3 / 30
第1章:灰色の空、銀色の招待状
1-3:銀色の到来
しおりを挟む
コンビニの人工的な光から、再びセピア色の夜の闇へと吐き出される。家までの道は、街灯が半分以上消えていてひどく暗かった。節電という名目だが、誰もが知っている。この街も、世界も、もう長くは維持されないのだと。
アパートの軋む階段を上り、鍵を開けて玄関に入る。その瞬間、いつもと違う何かに気づいた。安物のチラシや公共料金の通知書が散らばる郵便受けの底で、何かが鈍い光を放っていた。
大地は訝しみながらそれに手を伸ばす。
指先に触れたのは、紙とは思えない、ひやりとした感触だった。取り出してみると、それはA5サイズほどの、銀色の封筒だった。表面には微細なヘアライン加工が施され、まるで精密機械の部品の一部を切り取ったかのように無機質で、美しい。宛名も差出人も書かれていない。ただ、中央に奇妙な紋章が蝋封のように型押しされているだけだ。
「……なんだ、これ」
悪質ないたずらか、あるいは終末に乗じた新興宗教の勧誘か。大地は舌打ちし、それをリビングのテーブルに放り投げようとした。だが、その時、リビングのソファに小さな人影がうずくまっているのが目に入った。
母親だった。
テレビもつけず、真っ暗な部屋で、彼女は一人で膝を抱えていた。肩が、かすかに震えている。
「……母さん?」
声をかけると、母親はびくりと体をこわばらせ、慌てて顔を上げた。暗闇の中でも、彼女が泣いていたことはすぐにわかった。
「だ、大地……おかえりなさい」
「……ただいま。どうしたの、電気もつけないで」
「ううん、なんでもないの。ちょっと、考えごとしてただけ」
なんでもない、という言葉が、母親の常套句だった。大地が進路について何も答えなかった時も、高校の卒業式に彼女が一人で出席した時も、いつも彼女はそう言って、悲しそうな顔で笑うのだ。
テーブルの上には、大学のパンフレットが数冊、置かれたままになっていた。その横には、アーク計画の特集が組まれた週刊誌も開かれている。母親が何を「考えごと」していたのか、大地には痛いほどわかった。息子の、未来。もうどこにも存在しないはずの、その言葉について。
胸の奥が、冷たい何かで締め付けられるような感覚がした。それは罪悪感であり、同時に、どうしようもない苛立ちでもあった。
――俺にどうしろって言うんだ。
――もう世界は終わるのに、未来なんてあるわけないだろ。
言葉にできない感情が渦巻き、大地は母親から顔をそむけるようにして、自分の部屋へ向かった。その手に、銀色の招待状を握りしめていたことには、まだ気づいていなかった。
アパートの軋む階段を上り、鍵を開けて玄関に入る。その瞬間、いつもと違う何かに気づいた。安物のチラシや公共料金の通知書が散らばる郵便受けの底で、何かが鈍い光を放っていた。
大地は訝しみながらそれに手を伸ばす。
指先に触れたのは、紙とは思えない、ひやりとした感触だった。取り出してみると、それはA5サイズほどの、銀色の封筒だった。表面には微細なヘアライン加工が施され、まるで精密機械の部品の一部を切り取ったかのように無機質で、美しい。宛名も差出人も書かれていない。ただ、中央に奇妙な紋章が蝋封のように型押しされているだけだ。
「……なんだ、これ」
悪質ないたずらか、あるいは終末に乗じた新興宗教の勧誘か。大地は舌打ちし、それをリビングのテーブルに放り投げようとした。だが、その時、リビングのソファに小さな人影がうずくまっているのが目に入った。
母親だった。
テレビもつけず、真っ暗な部屋で、彼女は一人で膝を抱えていた。肩が、かすかに震えている。
「……母さん?」
声をかけると、母親はびくりと体をこわばらせ、慌てて顔を上げた。暗闇の中でも、彼女が泣いていたことはすぐにわかった。
「だ、大地……おかえりなさい」
「……ただいま。どうしたの、電気もつけないで」
「ううん、なんでもないの。ちょっと、考えごとしてただけ」
なんでもない、という言葉が、母親の常套句だった。大地が進路について何も答えなかった時も、高校の卒業式に彼女が一人で出席した時も、いつも彼女はそう言って、悲しそうな顔で笑うのだ。
テーブルの上には、大学のパンフレットが数冊、置かれたままになっていた。その横には、アーク計画の特集が組まれた週刊誌も開かれている。母親が何を「考えごと」していたのか、大地には痛いほどわかった。息子の、未来。もうどこにも存在しないはずの、その言葉について。
胸の奥が、冷たい何かで締め付けられるような感覚がした。それは罪悪感であり、同時に、どうしようもない苛立ちでもあった。
――俺にどうしろって言うんだ。
――もう世界は終わるのに、未来なんてあるわけないだろ。
言葉にできない感情が渦巻き、大地は母親から顔をそむけるようにして、自分の部屋へ向かった。その手に、銀色の招待状を握りしめていたことには、まだ気づいていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。
wakaba1890
ファンタジー
召喚獣。
それは向こう側とされる所から、10歳を迎えた日本人の子供の下に召喚されるモンスターのことである。
初代天皇・神武天皇が日本を建国した際に書かれた絵画には彼は金鵄と呼ばれる金色に輝く鵄(とび)と契約したのが原初となっている。
そして、縄文、弥生、古墳、飛鳥、平安、戦国時代から近代から今に至るまで、時代を動かしてきた人物の側には確かに召喚獣は介在していた。
また、奇妙な事に、日本国に限り、齢10歳を迎えた日本在住の日本人にのみ体のどこかから多種多様な紋章が発現し、当人が念じると任意の場所から召喚陣が現れ、人ならざるモンスターを召喚される。
そして、彼らモンスターは主人である当人や心を許した者に対して忠実であった。
そのため、古来の日本から、彼ら召喚獣は農耕、治水、土木、科学技術、エネルギー、政治、経済、金融、戦争など国家の基盤となる柱から、ありとあらゆる分野において、今日に至るまで日本国とアジアの繁栄に寄与してきた。
そして、建国から今まで、国益の基盤たる彼ら数万種類以上をも及ぶ召喚獣を取り締まり管理し、2600年以上と脈々と受け継がれてきた名誉ある国家職がーーーーー国家召喚獣管理官である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる