幽霊じゃありません!足だってありますから‼

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私を助けてくれたのは幽霊でした

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『私はアーサー、アーサー・グランツ』

そう話すと、イルギアス様では無いどよめきが、空間を揺るがせた。

「アーサー・グランツ! 悲劇の王子か!」声がハウリングしたように反響した。恐らく、ソファーで待機している方が叫ばれたのだろう。

──お静かに!!!鋭いイルギアス様の叱責が飛ぶと、ピタッとハウリングが止んだ。

 ──アーリス様、その後どうなったのですか?

その直後にバリバリバリバリッ!と大きな雷が落ちる時のような音がして、ポンッと体をどこかに放り出されたような感覚がしました。気づいたら不思議な空間にいました。目が開けられな無かったので説明するのが難しいのですが、音もしなければ匂いもしない。まるで時間が止まったような感覚になる場所でした。

しばらくすると、頭の中に男女2人の声がしました。
男性はアーサー・グランツ
女性はエリス・ダウナー
お2人はそう名乗られ、もうあの魔術師は追って来ないと教えてくれました。

アーサー様に助けてくださった感謝を伝えると、
『エリスが攫われた時と同じような状況だったので、我慢出来なかった。』
『攫われる恐ろしさは、私もよく分かるわ。間に合って本当に良かった。』
お2人の優しい声に心の中で涙を流しました。

──2人はアーリス様の状況について何か言っていましたか?

魔術師の転移魔術と、アーサー様の雷の魔法が交錯した余波で異空間に一時的に飛ばされた状況であり、異空間から元の世界に戻る道をお2人が作っているので待つようにと。只、異空間から道を作るのには時間が掛かると・・・

でも、不幸中の幸いというか・・・お2人から、私に盛られた毒と魔法陣が何か教えてもらいました。

毒は仮死状態になる"赤龍の毒牙"
魔法陣は身体の時を止める"時止めの魔法"
が掛けられていたのです。

おかげで身体は自由に動かせられませんが、お腹が空いて辛いとか、日常的な生活が出来なくて辛いとか、そういったことは何も感じず待つことが出来たんです。

──何故、3年後にアーリス様が現れたのか何か言っていましたか?

いいえ・・・何も聞いていません。
ただ・・・そういえば、エリス様から不思議なことを言われました。

『貴女のことは前から知っていたわ。がずっと気にかけていたから。生まれ変わっても周りの人間を大切にして、損な役回りばかり・・・。可哀想に。3年近くはあのバカ王子と貴女のことを心配していたのよ。"現世に介入してはならない"というがなければ、あのバカ王子にお説教してるところだわ!』
とは・・・私を助けてくれたことは大丈夫なのですか?戒律を破ると罰を受けなければならないのですか?』
『・・・貴女を元の世界へ戻してから、御使い様から罰を受けるわ。でも、アーサーと私が勝手にしたことだから気にしないで大丈夫よ。』

・・・と。3年という言葉を聞いたのは、その時だけです。でもこれが何か関係があるのかは分かりません。

──あの子とは?

聞いてみたのですが、教えてくださらなかったのです。
アーサー様は『私の弟』の生まれ変わりだと仰っていました。
生まれ変わっても、魂は同じ。前世で自分アーサーの為に重い十字架を背負わせてしまった「弟」の今世の行く末を案じて見守っていたそうです。

それ以上は何も・・・

──3年も時間が過ぎていたことに気づいていましたか?

先程言ったように仮死状態のままでしたから・・・それに時間が止まったような場所だったので・・・意識だけが時々眠っては目覚めてを繰り返していました。長いといえば長いし、短いと思えば短いとも思えました。3年も時間がたっていたなんて全く分かりませんでした。

──どうやって戻って来たのですか?

ある時、アーサー様とエリス様が道が出来た。私達がそこ異空間から元の世界へ連れて行くと仰ってくださったのです。それに元の世界に着いたら、仮死状態が解けるようにしておくからとも。

私は、助けてくださったお礼をしたい。何かお2人の為にできないかと伝えたのですが・・・。仮死状態の時の記憶は意識を回復したら思い出せないから、気にしなくていいと言われてしまって・・・。せめて、お2人のお墓参りに行きたいと言ったのですが・・・

『ありがとう。ただ私達の墓は王族にしか入れない秘密の場所にあるの。だから大丈夫よ。そうね・・・そう・・・もしも奇跡が起きて私達の記憶が思い出せたら、あの子に伝えて欲しいの。私達は生まれ変わることを拒んだから、もう現世であの子に会えないけれど、いつでも幸せを願っているわ。今度こそ、自分の為に生きて欲しいと・・・そう伝えて・・・』
『はいでも、・・・あの子って』
『名前を呼ぶことは、ことになるから言えないんだ。あの子はになるはずだった。もし、伝えられたら伝えて欲しい。新しい生き方を、選択を大事にして欲しいと。』

さあ、もう行こう。アーサー様がそういうと私の体が誰かに持ち上げられて、ポンッとに投げ込まれた感覚がしました。
その後、気づいたらあの薔薇園にいたんです。

──そのこと以外で覚えていることはありますか?

ありません。

──分かりました。それでは、夢渡りは終了致しましょう。
まずは無意識下の部屋に戻ります。ゆっくり・・・ゆっくり・・・瞼を開きます。

「アーリス様、大丈夫ですか?」
カンテラに火を灯して、イルギアス様が私の顔を覗き込んでいた。手はまだ繋いだままだった。
 
この部屋に入った時は上から落ちてきたが、どうやって元の扉に戻れるのだろう。天井を見上げるが真っ暗で何も見えない。

「大丈夫ですよアーリス様。灯りを消すと床がせり上がって、先程の扉まで戻れます。さぁ帰りましょう。」
そういうと、イルギアス様は灯りを消した。

音も無く床がせり上がり身体が上昇していく。
床のせり上がりが止まると、イルギアス様が扉を開けた。
扉の外には、白く細長い道があった。だが無数の扉は見えなくなり、少し先に木の扉が1つだけ見えた。
木の扉まで行き、扉を開けると部屋の中は薄ぼんやりと明るかった。

「アーリス様、もう一度私の両眼を見つめてください。じっと見ているとゆっくり瞼が閉じていきます。瞼を閉じるとベッドのアーリス様に意識が戻ります。ゆっくり・・・ゆっくり・・・」

イルギアス様の両眼を見つめると、先程と同じように吸い込まれていくような感覚に襲われ瞼を閉じた。ゆっくりとその中を歩いて行く・・・

ゆっくりと瞼を開けると、先程横たわったベッドにいた。
「アーリス様、大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。・・・何かありましたか?」
部屋の中が騒がしい。起き上がろうとするが、頭が重くて思う通りにならない。イルギアス様のお力を借りて上半身を起こして皆が待機しているソファーの方を向くと・・・

ソファーの上で慟哭するアレン様と、床に体を投げ出し私に向かって土下座するダリスの姿が見えた。

・・・カオス・・・カオスだわ・・・。
私はしばらく呆然とその姿を見つめていた。

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