幼馴染最優先の婚約者に愛想が尽きたので、笑って家出しました ― 笑顔で去っただけなのに、なぜ泣いているのですか

ラムネ

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第14話 冷徹の意味

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「さ、差押えだと!? ふざけるな、俺たちはただの通行人だぞ!」
「この荷が届けられなければ、商会が潰れちまうんだ!」

レオンハルトの宣告に、関所前に並んでいた商人たちから一斉に悲鳴と怒号が上がった。
衛兵たちも慌てふためき、剣の柄に手をかけて彼を取り囲む。

「レオンハルト卿! いくら監察騎士とはいえ、横暴すぎますぞ! 確たる証拠もないのに……!」

関所の責任者である恰幅の良い男が、額に汗を浮かべて抗議の声を上げた。
だが、レオンハルトは全く表情を変えない。

「証拠ならある」

彼は懐から数枚の書類を取り出し、責任者の顔に叩きつけた。

「過去三ヶ月間、この関所を通過した荷馬車の数と、王都に納められた関税の額が合っていない。さらに、偽造された通行証の流通ルートも既に割れている」

「そ、それは……単なる計算間違いで……!」

「言い訳は不要だ。これより関所を全面封鎖し、全ての荷と帳簿を監査する。逆らう者は国家反逆罪と見なし、斬る」

レオンハルトが腰の剣に手をかけると、冷たい殺気が周囲の空気をピリッと張り詰めさせた。
誰もが息を呑み、反論の言葉を飲み込む。

泣き叫ぶ商人。賄賂を受け取っていた衛兵の絶望した顔。
彼は、そのどちらにも一切の情をかけず、ただ淡々と法を執行していく。

……なるほど。これが『冷徹』と呼ばれる所以ですか。

私は小さく息を吐き、自分のカバンからインクと羊皮紙を取り出した。

「おい、何をしている」

レオンハルトが鋭い声を飛ばしてくる。

「差押えの手続きを進めています。レオンハルト卿の強制執行は正当なものですが、後日、商人たちから不当な損害賠償を請求される可能性があります」

私は足元の木箱を机代わりにし、素早い手つきで羽ペンを走らせた。

「現在の荷の状況、衛兵の配置、および没収した偽造通行証の目録を直ちに作成し、監査院の規定に基づく『一時保管の誓約書』を発行します。これにより、卿の行動は完全な合法性を持ち、反論の余地を潰すことができます」

私の説明を聞き、レオンハルトは少しだけ目を見開いた。

「……ずいぶんと、手回しがいいな」

「私は補助官ですから。あなたの剣が届かない法的な死角を、書類で埋めるのが私の役目です」

私は手を止めず、次々と書類を完成させていく。
商人たちの泣き声にも、衛兵の怨嗟の目にも、私は一切心を揺らさなかった。
ただの数字だ。ただの手続きだ。
クラウゼ領でやっていた泥臭い隠蔽工作に比べれば、真実を暴くこの作業は、驚くほど澄み切って感じられた。

一時間後。
関所の封鎖は完了し、膨大な帳簿の束が私の前に積み上げられた。

「……終わったな」

レオンハルトが剣を鞘に収め、私の傍らに立った。

「はい。これで初期対応の記録は完了です」

私が書類の束を差し出すと、彼はそれを受け取り、じっと私の顔を見た。

「君は、感情がないのか?」

唐突な問いに、私は首を傾げた。

「……と、申しますと?」

「商人たちが泣きすがっても、君の表情は微塵も動かなかった。普通の貴族の令嬢なら、怯えるか、あるいは同情して俺を止めるかするはずだ」

私は小さく息を吐き、静かに答えた。

「お気持ちで仕事はできません。私はただ、証拠と規程に従っただけです」

レオンハルトは私の目の奥を覗き込むように、じっと見つめてきた。
その視線は鋭く、まるで心の中を見透かされているようだった。

「……いい目だ」

彼がぽつりと呟く。

「え?」

「君の目は、嘘を嫌う目をしている。口では理屈を並べているが、本質は違うな。……まあいい、当分は俺の側で働いてもらう」

彼は踵を返し、足早に歩き去っていく。
私はその広い背中を見送りながら、少しだけ戸惑いを覚えていた。

テントの中に戻り、押収された帳簿の束に目を通し始めた時だった。
数ある取引記録の中に、見覚えのある領地の名前を見つけた。

『クラウゼ領』

その文字を見た瞬間、私の指先がピタリと止まる。

なぜ、こんな辺境の関所の帳簿に、彼の領地の名前が載っているのか。
私は眉をひそめ、そのページを深く読み込み始めた。
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