底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう

文字の大きさ
4 / 73

第四話 無限保存庫

しおりを挟む
 [無限保存庫ストレージ]。それが僕が使える唯一の魔法。
 一般的に知られている[保管庫インベントリ]と違い、あまり知る人はいない。そして一見どちらも違いが無いように見えるが、実際には大きく異なる点がある。

 空間魔法[保管庫インベントリ]。
 魔力で創り出した不可視の空間に、物を保管することができる魔法。その空間の大きさと持続時間は術者の魔力量に左右され、保管できるのは物に限られる。

 時空魔法[無限保存庫ストレージ]。
 魔力で創り出した不可視の空間に、を保存することが出来る。そので、持続時間は術者の魔力量に左右される。

 つまり[無限保存庫ストレージ]は、道具や食べ物、液体も気体も、人も動物も魔物も。あらゆるものを元の状態のまま保存し、任意で取り出すことが出来る。

 例えば魔法を保存し、必要な時に取り出すことも。

 僕には[無限保存庫ストレージ]以外の魔法適正は無い。けれど、[無限保存庫ストレージ]に保存した魔法を取り出すという形で使うことができる。

「グルルルル……。グルォオオオオオオンッ!!」

 グランドベアの亜種の咆哮が岩壁や天井を揺らす。それと同時に、グランドベアとゴニアスネークが一斉にこちらへ向かってくる。

 四元魔法・地属性[岩石の鉄槌スカラー=ハマー]。

 取り出した魔法を宙へ放つ。何も無かったそこに大小の岩が出現し、魔物目がけて矢のような勢いで降り注ぐ。
 ゴニアスネークは押しつぶされ、グランドベアも大半が直撃を受け、その場で悶えている。
 開けた場所とはいえ、あれだけ固まって動いていれば、まとめて当てるのは容易だ。

 動きが止まっているうちに追撃する。
 
 四元魔法・火属性[灼熱の礫イグニス=バル]。

 [無限保存庫ストレージ]から吐き出された無数の火の玉が、うずくまる魔物達を一斉に襲う。
 火炎に貫かれ焼かれたグランドベアが、短い悲鳴を上げて次々に倒れる。
 僕の数メートル先には十数体の魔物が物言わぬ姿で伏した。

 その現状を挟んで向かいに立ち塞がる、巨体の魔物。

「グルルルル……」
  
 残りはグランドベアの亜種のみ。普通に魔法が効くといいが。

「!」

 瞬間、亜種はその体躯に不似合いな俊敏さで地面を蹴った。真っすぐ突進してくるそれを横に躱し、[無限保存庫ストレージ]を開く。
 
 四元魔法・風属性[風裂く刃アネモス=ラム]。

 無数の風の刃が宙に舞い、亜種の巨体を切り裂いていく。

「ギャオオンッ!!」

 複数箇所から血が噴き出すが、致命傷には至らない。
 
 足りないか。だったら――。

 四元魔法・火属性[蒼炎の大槍フレイム=ランス]。

 手の中で蒼い火種が燃え上がる。
 危険を察知したのか、亜種は血を撒き散らしながら再び突進してきたが、

「遅い」

 避けられない程ではない。

 一歩目で地面を蹴り、二歩目で亜種の腕、三歩目で肩を足場にして、跳び超える形で背後に周る。そのままガラ空きの背中目がけて、蒼い火種を放つ。
 解き放たれたそれは大槍となって亜種の身体を貫通し、地面にまで深く突き刺さった。
 [蒼炎の大槍フレイム=ランス]はやがて静かに消え、支えが無くなった亜種の身体は地響きと土埃を伴って崩れ落ちる。 
 息をつき、その様子を見ていると、亜種は口から何かを吐き出したかと思うと、そのまま動かなくなった。

「……?」

 吐き出されたのは小さな石のようなものだった。しかしそれは一瞬ののちに霧散して消えてしまった。

 ……魔石?いや、それにしてはなにか……。

 謎の物体があった場所を数秒見つめていたが、今は他に優先しなければいけない事がある。
 僕は隅のほうでぐったりしたままのベルハイトに駆け寄り、その顔色や身体の傷を確認する。少し被ってしまった土埃を払ってやりながら、もう片方の手で[無限保存庫ストレージ]から解毒薬アンチドーテの小瓶を取り出した。
 腕部の傷の形状や、その周辺の変色と発熱、意識の混濁から見て、十中八九ゴニアスネークに噛まれて毒をもらっている。

「これ飲んで」
 
 頭の下に腕を差し入れて上体を少し起こし、解毒薬アンチドーテを口に流し込む。たが、意識が朦朧としているせいか、飲み込めていない。

「飲んで」

 大きめの声で言い、もう一度薬を流し込む。すると、喉がぎこちなく動きだした。
 時間をかけてなんとか飲み切ると、虚ろだったベルハイトの目が僅かに生気を取り戻し、口元がゆっくり動く。

「………きみ、は…。…………、やまもり…にくの……」

 やまもりにく。山盛り肉?…ああ、グランドベアのステーキのことか。そんなに気になっていたとは。

 僕は[無限保存庫ストレージ]に保存していた回復魔法を展開しつつ、焦点の合ってきたベルハイトの目を見て答える。

「あと十人前は食べられる」

「………………は……?」

 完全に黙り込んでしまった。まだ毒も抜けきっていないし、体力も戻っていないのだから無理もない。

「眠っていていいよ。心配ない」

 ベルハイトの額に手を当てて軽く撫でると、彼は素直に目を閉じる。すぐに安定した呼吸が聞こえ、僕も小さく息を吐いた。


 
 数分後。
 ベルハイトの顔を覗き込む。解毒薬アンチドーテの効果が全身に行き渡ったのだろう。だいぶ血色が良くなった。

「さて、と」

 僕は再び[無限保存庫ストレージ]を開けて、

 ベルハイトをその中に入れた。

 だって仕方ない。僕には彼を背負って歩くなんて無理だ。

 そうだ。あれも持って帰らないと。

 グランドベアの亜種と思われる魔物も[無限保存庫ストレージ]に入れる。正体が分からないため、冒険者ギルドに見せたほうがいいだろう。 

 僕は再び身一つで、魔窟ダンジョンのもと来た道を歩き出した。





 外へ出ると、当然だがすでに日が沈んでいた。

 このまま町まで帰ってもいいのだが、僕が関わったことは極力隠したい。「魔窟ダンジョンの入り口で発見した」と嘘をついても、ではどうやって町まで運んだのかとか、根掘り葉掘り状況を訊かれるだろう。

 面倒だし、目立ちたくない…。

 しかし今回は、冒険者ギルドに報告しなければならない事もあるわけで。でもなるべく目立ちたくないのは僕の性格上の問題で。
 というわけで、ベルハイトの搬送はに任せることにする。

 僕は近くの岩陰にベルハイトを移し、[無限保存庫ストレージ]から、あるもの二つを取り出す。
 一つは[探査サーチ]。自身の周辺の様子を調べる魔法だ。

「…………いた」

 [探査サーチ]を発動すると、目的の人達はすぐに見つかった。ここから北西に三百メートル程の場所に、四つの人影。この時間に森に立ち入るのは、ベルハイトの捜索に出たあのDランクパーティーで間違いないだろう。他にも獣や魔物が数匹引っかかったが、位置的に今は気に留めずともよさそうだ。
 
 もう一つは発光筒はっこうとう。救助や救援を必要とする際に使う、冒険者や旅人必須の道具。空に向かって打ち上げると特殊な光を放ち、周囲に知らせるというものだ。
 ちなみに発光筒はっこうとうの光は、居住地や砦、野営地などで魔物避けに使われる明かりと同じものなので、魔物まで寄ってくることはまず無い。

 発光筒はっこうとうを打ち上げると、木々の高さを超えた位置で数秒の間明滅し、ゆっくりと消えた。
 眠ったままのベルハイトの顔を覗き込み、額に手を当てる。顔色もいいし熱もほとんど引いている。思ったより回復速度が早いのは彼の体質だろうか。
 ベルハイトをその場に残し、自分はすぐ側の木に登る。ここからなら彼に何かあってもすぐに分かるし、捜索に来たパーティーが到着しても僕には気づかない。
 明日は適当な時間に冒険者ギルドへ行き、ギルド長に今回の顛末と諸々を説明しよう。
 そう考えているうちに、複数の気配と足音が近づいて来た。やがて木々を縫ってきたのは、四人の冒険者。

「たぶんこの辺り……、!ベルハイトさん?!」

 岩陰にいる見知った姿に気づき、冒険者たちが駆け寄ってくる。

 まだDランクとはいえ、彼らの動きは迅速で的確だ。対象のベルハイトの状態を確認する者、周囲の警戒を担う者、それぞれの役割をこなしている。誰かさん達にも見習ってほしい。

 ベルハイトを抱えて町へ向かう冒険者パーティーの後を静かに追いながら、僕はユトスへと戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美化係の聖女様

しずもり
ファンタジー
毒親の仕打ち、親友と恋人の裏切り、人生最悪のどん底でやけ酒を煽り何を思ったのか深夜に突然掃除を始めたら床がドンドンって大きく鳴った。 ゴメン、五月蝿かった? 掃除は止めにしよう、そう思った瞬間、床に現れた円のようなものが光りだした。 気づいたらゴミと掃除道具と一緒に何故か森の中。 地面には気を失う前に見た円が直径3メートルぐらいの大きさで光ってる。 何コレ、どうすればいい? 一方、魔王復活の兆しに聖女を召喚した王城では召喚された筈の聖女の姿が見当たらない。 召喚した手応えはあったものの目の前の床に描かれた魔法陣には誰も居ない。 もしかして召喚先を間違えた? 魔力の残滓で聖女が召喚された場所に辿り着いてみれば聖女はおらず。 それでも魔王復活は待ってはくれない。 それならば聖女を探しながら魔王討伐の旅へ見切り発車で旅する第二王子一行。 「もしかしたら聖女様はいきなり召喚された事にお怒りなのかも知れない、、、、。」 「いや、もしかしたら健気な聖女様は我らの足手まといにならぬ様に一人で浄化の旅をしているのかも知れません。」 「己の使命を理解し果敢に試練に立ち向かう聖女様を早く見つけださねばなりません。」 「もしかして聖女様、自分が聖女って気づいて無いんじゃない?」 「「「・・・・・・・・。」」」 何だかよく分からない状況下で主人公が聖女の自覚が無いまま『異世界に来てしまった理由』を探してフラリと旅をする。 ここ、結構汚れていません?ちょっと掃除しますから待ってて下さいね。掃除好きの聖女は無自覚浄化の旅になっている事にいつ気付くのか? そして聖女を追って旅する第二王子一行と果たして出会う事はあるのか!? 魔王はどこに? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 不定期更新になります。 主人公は自分が聖女だとは気づいていません。 恋愛要素薄めです。 なんちゃって異世界の独自設定になります。 誤字脱字は見つけ次第修正する予定です。 R指定は無しの予定です。

World of Fantasia(ワールド・オブ・ファンタジア)

緋色牡丹
ファンタジー
生きる意味を見出せない三十二歳の男・山田緋色。 夏の夜、光の渦に呑まれ、彼が目を覚ましたのは――幻想の森だった。 壊れた愛車、知らない空、そして湖に浮かぶ青髪の少女。 異世界での出会いが、“止まった人生”を再び動かしていく。 異世界叙情ファンタジー、開幕── ※この小説は、小説家になろう、カクヨムにも同時掲載しています。 挿絵はAIイラストを使ったイメージ画像です。

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水
ファンタジー
記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

事故に遭いました~俺って全身不随?でも異世界では元気ハツラツ?

サクラ近衛将監
ファンタジー
 会社員の俺が交通事故に遭いました。二か月後、病院で目覚めた時、ほぼ全身不随。瞼と瞳が動かせるものの、手足も首も動かない。でも、病院で寝ると異世界の別人の身体で憑依し、五体満足で生活している。また、異世界で寝ると現代世界に目が覚めるが体の自由は利かない。  睡眠の度に異世界と現代世界を行ったり来たり、果たして、現代社会の俺は、元の身体に戻れる方法があるのだろうか?  そんな男の二重生活の冒険譚です。  毎週水曜日午後8時に投稿予定です。

小さいぼくは最強魔術師一族!目指せ!もふもふスローライフ!

ひより のどか
ファンタジー
ねぇたまと、妹と、もふもふな家族と幸せに暮らしていたフィリー。そんな日常が崩れ去った。 一見、まだ小さな子どもたち。実は国が支配したがる程の大きな力を持っていて? 主人公フィリーは、実は違う世界で生きた記憶を持っていて?前世の記憶を活かして魔法の世界で代活躍? 「ねぇたまたちは、ぼくがまもりゅのら!」 『わふっ』 もふもふな家族も一緒にたくましく楽しく生きてくぞ!

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

処理中です...