婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井

文字の大きさ
44 / 83

見舞い騒動5

しおりを挟む
 久しぶりにあったステラの様子にデリックは驚いた。
 首元までレースで覆われたクリーム色のドレスはステラの楚々とした魅力を引き出していた。
 派手さがないおかげで彼女の気の強そうな瞳ががむしろきらきらと印象的に見える。

 枯葉色だと馬鹿にしていた髪は、同系色の髪飾りがあるだけでどこか神秘的にすら思えた。
 ステラの魅力をよく理解している人間が用意したものなのだろうとひと目で分かる。

(あんなに美人になるんならブリジットじゃなくてステラと婚約したままでも良かった)

 デリックの後悔の念を表情から読み取ったのか、ハウンドは自慢げに微笑む。

「私の飼い主は愛らしいでしょう。あなた程度では相手にもなりませんが、」

「は? 飼い主? ステラのことか?」

 デリックはなんだこいつ、という表情を隠せなかった。
 いきなりぶん殴ってきたような男だ。

(本格的に頭がイかれてるのか?)

「あなたに見せるのはもったいないかと思いましたが今後追い回されても困るので立場を理解してもらおうかと」

「立場……?」

「あなたにステラ様はもったいない、ということです。分かっているから婚約を解消されたのだとは思いますが念のため、ね」

 あくまで紳士的に、それでいて神経を逆なでるような言い方のハウンドにデリックは苛立つ。

「お前なにをしに来たんだ? 謝罪だろ? お前こそ立場分かってんのかよ!」

 こいつの正体は現状不明だ。

 意図的に隠されている、とブリジットは言っていた。
 だとしても貴族であるならデリックやブリジットが知らないはずはない。
 社交界に出ていない人間もいないわけではないが、ハウンドの特徴には当てはまらない。
 だから、デリックの方が権威はあるはずなのだ。
 ハウンドの余裕の態度の方が分からない。

「謝罪。そうでしたね。おそらくあなたのお父上から話があるでしょうが、あのパーティーでのことは話がつきました。私から謝罪することはありません」

「は、話がついた? 意味分かんねえこと言うな」

「私としてはもう少し殴っておけばよかったと思っていますよ。別に今から追加してもいいんですけど」

 あのときはステラ様が引いてたから一発で我慢したんです、と綺麗な顔で凶悪なことを言っている。
 冗談とも思えずデリックはビクリと震えた。

「お、お前何者なんだよ」

 デリックの声の震えを指摘もせずハウンドは喉奥でくつくつと笑うだけだ。

「あなたもご存じのはずですよ」

 ハウンドはデリックの記憶力に最初から期待していないのか、踵を返して去っていった。
 本当に謝罪はなく、煽るだけ煽って気が済んだらしい。

「知らねえよあんなやつ……」

 一人残されたデリックはベッドて一人ごちる。
 立ち居振る舞いからして同年代の貴族なのだろうが、あんな顔を忘れるわけがない。
 しかし会ったことがないと断言するには、ハウンドの態度は強固なものだった。

「デリック、話がある」

 ノックと共に入ってきたのはフィンリー家当主、つまりデリックの父親だった。
 少し疲れた顔をしており、面倒だという態度を隠そうともしていない。

「父上、あの男がさっきおかしなことを……!」

 はあ、と父親はため息をついた。ベッドサイドスツールに浅く腰をかける。

「改めて馬鹿なことをしたな、デリック。まだ反省していないのか」

 睨まれるとデリックは何も言えず押し黙ってしまった。

「あのパーティーでの婚約解消はちょっとした余興だったんです! こんな大ごとになったのはあの男、ハウンドが割り込んできたからで……! そ、そうです、あの男が悪いんだ! 人を殴っておいて謝罪もしない非常識なやつでした!」

 父親は深いため息をついた。

「お前は、デリック家のステラ嬢に謝ったのか。今日来ていただろう」

 デリック身体がびくりと震え目を見開く。
 ステラに謝罪。そんなこと、考えたこともなかったのだ。

「え……? で、でもあれはちょっとしたお遊びで……」

「お前のしたことは貴族として、いや人間として恥ずべきことだ。社交界の口さがない噂はハウンド君がすべて巻き取ってくれたおかげで我が家へのダメージは少ないが……育て方を間違えたな」

 呆然とするデリックを冷たく見下ろし、父親は続ける。

「今日ハウンド君は私に示談金を用意してきてくれたよ。謝罪はしないが、治療費と迷惑料だと」

「ま、まさか受け取ったのですか?」

「当たり前だ。お前の治療費の数百倍の金額だぞ。本来我々の方から事情を説明して埋め合わせしなければならないところを、フィンリー家自体に恨みはないからと……」

 (つまり俺自身に恨みがあるということか?)

 デリックには本当に身に覚えがない。

「父上はあの男の正体をご存じなのですか。お、教えてください!」

 父親は背中を丸め、全身の空気を抜いているのではないかと思うほど深いため息をついた。

「……彼はお前がそう聞いてくるだろうと言っていたよ。お前が思いだせると期待はしていないらしい。私も、お前には失望したよ」

 デリックは目を見開く。俯いた父親とは目が合わない。

「グレアム家の娘と近くで接する機会のあったお前が、ブリジット嬢ではなくステラ嬢を選んでいればな。……いまさら言っても仕方のないことか」 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

枯渇聖女は婚約破棄され結婚絶対無理ランキング1位の辺境伯に言い寄られる

はなまる
恋愛
 らすじ  フレイシアは10歳の頃母と一緒に魔物に遭遇。その時母はかなりの傷を負い亡くなりショックで喋れなくなtったがその時月の精霊の加護を受けて微力ながらも魔法が使えるようになった。  このニルス国では魔力を持っている人間はほとんどいなくて魔物討伐でけがを負った第二王子のジェリク殿下の怪我をほんの少し治せた事からジェリク殿下から聖女として王都に来るように誘われる。  フレイシアは戸惑いながらも淡い恋心を抱きジェリク殿下の申し出を受ける。  そして王都の聖教会で聖女として働くことになりジェリク殿下からも頼られ婚約者にもなってこの6年フレイシアはジェリク殿下の期待に応えようと必死だった。  だが、最近になってジェリクは治癒魔法が使えるカトリーナ公爵令嬢に気持ちを移してしまう。  その前からジェリク殿下の態度に不信感を抱いていたフレイシアは魔力をだんだん失くしていて、ついにジェリクから枯渇聖女と言われ婚約を破棄されおまけに群れ衣を着せられて王都から辺境に追放される事になった。  追放が決まり牢に入れられている間に月の精霊が現れフレイシアの魔力は回復し、翌日、辺境に向かう騎士3名と一緒に荷馬車に乗ってその途中で魔物に遭遇。フレイシアは想像を超える魔力を発揮する。  そんな力を持って辺境に‥    明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。少し間が開いてしまいましたがよろしくです。  まったくの空想の異世界のお話。誤字脱字などご不快な点は平にご容赦お願いします。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。他のサイトにも投稿しています。

捨てられ聖女は、王太子殿下の契約花嫁。彼の呪いを解けるのは、わたしだけでした。

鷹凪きら
恋愛
「力を失いかけた聖女を、いつまでも生かしておくと思ったか?」 聖女の力を使い果たしたヴェータ国の王女シェラは、王となった兄から廃棄宣告を受ける。 死を覚悟したが、一人の男によって強引に連れ去られたことにより、命を繋ぎとめた。 シェラをさらったのは、敵国であるアレストリアの王太子ルディオ。 「君が生きたいと願うなら、ひとつだけ方法がある」 それは彼と結婚し、敵国アレストリアの王太子妃となること。 生き延びるために、シェラは提案を受け入れる。 これは互いの利益のための契約結婚。 初めから分かっていたはずなのに、彼の優しさに惹かれていってしまう。 しかしある事件をきっかけに、ルディオはシェラと距離をとり始めて……? ……分かりました。 この際ですから、いっそあたって砕けてみましょう。 夫を好きになったっていいですよね? シェラはひっそりと決意を固める。 彼が恐ろしい呪いを抱えているとも知らずに…… ※『ネコ科王子の手なずけ方』シリーズの三作目、王太子編となります。 主人公が変わっているので、単体で読めます。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

【完結済】獅子姫と七人の騎士〜婚約破棄のうえ追放された公爵令嬢は戦場でも社交界でも無双するが恋愛には鈍感な件〜

鈴木 桜
恋愛
強く賢く、美しい。絵に描いたように完璧な公爵令嬢は、婚約者の王太子によって追放されてしまいます。 しかし…… 「誰にも踏み躙られない。誰にも蔑ろにされない。私は、私として尊重されて生きたい」 追放されたが故に、彼女は最強の令嬢に成長していくのです。 さて。この最強の公爵令嬢には一つだけ欠点がありました。 それが『恋愛には鈍感である』ということ。 彼女に思いを寄せる男たちのアプローチを、ことごとくスルーして……。 一癖も二癖もある七人の騎士たちの、必死のアプローチの行方は……? 追放された『哀れな公爵令嬢』は、いかにして『帝国の英雄』にまで上り詰めるのか……? どんなアプローチも全く効果なし!鈍感だけど最強の令嬢と騎士たちの英雄譚! どうぞ、お楽しみください!

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

裏切られた令嬢は冷たい公爵様に拾われて、最愛の奥方として満たされる〜婚約破棄された夜、隣国で見つけた真実の幸福〜

sika
恋愛
名門家の令嬢アリアは、舞踏会の夜に婚約者である王太子から婚約破棄を言い渡される。政治の道具にされた彼女は、すべてを失い、隣国へと逃れる。 だがその先で出会ったのは、冷徹と噂される公爵――レオンハルト。 「お前はもう、誰にも傷つけさせない」 無表情なその人の腕の中で、アリアは本当の愛と生まれ変わるような幸福を知っていく。 けれど、過去の因縁は二人を追い詰め、やがて彼女を見捨てた者たちに再会する時が訪れる。 「ざまぁ」はまだこれから――。 痛快な復讐と、甘く激しい溺愛が交錯する王道ロマンス。

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

東雲の空を行け ~皇妃候補から外れた公爵令嬢の再生~

くる ひなた
恋愛
「あなたは皇妃となり、国母となるのよ」  幼い頃からそう母に言い聞かされて育ったロートリアス公爵家の令嬢ソフィリアは、自分こそが同い年の皇帝ルドヴィークの妻になるのだと信じて疑わなかった。父は長く皇帝家に仕える忠臣中の忠臣。皇帝の母の覚えもめでたく、彼女は名実ともに皇妃最有力候補だったのだ。  ところがその驕りによって、とある少女に対して暴挙に及んだことを理由に、ソフィリアは皇妃候補から外れることになる。  それから八年。母が敷いた軌道から外れて人生を見つめ直したソフィリアは、豪奢なドレスから質素な文官の制服に着替え、皇妃ではなく補佐官として皇帝ルドヴィークの側にいた。  上司と部下として、友人として、さらには密かな思いを互いに抱き始めた頃、隣国から退っ引きならない事情を抱えた公爵令嬢がやってくる。 「ルドヴィーク様、私と結婚してくださいませ」  彼女が執拗にルドヴィークに求婚し始めたことで、ソフィリアも彼との関係に変化を強いられることになっていく…… 『蔦王』より八年後を舞台に、元悪役令嬢ソフィリアと、皇帝家の三男坊である皇帝ルドヴィークの恋の行方を描きます。

処理中です...