幽霊じゃありません!足だってありますから‼

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『夢渡り』と失われた記憶②

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白い細長い道を更に進んでいくと行き止まりとなった。
目の前には真っ黒で大きな扉が見える。
イルギアス様が扉に触れると、僅かに振動を感じた。 

「目的地に着きました。この扉がアーリス様のに起こった記憶となります。先程の扉とは違って、意識下より深い無意識下に入りますので、私と手を繋いでいただけますか。また、中に入ったら決して手を離さないでください。うっかり離してしまった場合は、手でなくて良いので私にすぐに触れてください。」
真剣なイルギアス様の様子にはいと頷くと手を握った。
「では、参りましょう。」

真っ黒な扉を開けて、中に入ると床が無かった。
周囲は真っ黒で何も見えない。
吸いこまれるように下に落ちて行く感覚だけがあった。
怖すぎて、声も上げられなかった。
イルギアス様と繋いだ手だけが頼りだった。
 
しばらく経つと床に足が着いた感覚があった。やっと底に着いたようだった。
「アーリス様大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です。ここは・・・着いたのですか?」
「そうです。少しだけ灯りを灯しましょう。」
いつの間にか消えてしまっていたカンテラに、灯りが再び灯された。イルギアス様がカンテラを掲げて周囲を見廻すと、余り大きくはない部屋で、床の一部が凸凹になっていた。
イルギアス様は私に凸の部分に座るように促した。
「アーリス様、私が誘導しますので目を閉じて集中してください。カンテラも消しますが、私が傍にいますので安心してください。不安になったら、私の手を握ってください。よろしいですか。」
「はい」
「ではゆっくり目を閉じてください。まずはアーリス様が覚えている、最後の記憶に戻ります。ゆっくり・・・ゆっくり・・・」

イルギアス様の言葉を聞きながら、ゆっくり瞼を閉じた。

ーーーーーーーーーーーー

サラサラと自室で手紙を書いている"私"が居る。
手紙を書き終わり、立ち上がった時に首の後ろがチクッとして手をあてたら意識がなくなった。
・・・真っ暗な闇だけを感じる。

──何か匂いはしませんか?声や、触感は?

待って・・・声が聞こえる・・・聞いたことがある声。

──誰か分かりますか?何て言っていますか?

男性で、、私の名前を呼んでる・・・。一緒に逃げようと言ってる・・・誰なの?止めて私は行きたくない!触らないで!

──その男に心当たりがありますか?他に何かされましたか?

私の首を触っている。古語を呟いている見たい・・・。
その声・・・ライディン・・・貴方はライディンなの?

──ライディンとは誰ですか?

学園の時に魔術を教えてくれた友人です。
でも、なぜ彼が私を攫おうとしたのが分からない・・・私達そんな関係じゃ無かったのに・・・

──彼はその他に何をしていますか?

カサカサ音が微かにするけど、何をしているか分からない。
首に掛けられた魔術のせいか、さっきより感覚が遠いの・・・嗚呼っ眠ってしまうわ。

──眠ってください。一旦眠りに着いたら、目覚めた所に飛びます。ゆっくり・・・ゆっくり・・・ゆっくり・・・。
  さあ貴女は今、どこにいますか?

目が開けられないので焦ってる。息苦しい。古い木の匂い。
どこか狭い所に閉じ込められているみたい。怖い!怖い!
誰か助けてって叫びたいけど、声が出せない!

──アーリス様、呼吸が乱れています。一旦深呼吸してください。大丈夫です。私が傍にいますから。

ごめんなさい取り乱してしまって。

──恐ろしい思いをされたのですから当然のことですよ。お気になさらず。・・・その後何があったのですか?

突然、木の箱のような物が開いた音がして・・・
ライディンの声でアーリス様、遅くなってすみません。迎えに来ました。一緒にメシアン国に行きましょうと言ってるのが聞こえる。

嫌よ!絶対嫌!何故なのライディン!
逃げたくても、問い詰めたくても身体がいうことを聞いてくれない。ライディンが古語を呟くのを絶望的な気持ちで聞いていた。

助けを呼びたくても、声が出なくて『誰でも良いから、助けて!このままでは攫われてしまう!助けて‼』心の中で思い切り叫んだ時、彼の声が聞こえた。

──声が聞こえた?誰の声ですか?

突然、頭の中に聞こえて・・・激怒しているような大声だった。
『おのれ魔術師め!エリスのように女を攫おうとしているのか!そうはさせぬぞ!』

私はその言葉を聞いて、助けを求める叫びが天に通じたのかと思って泣きそうになった。

『貴方は誰なの?』
『私はアーサー、アーサー・グランツ』

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