某国の皇子、冒険者となる

くー

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第9章 嵐の前に

3. 友の願い

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「――で、今から言うところがコツなんだ。ここが一番大事だよ」
「ふむふむ」
「これをこうして、こうすると……こうなるってわけ」
「……ふーん。なるほどね」

俺の部屋にクラフトに必要な器具一式を調達し、ニケとふたりで勤しんでいた。

ニケと俺のあいだには相当な技術レベルの差があるため、ニケは自ら指南役を買って出てくれていた。

俺はわかったような相槌を打ってはいるけれども……実はあまり理解できてはいない。明日になれば忘れてしまっているかもしれない。

「クラフトをしてると心が落ち着くよね……」
けれどもニケはどこか上の空で、俺がわかっていないことにも気づいていないようだった。

「ニケ……元気ない?やっぱり、王国のことが心配?」

二十日程前、ベルムデウス帝国とザハブルハーム王国の戦争は帝国の勝利で終結した。
王国は帝国の属国となり、王都は今、帝国軍の占領下に置かれている。

「そっちも気がかりだけれど……今は別のことを考えてた」

一呼吸置き、ニケは続けた。

「かあさまを葬ってあげたいなって……」
「あっ……」

そうだった。
二十日ほど前――ニケの母、イリスは戦争でニケを庇って……

魔族の里へ向かう船の中で、俺はイリスの遺体を保存する為、氷魔法をかけた。
それからニケはイリスを亜空間魔法の中にしまった。今日までずっと……

こんな大事なことを、いろいろなことがあって慌ただしかったからとは言え、忘れてしまっていたなんて――

「気づいてあげられなくてごめん、ニケ……何か俺にできることがあったら……」

ニケの視線は窓から見える森の木々へと向けられている。
「冒険者になってから、一度だけ行ったことがあるんだ」
かあさまの故郷に――と、ニケは続けた。

「かあさまの故郷は、帝国領のトゥールカなんだ。そこにかあさまの――僕の祖父母のお墓があって……」
「トゥールカ……確か帝都から南東のタルパ地方の町だっけ……帝国領なら大丈夫だよ。念のため、ラウルスにも知らせておいて……明日の朝から出発しようか」
「……うん」
ニケの目には涙が浮かんでいた。
「ニケ……」

ニケとイリスは、深い絆を持つ親子だった。
最愛の母を失ってしまったニケ……
あのとき、ニケは大きな悲しみの中にいたはずなのに、ラウルスの怪我の治療に専念しなければならなかった。どんなに大変だったろう……

俺はニケの両手を、ぎゅっと握りしめた。
「俺がきみの力になるよ。なんでも言ってくれ」
「ありがとう、ノア。とっても心強いよ」






翌朝、帝国軍の魔術師の魔法により、俺たちはトゥールカへと転移した。

俺とニケ、それから護衛としてウィルも同行していた。

「ここが――」

トゥールカは小さな農村だった。
畑には大きなカボチャがたくさん実っており、平和でのどかな雰囲気だ。
子どもらのはしゃぐ声がどこか遠くから聞こえている。

村長の家を訪ねてイリスを父母の墓へと埋葬する許可をもらい、三人で村の墓所へと向かう。

墓は小高い丘の上にあった。
清々しい秋の風が吹き抜け、木の葉を揺らしている。

ニケは亜空間魔法の中からイリスの遺体を取り出した。
硝子の棺の中に入れられ、氷漬けにされた彼女は生前と変わらず美しかった。

「かあさま……遅れてごめんね。かあさまをどうしても、故郷に帰してあげたくて……ここはとても、いいところだから」

イリスに語りかけるニケ…………なんだか見ていられない。

「花を摘んでこようか」

「うん……かあさまは草花が大好きだったから、きっと喜ぶよ」



それぞれが集めた両手いっぱいの花々で、イリスの眠る棺は埋め尽くされた。

「かあさま……ずっと僕を守ってくれて、導いてくれてありがとう。かあさまのおかげで、僕はすばらしい仲間と巡り合うことができた。僕はもう二度と大切な人を裏切らないし、失いたくない。だから、命をかけて守ることを誓うよ」


『イリス・デュ・ラファエリここに眠る』

イリスは父母が眠る墓の隣へと埋葬された。ニケは墓前に跪いたまま、動かない。

「……ウィルと墓前に供える花を摘んでくるよ」


花を摘んでウィルと戻っても、ニケはまだ同じ姿勢のままだった。

「ニケ……」
「かあさまは、やすらかに眠られたのに……」

ニケの頬は目からこぼれた涙で濡れていた。

「……僕はどうしてこんなにも寂しくて……哀しいんだろう」

とめどなく涙を流すニケの背を抱きしめる事しか、俺にはできなかった。




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