私も少し考えてみますね。ご心配をお掛けします」
「いやいや、スミノさんにはまだまだお元気でいていただきませんとのう。何せこの村の最高齢者ですからのう」
「そうだったの!?」
茂造の台詞に壱は驚く。初耳だった。本当に人の年齢は見た目だけでは判断出来ないものだ。
壱は他の男性の老人が最高齢かと思っていた。つるりと禿げ上がった頭に、たっぷりと蓄えられた白い髭。よく陽に焼けた顔には皺も深く、膨よかな頬が重力に従ってゆったりと下がっていて、背中もスミノより曲がっていたものだから、その人が最高齢だと勝手に思っていたのだ。
「そうカピよ。スミノも高齢ではあるが、まだまだ上がいるカピ。年齢も追々把握して行けば良いカピよ」
「うん、そうする」
サユリの台詞に、壱は大きく頷く。少しはこの村に馴染んだつもりだったが、まだまだ不慣れな部分も多い。
後何年この村にいる事になるのか、それとも骨を埋めるのか、それは判らないが、いる限りは出来る事をしたいと思う。
「では店長さんの健康診断を始めましょう。お待たせいたしました。イチくん、申し訳ありませんが、もう少々お待ちください。スミノさん、お気を付けてお帰りくださいね」
「はい、ありがとうございました」
スミノは会釈すると病院を辞して行った。働き者のスミノは、また職場である麦畑に戻るのだろう。壱も少しはゆっくりして貰いたいと思うが。
「では、お願いするとしようかと」
茂造がノルドとともに診察室に入り、壱はまたベンチに、サユリの横に腰掛けた。
健康診断と言っても、採血などがある訳では無い。聴診器での診察と、気になる部分があれば触診などと、話を聞くだけ。
ノルドによると、1人につき10分ほどを想定しているそうだ。
診察室に到着し、壱は声を掛ける。
「こんにちはー!」
すると待合室奥の真ん中のドアが開き、ノルドが顔を覗かせた。
「店長さん、壱くん、サユリさん、こんにちは。もう少しお待ちくださいね」
「ゆっくりで良いからの」
「はい、ありがとうございます」
茂造の台詞に、ノルドは会釈をして、ドアの向こうに消えた。前の人の検診の途中なのだろう。
壱たちはベンチに掛け、待つことにする。
あらためて待合室を見渡すと、そう言えば受付の様なものが無い事に気付く。
この村では殆ど患者は出ないだろうから、事務を含めてもノルドひとりで事足りるとも思うが、受付は必要では無いのだろうか。
後でノルド本人に聞いてみるとしよう。
少し時間が経つと、先程ノルドが顔を出したドアから、猫背気味の老婆が出て来た。続いてノルドも。
「先生、ありがとうございました」
老婆は穏やかに言い、ノルドに頭を下げる。
「いえいえ。お元気で、お話も出来て良かったです。少しでも何かありましたら、ご遠慮無くお越しくださいね、スミナさん。勿論お話だけでも」
「はい。ありがとうございます」
スミナは上品な女性だ。毎日麦畑で精を出している。猫背気味なのも、長年の畑仕事の為だろう。
サユリの加護のお陰で、大きな怪我や病気は無いのかも知れない。だが経年に寄るこうした変化は、ある程度自然に任せているのだろう。
この村にはトラクターなどの農業機械が無いので、特に農業従事者にこうした変化が多いのでは無いかと思う。
しかしこの村には、所謂定年などは無いのだろうか。スミノはもうかなりの高齢に見える。茂造よりも年上だ。
年齢を聞いた事は無いが、茂造が丁寧語で話していたので、そう思っている。
とは言え、スミノはまだまだ元気な様子。これからも健在でいて欲しいものだ。
「あらまぁ、店長さん、イチくん、サユリさん。こんにちは」
振り返ったスミノが、ここで壱たちに気付く。壱と茂造は「こんにちは」と言いながら立ち上がった。サユリのベンチの上で立つ。
「どうでしたかの? 健康診断は。初めてでしたじゃろう」
スミノはこの村で生まれ育っているのである。
「ええ、ええ。お医者さまに掛かる事しら初めてでしたからねぇ。でも痛い事もありませんし、心臓の音を聞かれて、血圧? を測られて、お話をさせていただくだけでしたよ。怖くも何ともありませんでしたよ」
スミノは安心しきった様な穏やかな笑顔で、幾度と小さく頷きながら言う。しかし。
「でもねぇ、もう高齢ですから、そろそろお仕事を引退して、ゆっくりしても良いのでは無いかと言われましてねぇ。私はまだまだ元気ですのに」
そうも言いながら、困った様に小さく息を吐いた。するとノルドが遠慮がちに口を開く。
「はい……確かにスミノさんはとてもお元気です。ですが、少しはごゆっくりされても良いのではと思ったんです。この村の定年は自己申告制だと店長さんにお伺いしました。でしたらせめて、例えば毎日では無く、2日に1日ですとか。1日の就業時間は然程長くは無く、休憩も充分に取られていると言う事で、お休みそのものを取られる方が少ないともお聞きしているものですから」
確かに壱も、この村に来て食堂で働き出してから、1日も休んだ事は無い。
仕込みに営業にと、恐らくこの村の仕事の中では、拘束時間は長い方だと思う。それでも不思議と不満を感じなかった。
それは仕事内容が好きである事と、人間関係の良さから来ているのだと思う。壱は毎日充実を感じていた。
茂造は他の街から来た人間の価値観に、「ふむ」と考え込む様にするが、そんな時間は無い事に気付いたのか、小さく首を振る。
「それはまた考えねばならんのう。儂がこの村に来た時には、既にみんな休み無く働いとったからのう。それは確かに良くは無いかものう。とは言えの、儂ひとりで決められる事では無いからの、少し待って欲しいのう。ああスミノさん、働き方については、ひとまずお任せしますからの。体調はともかく、疲れですとかの、そういうのの調子を見て、決めてくださいのう」
「はい。私も少し考えてみますね。ご心配をお掛けします」
「いやいや、スミノさんにはまだまだお元気でいていただきませんとのう。何せこの村の最高齢者ですからのう」
「そうだったの!?」
茂造の台詞に壱は驚く。初耳だった。本当に人の年齢は見た目だけでは判断出来ないものだ。
壱は他の男性の老人が最高齢かと思っていた。つるりと禿げ上がった頭に、たっぷりと蓄えられた白い髭。よく陽に焼けた顔には皺も深く、膨よかな頬が重力に従ってゆったりと下がっていて、背中もスミノより曲がっていたものだから、その人が最高齢だと勝手に思っていたのだ。
「そうカピよ。スミノも高齢ではあるが、まだまだ上がいるカピ。年齢も追々把握して行けば良いカピよ」
「うん、そうする」
サユリの台詞に、壱は大きく頷く。少しはこの村に馴染んだつもりだったが、まだまだ不慣れな部分も多い。
後何年この村にいる事になるのか、それとも骨を埋めるのか、それは判らないが、いる限りは出来る事をしたいと思う。
「では店長さんの健康診断を始めましょう。お待たせいたしました。イチくん、申し訳ありませんが、もう少々お待ちください。スミノさん、お気を付けてお帰りくださいね」
「はい、ありがとうございました」
スミノは会釈すると病院を辞して行った。働き者のスミノは、また職場である麦畑に戻るのだろう。壱も少しはゆっくりして貰いたいと思うが。
「では、お願いするとしようかと」
茂造がノルドとともに診察室に入り、壱はまたベンチに、サユリの横に腰掛けた。
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