異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

文字の大きさ
51 / 190

#51 手打ちうどんを海老出汁の味噌汁で。その1

しおりを挟む
 夜営業に向けての仕込みは続く。壱は昨日カリルに教えてもらったトマトソースを最初からひとりで作る。コンソメをすのもひとりでした。

 今日は海老と貝があるので、カリルは大忙しである。基本、生食の食材を扱うのにも、調理師免許が必要だとの事。姿まるまるの鶏をさばき、魚をおろし、海老の下処理をし、帆立貝ほたてがいを開く。

 他の貝類は壱が担当した。こちらは火を通すので、壱でも出来る。あさりとはまぐりだった。

 入荷されてすぐに塩水に浸し砂出しはさせているので、殻をり合わせながら丁寧に洗う。

 カリルに言われた通りに調理する。フライパンにオリーブオイルとにんにくを入れて、弱火に掛ける。ほのかに香ばしさが立ってきたら貝を入れて、さっと炒め、白ワインを入れる。

 軽くアルコールが飛んだらふたをして蒸す。

 数分後に蓋を取ると、コクと甘みのある香りの湯気が上がる。貝も全部綺麗に開いていた。

 火を止め、貝を全てバットに開けて冷ます。貝の出汁が染み出している蒸し汁は、網目の細かいザルで漉して、ボウルに入れておく。

 貝が手で触れる程度に冷めたら、身を貝殻から外し、蒸し汁に入れて行く。身を乾燥させない為である。

 これはカルパッチョに使う。帆立の貝柱と海老とともに、魚に合わせて盛る。

 海老と貝が入る日は、特に注文が多いのだと言う。やはり週に1度しか食べられないとなると、人気も上がるのだろう。

 ちなみに帆立貝の貝柱以外の食べられる部分は、バターソテーして夜のまかないになるのだそうだ。これは嬉しい。従業員の特権と言うやつだ。

 調理台をあらためて見ると、カリルが下処理した海老の頭やからがボウルにまとめられている。壱はそれを見て、ふと思い付いた。

「じいちゃん、海老の頭と殻、どうすんの?」

「捨てておるがの?」

 肉料理の仕込みをしている茂造が応える。

「じゃあ貰って良い? あ、中力粉も少し」

「おや、また何か思い付いたかの? 構わんぞい」

「ありがとう。カリル、海老の頭と殻、これで全部?」

 カリルはせっせと魚を卸している。

「そーだよ。何? 何か出来んの?」

「んー……多分大丈夫だと思うんだけど、まだお試しだからさ。巧く出来たら、またみんなにも食べて貰うよ」

「おう! 楽しみにしてんぜ!」

 また後でレシピを調べなければ。旨く出来れば良いのだが。





 さて翌朝。壱はまた1時間早く起きる。若干じゃっかん睡眠不足を心配したが、まだまだ若いからか元気だ。

 うん、ここは睡眠時間と手間を惜しんではいけない。

 壱は厨房に降りて冷蔵庫を開くと、昨日の海老の頭と殻が入ったボウル、そして味噌の木桶、棚から中力粉の袋を取り出し、2階のキッチンに戻る。

 まずはボウルに中力粉を入れ、作った加塩水かえんすいを入れながら練って行く。やがてまとまると、全身の力を入れて押して行く。

 本来なら踏んでコシを出したいところだが、この世界にはビニールやナイロンなどの袋が無いので難しい。流石さすがに素足では踏みたく無いので、肩と腕の力に頼る。

 滑らかに丸くなると、乾燥しない様に濡らした布を被せ、寝かせて置く。

 次に鍋を出し、中火に掛ける。充分に熱くなったところで、よく洗った海老の頭と殻を入れ、木べらで乾煎からいりする。

 次第に水分が飛び、げ目が付いて来て、香ばしい匂いがしてくる。すっかりと炒まったところで水をひたひたに入れる。

 少し火を強めてやると、すぐに沸く。灰汁あくは殆ど出ない。木べらで殻などを押し潰しながら煮込んで行く。頭からは味噌も出る。これは絶対に美味しくなる筈だ。既に炒めて火は通っているので、臭みも無い筈だ。

 日本酒があれば臭み消しにもっと良かったのだろうが、無いのだから仕方が無い。そう言えばこの村で作られるアルコールは全て醸造酒じょうぞうしゅだった。米が育てば日本酒も作れるのでは無いだろうか。

 食用の米と日本酒用の米は違うものだと聞いた記憶もあるので、また夜にでも調べてみよう。ああ、調べたい事がまた出来た。

 そろそろ良いだろうか。スプーンですくって味見をしてみる。かなり濃い海老の出汁だしが出ていた。これは凄い。臭みも無い。旨い。

 これに味噌を溶けばどれだけ旨味が増すと言うのか。期待値鰻登うなぎのぼり。

 海老の出汁をザルです。ザルに残った頭や殻を木べらで押し付け、更に旨味を絞り出して行く。

 鍋の中には濃厚な海老の出汁が出来上がっていた。壱は鼻を鳴らし、次の作業に取り掛かる。

 まずは、やや大きめの鍋に湯を沸かして。

 休ませた小麦の種に打ち粉をして、綿棒で伸ばして行く。慣れない手付きだが、できる限り均等に。

 どうにか伸ばせると、折り畳んで行く。そして厚みと同じ幅に、丁寧にゆっくりと切って行く。

 包丁にはある程度慣れているし、物を切るのもそれなりに出来る。だがきちんと厳密に、と思うとかなり慎重になった。

 まるで息を詰める様に包丁を動かし、切り終わった頃には大きく息を吐いた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...