プロジェクト・ニッケルクロム ―銀色の方舟―

どえろん

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第1章:灰色の空、銀色の招待状

1-2:コンビニの宇宙

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 夕暮れ時、大地は重い体を引きずってアルバイト先のコンビニエンスストアへ向かった。自動ドアが間延びしたチャイム音と共に開く。人工的な照明が、外のセピア色の世界とは対照的に、店内を白々しく照らしていた。

「ちわーす……」

 覇気のない挨拶は、商品の前出しをする店長の背中に吸い込まれて消えた。

 客もまばらだった。世界の終わりが宣告されてから、夜の街から人影はめっきり減った。店内にいる数人の客も、どこか亡霊のように生気がなく、黙々と商品をカゴに入れては、電子マネーで会計を済ませて出ていく。会話はない。ただ、無機質な商品スキャンの電子音だけが、周期的に響いていた。

 大地の仕事は、レジ打ちと品出し。頭を空っぽにしてできる、今の彼にはちょうどいい作業だった。

 その時だった。雑誌コーナーに立つ、見覚えのある背中が視界に入った。色褪せた高校の制服。卒業して半年以上経つのに、まだそれを着ている。かつてのクラスメイト、確か……鈴木、だったか。

 鈴木は、周囲をきょろきょろと見回した後、手にしていた漫画雑誌を素早く制服のジャケットの内側に滑り込ませた。そして、何食わぬ顔でガムを一つだけレジに持ってきた。

 大地は、それを見ていた。目が合った。鈴木の目が、一瞬だけ驚きに見開かれ、すぐに気まずそうに逸らされる。

 声を、かけるべきだろうか。
『おい、お前』と。
 だが、その言葉は喉の奥でつかえて出てこなかった。

(……何の意味がある?)

 心の中で、もう一人の自分が囁く。
 ここでこいつを捕まえて、店長に引き渡して、それが何になる? こいつの未来も、俺の未来も、どうせ数ヶ月後には宇宙の塵になる。アークに乗るエリートたちが万引きをすれば大ニュースだろうが、選ばれなかった俺たちが何をしようと、誤差の範囲だ。

 大地は無言でガムのバーコードをスキャンした。
「……110円です」
 鈴木は小銭をトレーに置くと、逃げるように店を出ていった。

「おい、高森」
 背後から、店長の呆れたような声がした。
「今の、見てただろ」
「……すみません」
「すみません、じゃねえよ。お前、やる気あんのか」
「……」
「まあ、いいけどよ。どうせ来月でこの店も閉めるしな」

 店長はそう言って、深くため息をついた。その背中もまた、ひどく疲れていた。

(やる気なんて、この世界のどこにも残ってないですよ)

 大地は心の中でだけ、そう返事をした。蛍光灯に照らされたこのコンビニが、まるで世界の縮図のように思えた。誰もが緩やかに諦め、ただ決められた手順をこなすだけの、小さな、小さな宇宙だった。
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