幽霊じゃありません!足だってありますから‼

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アーリス様を見守る会:狂信者の暴走①

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『夢渡り』の魔法を終了後、カオスだった部屋にイルギアス様の声が響いた。
「『夢渡り』の魔法は終了いたしました。見届け人の方は速やかにお引き取りください。」

土下座していたダリスはバッと顔を上げた。
「イルギアス殿、アーリス様にお話したいことがあるのです。」
「アーリス様は、『夢渡り』を終えられたばかり。精神的な負担と、脳への負担から今日一日は安静にしていただく必要があります。お話なら明日以降にしてください。」
「だがしかし!」
「なりません!聞き分けいただけないなら使いたします。お引き取りください!」
イルギアス様の迫力に気圧されたようにダリスがじりじりと立ち上がった。

「分かりました。・・・私も陛下への調査報告のまとめが必要ですし、また明日以降にお伺いいたします。」
ダリスは私に深々と頭を下げると、退室された。

アレン様はその間も激しく慟哭されていた。見ている者も胸が痛くなるような悲しい嘆きの声だった。
ゲラン様とお父様がお慰めしようとしているが、アレン様の耳には届かないようだった。

思案気にその様子を見ていたイルギアス様は、右手をアレン様の方に向けて"スリープ"と呟いた。
すると、アレン様の身体が弛緩して、ソファーに沈んだ。

「イルギアス殿!アレン殿下に予告無く魔法を使ったのですか!王族に魔法を使うのは由々しき問題ですぞ!」
ゲラン様が怒りを顕に問いただした。

「落ち着いてください。今のは眠りの魔法です。見たところ、嘆いていたのはでアレン殿下御自身ではないようでしたので・・・アレン殿下御自身と乖離している状態がつづくのはあまり良いことではありませんので、眠らせて頂きました。」
別の何か・・・と呟いてゲラン様は黙り込んだ。
アレン様の従者達を呼び、アレン様を運び出すと一緒に退室された。残ったのは、イルギアス様、お父様、私だけとなった。

「公爵様、アーリス様は少なくてもあと半日はこのベッドでお休みいただくようになります。夕食の時間になりましたら客間に戻られて問題ありません。ですが、外出などは控え客間でも安静にしていてください。私は報告書をまとめるため、魔術師団の宿舎に泊まります。万が一、アーリス様に何か・・・頭痛や吐き気などの症状が出ましたら、どなたか使いをだしていただければ駆けつけますのでお呼びください。それでは、私はこれで。」

部屋から退室しようとする、イルギアス様に慌てて声をかけた。
「ありがとうございました。イルギアス様。」
私の声に振り返ると、丁寧に礼をして退室された。

お父様はベッドに近づいてくると、悄然とした態度で私を見つめた。
「寂しい思いをさせてすまなかった。アーリス」
「お父様・・・いいえ。もういいの。もういいのよ。」
お父様はベッド脇まで1人用のソファーを寄せて座ると、横たわる私の右手に手を繋いで囁いた。

「疲れたろう。眠りなさいアーリス。目覚めるまでずっと付いているから安心しなさい。」
その声を聞きながらうつらうつらとしてきた時、懐かしい声が聞こえた気がした。

『あの子に伝えてくれてありがとう』・・・と

ーーーーーーーーーーーー
その後、夕食時にはすっかり元気になった私はお父様の付き添いを断り、客間でぐっすりと眠りに着いた。

翌日、朝食時にお父様と会うと、眠れなかったのかクマがくっきり残っていた。
「お父様、あまり眠れなかったのですか?」
「ああ。カーラ義母に手紙を書いていたんだよ。あと、幾つかの指示をセバスチャン公爵家の執事に送った。・・・アーリス、公爵家に戻ったら大事な話がある。アーリスに話していないことがある。これはカーラとオルティス異母弟に関わることだ。詳細は公爵家へ戻った時に話す。」
お父様はそれ以上、その話を続けることはなかった。

朝食が終わると、待ち構えたように侍従がやって来た。
昨日の『夢渡り』とダリスの調査報告が謁見の間で行われるという。侍従に急かされるまま謁見の間に向かって急いだ。

謁見の間には一昨日と同様に王座に座る陛下、王族席に座るアレン様、ゲラン様を含む大臣達と臣下の席にはイルギアス様、ダリス、お父様と私が集まった。アレン様の様子を遠目から確認したが、若干顔色が悪い気がしたがそれ以外はいつもと変わらない様子で安心した。

まずはイルギアス様が『夢渡り』の結果を報告された。報告には『意識下の』『あの子』と言う箇所は一切言及されなかった。大臣達は アーサー・・・悲劇の王子か?まさか幽霊が人を助けることなど有り得るのか? とザワザワと話し始めた。落ち着きのない大臣達に陛下の叱責が飛んだ。

「静かにせぬか!」
その一言でビシリと場に緊張が走った。
「イルギアス殿、ご苦労であった。後ほど褒賞を与える。」
「ありがたき幸せでございます。」
イルギアス様は貴族の礼を取り、臣下の席に戻った。

「ダリス、何かわかったか?」
ダリスは臣下の席から陛下の前に進み出た。

「はい。魔術師団で調べましたところ、イルギアス殿の『夢渡り』でお話があった通りの結果がでました。
アーリス様の血からは仮死状態になる"赤龍の毒牙"、うなじの魔法陣は身体の時を止める"時止めの魔法"が確認できました。」

なんと!では悲劇の王子の話は本当なのか!また、ひそひそし始めた大臣達に向かって、陛下が制するように右手を上げた。ピタッとざわめきが再び止んだ。

「陛下、どちらも"屠るもの"達に伝わる古の毒と禁術でございます。そして、『夢渡り』に出てきたライディンという名前・・・アーリス様を襲った魔術師は、私の分家筋にあたる親戚のライディンで間違いないと思われます。」
「・・・そうか」

(ダリスがライディンの親戚なの?って何なのかしら?)疑問に思ったが、ダリスが次に話し出した言葉に驚きその疑問は頭から吹き飛んでしまった。

「ライディンは、アーリス様に長い間懸想していました。学園時代は、アーリス様を見守る会などという集いを作り、自ら会長におさまる程でした。」
「"アーリス様を見守る会"?」
(アーリス様を見守る会!そういえばそんな会があったわ。)
その存在に驚いたのを思い出す。

「はい。私はライディンと魔術の件でよく書簡を交わしていたのですが、学園に通いだしてからよくアーリス様のことを書いていました。時間が経つうちにその内容は熱狂的に・・・いつしか狂信的になって行きました。それはアーリス様が、クリストファー殿下に学園で冷たい態度を取られる姿を見かける度に激しさを増していったようでした。」
ダリスは思い出すように瞳を閉じた。

「アーリス様を見守る会に所属する者は、そのほとんどが特待生の平民や身分の低い貴族達でした。平民にも分け隔てな無く接されて慈悲深いアーリス様は非常に人気が高かったようです。ナターシャがアーリス様の悪い噂を流した時も、逆の噂をアーリス様を見守る会のメンバーを駆使して広めたのもライディンでした。」

もしかして〘アーリス嬢は理不尽な扱いに健気に耐えている淑女のなかの淑女〙や、〘どんなに冷たくされても殿下を愛する一途な人 〙もライディンが流した噂だったのかしら・・・。学園で囁かれた美しい誤解・・・なんでそんな噂が流れたのか自分でも不思議だった。

「それでも、叶わぬ恋だと分別はついていたようでした。あの日までは・・・。」



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