溺愛王子様の3つの恋物語~第3王子編~

結衣可

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第10話 真実とその先

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一方、書庫では積み上げられた古文書の山に囲まれ、蝋燭の炎が小さく揺れていた。
セオドアは机に身を乗り出し、黄ばんだ羊皮紙を一枚ずつめくっていた。

(……二人の想いを支えるために。俺にできることは何か……)

ただの講師に心を奪われているだけではないか――
最初はそう思った。
しかし、観察してみると、ユーリ・グレイという人物には得体の知れない輝きがある。

そして、ふと目に留まった一節。

「……これは……」

指先が止まる。
羊皮紙には10年前、この国を襲った大災害について記されていた。
暴走した魔力嵐を、名もなき若き魔術師が命を賭して抑え込んだ、と。

震える指先で、その名をなぞる。

――ユーリ・グレイ。

セオドアは大きく息を吐き、背もたれに身を預けた。
「……やっぱり、ただの講師なんかじゃなかったのか」

***

翌日、生徒会室では分厚い扉を閉じ、静まり返った空間に緊張が漂う。
セオドアは机の上に記録を広げ、会長を見据えた。

「会長――見つけました」

椅子に腰かけていたクリストフ・エルネストは羽ペンを置き、視線を上げる。
金の瞳がわずかに細められる。

「何を」

「先生のことです」

セオドアは深く息を整え、静かに告げた。

「先生は10年前、この国を救った魔術師です」

差し出された記録に目を落とし、クリストフは瞬きもせず読み進める。
羊皮紙の一行一行を追ううちに、彼の表情が固まっていく。
やがて、低い吐息が漏れた。

「……ユーリ・グレイ」

そこに記されていたのは、幼い頃に父王に何度も聞かされてきた“物語”だった。
――国を襲った魔力嵐を、一人の無名の若い魔術師が抑え込み、命を救った。
「王族は決して彼の存在を忘れてはならない」と。

「まさか……目の前にいる先生が、その人だったとは」

記録から顔を上げたクリストフの瞳には、鋭い光が宿っていた。

「これで……道が開ける。セオドア、礼を言う」

セオドアは口角を上げ、頷く。

「ええ。“国を救った魔術師”と共にあることは、王家にとっても利益となりましょう」

クリストフは静かに目を閉じ、深く息を吐いた。
指先がわずかに震える。

「……あぁ、これで堂々と言える」

そしてゆっくりと、力強く言葉を紡ぐ。

「俺は――ユーリを、生涯の隣に望む。セオドア、もう少し手を貸してくれ」

その声音には、迷いの欠片もなかった。
セオドアはその言葉を聞き、彼の口元に小さな笑みが浮かぶ。

「もちろんです。俺は副会長として、そして……友として、貴方を支えます」

金の瞳が静かに細められる。

「……ありがとう、セオドア」

クリストフは、セオドアに礼を言うと、すぐにユーリの元へ向かった。
その声には、いつもの冷徹な響きではなく、確かな信頼が込められていた。

***

コンコン――

「先生、入りますよ」

扉が静かに開き、姿を現したのはクリストフ。
金の瞳は真っ直ぐで、けれどいつになく穏やかだった。

「……っ、ク、クリストフ……どうしたの?」
咄嗟に名前を呼んだ自分に、ユーリの頬がほんのり赤く染まる。

扉を閉じた彼は、迷いのない足取りで机の前に立った。

「先生……お聞きしたいことがあります」

「え……?」

机に両手を軽く置き、金の瞳が射抜く。

「先生が10年前、この国を救ったあの魔術師だと」

紫の瞳が大きく揺れる。

「……っ、それ……どうして……」

「セオドアが記録を見つけてくれました。……そして思い出しました。父上から何度も聞かされた物語を」

ユーリは椅子の背に身を預け、ふふッと笑った。

「……うん、確かにそれは僕のことだと思う……でも、あの時は自分もまだ幼くてよく覚えていないんだ……」

「先生……」

「記録なんてあったんだね……、それがどうかしたの?」

何でもないことのように言うユーリに苦笑しながら、クリストフの指先がそっと頬に触れる。

「先生、この記録のお陰で、貴方と共にいられる道が切り開けそうです」

「え?」

「わかりますか?俺のこの喜びが」

金の瞳がまっすぐに射抜く。

「先生、いえ、ユーリ、愛しています」

胸を突かれる言葉に、ユーリの瞳が揺れる。

「……クリスっ……んっ!」

クリストフはそっと抱き寄せ、ユーリの涙に、頬に、そして、唇にキスをした。

「いいですか?これからは先生がしたいことを俺が全て叶えます。学園で教えを続けたいなら続ければいい。研究を優先したいなら、俺が支えます」

ユーリを抱き締める力を強めた。

「だから、ユーリ……ずっと俺の隣にいてください」

ユーリは小さく震えながらも、瞳を上げ、微笑んだ。

「……うん。……ぼくも、君と一緒にいたい」

二人の手が強く結ばれた瞬間、静かな室内のランプの炎が揺れ、未来へと続く温かな時間を照らしていた。
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