異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

文字の大きさ
50 / 190

#50 コンシャリド村プチツアー。その6

しおりを挟む
 次が最後だと茂造が言う。

「麦畑じゃ。ここで製粉までをしておるの。村の今の主食じゃからの、大事じゃ。勿論他も大事なのじゃがの」

 昼に夜にと提供しているパンもパスタも、ここの小麦で作られているのだ。肉だって野菜だってアルコールだって大事だ。だがやはり主食は替えが利きがたいのだ。

 先々米が育っても、麦の地位は変わらないだろう。

 麦畑に寄ると、畑に人手は無かった。代わりに端のエリアに数人が集まっている。木製の背凭せもたれの無い椅子に掛け、何やら口に入れながら談笑している。

「休憩中かの? 邪魔するぞい」

 茂造が声を掛けると、全員が振り返る。

「あ、店長さん。こんにちは」

「こんにちはー」

「どうしたんスか?」

 方々から声が掛かる。

「孫の壱に村を案内しとるんじゃ」

「ああ、彼がお孫さん」

「こんにちは」

「こ、こんにちは」

 壱が挨拶すると、あちらこちらから挨拶が返って来た。

 見ると、みんなが囲っている小さなテーブルには、枝豆が山盛りになっていた。

「あ、枝豆」

 壱がぽつりと呟くと、輪の中にいたひとりのふくよかな女性が枝豆を数個つかみ、壱に差し出した。

「イチくんの世界の食べ物なんだって? こっちに来てから食べた? こっちでもなかなか良く育てられてると思うんだけど。こうしておやつにしてるのよ」

 壱はそれを両のてのひらで受け取った。左手に傾けて右手で食べると、大きく頷く。

「うん、美味しいです」

「良かったあー」

 女性が安堵し、他の村人も沸く。

 枝豆は、多少良く無い土壌どじょうでも育つと聞いた事がある。この村では先ほど見た、きちんと整えられた畑で育てられているのだろう。

 壱がこれまで食べていた枝豆と何ら遜色そんしょく無い、美味しい枝豆だった。これは茹で枝豆だが、ちゃんと塩味も効いていて、しっかりと甘みもある。硬さも程良い。

「先代が持ち込んだ当初は、育て方は種の袋に書いてあったが、食べ方がの、それこそ茹で時間なんかも判らんかったしの、塩を使うって事も知らなかったんじゃが、村人がいろいろ思案しての、ここに辿り着いたんじゃ」

 茂造の世代より上となると、確かに枝豆も茹でた事が無かっただろう。買い物などをしていた事すら奇跡かも知れない。

 ただ、そのせいだろう。産毛うぶげは取られていない様だった。しかし今更訂正するのもどうかとも思う。とりあえず後で茂造に言ってみる事にしよう。

「さて、ではそろそろ帰るかの。ではまたの」

「はーい、また後で」

「また後で~」

 麦農家の面々に見送られ、壱たちは麦畑を出た。

「これで一通り村を見た訳じゃが。まぁ普通の村じゃ」

 普通の村なのかなこれ。みんな凄く働いていたけども。壱がこれまで抱いていた、村=のんびり、なイメージでは無かった。

 しかしサユリから全員が働く理由を聞いていたので、この村ではこれが当たり前なのだろうと納得する。

「全員を紹介出来んかったが、しても多くて覚えるのは難しかろうて。徐々に覚えてくれると良いの。さ、そろそろ帰るぞい。仕込みの時間が近いからの」

 茂造がベストのポケットから懐中かいちゅう時計を取り出して、時間を見た。

「少し離れたところに養蜂場ようほうじょうもあるんじゃが、時間が無いでの、また今度の。海も今度行こうかの」

 そんな話をしながら壱たちは食堂に戻り、少しするとカリルとサントが再出勤して来た。割烹着かっぽうぎ三角巾さんかくきんを着け、仕込みを始める。

 コンソメをしてポトフを作り、野菜を切り、肉を叩き、炒め、煮込んで行く。

 その最中、いつもの通り、漁師がれたて新鮮の魚を入荷しに来た。

「毎度! 今日はサーモンが多めかなぁ。潜水日でしたから、海老と貝もありますよ」

「うんうん、今日の魚も旨そうじゃ」

 木桶の中で大きくねる魚たち。すでに水を張ってある水槽すいそうに入れると、元気に泳ぎだした。

「お、そうじゃ、明日の漁でかつおが捕れたら、2ほど持って来てくれんかの。食堂用じゃ無く、儂個人で欲しいんじゃが」

「いいですよ。毎日1尾はリリースしてますから。毎日要ります?」

「いや、とりあえずは明日だけでの。1尾しか上がらんかったら1尾で良い。よろしく頼むぞい」

「解りました。ではまたよろしく!」

 そう言って、程良く日焼けした良い体格の男は出て行った。

 明日鰹が来ると言う事は、明後日の朝、タタキを作れるかな。楽しみだ。壱はつい喉を鳴らした。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

処理中です...