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ハウンドの過去、ブリジットの企み
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ブリジットは久しぶりにフィンリー家を訪れていた。
デリックの怪我は命にかかわるものではなく、ブリジットはなんだかんだと理由をつけて見舞いの頻度を下げていたのだがハウンドのことで用事があると言われると話は別だった。
「正体が分かったって本当なの?」
「ああ。俺もお前もバーンズ家のサロンで会ったことがある」
自力で思い出したわけではなく、父親に教えられて思い出したのだ。
同年代の子供たちの交流と銘打った集まりで、セシリアのためのものだろう。
それを聞いたブリジットはやにわに興奮した。
「そうなの? じゃあそれなりの家柄の方なのね。で、どこの家?」
「それを聞くために呼んだんだよ。なんだ、お前も思い出せないのかよ」
デリックは不機嫌を隠さない。
ステラが来た時には大げさに巻いていた包帯も、ブリジットに嘘をつく必要がないため今はガーゼを当てているだけだ。
「思い出せないのは当たり前よ。バーンズ家に呼ばれたとしたら十年以上前じゃない。たしかにそんなこともあったと思うけれど。誰がいたのかなんて覚えてないわ」
「だが、お前の言うとおりそれなりの家のはずだ。俺たちの世代であいつみたいな……いや、あいつみたいじゃなくてもいい。同年代で素性の分からないやつを知らないか?」
「さ、さすがに全員を知っているわけじゃないわよ。社交界全員が分からないなら相当な年数人前に出ていないってことでしょ。バーンズ侯爵家と関わりがあると言ってもウチみたいな歴史だけの家も呼ばれていたわけだし」
「ステラはどうだ? あいつなら貴族名鑑を使って調べることが出来るだろ」
デリックとブリジットはあの分厚い辞典をめくるつもりなどさらさらなかった。
文字というだけで寒気がするのだ。
その点、ステラはなにが面白いのか昔から本が好きで同年代が社交界におしゃれにと忙しくしている間にもよく読んでいた。
閲覧には許可が必要だが、デリック名義なら可能だ。
そしてステラなら貴族名鑑から彼の名前をあたることもできる。
「ステラに頼るのは絶対ダメ! あの子なんかちょっと……彼と仲がいいみたいなのよ。これ以上近づけるのは危険だわ」
危険ってなんだ、とブリジットの婚約者であるデリックは思う。
ブリジットは本格的にハウンドに惚れているらしい。
それを隠そうともしないことが、ハウンドに負けたようでデリックは苛立つ。
「かといってセシリア嬢に聞くわけにもいかないだろ。俺たちは面識がないし、今の時点で言っていないってことは彼女も知らないかあえて黙っているってことだ」
そこでブリジットは何かを思い出したのかはっと息を呑む。
「私、バーンズ家のお屋敷にはそのサロンに呼ばれた一度しか行ってないわ。その時たしかステラもいたはずなの。覚えてない?」
「そういえばあいつもいたな。いや、あの時に俺はステラが苦手になったんだ。あいつになにか言われて……」
「私もあの時にステラが嫌いになったのよ。でもどうしてだったかしら。むかつく思いをしたのは覚えてるんだけれど、あれバーンズ家のサロンだったのね。それにしても、だんだん思い出してきたのに肝心のハウンド様のことはまったく思い出せないわ」
子供たちはたしかにたくさんいた。
しかしいちいち細かい特徴などは覚えていないし、なにか嫌な感じがして思い出すのが苦痛だった。
「とくにかく、ハウンドとステラはそこで会っている可能性が高いわ。でもステラも覚えてないんでしょうね」
ステラはデリックの三つ下、ブリジットの二つ下だ。かなり幼いころの話になる。
(だとすれば……まだ私にもチャンスはあるわね。それなりの貴族ではあるみたいだし、資産もたくさんありそう。私の嫁ぎ先にはぴったりだわ)
デリックは家柄だけで選んだ相手だ。ステラから奪うのが楽しかっただけ。
悪い相手ではないが、年頃の女の子にとってはハウンドに比べると見劣りする。
それにフィンリー家はお金の使い方には厳しく、デリックはなかなかプレゼントをくれない。
フィンリー家の交際費には決められた予算がある。
一般的な平民にとっても、グレアム家にとっても驚くべき金額だ。
しかしハウンドからの贈り物を見たあとだとブリジットにはどうしても物足りないものだった。
ハウンドは美しい容姿、甘い声、潤沢な資金とブリジットの求めるものを全て持っている。
親の都合などブリジットにとってはどうでも良かったが、ハウンドが貴族なら結婚もしやすい。
(ハウンド様とは私が結婚するのよ。ステラ、あんたのものなんかこの世に一つだってないの。全部私のものなんだから……!)
デリックの怪我は命にかかわるものではなく、ブリジットはなんだかんだと理由をつけて見舞いの頻度を下げていたのだがハウンドのことで用事があると言われると話は別だった。
「正体が分かったって本当なの?」
「ああ。俺もお前もバーンズ家のサロンで会ったことがある」
自力で思い出したわけではなく、父親に教えられて思い出したのだ。
同年代の子供たちの交流と銘打った集まりで、セシリアのためのものだろう。
それを聞いたブリジットはやにわに興奮した。
「そうなの? じゃあそれなりの家柄の方なのね。で、どこの家?」
「それを聞くために呼んだんだよ。なんだ、お前も思い出せないのかよ」
デリックは不機嫌を隠さない。
ステラが来た時には大げさに巻いていた包帯も、ブリジットに嘘をつく必要がないため今はガーゼを当てているだけだ。
「思い出せないのは当たり前よ。バーンズ家に呼ばれたとしたら十年以上前じゃない。たしかにそんなこともあったと思うけれど。誰がいたのかなんて覚えてないわ」
「だが、お前の言うとおりそれなりの家のはずだ。俺たちの世代であいつみたいな……いや、あいつみたいじゃなくてもいい。同年代で素性の分からないやつを知らないか?」
「さ、さすがに全員を知っているわけじゃないわよ。社交界全員が分からないなら相当な年数人前に出ていないってことでしょ。バーンズ侯爵家と関わりがあると言ってもウチみたいな歴史だけの家も呼ばれていたわけだし」
「ステラはどうだ? あいつなら貴族名鑑を使って調べることが出来るだろ」
デリックとブリジットはあの分厚い辞典をめくるつもりなどさらさらなかった。
文字というだけで寒気がするのだ。
その点、ステラはなにが面白いのか昔から本が好きで同年代が社交界におしゃれにと忙しくしている間にもよく読んでいた。
閲覧には許可が必要だが、デリック名義なら可能だ。
そしてステラなら貴族名鑑から彼の名前をあたることもできる。
「ステラに頼るのは絶対ダメ! あの子なんかちょっと……彼と仲がいいみたいなのよ。これ以上近づけるのは危険だわ」
危険ってなんだ、とブリジットの婚約者であるデリックは思う。
ブリジットは本格的にハウンドに惚れているらしい。
それを隠そうともしないことが、ハウンドに負けたようでデリックは苛立つ。
「かといってセシリア嬢に聞くわけにもいかないだろ。俺たちは面識がないし、今の時点で言っていないってことは彼女も知らないかあえて黙っているってことだ」
そこでブリジットは何かを思い出したのかはっと息を呑む。
「私、バーンズ家のお屋敷にはそのサロンに呼ばれた一度しか行ってないわ。その時たしかステラもいたはずなの。覚えてない?」
「そういえばあいつもいたな。いや、あの時に俺はステラが苦手になったんだ。あいつになにか言われて……」
「私もあの時にステラが嫌いになったのよ。でもどうしてだったかしら。むかつく思いをしたのは覚えてるんだけれど、あれバーンズ家のサロンだったのね。それにしても、だんだん思い出してきたのに肝心のハウンド様のことはまったく思い出せないわ」
子供たちはたしかにたくさんいた。
しかしいちいち細かい特徴などは覚えていないし、なにか嫌な感じがして思い出すのが苦痛だった。
「とくにかく、ハウンドとステラはそこで会っている可能性が高いわ。でもステラも覚えてないんでしょうね」
ステラはデリックの三つ下、ブリジットの二つ下だ。かなり幼いころの話になる。
(だとすれば……まだ私にもチャンスはあるわね。それなりの貴族ではあるみたいだし、資産もたくさんありそう。私の嫁ぎ先にはぴったりだわ)
デリックは家柄だけで選んだ相手だ。ステラから奪うのが楽しかっただけ。
悪い相手ではないが、年頃の女の子にとってはハウンドに比べると見劣りする。
それにフィンリー家はお金の使い方には厳しく、デリックはなかなかプレゼントをくれない。
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一般的な平民にとっても、グレアム家にとっても驚くべき金額だ。
しかしハウンドからの贈り物を見たあとだとブリジットにはどうしても物足りないものだった。
ハウンドは美しい容姿、甘い声、潤沢な資金とブリジットの求めるものを全て持っている。
親の都合などブリジットにとってはどうでも良かったが、ハウンドが貴族なら結婚もしやすい。
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