底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう

文字の大きさ
29 / 73

第二十一話 その道を選ぶ

しおりを挟む
 謎の魔石は国の研究機関での調査が必要と判断し、タストラの件の当事者である僕が、王都へ運ぶことになった。
 ユトスの冒険者ギルド長、ヨハンも可能であれば僕にという意見だったらしく、既に謎の魔石の運送依頼書が準備されていた。

 メルビアから王都へ行くには、一般的にユトスを経由することになる。メルビアからユトス、ユトスから王都の全行程の運送費を、ユトスの冒険者ギルドからの依頼ということで報酬を出してくれるそうだ。なんという太っ腹。

 それはそれとして、他に気になることがある。

 ベルハイトだ。 

「ベルハイトさんはどうします?今回はどれくらいで帰れるか分かりませんから、ここに残りますか?」

 王都行きが決まり、同行するかを尋ねた時、彼は迷っているようだった。僕に同行することではなく、王都へ行くことを。

「……行きます」

 ベルハイトは自分の意思で王都へ行くことを決めたが、その表情は迷いと、何かに対する恐れが拭いきれていなかった。





「ダイアーさんから伝言預かってるんだった!」

 そう大声を上げて、カインがシェリーにはたかれたのは、冒険者ギルドでの話を終えて、僕とベルハイトと[風のつるぎ]の四人で、夕食を摂っている時だった。

「食事中に大きな声出さないでって、いつも言ってるでしょ!」

「お前のほうが声デカいっての!つーか今日、殴り過ぎだろ!」

「どっちもうるさい」

「ほら、早く食べよう?せっかくのお料理が冷めちゃうよ」

 互いに睨み合う二人をヒューゴとアネットが慣れた様子で宥める。おそらく、いつもの事なのだろう。

「ダイアーさんからの伝言って…」

 ベルハイトが微妙に警戒している。

「伝言っていうか、「俺が渡した、ちゃんと使ったか?」って訊いてこいって」

 カインの言葉に、ベルハイトは手にしていたフォークを取り落としかけた。
 ベルハイトは少し間を置き、

「カイン、その……。餞別の中身については聞いてない、よな…?」

「訊いたんですけど、「お前にはまだ早い」って、教えてくれなくて」

「そうか、それならいいんだ。…あー、ダイアーさんには俺が直接話すから。うん」

 カインを含め、[風のつるぎ]の面々はきょとんとしているが、僕はベルハイトの反応から、その“餞別”が良からぬものであると直感した。



「ユトスで待ってるから!ぜっったい!手合わせしような!!」

 そう言って食事を終えたカイン達と、食事処の前で別れた。彼らは今晩はメルビアに宿を取り、明日の明け方にはユトスへ戻るそうだ。

 カインは食事中、「飯食ったら、手合わせしようぜ!」と僕に絡み、本日四発目の張り手を貰っていた。
 手合わせの話はそれで終わったと思っていたのだが、どうやらユトスで待ち構えるつもりらしい。……回避する手はないだろうか。

 僕とベルハイトは旅支度などを済ませ、明日の午前中に、カイン達より少し遅れて発つ予定だ。
 一緒に行こうと誘われたが、そうすると[無限保存庫ストレージ]を使いづらいという問題がでてくるので、丁重にお断りした。
 
 そして今、僕達が何をしているのかというと。

「――というわけで、ユトス経由で王都へ行ってきます」

「……………………」

 鋭い目を更に細め、無言でメンチを切るヘディと相対していた。

 長期間メルビアから離れるため、さすがにヘディに黙っているわけにもいかず、僕とベルハイトは運送ギルドへ寄って、事の次第を説明した。

 つまり。芋づる式に、タストラ魔窟ダンジョンに潜ったことなどを自分で吐くことになった。世の中上手くいかないものだ。

 ヘディさんは長く重い溜め息をついた。

「というわけで、じゃないわよ。なにガッツリ面倒事背負しょい込んできてんのよ」

「荷物を運ぶせおうのが運び屋ポーターの仕事なので」

 開き直ってそれっぽく言ってみたのだが、

「上手くないからな?」

 片手で両頬を力いっぱい挟まれた。……前回より強いな?

「ふみまへん。へも、ほうしゅーは」

「だから待てっての。何?」

 ヘディが手を離す。

「すみません。でも報酬ははずんでくれるそうです」

「それを先に言いなさい」

 ヘディの目の色が変わった。やはりギルド長である。

 シェリーから渡された今回の仕事の依頼書を渡すと、ヘディは無言で目を通していく。しばらくして、

「ベルハイト」
 
「ひ…っ、…はい…?」

 完全に油断していた同行者を呼んだ。
 突然呼ばれたベルハイトはびくりと跳ね、恐る恐るヘディの顔を見る。それにしても怯え過ぎではないか?僕の知らないところで何かあったのだろうか。

 ヘディは依頼書から視線を上げる。

「ユトスのギルド長、ヨハンさんだったかしら?話の分かる人は好きよ。今後ともよろしくと伝えてちょうだい」

 どうやら、ヘディの満足する内容だったらしい。彼がただの一つもダメ出しをしないのは珍しいことだ。

「へ、あ、はい。了解です……」
 
 何を言われるのかと怯えていたベルハイトは、肩透かしをくらったようだが、ヨハンのおかげでヘディの機嫌が上向きなので、タストラの件を怒られずに済みそうだ。
 
 そう安心していると、ヘディは僕を見て釘を刺す。
 
「さっさと行って、用事が済み次第すぐ帰ってきなさい。また背負しょい込んでくるんじゃないわよ?」

「善処します」

 僕とて面倒事はお断りだ。しかし面倒事それと、自分がやれる事、やるべき事は別問題だ。必要なら首を突っ込む所存。
 それが分かっているので、ヘディもこれ以上は何も言わない。

 と、思ったのも束の間。

「アタシがすぐ帰れって言ったからって、するんじゃないわよ?」

 ……なぜバレた。

 隣でベルハイトが首を傾げる。

「山越え?」

「ユトスを経由せずに、ここから西の山岳地帯を越えて王都に行くことよ」

 ベルハイトの疑問に答えるヘディ。しかし、ベルハイトはさらに首を傾げる。

「え、いや…、確かに直線距離で言えば、そのほうが近いですけど…。険しいうえに獣も魔物も出る過酷な場所ですよ?そんなところわざわざ……」

 言いながらこちらを見たベルハイトから、僕はそっと視線を逸らした。
 ベルハイトは信じられないといった様相で息を呑む。

「通ったことあるんですね……?」

「…………」

 一年前のことだから時効だと思う。

 ベルハイトは息をついてから僕をじっと見据えた。

「今回は駄目ですからね?そりゃあ、貴方なら本当に最短距離で突っ切るんでしょうけど!普通に歩くと迂回するより、ずーーーっと大変ですから!」

「しませんよ。ユトスを経由して行くって、言ったじゃないですか」

 経由してますとも。

「それ絶対、の話ですよね?帰りはユトスを経由する気無いでしょ?山、越えてやろうって思ってるでしょ?」

 読心術か?

 僕はベルハイトを正面から見据え、

「そんなことは」

「ないですか?本当に?」

「…………」

 逆に詰め寄られた。

 言えない。隙あらば帰りは山を越えようと思っていたなんて、どうしてこの場で言えよう。

 僕はぐっと握り拳を作って見せる。
 
「ベルハイトさん。たまには挑戦すべきです」

「その挑戦はハードルが高すぎるうえに命がけなんですよ。知ってます?危険は避けるもので突っ込むものじゃないって」

 ベルハイトなら大丈夫だと思って言っているのだが、なかなか伝わらない。

 するとヘディが、
 
「そうよ、言ってやりなさい!アンタは俺の骨を拾いたいのか?って!」

「それ不吉すぎません?!」

 ……ここ最近、僕の周囲の人が、僕が知らないうちにベルハイトと仲良くなっている気がする。
 なんだか少し……モヤモヤする。

 いや、今はその話は置いておこう。今回は僕にも譲れない、山越えの理由があるのだ。
 
 僕はキッとベルハイトを見上げる。

「知ってますか、ベルハイトさん」

「っ、なんですか…いきなり」

 僕が本気だと伝わるよう、真っ直ぐその目から逸らさない。

「ドラナト山には、レッドモメントがあるんです」

「………………はい?」

 なんで生返事なんだ。

 レッドモメントとは見た目は小さなリンゴだが、果肉は桃のように柔らかい果物で、その名の通り、真っ赤な色をしている。
 一年前、たまたまドラナト山を突っ切った際に見つけ、初めて食べた。それ以来、また実るこの時期を楽しみにしていたのだ。

「幻の果物と呼ばれるレッドモメントです。すごく美味しいんです。この時期に実がなるので、次は一年後なんです。自生している場所が少ないうえに栽培の成功例はなく、傷むのが早いので、市場には出回らないんです」

 一息に説明したせいか、ベルハイトはぽかんとしている。ちゃんと聞いていたのだろうか。

 僕はぐっとベルハイトとの距離を詰めた。

「食べたいんです」

「…………っ」

 これでも伝わらないのか。これ以上、どう説得しろと言うのか。

 …………もう、置いていってやろうか。

 そう本気で思った時、

「………………。はぁ……。分かりました」

「!」

「ただし、帰りですからね!行きはユトス経由!それから……穫り過ぎないこと!」

 僕はこくこくと頷く。もちろん大量に穫ったりしない。節度は弁える。
 
「ありがとうございますっ」

「……っ」

 お礼を言ったら何故か妙な顔をされた。しかしそんなことよりも、ベルハイトが了承してくれたことが、僕はとても嬉しくて。

「大丈夫。ベルハイトさんの剣の腕なら、問題ないです。万が一危なくなっても、僕が守りますから」

 心からの本心だ。だというのに、
 
「~~~っ、……あーもぉっ!!」

 ベルハイトはテーブルに突っ伏してしまった。なぜ。
 
「……アンタ達、アタシがいること忘れてない?」

 それを見ていたヘディの呆れ果てた声に、ベルハイトはハッと我に返り、僕は「ヘディさんの分も穫ってきます」と言って、渾身のでこピンをくらった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美化係の聖女様

しずもり
ファンタジー
毒親の仕打ち、親友と恋人の裏切り、人生最悪のどん底でやけ酒を煽り何を思ったのか深夜に突然掃除を始めたら床がドンドンって大きく鳴った。 ゴメン、五月蝿かった? 掃除は止めにしよう、そう思った瞬間、床に現れた円のようなものが光りだした。 気づいたらゴミと掃除道具と一緒に何故か森の中。 地面には気を失う前に見た円が直径3メートルぐらいの大きさで光ってる。 何コレ、どうすればいい? 一方、魔王復活の兆しに聖女を召喚した王城では召喚された筈の聖女の姿が見当たらない。 召喚した手応えはあったものの目の前の床に描かれた魔法陣には誰も居ない。 もしかして召喚先を間違えた? 魔力の残滓で聖女が召喚された場所に辿り着いてみれば聖女はおらず。 それでも魔王復活は待ってはくれない。 それならば聖女を探しながら魔王討伐の旅へ見切り発車で旅する第二王子一行。 「もしかしたら聖女様はいきなり召喚された事にお怒りなのかも知れない、、、、。」 「いや、もしかしたら健気な聖女様は我らの足手まといにならぬ様に一人で浄化の旅をしているのかも知れません。」 「己の使命を理解し果敢に試練に立ち向かう聖女様を早く見つけださねばなりません。」 「もしかして聖女様、自分が聖女って気づいて無いんじゃない?」 「「「・・・・・・・・。」」」 何だかよく分からない状況下で主人公が聖女の自覚が無いまま『異世界に来てしまった理由』を探してフラリと旅をする。 ここ、結構汚れていません?ちょっと掃除しますから待ってて下さいね。掃除好きの聖女は無自覚浄化の旅になっている事にいつ気付くのか? そして聖女を追って旅する第二王子一行と果たして出会う事はあるのか!? 魔王はどこに? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 不定期更新になります。 主人公は自分が聖女だとは気づいていません。 恋愛要素薄めです。 なんちゃって異世界の独自設定になります。 誤字脱字は見つけ次第修正する予定です。 R指定は無しの予定です。

World of Fantasia(ワールド・オブ・ファンタジア)

緋色牡丹
ファンタジー
生きる意味を見出せない三十二歳の男・山田緋色。 夏の夜、光の渦に呑まれ、彼が目を覚ましたのは――幻想の森だった。 壊れた愛車、知らない空、そして湖に浮かぶ青髪の少女。 異世界での出会いが、“止まった人生”を再び動かしていく。 異世界叙情ファンタジー、開幕── ※この小説は、小説家になろう、カクヨムにも同時掲載しています。 挿絵はAIイラストを使ったイメージ画像です。

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水
ファンタジー
記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

事故に遭いました~俺って全身不随?でも異世界では元気ハツラツ?

サクラ近衛将監
ファンタジー
 会社員の俺が交通事故に遭いました。二か月後、病院で目覚めた時、ほぼ全身不随。瞼と瞳が動かせるものの、手足も首も動かない。でも、病院で寝ると異世界の別人の身体で憑依し、五体満足で生活している。また、異世界で寝ると現代世界に目が覚めるが体の自由は利かない。  睡眠の度に異世界と現代世界を行ったり来たり、果たして、現代社会の俺は、元の身体に戻れる方法があるのだろうか?  そんな男の二重生活の冒険譚です。  毎週水曜日午後8時に投稿予定です。

小さいぼくは最強魔術師一族!目指せ!もふもふスローライフ!

ひより のどか
ファンタジー
ねぇたまと、妹と、もふもふな家族と幸せに暮らしていたフィリー。そんな日常が崩れ去った。 一見、まだ小さな子どもたち。実は国が支配したがる程の大きな力を持っていて? 主人公フィリーは、実は違う世界で生きた記憶を持っていて?前世の記憶を活かして魔法の世界で代活躍? 「ねぇたまたちは、ぼくがまもりゅのら!」 『わふっ』 もふもふな家族も一緒にたくましく楽しく生きてくぞ!

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

処理中です...