底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう

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〈別視点〉 ソニアと幕間と簀巻き

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 王都に辿り着いた最初の夜。
 先日からルカ様とベルハイト様の様子が……、いえ、ベルハイト様が何か悩んでいるようで、なんだかぎこちない様子が続いていました。
 そんな折、ルカ様はベルハイト様の腕を掴み、“散歩”と称して連れ出しました。やはりルカ様も気にしていたようです。

 ユリウス様とローガン様と私の三人になり、室内は妙な沈黙に包まれました。三人が三人とも、扉をじっと見ています。

 私はユリウス様とローガン様に向き直り、

「ベルハイト様、大丈夫でしょうか……」

 ユリウス様はなんでもない風に、食事を再開します。

「何を思い悩んでいるのかは知らないが、ルカがなんとかするだろう」

 ローガン様も、

「そうだねぇ。お嬢ちゃん、しっかりしてるから」

 そうおっしゃってはいますが、ユリウス様もどこかそわそわと落ち着かない様子です。対してローガン様はハンバーグを頬張りながら、何か意味ありげにニコニコして言葉を続けます。

「しっかし、若いってのはいいねぇ」

「いや……、そういう話とは限らないだろう」

 ユリウス様も、痴話喧嘩、なんておっしゃっていたじゃありませんか。と思いましたが、心の中に留めました。

「いやいや、色恋じゃないにしてもだよ。色んなことに悩んだり、ぶつかったりして成長するのは、若者の特権だからね」

 おじさんにもそんな時期があったなぁ、なんておどけていますが、きっとローガン様も心配いるのでしょう。しばらく何かを考え込むような間のあと、

「…………。よし。ちょっと様子見てこようか。なんか甘酸っぱいものが見れそうな予感がする」

 心配……しているのでしょうか…?
 なんだか面白がっているような気がします。
 
 私と同じように思ったのか、ユリウス様が溜め息をつきました。

「余計なことはするな。機を逸して、拗れたらどうするんだ」

「そうです、ダメですよ」

 お二人の間の話なのだから、知り合って日の浅い私達が、これ以上首を突っ込むべきではありません。もちろん、相談を持ちかけられたり助言を求められれば、微力ながら力になりたいとは思っていますが、あくまで求められれば、です。

 しかしローガン様は、駄目と言われれば言われるほど、やる気が出てしまう方ようで……。

「まあまあ。君らだって気になってるんでしょ?色恋か、そうじゃないか」

 食事を終えて席を立ちながら、ローガン様は良くない笑顔でこちらを見ました。

 色恋か、そうじゃないか。

 ユリウス様と私はお互いに顔を見合わせてから、

「そんなことは……」

「そのようなことは……」

 無い、と即答できませんでした。

 だってとっても気になっているんです!私だって女ですから、そういう話は大好きなんです!

 言い淀んだ私達の反応に、ローガン様はそれはそれは楽しそうに拳を掲げます。

「よし!行こう!」

 この時冷静に考えるべきでした。ルカ様とベルハイト様がいない今、ユリウス様がこの部屋から動かなければ、護衛をしてくださっているローガン様もここから動けないのです。ユリウス様も私もローガン様を止めなければと、それしか頭にありませんでした。

「ソニア、取り押さえるぞ!」

「は、はい!」

 ユリウス様と私がルカ様達のために今できるのは、邪魔をしないことだという使命感に突き動かされていました。ですが、冒険者であるローガン様の制止をするのは、至難の業。私はやむなく、ベッドからシーツを剥ぎ取り、

「大人しくここでお待ちください!」

「へぶっ!」

 ローガン様にばさっと被せました。
 シーツの扱いは得意です。あるじの寝台を整えるのも、侍女の大事な仕事ですから!

「縛り上げろ!」

「ローガン様、失礼いたしますっ!」

 反対側を掴んだユリウス様と協力して、ローガン様をシーツでぐるぐる巻きにしていきます。

「え、ちょ…っ。待って待って!腕が変な方向に曲がって……!ぐえっ」

 肩から膝までぎゅうぎゅうに縛り上げたため、バランスを崩したローガン様は床にバタリと倒れてしまいました。

 ユリウス様が、簀巻きになったローガン様を見下ろして溜め息をつきます。

「まったく……。いい歳して、手間をかけさせるな」

「いいかい、ユリウスくん。ソニアちゃん。おじさんは最年長として、若い二人を見守る責任があるんだ!」

 ローガン様がキリッとしたお顔で言いましたが、シーツでぐるぐる巻きにされた姿では説得力と威厳に欠けます。それに、

「お二人とも大人なのですから、そんな見守りは不要ですっ」

「何言ってるの。ベルくんはそれでいいとしても、お嬢ちゃんはまだ子供でしょ」

 どうやらローガン様はルカ様が未成年だと思っているようです。ユリウス様が首を振りました。 

「あいつ、十八だぞ」

「しっかりしてるけどまだ子供なんだから…………って十八?!」

 ローガン様は信じられないというお顔です。よく分かります。私もルカ様とお会いした時は、十四歳くらいかと思いましたから。

 ローガン様は簀巻き状態のまま、器用に上体だけを起こして、

「おじさんてっきり、ベルくんが禁断の恋しちゃってるのかと……」

 とても神妙な面持ちでそう言ったローガン様に呆れ、ユリウス様はシーツをさらにきつく締め上げました。
 こうしてローガン様の簀巻きができあがったのです。





 しばらくして部屋に戻ってきたベルハイト様は、先程は違い、とても晴れやかなお顔でした。きっと、ルカ様とちゃんとお話できたのでしょう。その様子に、ユリウス様と私は安心しました。
  
 ふいに、ルカ様が何か思い出したように、ベルハイト様に手を差し出しました。そこにふわりと魔法陣が浮かび、

「ベルハイトさん、これ」

 何も無かった空間から、ベーグルサンドが出てきました!

「夕飯、ほとんど食べてなかったから」

 確か[無限保存庫ストレージ]、だったでしょうか。魔法って本当にすごいです。私は魔法適正は一切無いので、余計にそう思います。

 男性部屋を後にして、ルカ様と女性部屋に戻る時、そっとその横顔を盗み見ました。

 ルカ様はあまり……というか、ほとんど表情が変わらないので分かりにくいですが、その幼さの残る綺麗な顔立ちが、今はなんとなく嬉しそうに見えて、

「良かったですね」

 そう声をかけると、一緒だけきょとんとしたあと「はい」と頷いたルカさんに、私はさらに温かい気持ちになりました。
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