祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可

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第9話 怖い夢

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 その夜、ヴァルターは寝台の上で静かに目を閉じていた。
 森は凪いだように静まり返り、虫の声すら遠い。

 ――コン、コン。

 戸を叩く音に、彼は眉をひそめた。
 魔力で気配を探ると、そこに立っていたのはユリアンだった。

「……入れ」

 扉を開けると、ユリアンは小さな毛布を抱えたまま立っていた。
 青い瞳は少し潤んでいる。

「……怖い夢を見たんです。……一緒に寝てもいいですか?」

 その言葉に、ヴァルターの心臓がわずかに跳ねた。
 理性が警鐘を鳴らす。

「……寝るだけでは済まなくなるぞ」

 低い声で告げると、ユリアンは頬を赤くして唇を噛んだ。

「……それでも、隣にいたいんです」

 その素直な言葉に、ヴァルターは深く息を吐いた。

 結局、ユリアンは毛布を抱えてベッドに潜り込んだ。
 狭い寝台に二人が並ぶと、互いの体温がすぐに触れ合う。
 ユリアンの震える指先が、そっとヴァルターの衣を掴んだ。

「……あったかい」

 安堵に滲む声に、ヴァルターは背を向けようとしたが、できなかった。
 ため息をつき、腕を伸ばしてユリアンを抱き寄せる。

「……子どもか」

「子どもじゃありません……でも、あなたがいないと眠れないんです」

 その一言に、ヴァルターの胸が熱くなる。
 髪に口づけを落とし、低く囁いた。

「……お前がそう言うなら、今夜だけは許す」

 ユリアンは頬を赤く染めながらも、幸せそうに目を細める。
 しかしヴァルターの瞳には複雑な光が宿っていた。

(……寝るだけでは済まなくなると、言ったはずなんだがな。無防備な奴だ)

「……眠れるまでそばにいてやる」

 その言葉に、ユリアンの胸が温かくなった。
 次第に震えは治まり、頬が赤く染まっていく。

「……あの、ヴァルター」

「なんだ」

「……キス、したいです」

 その素直すぎる言葉に、ヴァルターの心臓が跳ねる。
 理性の糸がぷつりと切れた。

 ゆっくりと唇が触れ合う。
 軽いはずの口づけは、すぐに深く、熱を帯びたものへと変わっていった。
 ユリアンは初めての感覚に目を見開き、驚きで身を固くする。

「……っ、あ……」

 掠れた声が漏れる。
 ヴァルターはその反応に口元を緩め、さらに深く唇を重ねた。
 舌先が触れ合い、熱が絡み合う。

 ユリアンはどうしていいかわからず、ただ必死に彼の衣を握りしめた。

「……ふ……んっ……」

 息を荒げ、顔を赤らめるユリアン。
 その姿があまりにも可愛くて、ヴァルターの胸に強い衝動が湧き上がる。

「……ユリアン……」

 囁きと共に、額や頬に次々と口づけが落ちる。
 ユリアンは恥ずかしさで震えながらも、嬉しそうに目を閉じた。

「……寝るだけじゃ、済みませんね」

 小さな声に、ヴァルターは笑う代わりにもう一度深く口づけた。

 その夜、結界の森はしんと静まり返り、
 小屋の中だけが甘い熱に包まれていた。
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