鳴成准教授は新しいアシスタントを採用しました。実は甘やかし尽くし攻めの御曹司でした。

卯藤ローレン

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三章

03. 沖縄旅行編:ハンバーガーとアメリカンヴィレッジ①

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 9月の第3週、鳴成秋史と月落渉は機上の人となった。
 プライベートジェットで。

 2時間半しか掛からないから大丈夫だとやんわり説得を試みた鳴成を、『離発着時刻を自由に決められてセキュリティチェックにも時間を取られず、快適ですよ』と比較的有無を言わせぬ強さで月落が押し切り、二人は本当にぶーんした。

 広い機内でホワイトレザーの座席に寛ぎ、雲海を眺めながらいつも通り楽しく会話していれば時間が過ぎ去るのはあっという間だった。
 雲を突き抜け降下しサファイアブルーの美しい海に目を奪われていると、すぐに沖縄本島が見えてくる。
 ストレスなく着陸し、機体から出る。
 2泊3日分の荷物が入ったスーツケースは、そのままヴィラへと運ばれるよう手配されている。

 プライベートジェット専用の客室乗務員に見送られた二人がさっそく向かった先は、沖縄県内にしか店舗を構えていないハンバーガー店だった。
 オレンジの照明を横目に、入口にあるメニューをチェックする。

「うーん……一番人気のハンバーガーにします。ポテトも食べたい……このチリチーズとフライが一緒になってるのも美味しそうですね」
「シェアしますか?」
「ええ、是非。きみは?」
「僕はこのクリームチーズが挟まってるハンバーガーと、チキンビットも食べようかな。10個で。これもシェアしましょうね。サラダは……ないか。先生、このマフィンはサラダの部類に入りますか?」
「入りません、紛うことなき炭水化物です。無茶を言わないでください」
「じゃあ、ポテトをサラダ枠に特別移送しましょう。飲み物は何にしますか?」
「……コーラかな」
「え、珍しいですね。先生がジュース飲んでるの、初めて見る気がします」
「澄み渡った非日常の青空の下では、ついつい羽目を外したくなるタイプなんです」

 ヘーゼルの瞳が悪戯っ子のように細められる。
 時折見せる、上品な見た目にそぐわぬ言動のやんちゃさも鳴成の魅力のひとつだ。
 白のカプリシャツにミントグリーンのパンツ、グリーンのラインが入ったスニーカーを合わせた鳴成は、楽しそうな雰囲気に似合った屈託のない笑みを浮かべる。

「何て言うか……たぶん怒られるのを覚悟で言いますが、上機嫌すぎて空中を跳ねる鹿、もしくはリズムを刻みながらステップを踏むアハルテケみたいです」
「きみの中の私はそういうフォルムの動物のイメージなんですね」
「あ、気になるところそこなんですね?」
「え?」
「ちなみに、先生の中の僕のイメージは何ですか?」
「うーん……」

 鳴成は、半袖のシャンブレーシャツに黒のトラックパンツ、白のソングサンダルを履いた月落を上から下まで二往復して眺めた。
 期待に満ち溢れる黒の眼差しに至近距離で見つめられるが、鳴成の中では即座に浮かんだ確固たる答が、その輪郭を強くするだけだった。

「黒の、ジャーマンシェパード……?」
「え、あ、犬?先生には俺が犬に見えてるんですか?」
「ええ、大型犬っぽくて可愛いなぁ、と。勇敢さもあって知的で落ち着きがあると聞きますし、筋肉質なところも似ているなぁと」

 犬か……狼とかシャチとか恐竜とかじゃなくて、犬。もうちょっと鍛えて筋肉増やそうかな……と小さい声でぶつぶつ言う月落を、鳴成は不思議そうな顔で覗き込んだ。

「渉くん?」
「はい!」

 名前を呼ばれただけで気分が上がる。
 8月の初めにお互いの呼び方を変えてから、焦がれてやまない大好きな人の声で何度も呼ばれてきたけれど、未だに慣れなくて心の中で嬉しさの泡が無限に弾けるのを感じる。
 それはもう、垂れている耳がピンと立つほど、尻尾をぶんぶん振ってしまうほどに喜びが溢れてやまない。

 ……あれ?確かに犬っぽいか?

「きみは何を飲みますか?」
「大型犬はルートビアを飲みます!」

 思いの外大声を出した月落に苦笑いをしながら注文をしに行った飼い主を、黒の大型犬が追いかける。




 さくっと沖縄らしい昼食を終えて、二人は那覇空港直結の立体駐車場へと向かった。

 月落が手を挙げる。
 少し遠くの位置に立っていた、黄色地にシーサー柄が映えるかりゆしウェアを着た柔和な顔立ちの男性が、それに返すように同じく手を振った。
 月落と鳴成がそばまで行くと、お辞儀をして出迎える。

「渉様、ようこそ沖縄にいらっしゃいました」
三田山みたやまさん、お久しぶりです」
「はい、本っ当にお久しぶりでございます。実咲みさき様のお供で日本や世界各地を飛び回れるのは秘書としてとても充実しているんですが、月落の皆様と会うチャンスが全っ然巡ってこないのは少し寂しく思う三田山でございます」
「去年の年納めの会も欠席されてましたもんね」
「左様でございます。実咲様をなんとか説得しようとしたんですが、和歌山に作った冬限定の温泉施設が想像以上に好評だったこともあり、そこに缶詰めでございました」

 どこから取り出したのか、ハンカチで涙を拭う仕草をする40代のおじさんを見ながら、月落は鳴成へと視線をずらした。

「先生、ご紹介します。レジャー部門トップの従叔母の秘書を務めてくださっている、三田山さんです」
「初めまして、鳴成秋史と申します」
「秘書の三田山でございます。鳴成様にお会いできるのを今か今かと待ち望んでおりました。鳴成様との邂逅を果たした秘書たちからはそれはもうたっくさんの話を聞かされ、羨ましい限りでございました。ですが、そんな日々も今日で終わり。私もその輪の中に加われると思うと、スキップで日本列島を縦断できそうなほどに光栄な三田山でございます」

 月落一族のキャラは濃い。
 なれば、それに仕えている秘書のキャラが濃いのも当然の如く。
 とはいえ、大学教員にも多種多様な人物がいるのも確かなので、どうやら自分たちの周囲は図鑑級のラインナップで構成されているようだと鳴成は思う。
 皆、一様に善い人だということが共通点である。

「さて、渉様。本日から3日間お乗りいただく車がこちらでございます。晴天続きの予報ですので、オープンカーをご用意いたしました。お帰りの際は沖縄をご出発される前に、本日と同様にこちらに置いていただければ回収に参ります」

 そう言って、沖縄に滞在しているのに日に焼けていない白い腕が指し示すのは、レーシングイエローのオープンカー。
 澄んだ青空の下、太陽の光を反射して一際目立つこと必須の車体だ。

「わー黄色い車だー、初めてだなー」

 月落が棒読みで感想を零す。
 その両頬にはありありと『派手』の2文字が浮かんでいる。

「きみが普段使ってるのは、黒のSUVですもんね」
「先生の車に乗せてもらってるので青には慣れたんですが、まさかの真っ黄色……実咲叔母さんが派手好きなのを忘れてました」
「あ、このオープンカーは叔母上の持ち物なんですね」
「はい。手持ちから貸してくれるという話だったんですが、想像以上のが来ました」
「渉様。沖縄という土地柄、実咲様がお連れになっている他のお車はファイヤーレッド、カーミットグリーン、トワイライトパープルですので、黄色が一番良心的かと思います」
「……うん、分かりました。先生、少し目立ちますがご了承ください」
「ええ、私は大丈夫です」

 諦めて三田山から車のキーを受け取ると、運転席に月落が、助手席には鳴成が座った。
 レッグスペースが広めに作られた仕様のようで、ゆったりと足を伸ばせて快適だ。

「先生、日焼け止めは?」
「塗りました」
「サングラス?」
「掛けました」
「じゃ、行きましょうか。三田山さん、ありがとうございました」
「お気をつけていってらっしゃいませ。後ほどヴィラでお待ちしております」

 ウェリントンタイプで黒と茶の色違いのサングラスを掛けた月落と鳴成は、陽射し溢れる南国の街へと繰り出した。
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