プロジェクト・ニッケルクロム ―銀色の方舟―

どえろん

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第1章:灰色の空、銀色の招待状

1-3:銀色の到来

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 コンビニの人工的な光から、再びセピア色の夜の闇へと吐き出される。家までの道は、街灯が半分以上消えていてひどく暗かった。節電という名目だが、誰もが知っている。この街も、世界も、もう長くは維持されないのだと。

 アパートの軋む階段を上り、鍵を開けて玄関に入る。その瞬間、いつもと違う何かに気づいた。安物のチラシや公共料金の通知書が散らばる郵便受けの底で、何かが鈍い光を放っていた。

 大地は訝しみながらそれに手を伸ばす。
 指先に触れたのは、紙とは思えない、ひやりとした感触だった。取り出してみると、それはA5サイズほどの、銀色の封筒だった。表面には微細なヘアライン加工が施され、まるで精密機械の部品の一部を切り取ったかのように無機質で、美しい。宛名も差出人も書かれていない。ただ、中央に奇妙な紋章が蝋封のように型押しされているだけだ。

「……なんだ、これ」

 悪質ないたずらか、あるいは終末に乗じた新興宗教の勧誘か。大地は舌打ちし、それをリビングのテーブルに放り投げようとした。だが、その時、リビングのソファに小さな人影がうずくまっているのが目に入った。

 母親だった。
 テレビもつけず、真っ暗な部屋で、彼女は一人で膝を抱えていた。肩が、かすかに震えている。

「……母さん?」

 声をかけると、母親はびくりと体をこわばらせ、慌てて顔を上げた。暗闇の中でも、彼女が泣いていたことはすぐにわかった。

「だ、大地……おかえりなさい」
「……ただいま。どうしたの、電気もつけないで」
「ううん、なんでもないの。ちょっと、考えごとしてただけ」

 なんでもない、という言葉が、母親の常套句だった。大地が進路について何も答えなかった時も、高校の卒業式に彼女が一人で出席した時も、いつも彼女はそう言って、悲しそうな顔で笑うのだ。

 テーブルの上には、大学のパンフレットが数冊、置かれたままになっていた。その横には、アーク計画の特集が組まれた週刊誌も開かれている。母親が何を「考えごと」していたのか、大地には痛いほどわかった。息子の、未来。もうどこにも存在しないはずの、その言葉について。

 胸の奥が、冷たい何かで締め付けられるような感覚がした。それは罪悪感であり、同時に、どうしようもない苛立ちでもあった。
 ――俺にどうしろって言うんだ。
 ――もう世界は終わるのに、未来なんてあるわけないだろ。

 言葉にできない感情が渦巻き、大地は母親から顔をそむけるようにして、自分の部屋へ向かった。その手に、銀色の招待状を握りしめていたことには、まだ気づいていなかった。
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