異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

文字の大きさ
165 / 190

#165 壱の健康診断

しおりを挟む
 10分ほどして、診察室から茂造が出て来た。

「検診なんて久々じゃったぞい。懐かしい感じがしたのう」

「そっか。この世界に来てから受けて無かったんだよね」

 茂造が元の世界にいた時には、既に定年退職を迎えていたが、再就職していたので、そこで健康診断が毎年あった筈だ。

 その時には採血やレントゲン、心電図などもあったと思うので、今回の内容はかなり簡略化されいると思うが。

「どうだった?」

 壱が聞くと、茂造はにこにこと笑った。

「健康そのものじゃぞい。心音も綺麗じゃと言われたし、血圧も正常値じゃ。そもそもわし自身が毎日調子が良いからのう」

「はい」

 茂造に続いて出て来たノルドが、穏やかに頷いた。

「スミナさんも他のご高齢の方もそうですが、本来ならこの位のお年になれば、何かしら調子の悪い部分が出て来たりするものです」

 それはそうだろう。茂造自身も元の世界にいた時には、腰や関節が時折ときおり痛むやら、血圧が高めやらと言っていた。だから壱は常々、少しでも茂造にゆっくりして欲しいと思っていたのだが。

「ですが、これまで診察させて頂いた皆さま、ご健康そのものです。これはサユリさんのご加護のお陰なのですね。凄いですね!」

 そう言いながら、ノルドは興奮気味に胸元で両のこぶしを握った。

「サユリさんが相当凄い魔法使いなのか、それともご加護の大半をそこに割いておられるのかは、私には判りませんが、これは凄い事ですよ」

 実際は前者である。しかしそれを言う訳にはいかず、壱は「はは」と苦笑いするしか無かった。

「ああ、イチくんお待たせしました。店長さんお疲れさまでした。ではイチくん、診察室へどうぞ」

 そう促され立ち上がると、サユリが素早く壱の歩みに合わせる様に横に沿った。

「あれ、サユリも来る?」

「当然カピ。ノルドに聞きたい事もあるのだカピ」

「俺は良いけど、ノルドさん、良いですか?」

「イチくんとサユリさんが良いのであれば、勿論。では行きましょう」

 そうして診察室に入る。

 診察室は壱たちの世界で言うところの6畳程の広さで、壁に沿ってテーブル、椅子、患者用の椅子、それと対面する位置にシンプルなベッドが置かれ、全て木製ではあるものの、壱にも見覚えのある診察室の様だった。

 大きく違うのは、テーブルの上がシンプル過ぎると言う事だった。

 手前の隅に銀色の長細い箱の様なものが置かれていて、横にはインクの瓶、奥の隅には数枚の用紙。用紙は恐らくカルテの様なものだろう。

 診察室には良く置かれている、製薬会社のノベルティや身体の展開図の様なものは無いし、当然パソコンも無い。レントゲンフィルムを見る為のシャウカステンも無い。

 余計なものなど何も無い、シンプルに作られた診察室だった。

「ではまず、心臓の音を聞かせてくださいね」

 ノルドが言うと、首に掛けていた聴診器を手に構える。壱はトップスをめくり上げようとするが、止められた。

「そのままで大丈夫ですよ」

 ノルドは安心させるかの様に穏やかに言うと立ち上がり、トップスの上部、首回りの隙間から手を入れて、壱の胸付近に聴診器を当てて行く。

 聴診器のひやりとした感触に、壱は小さく肩を上げてしまったが、ノルドはいつもの事なのか、気にする風も無く、聴診を続けて行く。

 数秒後に、ノルドは小さく頷いて、壱から聴診器を外すと、用紙に付けペンで何やら書いて行く。

 この世界の文字は、やはり壱には読めない。問題無しとでも書かれていると良いのだが。

「では、次は血圧を測りましょう」

 ノルドは言うと、長細い銀色の箱を手前に寄せて開ける。そこに入っていたのは、布製の幅のある濃いグレイのバンド。そしてそこから出ている薄いグレイのチューブに繋がっている目盛りと、チューブと同じ色の、ゴム製の小さな風船の様なもの。

 蓋の内側には目盛りが付いていて、起立する様になっていた。

 ノルドはバンドから出るチューブの繋ぎ部分を、腕の関節部分に合わせる様にやや強めに巻くと、関節の血管に聴診器を充て、風船を握る。

 風船を幾度と握ると、バンドに空気が送られて膨らみ、壱の腕が圧迫される。それで一瞬体内の血流が激しくなったかと思った瞬間、ふっとその力が弱められる。

 これは元の世界で血圧を測っていた時と同じ感覚だ。壱が経験した事があるのは機械の血圧計だったが。

 ノルドの目線は目盛りに注視されている。それが恐らく血圧を表示するのだ。

 圧迫は徐々じょじょに緩められ、途中で腕が脈打つ。そしてそれが落ち着いてやや後、締められていた腕が自由になった。

「上が112、下が73。イチくんはヒューマンですよね?」

 ノルドは言いながら付けペンを取り、インクを浸けると机の上の用紙に数値を記した。

「はい」

「でしたらやはり健康ですね。エルフやドワーフは、基準値が違うんですよ。エルフは低く、ドワーフは高いんです」

「そうなんですか」

 初めて聞いた。壱はこれまで血圧で異常値を出した事は無く、この村は医者いらずだ。自分の事も含めて気にした事など無かった。

「心音と血圧から見ましたところ、イチくんの健康状態はとても良好です」

「そうですか。良かった」

 知恵熱は出したが、完治してからこちら、体調不良を覚えた事など無かったので、正直不安は無かった。サユリの加護もある訳だし。

 しかしこの健康診断を無意味だと、壱は思ってはいない。寧ろ村人の安心の為、そして医者であるノルドの為、必要な事だと感じている。

 そして心配はしていなかったものの、こうして医者から「健康ですよ」と言われると、更に安心するものなのである。

 若い壱ですらこうなのだから、高齢者は余計にそうなのでは無いだろうか。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

処理中です...