某国の皇子、冒険者となる

くー

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第8章 呪われた世界

13. 始まり

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「そうか……やはり、我とおまえは分かり合えぬようだ」

兄上とサナトリオルムの間には、見えない火花が散っているかのようだった。

「ゆえに……我は自らの手でほしいものを手に入れることにする。魔獣に蹂躙された大地が腐り、人々が疫病と餓えで大勢死に絶え、生き残りる為に血を流す様は、愉快なことこの上ないぞ」

「私が貴様の成す事を、手をこまねいて眺めているとでも?」

「グラヴィスよ……おまえは魔法詠唱者として当代随一の力を持っている。もしかすると、人間であった頃の我すらも越えているやもしれん――その力でもって厄災を凌ぐか?だが、あれは個人の力でどうこうできるようなものではないぞ」

「フン……たいした自信だな」

「自信ではなく、確信だ。ククッ……生意気なおまえが如何にして死にゆくのか……楽しみで仕方がないぞ」

「私に見える未来はおまえのものとは異なっているようだ。己が間違いを悟った時の貴様の顔は、さぞかし滑稽なことだろう」

「口の減らない……だが、まあいい。おまえはすぐに絶望の中でのたうち回ることになるのっだから……」

「なんだと?」

「すぐにわかるさ……では、さらばだ。死にゆく者達よ。絶望の中で死せるおまえたちを味わうのを、楽しみにしているぞ」


サナトリオルムは、耳障りな哄笑を残して、煙のように姿を消した。


「兄上……」
「グラヴィス……」

厄災……とんでもないことが起こる……どす黒い死の予感が、じわじわと迫りくるのを感じる……

「……ノア?」

俺を見る兄上の目が、大きく見開かれている。まるで、信じられないものを見ているかのように。

「ルクスはどこだ?」

「え……?」

「私は、生物の魂を見ることができる。ルクスの魂は、おまえの隣にあったんだ……ほんの、ついさっきまで」

「まさか――」

「サナトリオルム――ッ!!!」

船室を飛び出した兄上を、みんなで追いかけた。

「大丈夫か!?ノア!」
ウィルら仲間たちに支えられ、俺も必死で後を追う。


兄上は船の外で蹲り、拳を地面に叩きつけていた。

「クソッ……!クソッ……!!何故すぐに気がづかなかったのだ!!!」

「グラヴィス……」

ラウルスでも兄上にかける言葉を見つけられず、そばで見守るより他にはなかった。

「私はまた、間違えてしまったのか――!?」

「兄上……」


「ルクスを……サナトリオルムを探してくる!」
「危険すぎます!これは罠やもしれません!!」
「たとえそうだとしても……」
「あなたがここを離れることが自体が罠なのです!ルクスのみならず、ノアまでも失うことになりますよ!」
「っ……!!」
「どうか、落ち着いてください。兄上……みなで対策を立てましょう。ルクスを取り戻すために!」
「ノア……」


俺たちの世界サナトスは、近いうちに厄災に見舞われるだろう……


絶望の中での死――


ウィル、エトワール、ジン、ニケ、ラウルス、兄上……そして、ルクス――

俺の大切な人たち……
誰にもそんなひどい目に合ってほしくない……

でも、俺は非力だ。
できることなんてあるのだろうか……


「ノア……」

兄上の長く赤い髪が、朝の陽の光に照らされ、一層美しくきらめいている。

「……兄上?」

「おまえの力が必要だ。私を助けてくれるか?」


ああ―― 


その言葉が、どんなに嬉しく俺のこころに響いたか……


兄上はきっと、知らない――


「もちろんです、兄上」


どんなことだろうとも、兄上となら……仲間たちと共にならば……


乗り越えてゆける――そんな気がした。





第8章・完
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