プロジェクト・ニッケルクロム ―銀色の方舟―

どえろん

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第1章:灰色の空、銀色の招待状

1-4:家出の決意

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 自室のドアを乱暴に閉め、ベッドに倒れ込む。じわり、と目の奥が熱くなった。母親を泣かせているのは、間違いなく自分だ。だが、どうすればいいのかわからない。希望に満ちた言葉をかけることも、立派な未来を約束することも、今の自分には何一つできはしなかった。

 その時、手の中で硬質な何かがカサリと音を立てた。例の銀色の封筒だ。
 大地は体を起こし、それをまじまじと見つめた。先ほど感じた苛立ちをぶつけるように、中央の紋章に爪を立てて封を破る。

 中から出てきたのは、封筒と同じ素材で作られた、一枚の金属製のカードだった。ずしりと重い。表面には、レーザーで刻印されたような精密な文字が並んでいた。

『PROJECT NICKEL-CHROME』

 そして、その下にはこう記されていた。

『君は人類最後の乗組員候補だ』

「……はっ」

 思わず、乾いた笑いが漏れた。やはりカルトか、手の込んだ詐欺だ。人類最後の、乗組員? コンビニで万引きも見逃すような、無気力な人間が? 人選ミスも甚だしい。

 大地はカードを床に投げ捨てようとした。だが、その指が、ふと止まる。

(ここにいても、俺は母さんを悲しませるだけだ)

 脳裏に、暗闇で震えていた母親の背中が焼き付いて離れない。俺がいるから、あの人は未来に絶望する。俺という存在が、母親の心を蝕んでいくお荷物なのだ。

 だったら。
 だったら、いなくなってあげよう。

 その思考は、驚くほどすんなりと大地の心に落ちた。それは希望に満ちた旅立ちなどでは決してない。ただの、逃避。責任からの、母親の悲しい瞳からの、そして、どうしようもない自分自身からの、家出。

 どうせ死ぬなら、誰も知らない場所で。
 どうせ終わるなら、この息苦しい部屋の外で。

 その奇妙な決意は、大地の体を突き動かす、久しぶりの行動力になった。彼は床からリュックサックを拾い上げると、着替えを数枚、スマートフォンの充電器、そして財布を無言で詰め込んでいく。

 最後に、床に落ちていた銀色のカードを拾い上げた。裏面には、茨城県つくば市を示す地図と、日時が記されている。

 信じているわけじゃない。期待しているわけでもない。
 ただ、ここではないどこかへ行けるのなら、もうどこでもよかった。

 大地は部屋のドアを静かに開け、物音を立てないようにアパートの階段を下りた。振り返ることはしなかった。セピア色の夜の闇が、まるで世界の果てまで続いているように、彼の目の前に広がっていた。
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