溺愛王子様の3つの恋物語~第3王子編~

結衣可

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第7話 特別な人

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数日後、魔力暴走の一件から回復したユーリは、まだ本調子ではないながらも講壇に立っていた。
黒板に呪文の構造式を書き、穏やかな声で解説する。
学生たちがノートをとる音と、小さな質問の声が飛び交う。

教壇に立つ彼の胸の内には、まだ熱が残っていた。
肉体の疲労ではない。
――あの時、仮眠室でクリストフに看病された記憶。
額に落とされた柔らかな口づけ。
呼吸が触れるほど近くで囁かれた声。

(……思い出すだけで、顔が熱くなる……)

授業が終わり、生徒たちが元気に教室を出ていく。
扉が閉まり、静けさが訪れると、ユーリは黒板を布で拭いながら、大きく息を吐いた。

「……ふぅ……なんとか今日も終わった……」

肩の力を抜いたその時。

「先生」

背後から響いた声に、思わず振り返る。
扉の影に立つのは、生徒会長クリストフ。
まっすぐな金の瞳が、揺るぎなくこちらを見ていた。

「……また迎えに来てくれたの?」
「先生を放ってはおけませんから」

淡々とした声。
その声音には、不思議と優しさに満ちている。

胸の奥に溜まっていた言葉が、堰を切ったようにこぼれ落ちた。

「……どうして、君はそこまでしてくれるの? 
 僕には君がこんな、……たくさん時間を割いてまで気にかけるような人間じゃないよ」

声が震える。
問いかけは半ば自嘲であり、同時に恐れでもあった。

クリストフは一瞬、静かに目を伏せた。
そしてゆっくりと歩み寄り、机を挟んで視線を合わせる。

「先生がご自分をどう評価されているかは関係ありません。」

「え……?」

「貴方はもう俺にとって特別な人なんです」

淡々と告げられる言葉。
だが、その瞳に宿る光は揺るがず、鋭く心を射抜いた。

「……と、特別って……」
「意味はそのままです。先生を誰にも渡したくありません……」

真っ直ぐな言葉。
嘘も飾りもなく、ただ一点の曇りもない想い。

ユーリの頬が一瞬で赤く染まり、俯いた。
胸が強く脈打ち、指先が震える。

「……ぼ、ぼくなんて……」
否定の言葉は弱く、すぐに声が掠れた。

クリストフはその震えを見逃さず、机越しにそっと手を伸ばす。
ユーリの顎を掴み、視線を合わせる。その距離だけで十分に伝わる熱があった。

「先生、俺が望むのは――貴方の笑顔です。それを壊さないために俺は何でもします」

柔らかに微笑むその顔は、普段の「氷の会長」とは全く違って見えた。
ユーリは言葉を返せず、ただ視線を逸らし、心臓の鼓動に必死で耐えた。

***

その夕刻、生徒会室では、セオドアが書類をまとめながら、隣の会長にちらりと視線を投げた。

「……本気なんですね、会長」

「……聞いていたんですか」

「声が漏れてましたよ」

セオドアはため息をつき、眉をひそめる。
「……先生が命をかけて生徒を守ったのを見て、俺も心を打たれたし――あの人は、確かに興味深い方ですね」

クリストフは一瞬黙り、視線を伏せる。
「……何が言いたいんです?」

「いえ」
セオドアは首を横に振り、肩を竦めた。
「何か――手伝えればと」

「……セオドア」

「卒業までの間、秘密は守ります。あと、先生のことで少し調べたいことがあります。その許可を下さい」

その言葉に、クリストフの瞳がわずかに和らぐ。
「……わかりました。お願いします」

ほんのわずか。
彼の口元に微笑が浮かんだ。
それは仲間に見せる信頼と、ユーリを守る決意の証だった。
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