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第1話 追放の夜
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《登場人物》
ユリアン・アルノー
年齢:16歳
外見:金色がかったブロンドの髪、青い瞳。
華奢で中性的な美貌。
性格:素直で優しいが、自己評価が低く、
すぐに「自分はお荷物だ」と
思い込む癖がある。
背景:前国王の庶子として生まれる。
母は身分の低い侍女で、存在を隠す
ためにアルノー家に「養子」として
預けられ育った。
正式に公表されることはなかったが、
血筋上は王位継承権を持つ。
ヴァルター
年齢:27歳
外見:長い黒髪、灰色の瞳。
長身痩躯で冷ややかな雰囲気。
性格:冷徹で人を寄せつけない。
だが実は情に厚く、心の奥には
強い孤独を抱えている。
背景:かつて王国随一の宮廷魔術師。
しかし王都の権力争いに利用され、
裏切られた過去を持つ。
自ら王都を去り、森に結界を張って
隠遁生活を送る。
夜の森は、異様なほどに静まり返っていた。
月明かりすら厚い木々に遮られ、漆黒の闇が地面を覆い尽くす。
ユリアンは、枝に足を取られながら必死に走っていた。
靴は泥に沈み、貴族の衣装だった上着は既にぼろ切れ同然。肺は焼けるように苦しく、吐く息は白い。
(逃げなければ……ここで捕まれば、間違いなく殺される)
背後で誰かが追ってくる気配は、もう消えていた。安心などできない。
王都で受けた宣告の冷たさが、まだ耳の奥に残っている。
――「ユリアン・アルノー、王家への反逆の嫌疑により、追放とする」
無実だった。何も知らされず、何も抗うことができず、ただ冤罪のまま切り捨てられた。
兄たちは口をつぐみ、父は目を逸らし、母は病の床に伏したまま。
自分は、誰にも必要とされなかったのだ。
(なぜ……どうして、僕が……)
木の根に足を取られ、ユリアンは無様に地面へ倒れ込んだ。
手のひらに鋭い痛みが走る。暗がりの中で見れば、血が滲んでいる。
しかし立ち上がろうとした瞬間、全身から力が抜け、膝が震えて動けなくなった。
「……あ……」
声は掠れ、虚しく夜気に溶けた。
あれほど走ってきたのに、結局ここで終わるのだろうか。
誰にも惜しまれず、忘れられ、森に朽ちる。
胸の奥が締めつけられ、呼吸が浅くなった。
(……死ぬのは、怖い。……けれど、僕は……)
涙がにじみ、視界が霞んでいく。
瞼が落ちかけた、その時――
ざわ、と風が揺れた。
森の闇を裂くように、ひとつの影が立っていた。
背の高い男。長い黒髪を束ね、薄い外套を翻す。
切れ長の瞳が月光を反射し、鋭い光を帯びていた。
ユリアンの心臓が跳ねる。恐怖か、それとも安堵か。
男はしばし黙ってこちらを見下ろした後、低く、乾いた声を発した。
「……厄介なものを見つけてしまったな」
その声音は冷たかった。
男はため息をつくと、片手を伸ばし、ユリアンの腕を乱暴に掴み上げた。
「立て。……ここで死ぬ気なら、それでもかまわないが、……生きる気があるなら、立て」
その手は荒っぽくも、確かな温度を持っていた。
ユリアンの瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちる。
(……助けて、くれるの……? でも、この人は……)
息を呑み、言葉を探すユリアンに、男は短く言い放った。
「ヴァルター……」
「え?」
「名はヴァルターだ。……黙ってついて来い」
そのまま男はユリアンを支え、森の奥深くへと歩を進める。
どれほど歩いただろうか。重苦しい闇を抜けた瞬間、空気が変わった。
そこは、不思議な静けさに包まれた一角だった。
見上げれば、夜空に月明かりがくっきりと差し込み、周囲には目に見えぬ膜のような光が漂っている。
奥には石造りの小屋があり、窓からは淡い灯が洩れていた。
「……これが俺の家だ」
ヴァルターは扉を押し開け、ユリアンを中へと入れる。
暖炉には火が燃えており、乾いた木の香りが漂う。長い放浪の末に辿り着いたその空間は、ただそれだけで胸を締めつけた。
「いいか、この家は結界で守られている。悪意がある人間は入って来ない。家の外には出るな。……命が惜しければ」
ヴァルターの声は冷え切っていた。
しかしその瞳の奥に、言葉と裏腹な焦りの色がほんの一瞬、滲んで見えた気がした。
ユリアンは息を詰め、ただ小さく頷いた。
ユリアン・アルノー
年齢:16歳
外見:金色がかったブロンドの髪、青い瞳。
華奢で中性的な美貌。
性格:素直で優しいが、自己評価が低く、
すぐに「自分はお荷物だ」と
思い込む癖がある。
背景:前国王の庶子として生まれる。
母は身分の低い侍女で、存在を隠す
ためにアルノー家に「養子」として
預けられ育った。
正式に公表されることはなかったが、
血筋上は王位継承権を持つ。
ヴァルター
年齢:27歳
外見:長い黒髪、灰色の瞳。
長身痩躯で冷ややかな雰囲気。
性格:冷徹で人を寄せつけない。
だが実は情に厚く、心の奥には
強い孤独を抱えている。
背景:かつて王国随一の宮廷魔術師。
しかし王都の権力争いに利用され、
裏切られた過去を持つ。
自ら王都を去り、森に結界を張って
隠遁生活を送る。
夜の森は、異様なほどに静まり返っていた。
月明かりすら厚い木々に遮られ、漆黒の闇が地面を覆い尽くす。
ユリアンは、枝に足を取られながら必死に走っていた。
靴は泥に沈み、貴族の衣装だった上着は既にぼろ切れ同然。肺は焼けるように苦しく、吐く息は白い。
(逃げなければ……ここで捕まれば、間違いなく殺される)
背後で誰かが追ってくる気配は、もう消えていた。安心などできない。
王都で受けた宣告の冷たさが、まだ耳の奥に残っている。
――「ユリアン・アルノー、王家への反逆の嫌疑により、追放とする」
無実だった。何も知らされず、何も抗うことができず、ただ冤罪のまま切り捨てられた。
兄たちは口をつぐみ、父は目を逸らし、母は病の床に伏したまま。
自分は、誰にも必要とされなかったのだ。
(なぜ……どうして、僕が……)
木の根に足を取られ、ユリアンは無様に地面へ倒れ込んだ。
手のひらに鋭い痛みが走る。暗がりの中で見れば、血が滲んでいる。
しかし立ち上がろうとした瞬間、全身から力が抜け、膝が震えて動けなくなった。
「……あ……」
声は掠れ、虚しく夜気に溶けた。
あれほど走ってきたのに、結局ここで終わるのだろうか。
誰にも惜しまれず、忘れられ、森に朽ちる。
胸の奥が締めつけられ、呼吸が浅くなった。
(……死ぬのは、怖い。……けれど、僕は……)
涙がにじみ、視界が霞んでいく。
瞼が落ちかけた、その時――
ざわ、と風が揺れた。
森の闇を裂くように、ひとつの影が立っていた。
背の高い男。長い黒髪を束ね、薄い外套を翻す。
切れ長の瞳が月光を反射し、鋭い光を帯びていた。
ユリアンの心臓が跳ねる。恐怖か、それとも安堵か。
男はしばし黙ってこちらを見下ろした後、低く、乾いた声を発した。
「……厄介なものを見つけてしまったな」
その声音は冷たかった。
男はため息をつくと、片手を伸ばし、ユリアンの腕を乱暴に掴み上げた。
「立て。……ここで死ぬ気なら、それでもかまわないが、……生きる気があるなら、立て」
その手は荒っぽくも、確かな温度を持っていた。
ユリアンの瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちる。
(……助けて、くれるの……? でも、この人は……)
息を呑み、言葉を探すユリアンに、男は短く言い放った。
「ヴァルター……」
「え?」
「名はヴァルターだ。……黙ってついて来い」
そのまま男はユリアンを支え、森の奥深くへと歩を進める。
どれほど歩いただろうか。重苦しい闇を抜けた瞬間、空気が変わった。
そこは、不思議な静けさに包まれた一角だった。
見上げれば、夜空に月明かりがくっきりと差し込み、周囲には目に見えぬ膜のような光が漂っている。
奥には石造りの小屋があり、窓からは淡い灯が洩れていた。
「……これが俺の家だ」
ヴァルターは扉を押し開け、ユリアンを中へと入れる。
暖炉には火が燃えており、乾いた木の香りが漂う。長い放浪の末に辿り着いたその空間は、ただそれだけで胸を締めつけた。
「いいか、この家は結界で守られている。悪意がある人間は入って来ない。家の外には出るな。……命が惜しければ」
ヴァルターの声は冷え切っていた。
しかしその瞳の奥に、言葉と裏腹な焦りの色がほんの一瞬、滲んで見えた気がした。
ユリアンは息を詰め、ただ小さく頷いた。
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