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見せしめ舞踏会5
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(本当に、間違いじゃないの?)
手を取った時、彼の手はかすかに震えていた。
嘘だと断ずるには、あまりにも手が込んでいる。
「だとしても理由が思い当たらないわ」
(ブリジットたちの余興かしら)
あわてて顔を上げるも、その予測が外れていることは明白だった。
ブリジットがうっとりと美青年を見つめていた。
デリックまでうっすら頬を染めて見惚れている。
「ね、ねえ、ステラさん。その方を紹介して頂けるかしら……?」
「紹介も何も、この人のことは知らないわ。不審者よ」
会場が騒めいていた。
今や誰もが目を見開いて謎の男の一挙手一投足に注目していた。
常識外の容貌と行動が原因である。
そしてこの会場の誰も謎の男のことを知らないようだった。
頬を染めつつ顔を見合わせている。
「ステラ様が私の事をご存じでないのも当然です。私は彼女に比べれば路傍の石のような存在ですからね」
悲し気な声に恐る恐る表情を見ると、見事に男の眉が下がっている。
見る者全てに罪悪感を抱かせるような悲壮さをまとってステラを見つめている。
(も、もしかして傷つけたのかしら。でも急に現れてそんなこと言われても困るわよ)
ステラも例にもれずたじろいだが、男の方は気にしていないようだった。
ぱっと表情を明るくしてにこにこと笑っている。
「ですが、これから知って頂ければ問題ありませんよね。どうぞお好きなように、たくさん私のことを知ってください」
「いやだから、そもそもあなた誰なのよ」
ブリジットがコホン、と咳払いする。
「お知り合いではないのね? ではその、そこの美しい方。私はブリジット・グレアムと申しますわ。良かったら私と一緒にあちらでお話でもいかがかしら」
(珍しいわね)
ブリジットはグレアム伯爵家長女だ。
自分が貴ばれるべき身分であるということに十分すぎるほど自覚的だった。
その分貴族でない人間に対しては自分から話しかけないという徹底的な差別意識も大いにある。
貴族の子女としては正しい対応だからこそステラは驚いた。
貴族か平民かもわからない不審者に、微笑んで自分から声をかけて名前を名乗っているのだ。
ぽうっと見惚れて、この男の身分やどういう存在かに関しては気にしていないようだ。
(たしかに上質な生地で仕立ても良いし、立ち居振る舞いも隙が無くて優雅だけれど)
「ステラ様はそれをお望みですか?」
「なんで私に聞くの!?」
ブリジットの問いかけを無視して、ステラの意向を伺う。
直接話す気はないと言わんばかりの、まさに貴族らしいブリジットへの侮辱だ。
(本当に一体なんなのこの男!)
頭が痛い。
この短時間で色々なことが起こりすぎた。
ブリジットはデリックのことなどもはや眼中にないようで、今は怖いくらいにステラを睨みつけている。
彼女の表情を見て、なぜか恐怖と共に気のすく思いがした。
どういうわけか、男はステラのいう事ならきくというのだ。
そのことでさっきまで勝ち誇っていたブリジットが怒りで顔を崩している。
謎の男の出現で、形勢逆転しているのだ。
ステラは心の中で覚悟を決めた。
(不審者といえどここでは無害みたいだし……。申し訳ないけれど利用させてもらうわ)
手を取った時、彼の手はかすかに震えていた。
嘘だと断ずるには、あまりにも手が込んでいる。
「だとしても理由が思い当たらないわ」
(ブリジットたちの余興かしら)
あわてて顔を上げるも、その予測が外れていることは明白だった。
ブリジットがうっとりと美青年を見つめていた。
デリックまでうっすら頬を染めて見惚れている。
「ね、ねえ、ステラさん。その方を紹介して頂けるかしら……?」
「紹介も何も、この人のことは知らないわ。不審者よ」
会場が騒めいていた。
今や誰もが目を見開いて謎の男の一挙手一投足に注目していた。
常識外の容貌と行動が原因である。
そしてこの会場の誰も謎の男のことを知らないようだった。
頬を染めつつ顔を見合わせている。
「ステラ様が私の事をご存じでないのも当然です。私は彼女に比べれば路傍の石のような存在ですからね」
悲し気な声に恐る恐る表情を見ると、見事に男の眉が下がっている。
見る者全てに罪悪感を抱かせるような悲壮さをまとってステラを見つめている。
(も、もしかして傷つけたのかしら。でも急に現れてそんなこと言われても困るわよ)
ステラも例にもれずたじろいだが、男の方は気にしていないようだった。
ぱっと表情を明るくしてにこにこと笑っている。
「ですが、これから知って頂ければ問題ありませんよね。どうぞお好きなように、たくさん私のことを知ってください」
「いやだから、そもそもあなた誰なのよ」
ブリジットがコホン、と咳払いする。
「お知り合いではないのね? ではその、そこの美しい方。私はブリジット・グレアムと申しますわ。良かったら私と一緒にあちらでお話でもいかがかしら」
(珍しいわね)
ブリジットはグレアム伯爵家長女だ。
自分が貴ばれるべき身分であるということに十分すぎるほど自覚的だった。
その分貴族でない人間に対しては自分から話しかけないという徹底的な差別意識も大いにある。
貴族の子女としては正しい対応だからこそステラは驚いた。
貴族か平民かもわからない不審者に、微笑んで自分から声をかけて名前を名乗っているのだ。
ぽうっと見惚れて、この男の身分やどういう存在かに関しては気にしていないようだ。
(たしかに上質な生地で仕立ても良いし、立ち居振る舞いも隙が無くて優雅だけれど)
「ステラ様はそれをお望みですか?」
「なんで私に聞くの!?」
ブリジットの問いかけを無視して、ステラの意向を伺う。
直接話す気はないと言わんばかりの、まさに貴族らしいブリジットへの侮辱だ。
(本当に一体なんなのこの男!)
頭が痛い。
この短時間で色々なことが起こりすぎた。
ブリジットはデリックのことなどもはや眼中にないようで、今は怖いくらいにステラを睨みつけている。
彼女の表情を見て、なぜか恐怖と共に気のすく思いがした。
どういうわけか、男はステラのいう事ならきくというのだ。
そのことでさっきまで勝ち誇っていたブリジットが怒りで顔を崩している。
謎の男の出現で、形勢逆転しているのだ。
ステラは心の中で覚悟を決めた。
(不審者といえどここでは無害みたいだし……。申し訳ないけれど利用させてもらうわ)
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