底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう

文字の大きさ
53 / 73

第三十八話 王都グラスダール③

しおりを挟む
 ジュリアン・ティオ・エカード。
 …………エカード。

 僕はその名前を頭の中で繰り返し、目の前の少年を見た。そしてある人物の顔を思い浮かべる。

 似てなくもない……か?

 あの[真なる栄光]のティモンの姓も、確かエカードだった。この国では王侯貴族の姓と平民の姓は被らないようにされている。辺境の農村などでは各々が好きに姓を名乗っていたりするので、絶対ではないが、ティモンは裕福な家柄と自称していたし、縁者の可能性は充分ある。
 再びティモンの顔を思い浮かべる日がくるとは夢にも思わなかったが、ここでこの少年――ジュリアンとティモンの関係性を明確にする必要もない。というか、したくない。
 もし彼とティモンが近しい関係だったなら、逆にこちらの接点も訊ねられるだろう。それはとてもとても、面倒くさい。
 なのでここは、その話題に触れないに限る。

 僕は軽く姿勢を正し、
  
「お申し出は大変光栄ですが、急ぎの用がありますので、お気持ちだけ頂戴いたします。それから……」

 ちらりと周囲をみる。まだ昼にもならない時間で人通りは多く、さらにここは大通りであるため、どこにいても人の声が聞こえる。
 視線をジュリアンに戻すと、彼は不思議そうにこちらを見ていた。

「どこで誰が聞いているとも知れません。良からぬことを企む輩もいるでしょう。護衛や側仕えを連れていらっしゃらないようですし、このような場所で家名を名乗られるのは、控えたほうがよろしいかと存じます」

 そう言うと、ジュリアンは「あっ」と小さく声を漏らして口元を押さえかけた。僕は失礼にならない程度に頭を下げる。

「出過ぎたことを申しました。ご容赦ください」

「い、いえ!貴方の言うとおりです。ご忠告、感謝いたします」

 ジュリアンは慌てて言いながら、僕に頭を上げるよう促した。

 一人で出歩いたり、見知らぬ者に無闇に家名を名乗るなどの行動は多少危なっかしい。だがとても礼儀正しく、自分の非を素直に認められる少年のようだ。

 ジュリアンは伺うような視線で首を傾げる。

「あの、貴方は冒険者ですか?」

「いえ。運び屋ポーターです」

 答えると、今度は目を丸くした。

運び屋ポーター……。運び屋ポーターの人達は、みんな貴方みたいに悪漢を撃退するすべを身につけているものなんですか?」

「それは……、人によると思います」

 以前ベルハイトガ言ったように、運び屋ポーターが街の外に出る時は、護衛を雇う者がほとんどだ。しかし、護身術を体得している者も中にはいる。

 という理由からそう答えたのだが、

「ルカ様ほどお強い運び屋ポーターは、まずいらっしゃいませんよ……」

 ソニアに苦笑しながらそう言われた。するとジュリアンは目を輝かせ、

「そんなに強いの?!あ、……強いんですか?」

 口調が崩れた。素は年齢相応の話し方らしい。

「楽な話し方で構いませんよ」

 促すと、ジュリアンは恥ずかしそうに「じゃあ、そうさせてもらうよ」と笑って仕切り直した。

「実は、事情があって腕の立つ人を探してるんだ」

「それは、護衛の方では駄目なんですか?」

 一番手っ取り早いだろうに。

「我が家の護衛や衛兵、あと冒険者以外でという条件なんだ。彼らはある程度は戦えて当たり前だから」

 つまり戦闘職以外ということか。しかし、

「なんのために?」

 問うと、ジュリアンはうーんと唸り、

「それは言わない約束なんだ。言ったら絶対来てもらえないから、って」

 いったい、何をしようとしているのか。

「君さえよければ三日後、ここに来てほしいんだ」

 ジュリアンは懐から名刺サイズのカードを取り出した。

「申し訳ありませんが、僕は仕事でここに来たんです。その頃まで滞在しているかは……」

「来れたらでいいんだ。他にも何人か、心当たりをあたるから」

 そういうことなら、行けなくても大丈夫か。
 突き返すのも申し訳ないので、とりあえずカードを受け取る。そこには三日後の日時と、王都のとある場所が記されていた。
 
 腕の立つ者に声をかけて、いったい何をするのか。気にならないわけではないが、今のところ行くつもりはないので、深くは訊かないほうがいいだろう。

 カードを魔法鞄マジックバッグに仕舞って顔を上げると、ジュリアンはじっと僕を見ていた。

「来れたら、なんて言ったけど、僕は君に来てほしい。これはただの勘だけど、君以上の人はいない気がするんだ」

 そう言ってにっこりと笑い、

「本当にありがとう!じゃあ、また!」

 ジュリアンは大通りを駆けていった。また、と言われても困るのだけど。
 彼の姿が雑踏に消えると、ソニアは何故か興奮した様子で、両手をぎゅっと握っていた。

「すごい殺し文句でしたね……!」

 え、なにが?

「君以上の人はいない、なんて…。これは嵐の予感です!ベルハイト様にご報告しなければ!」

 いや、なんで?

 ソニアは、きゃー、と両手で頬を押さえて、一人で盛り上がっている。先程の会話の何が、彼女の琴線に触れたのだろう。分からないが、楽しそうなので、そっとしておくことにした。





 あれから特に有益な情報は掴めず、時間だけが過ぎていった。ベルハイト達も同様だったらしく、いよいよロズ家に助力を求めることも考えなければならない。

 夕刻になり、研究院へ向かう。
 昨日とは違い、顔パスで通してもらえたのは、サムナーがあらかじめ話を通してくれたからだろう。

「やあ、いらっしゃい。待っていたよ」

 出迎えたサムナーは、少々疲れているようだった。昨日は整然としていた部屋も、机の上には紙や本がところ狭しと置かれ、やや散らかっている。
 サムナーは手近にあった本を数冊、本棚に仕舞った。

「すまないね。集中すると片付けまで手が回らなくなるからいかん」

「もしかして、徹夜されました?」

 薄っすらと隈ができている。サムナーは頬をかきながら、

「実はそうなんだ。効率が悪くなるからいつもはしないんだが、今回はそうも言っていられなくてね」

 サムナーは机の上の箱を開け、中から昨日預けた魔石を取り出した。

「結論から言おう。これは確かに魔石だが、普通の魔石ではない。明らかに、自然にできたものではないんだ」

「!」

 魔石は、魔素が自然に魔力に昇華する際、偶発的に生成されるものだ。自然にできたものでないと言うなら、それはつまり――。

 サムナーは魔石をテーブルの上に置き、重々しく言った。

「これは……、人工魔石だ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美化係の聖女様

しずもり
ファンタジー
毒親の仕打ち、親友と恋人の裏切り、人生最悪のどん底でやけ酒を煽り何を思ったのか深夜に突然掃除を始めたら床がドンドンって大きく鳴った。 ゴメン、五月蝿かった? 掃除は止めにしよう、そう思った瞬間、床に現れた円のようなものが光りだした。 気づいたらゴミと掃除道具と一緒に何故か森の中。 地面には気を失う前に見た円が直径3メートルぐらいの大きさで光ってる。 何コレ、どうすればいい? 一方、魔王復活の兆しに聖女を召喚した王城では召喚された筈の聖女の姿が見当たらない。 召喚した手応えはあったものの目の前の床に描かれた魔法陣には誰も居ない。 もしかして召喚先を間違えた? 魔力の残滓で聖女が召喚された場所に辿り着いてみれば聖女はおらず。 それでも魔王復活は待ってはくれない。 それならば聖女を探しながら魔王討伐の旅へ見切り発車で旅する第二王子一行。 「もしかしたら聖女様はいきなり召喚された事にお怒りなのかも知れない、、、、。」 「いや、もしかしたら健気な聖女様は我らの足手まといにならぬ様に一人で浄化の旅をしているのかも知れません。」 「己の使命を理解し果敢に試練に立ち向かう聖女様を早く見つけださねばなりません。」 「もしかして聖女様、自分が聖女って気づいて無いんじゃない?」 「「「・・・・・・・・。」」」 何だかよく分からない状況下で主人公が聖女の自覚が無いまま『異世界に来てしまった理由』を探してフラリと旅をする。 ここ、結構汚れていません?ちょっと掃除しますから待ってて下さいね。掃除好きの聖女は無自覚浄化の旅になっている事にいつ気付くのか? そして聖女を追って旅する第二王子一行と果たして出会う事はあるのか!? 魔王はどこに? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 不定期更新になります。 主人公は自分が聖女だとは気づいていません。 恋愛要素薄めです。 なんちゃって異世界の独自設定になります。 誤字脱字は見つけ次第修正する予定です。 R指定は無しの予定です。

World of Fantasia(ワールド・オブ・ファンタジア)

緋色牡丹
ファンタジー
生きる意味を見出せない三十二歳の男・山田緋色。 夏の夜、光の渦に呑まれ、彼が目を覚ましたのは――幻想の森だった。 壊れた愛車、知らない空、そして湖に浮かぶ青髪の少女。 異世界での出会いが、“止まった人生”を再び動かしていく。 異世界叙情ファンタジー、開幕── ※この小説は、小説家になろう、カクヨムにも同時掲載しています。 挿絵はAIイラストを使ったイメージ画像です。

事故に遭いました~俺って全身不随?でも異世界では元気ハツラツ?

サクラ近衛将監
ファンタジー
 会社員の俺が交通事故に遭いました。二か月後、病院で目覚めた時、ほぼ全身不随。瞼と瞳が動かせるものの、手足も首も動かない。でも、病院で寝ると異世界の別人の身体で憑依し、五体満足で生活している。また、異世界で寝ると現代世界に目が覚めるが体の自由は利かない。  睡眠の度に異世界と現代世界を行ったり来たり、果たして、現代社会の俺は、元の身体に戻れる方法があるのだろうか?  そんな男の二重生活の冒険譚です。  毎週水曜日午後8時に投稿予定です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

追放王子の気ままなクラフト旅

九頭七尾
ファンタジー
前世の記憶を持って生まれたロデス王国の第五王子、セリウス。赤子時代から魔法にのめり込んだ彼は、前世の知識を活かしながら便利な魔道具を次々と作り出していた。しかしそんな彼の存在を脅威に感じた兄の謀略で、僅か十歳のときに王宮から追放されてしまう。「むしろありがたい。世界中をのんびり旅しよう」お陰で自由の身になったセリウスは、様々な魔道具をクラフトしながら気ままな旅を満喫するのだった。

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

処理中です...