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第10章 表舞台へ
13 裏技
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衝撃の事実から時間をかけて立ち直った俺は、急遽テレスフィリアに戻った。
「ただいま」
「あらっ、おかえりスニル、どうしたの?」
みんなが集まりリビングへと入った俺をいち早く見つけた母さんがそう聞いてきた。
「あれ? スニル今日は泊じゃなかったの?」
続いたシュンナが言ったように今日はウルベキナ王国に泊まる予定であったから、俺がここにいるのはおかしいと思っている。
「ちょっと、問題? があってないったん戻ったんだよ」
「問題って、何かあったの?」
心配そうに聞いてきたのはサーナと遊んでいたポリーだ。ほかにも麗香や那奈もサーナと遊んでいる。
「いや、大したことでもないんだが、いや、どうだろう?」
「何それ?」
「実はな、さっきウルベキナ王からすごい話を聞かされてな」
「すごい話って、何ですか?」
麗香の質問にようやく核心を答える。別にもったいぶっているわけじゃないんだが、俺としては妙に話づらい内容なんだよ。こういうのって縁がなかったからな。
「どうやら、ウルベキナ王とバネッサが恋仲だったらしいんだが、聞いてない?」
「……はっ!?」
「……え、ええと、えっ!」
俺が落とした言葉に静まり返る面々、どうやらバネッサからは聞いていないようだ。
「え、えっと、どういうこと?」
「バネッサと、王様がなんだって?」
女性陣がすごい勢いで食いついてきた。女というものはどの世界でもこうした話は好きらしい。
「だから、バネッサとウルベキナ王が恋仲で、少し前まで結婚すら考えていたらしいんだよ」
「……」
再び訪れる沈黙。
「えっと、どういうこと?」
「く、詳しく!」
「お、おう」
あまりの勢いに若干引いてしまう俺であったが、何とか話を始める。
「というか、バネッサって料理屋の娘で平民なんですよね。それと王様がどうしたらそんな関係になるんです?」
孝輔は尤もなことを聞いてきたが、これは俺も気になって聞いた。
「それなんだがな、ほらウルベキナ王ってエイルードの料理大会に審査員として参加してたろ。まぁ、あの時はまだ第二王子だったけど」
「ああ、はい、あのイケメン王子ですよね。姉ちゃんや那奈が騒いでましたよ」
2人だけでなくシュンナやポリー母さんもだけどな。
「なんでもウルベキナ王は……」
ここからは俺がウルベキナ王に聞いた2人のなれそめを話していくわけだけれど、出会いは約1年前、ウルベキナ王は料理大会の審査員をするためにエイルードへ向かった。しかし、道中で魔物と遭遇したことで時間が遅れ、振る前に到着予定だったところ、昼を2時間も過ぎた状態での到着となってしまった。その結果としてウルベキナ王は空腹となっていた。そんな状態で街へ足を踏み入れたものだから、ふらふらと匂いにつられて路地へと1人入ってしまい見事に道に迷ってしまった。途方に暮れるウルベキナ王、そこに声をかけてきた少女がいた。
「それがバネッサだったそうだ。なんでもウルベキナ王はレイグラット亭の裏口付近をさまよっていたらしい」
「へぇ、すごい偶然ね」
「だな。それで……」
途方に暮れているウルベキナ王、しかも昼を食べていないために空腹だった。そんな様子を見たバネッサはその人物がウルベキナ王であることなどわからないまま、店の中に引き入れて自身が練習で作っていた料理を食べさせたという。その後、道に迷っていることを知り、正体を知らないまま大通りまで案内したということだった。
「ウルベキナ王によると、まさにひとめぼれだったそうだぞ。あとは胃袋をつかんだってとこか、バネッサの料理を今まで食べた中で一番うまかったって言ってたし」
「へぇ」
そのあと、帰り際に店に寄って、さすがにバネッサも正体を知っててかなり恐縮していたそうだ。それはそうだよな。まさか、気軽に自分の料理を食べさせた相手がまさかの王族、下手をすれば処刑されてもおかしくないからな。でも、ウルベキナ王は礼を述べて帰り、次の大会の時もまたバネッサに会いに向かったという。
そうして、ウルベキナ王は毎回店に寄るようになり、最初は恐縮していたバネッサもそんなウルベキナ王の気さくな雰囲気にのまれ、いつしか友人のような関係を築き始めた。尤も、さっきも言ったようにウルベキナ王はひとめぼれであり、毎回のようにバネッサを口説いていたそうだ。
「そのかいあってか、ついにバネッサも折れたのか晴れて恋仲となったそうだ」
「はぁ」
「……」
こうしてひそかな中となった2人は料理大会があるたびに会い、逢瀬を繰り返していた。そして、つい数か月前ウルベキナ王はバネッサと一緒になる決意を固めそれをバネッサに伝えた。
「そんなことできるんですか?」
ここまで話したところで那奈が不思議そうに聞いてきたので答える。
「普通は無理だな。地球では身分さなんてものは今やないようなものだけど、この世界はまだまだ身分ってやつが重要だ」
現代地球では王族といった身分でも、一般人と結婚したりすることがままあるが、この世界はかつての地球のように王族と一般人が結婚することなんてものはほぼ不可能だ。
「それじゃ、王様はどうやってバネッサと結婚しようと思ってたの」
「ウルベキナ王は王族を出て、下るつもりだったそうだ」
そう、ウルベキナ王の考えは王族出て平民へと下り、レイグラット亭に婿入りするものだった。もちろんこれは容易なことではないため、その相談を当時の国王である先代ウルベキナ王のもとに向かった。しかし、ここで突然の第一王子の戦死、それに続くように先代の病死。これにより相談する間もなく王位を継承してしまったというわけだ。
「えっと、そうなるとバネッサは?」
「なかったことになる」
「そんな!」
「ひどい」
憤慨する女性陣だが、こればかりは仕方ない。
「でも、王子様に見初められるって、すごいよね」
「はい、夢ですよね」
「うんうん、いいよね。まさにシンデレラって感じじゃない」
「はい、あこがれます」
大方話が終わったところで、麗香と那奈がそういってうっとりしている。
「シンデレラ?」
「ああ、確かにシンデレラストーリだよなぁ。まさか、こんな身近にあるとは思はなかったけど」
「それは言えてるな。尤も無理だったわけだけど」
「それを言ったらおしまいですよ。スニルさん」
「違いないな」
はははと笑う俺と孝輔、しかしその瞬間女性陣からにらまれて黙ることに。
「レイカ、ナナ、そのシンデレラってなに?」
俺をにらんだ後シュンナがため息をこぼしながら麗香と那奈にシンデレラとは何かを聞いている。
「向こうの世界にある童話の1つで」
「女の子が王子様に見初められて幸せになるってお話です」
「へぇ、どんな話?」
ここから、地球の童話シンデレラの話へとシフトした。
「あるところにシンデレラという女の子が居たんですけど、その子は継母やその連れ子の姉3人からひどくいじめられていたんです」
「そんなあるときにお城で舞踏会が開かれて、継母や姉たちはそれに着飾って参加したんですけど、シンデレラだけは参加させてもらえないし、何より着ていく服もなかったんです」
「なんか、かなり可哀そうな話ね」
「はい、ひどいですよね」
「ははっ、でもなその時シンデレラの前に魔法使いのおばあさんってのが現れて、シンデレラに魔法をかけたんだ」
「魔法?」
「はい、綺麗なドレスにかぼちゃの馬車」
「かぼちゃ?」
「なんで?」
「そこは突っ込まんでいいよ。とにかくそれで、舞踏会に参加できるようになったシンデレラは、意気揚々と出かけていったという話だ」
「そうそう、それで、参加してたら王子様の目に留まって、ダンスをすることになって」
「へぇ」
「それで終わり?」
王子とダンスをしたということで、話の終わりと思ったようだがまだこれからだ。
「いえ、実はシンデレラにかけられた魔法は夜中の12時までで解けてしまうんです」
「だから、12時の鐘が鳴ったときシンデレラは慌てて帰ろうとしたんですよ」
「その時はいていたガラスの靴が脱げてしまって、それを追いかけてた王子様が拾うんですよね」
「そうそう」
「ガラス? そんなもので靴を?」
「童話だからな。そこはほっといてやってくれ」
シンデレラの話もそうだが、童話というものは子供のころに聞けば何も考えずにいられるんだが、大人になって聞くと、突っ込みどころが満載だ。
「魔法が解けたシンデレラは元の生活に戻ったんですけど、王子様はシンデレラを忘れることが出来ず必死に探すんです」
「それで、シンデレラが甥て言った靴をもってそれがぴったり合う女性を探すんです」
「へぇ、すごい執念ね」
「そこまでするほど、好きだっただね」
「街の女性たちはその靴が合えば王子様と結婚できるってことで並んで足を入れていくんですけど、誰も会わなくて、それで、ついにシンデレラの番がやってくるんです」
「そんで当然ぴったりってわけだ」
「こうして、再会を果たしたシンデレラと王子様は結婚して幸せに暮らしたってお話なんです」
「へぇ、なんか夢のある話ね」
「子供向けだから突っ込みどころ満載だけどな」
「そうなの?」
「ああ、確かにそうですよね。でもま、子供向けなんだしいいんじゃないですか」
「まぁな。というか、童話って大体元の話を子供向けに改変したものだしな」
俺の記憶によると、確かシンデレラの元の話の中に実はシンデレラは人を殺しているというものがあったし、桃太郎だって、桃を食って若返った爺さんとばあさんの間に生まれた子供だってことだしな。
「とにかくだ。それで、バネッサはどうする。ウルベキナ王によるとまだ伝えてないらしくて、手紙を預かってきたんだ」
「うわっ、それ、かなり気まずいですね」
「そうなんだよなぁ」
「だからといって渡さないわけにもいかないよね」
「そりゃぁ、バネッサは待ってるはずだし」
「そういえば、バネッサは王様が変わったってことは知らないの?」
「たぶんな」
地球ならネットを始めとしたあらゆるソースで知ることになる事項ではあるが、この世界ではちょっと離れるとそうそう情報がやってこない。いくら国内でも王が変わったとか、第一王子が亡くなったとか、そうした話がそう簡単に届くとは思えない。そもそも俺が知っていたのもコルマベイント王やブリザリア女王から聞いたからでしかない。あの2人は同盟国のトップであり、それぞれ情報源を王都においているからな。
「そっか、それじゃそれも伝えないといけないわけか」
「ああ、誰か頼めない。俺は勘弁してほしんだけど」
俺もバネッサとは友人ではあると思うが、なにせそこまで話したことはない。
「はぁ、仕方ないか、あたしが話すよ」
「あっ、私も行きます」
「というかみんなで行かない」
「そうすっか」
というわけで、全員でバネッサのもとに行くことになった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「あれっ、みんなどうしたの。いらっしゃい」
思った通り何も知らないバネッサは笑顔で俺たちを出迎えてくれる。これが、今からゆがむのかと思ったらものすごく言いづらい。
「バネッサ、えっと、落ち着いて聞いてね」
「? なんですシュンナさん」
さっそくといわんばかりにシュンナがいきなり切り出した。
「えっと、バネッサってこの国の王子と結婚しようとしてるよね」
「えっ! な、なんで、それを?」
シュンナの問に驚くバネッサ。
「スニルから聞いて」
「えっ! ああ、そっか、スニル君も王様だもんね。うん、そのつもり、あっ、でもお父さんにはまだ内緒だから」
どうやらオクトはまだ2人の関係を知らないらしい。
「そう、えっとさ。それでね。実は、今スニルこの国の王様と会って話をしているのよ。うちと同盟を結ぶために」
「へぇ、そうなんだ」
「うん、それで、スニル」
シュンナがたまらず俺を見てきた。行ってくれるんじゃなかったのか。そう思いつつも仕方ないと口を開く。
「会談が終わって、ウルベキナ王と個別に話したんだが、その時にバネッサのことを聞いたんだ」
「そうなの?」
バネッサにとって王というのは先代であり、元第二王子とは思っていない。
「んで、これを預かってきた」
「えっ、王様から?」
よくわからず受け取るバネッサ。
「バネッサ、落ち着いてね。実はその王様って言うのが、もとは第二王子なのよ」
「えっと?」
「つまり、バネッサと婚約していた王子様が今のウルベキナ国王ってこと」
「えっ! ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
店の前だというのに大絶叫するバネッサ、気持ちはわかるが声がでかすぎて店の中からオクトとリーラがなんだなんだと出てきてしまった。
「バネッサ、一体何を騒いでるんだ」
「どうしたのって、あらみんな、そろってどうしたの? というかバネッサ、何かあった?」
店からやってきたリーラは俺たちがそろっていることに驚きつつも、膝から崩れ落ちて絶望しているバネッサを見て疑問符を浮かべている。
「ああ、ちょっとね。それより中入っていい?」
「ああ、今は客もいないし問題ない」
というわけで俺たちはレイグラット亭の中に入って2人にも説明をすることになった。
「……というわけなのよ」
「……」
「はっ?」
リーラはバネッサから相談を受けていたようで、驚きつつもすぐにバネッサを慰めに入ったが、オクトは全く聞いていなかったこともあり、間の抜けた顔をさらしている。
「そう、だめになったの」
「お、おい、おい、どういうことだよ。なんで、バネッサがこの国の王と、どういうことだ? リーラは知っていたのか?」
オクトは自分だけが知らなかったことにショックを受けつつ、パニックを起こしている。まぁ、娘が結婚を考えている相手がいるということも、その相手がまさか自国の王だというのだからこうなるというものだろう。
「スニルさん、今思い出したんですけど」
この状況どうしたものかと思っていると、麗香がやってきて何やら小声で言ってきた。
「何をだ?」
「以前わたし時代劇に出たんですけど……」
そう言って話し始めたわけだが、そういえば麗香の母親はモデルで麗香自身も子役やモデルをやっていたんだったな。
「その時のお話で、武士と町人の子が今回みたいに恋人になって、でも身分の問題でできなくて、確かそれを解決するのに町人の子が武家に養子に入ってからお嫁に行くってものだったんですよね。そういうのってできないんですか?」
というものだった、俺はこれを聞いた瞬間ハッとした。
「そうか、その手があったか!」
「スニルさん?」
「ああ、悪い、その方法すっかり忘れてたよ」
平民と王が結婚する。これはどう考えても夢物語であり不可能、そう思い込んでいたし、実際にも無理がある。しかし、俺であればそれを実行することが出来ることに気が付いた。
「バネッサ」
「えっ、ス、スニル君?」
俺はすぐさまバネッサに声をかけると、落ち込んでいたバネッサも驚きながら返事をした。うん、ほとんど俺の声を聴いたことないだろうから、一瞬誰に声をかけられたのか分からなかったのだろう。
「1つ聞くが、バネッサはもしウルベキナ王と結婚できるとなれば、どんなつらいことでも耐えられるか?」
「えっ? えっと、……うん、耐えて見せる!」
最初は訳が分からないという風だったが、俺の目を見た瞬間真剣な顔で考えてそう答えて見せた。
「スニル、いきなりどうしたの?」
「1つだけ方法がある。これは今だけ、俺だけができることだ」
「ほ、本当なのスニル」
ポリーが真剣な顔で聞いてきた。
「ああ、王の相手となれば最低でも高位貴族である必要がある。そこでバネッサにはその高位貴族になってもらう」
俺が考えた方法、それはまさに俺にしかできない強硬手段といってもいい裏技だ。
「ただいま」
「あらっ、おかえりスニル、どうしたの?」
みんなが集まりリビングへと入った俺をいち早く見つけた母さんがそう聞いてきた。
「あれ? スニル今日は泊じゃなかったの?」
続いたシュンナが言ったように今日はウルベキナ王国に泊まる予定であったから、俺がここにいるのはおかしいと思っている。
「ちょっと、問題? があってないったん戻ったんだよ」
「問題って、何かあったの?」
心配そうに聞いてきたのはサーナと遊んでいたポリーだ。ほかにも麗香や那奈もサーナと遊んでいる。
「いや、大したことでもないんだが、いや、どうだろう?」
「何それ?」
「実はな、さっきウルベキナ王からすごい話を聞かされてな」
「すごい話って、何ですか?」
麗香の質問にようやく核心を答える。別にもったいぶっているわけじゃないんだが、俺としては妙に話づらい内容なんだよ。こういうのって縁がなかったからな。
「どうやら、ウルベキナ王とバネッサが恋仲だったらしいんだが、聞いてない?」
「……はっ!?」
「……え、ええと、えっ!」
俺が落とした言葉に静まり返る面々、どうやらバネッサからは聞いていないようだ。
「え、えっと、どういうこと?」
「バネッサと、王様がなんだって?」
女性陣がすごい勢いで食いついてきた。女というものはどの世界でもこうした話は好きらしい。
「だから、バネッサとウルベキナ王が恋仲で、少し前まで結婚すら考えていたらしいんだよ」
「……」
再び訪れる沈黙。
「えっと、どういうこと?」
「く、詳しく!」
「お、おう」
あまりの勢いに若干引いてしまう俺であったが、何とか話を始める。
「というか、バネッサって料理屋の娘で平民なんですよね。それと王様がどうしたらそんな関係になるんです?」
孝輔は尤もなことを聞いてきたが、これは俺も気になって聞いた。
「それなんだがな、ほらウルベキナ王ってエイルードの料理大会に審査員として参加してたろ。まぁ、あの時はまだ第二王子だったけど」
「ああ、はい、あのイケメン王子ですよね。姉ちゃんや那奈が騒いでましたよ」
2人だけでなくシュンナやポリー母さんもだけどな。
「なんでもウルベキナ王は……」
ここからは俺がウルベキナ王に聞いた2人のなれそめを話していくわけだけれど、出会いは約1年前、ウルベキナ王は料理大会の審査員をするためにエイルードへ向かった。しかし、道中で魔物と遭遇したことで時間が遅れ、振る前に到着予定だったところ、昼を2時間も過ぎた状態での到着となってしまった。その結果としてウルベキナ王は空腹となっていた。そんな状態で街へ足を踏み入れたものだから、ふらふらと匂いにつられて路地へと1人入ってしまい見事に道に迷ってしまった。途方に暮れるウルベキナ王、そこに声をかけてきた少女がいた。
「それがバネッサだったそうだ。なんでもウルベキナ王はレイグラット亭の裏口付近をさまよっていたらしい」
「へぇ、すごい偶然ね」
「だな。それで……」
途方に暮れているウルベキナ王、しかも昼を食べていないために空腹だった。そんな様子を見たバネッサはその人物がウルベキナ王であることなどわからないまま、店の中に引き入れて自身が練習で作っていた料理を食べさせたという。その後、道に迷っていることを知り、正体を知らないまま大通りまで案内したということだった。
「ウルベキナ王によると、まさにひとめぼれだったそうだぞ。あとは胃袋をつかんだってとこか、バネッサの料理を今まで食べた中で一番うまかったって言ってたし」
「へぇ」
そのあと、帰り際に店に寄って、さすがにバネッサも正体を知っててかなり恐縮していたそうだ。それはそうだよな。まさか、気軽に自分の料理を食べさせた相手がまさかの王族、下手をすれば処刑されてもおかしくないからな。でも、ウルベキナ王は礼を述べて帰り、次の大会の時もまたバネッサに会いに向かったという。
そうして、ウルベキナ王は毎回店に寄るようになり、最初は恐縮していたバネッサもそんなウルベキナ王の気さくな雰囲気にのまれ、いつしか友人のような関係を築き始めた。尤も、さっきも言ったようにウルベキナ王はひとめぼれであり、毎回のようにバネッサを口説いていたそうだ。
「そのかいあってか、ついにバネッサも折れたのか晴れて恋仲となったそうだ」
「はぁ」
「……」
こうしてひそかな中となった2人は料理大会があるたびに会い、逢瀬を繰り返していた。そして、つい数か月前ウルベキナ王はバネッサと一緒になる決意を固めそれをバネッサに伝えた。
「そんなことできるんですか?」
ここまで話したところで那奈が不思議そうに聞いてきたので答える。
「普通は無理だな。地球では身分さなんてものは今やないようなものだけど、この世界はまだまだ身分ってやつが重要だ」
現代地球では王族といった身分でも、一般人と結婚したりすることがままあるが、この世界はかつての地球のように王族と一般人が結婚することなんてものはほぼ不可能だ。
「それじゃ、王様はどうやってバネッサと結婚しようと思ってたの」
「ウルベキナ王は王族を出て、下るつもりだったそうだ」
そう、ウルベキナ王の考えは王族出て平民へと下り、レイグラット亭に婿入りするものだった。もちろんこれは容易なことではないため、その相談を当時の国王である先代ウルベキナ王のもとに向かった。しかし、ここで突然の第一王子の戦死、それに続くように先代の病死。これにより相談する間もなく王位を継承してしまったというわけだ。
「えっと、そうなるとバネッサは?」
「なかったことになる」
「そんな!」
「ひどい」
憤慨する女性陣だが、こればかりは仕方ない。
「でも、王子様に見初められるって、すごいよね」
「はい、夢ですよね」
「うんうん、いいよね。まさにシンデレラって感じじゃない」
「はい、あこがれます」
大方話が終わったところで、麗香と那奈がそういってうっとりしている。
「シンデレラ?」
「ああ、確かにシンデレラストーリだよなぁ。まさか、こんな身近にあるとは思はなかったけど」
「それは言えてるな。尤も無理だったわけだけど」
「それを言ったらおしまいですよ。スニルさん」
「違いないな」
はははと笑う俺と孝輔、しかしその瞬間女性陣からにらまれて黙ることに。
「レイカ、ナナ、そのシンデレラってなに?」
俺をにらんだ後シュンナがため息をこぼしながら麗香と那奈にシンデレラとは何かを聞いている。
「向こうの世界にある童話の1つで」
「女の子が王子様に見初められて幸せになるってお話です」
「へぇ、どんな話?」
ここから、地球の童話シンデレラの話へとシフトした。
「あるところにシンデレラという女の子が居たんですけど、その子は継母やその連れ子の姉3人からひどくいじめられていたんです」
「そんなあるときにお城で舞踏会が開かれて、継母や姉たちはそれに着飾って参加したんですけど、シンデレラだけは参加させてもらえないし、何より着ていく服もなかったんです」
「なんか、かなり可哀そうな話ね」
「はい、ひどいですよね」
「ははっ、でもなその時シンデレラの前に魔法使いのおばあさんってのが現れて、シンデレラに魔法をかけたんだ」
「魔法?」
「はい、綺麗なドレスにかぼちゃの馬車」
「かぼちゃ?」
「なんで?」
「そこは突っ込まんでいいよ。とにかくそれで、舞踏会に参加できるようになったシンデレラは、意気揚々と出かけていったという話だ」
「そうそう、それで、参加してたら王子様の目に留まって、ダンスをすることになって」
「へぇ」
「それで終わり?」
王子とダンスをしたということで、話の終わりと思ったようだがまだこれからだ。
「いえ、実はシンデレラにかけられた魔法は夜中の12時までで解けてしまうんです」
「だから、12時の鐘が鳴ったときシンデレラは慌てて帰ろうとしたんですよ」
「その時はいていたガラスの靴が脱げてしまって、それを追いかけてた王子様が拾うんですよね」
「そうそう」
「ガラス? そんなもので靴を?」
「童話だからな。そこはほっといてやってくれ」
シンデレラの話もそうだが、童話というものは子供のころに聞けば何も考えずにいられるんだが、大人になって聞くと、突っ込みどころが満載だ。
「魔法が解けたシンデレラは元の生活に戻ったんですけど、王子様はシンデレラを忘れることが出来ず必死に探すんです」
「それで、シンデレラが甥て言った靴をもってそれがぴったり合う女性を探すんです」
「へぇ、すごい執念ね」
「そこまでするほど、好きだっただね」
「街の女性たちはその靴が合えば王子様と結婚できるってことで並んで足を入れていくんですけど、誰も会わなくて、それで、ついにシンデレラの番がやってくるんです」
「そんで当然ぴったりってわけだ」
「こうして、再会を果たしたシンデレラと王子様は結婚して幸せに暮らしたってお話なんです」
「へぇ、なんか夢のある話ね」
「子供向けだから突っ込みどころ満載だけどな」
「そうなの?」
「ああ、確かにそうですよね。でもま、子供向けなんだしいいんじゃないですか」
「まぁな。というか、童話って大体元の話を子供向けに改変したものだしな」
俺の記憶によると、確かシンデレラの元の話の中に実はシンデレラは人を殺しているというものがあったし、桃太郎だって、桃を食って若返った爺さんとばあさんの間に生まれた子供だってことだしな。
「とにかくだ。それで、バネッサはどうする。ウルベキナ王によるとまだ伝えてないらしくて、手紙を預かってきたんだ」
「うわっ、それ、かなり気まずいですね」
「そうなんだよなぁ」
「だからといって渡さないわけにもいかないよね」
「そりゃぁ、バネッサは待ってるはずだし」
「そういえば、バネッサは王様が変わったってことは知らないの?」
「たぶんな」
地球ならネットを始めとしたあらゆるソースで知ることになる事項ではあるが、この世界ではちょっと離れるとそうそう情報がやってこない。いくら国内でも王が変わったとか、第一王子が亡くなったとか、そうした話がそう簡単に届くとは思えない。そもそも俺が知っていたのもコルマベイント王やブリザリア女王から聞いたからでしかない。あの2人は同盟国のトップであり、それぞれ情報源を王都においているからな。
「そっか、それじゃそれも伝えないといけないわけか」
「ああ、誰か頼めない。俺は勘弁してほしんだけど」
俺もバネッサとは友人ではあると思うが、なにせそこまで話したことはない。
「はぁ、仕方ないか、あたしが話すよ」
「あっ、私も行きます」
「というかみんなで行かない」
「そうすっか」
というわけで、全員でバネッサのもとに行くことになった。
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「あれっ、みんなどうしたの。いらっしゃい」
思った通り何も知らないバネッサは笑顔で俺たちを出迎えてくれる。これが、今からゆがむのかと思ったらものすごく言いづらい。
「バネッサ、えっと、落ち着いて聞いてね」
「? なんですシュンナさん」
さっそくといわんばかりにシュンナがいきなり切り出した。
「えっと、バネッサってこの国の王子と結婚しようとしてるよね」
「えっ! な、なんで、それを?」
シュンナの問に驚くバネッサ。
「スニルから聞いて」
「えっ! ああ、そっか、スニル君も王様だもんね。うん、そのつもり、あっ、でもお父さんにはまだ内緒だから」
どうやらオクトはまだ2人の関係を知らないらしい。
「そう、えっとさ。それでね。実は、今スニルこの国の王様と会って話をしているのよ。うちと同盟を結ぶために」
「へぇ、そうなんだ」
「うん、それで、スニル」
シュンナがたまらず俺を見てきた。行ってくれるんじゃなかったのか。そう思いつつも仕方ないと口を開く。
「会談が終わって、ウルベキナ王と個別に話したんだが、その時にバネッサのことを聞いたんだ」
「そうなの?」
バネッサにとって王というのは先代であり、元第二王子とは思っていない。
「んで、これを預かってきた」
「えっ、王様から?」
よくわからず受け取るバネッサ。
「バネッサ、落ち着いてね。実はその王様って言うのが、もとは第二王子なのよ」
「えっと?」
「つまり、バネッサと婚約していた王子様が今のウルベキナ国王ってこと」
「えっ! ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
店の前だというのに大絶叫するバネッサ、気持ちはわかるが声がでかすぎて店の中からオクトとリーラがなんだなんだと出てきてしまった。
「バネッサ、一体何を騒いでるんだ」
「どうしたのって、あらみんな、そろってどうしたの? というかバネッサ、何かあった?」
店からやってきたリーラは俺たちがそろっていることに驚きつつも、膝から崩れ落ちて絶望しているバネッサを見て疑問符を浮かべている。
「ああ、ちょっとね。それより中入っていい?」
「ああ、今は客もいないし問題ない」
というわけで俺たちはレイグラット亭の中に入って2人にも説明をすることになった。
「……というわけなのよ」
「……」
「はっ?」
リーラはバネッサから相談を受けていたようで、驚きつつもすぐにバネッサを慰めに入ったが、オクトは全く聞いていなかったこともあり、間の抜けた顔をさらしている。
「そう、だめになったの」
「お、おい、おい、どういうことだよ。なんで、バネッサがこの国の王と、どういうことだ? リーラは知っていたのか?」
オクトは自分だけが知らなかったことにショックを受けつつ、パニックを起こしている。まぁ、娘が結婚を考えている相手がいるということも、その相手がまさか自国の王だというのだからこうなるというものだろう。
「スニルさん、今思い出したんですけど」
この状況どうしたものかと思っていると、麗香がやってきて何やら小声で言ってきた。
「何をだ?」
「以前わたし時代劇に出たんですけど……」
そう言って話し始めたわけだが、そういえば麗香の母親はモデルで麗香自身も子役やモデルをやっていたんだったな。
「その時のお話で、武士と町人の子が今回みたいに恋人になって、でも身分の問題でできなくて、確かそれを解決するのに町人の子が武家に養子に入ってからお嫁に行くってものだったんですよね。そういうのってできないんですか?」
というものだった、俺はこれを聞いた瞬間ハッとした。
「そうか、その手があったか!」
「スニルさん?」
「ああ、悪い、その方法すっかり忘れてたよ」
平民と王が結婚する。これはどう考えても夢物語であり不可能、そう思い込んでいたし、実際にも無理がある。しかし、俺であればそれを実行することが出来ることに気が付いた。
「バネッサ」
「えっ、ス、スニル君?」
俺はすぐさまバネッサに声をかけると、落ち込んでいたバネッサも驚きながら返事をした。うん、ほとんど俺の声を聴いたことないだろうから、一瞬誰に声をかけられたのか分からなかったのだろう。
「1つ聞くが、バネッサはもしウルベキナ王と結婚できるとなれば、どんなつらいことでも耐えられるか?」
「えっ? えっと、……うん、耐えて見せる!」
最初は訳が分からないという風だったが、俺の目を見た瞬間真剣な顔で考えてそう答えて見せた。
「スニル、いきなりどうしたの?」
「1つだけ方法がある。これは今だけ、俺だけができることだ」
「ほ、本当なのスニル」
ポリーが真剣な顔で聞いてきた。
「ああ、王の相手となれば最低でも高位貴族である必要がある。そこでバネッサにはその高位貴族になってもらう」
俺が考えた方法、それはまさに俺にしかできない強硬手段といってもいい裏技だ。
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