142 / 171
第10章 表舞台へ
14 平民から貴族へ
しおりを挟む
「へぁ?」
俺の言葉を聞いたバネッサが妙な言葉を出した。それもそのはず、いきなり貴族になれなんて言われても混乱するよな。俺だって、魔王になってくれと言われたときは混乱したものだ。でも、この方法しかバネッサがウルベキナ王と結婚する方法はない。
「どういうこと、スニル?」
ポリーからも意味が分からないという風に聞かれたので、詳しく説明しることにした。
「さっきも言ったように王との結婚となると最低でも高位貴族である必要があるんだが、今のバネッサは誰がどう見てもただの平民」
俺が言うとみんながうなずいた。
「これでは当然王と結婚なんて夢のまた夢だ。でも幸い俺が王を務めるテレスフィリアでは、まだまだ貴族席に余裕があり、少しでも功績があれば爵位を与えることが可能なんだ。そして、バネッサはすでにテレスフィリアに料理のレシピをいくらか提供するという功績を作っている。まぁ、オクトに爵位を与えて、バネッサはその令嬢としてもいいんだが、オクトはその気はないんだろ」
「ああ、ないな。俺はここで料理屋の店主をやってる方がいい、貴族なんてものになりたいとも思わないな」
俺の言葉にオクトは以前もそういったようにすぐさま断った。
「なら、バネッサを貴族にするしかないってわけだ」
「えっと、それはわかるけれど、いいの?」
「ん? なにがだ?」
「こういうのって議会で話し合わないといけないんじゃないの?」
ポリーも王妃ととしていろいろ学んでいるために、国の決定事項を俺の独断ではなく議会を通さなければならないのではないかと質問してきた。
「それなら問題ない、以前オクトを誘った時にすでに許可は得ていたんだよ。さっきまで忘れてたけど、その娘であるバネッサであれば問題ないだろ、一応後で聞いてみるけどな」
「そう、それならいいけど、そっか、それじゃバネッサさんは私と同じになるんだね」
ポリーが嬉しそうに言っているが、同じというのは平民から王妃にという立場になるということだろう。
「ちょっと違う気もするが、大方そうだな」
ポリーとバネッサでは同じ立場でも違いがある。
「というわけだバネッサ、バネッサにはテレスフィリアの高位貴族、そうだな侯爵あたりでいいか、その立場としてここウルベキナ王国へ嫁いでもらう。いわゆる政略結婚ってやつだな」
「スニルさん、そんなことできるんですね。よかったぁ」
「言ったろ、タイミングが良かったって、今このタイミングで無ければできることじゃないだろうな」
「……え、ええと、え、そ、その、それって、私、キャリス様と一緒になれるってこと?」
キャリスというのはウルベキナ王のことだろう。
「ああ、といっても大変だとは思うけど、どうする? ここからはバネッサ次第だ」
「大変って?」
「そりゃぁ、王妃様になるわけだもの。大変だよ。私だって結構大変だよ。毎日礼儀作法とか、ダンスとかいろいろやっているし」
先に王妃という立場であるポリーが自分がいかに大変な毎日を送っているのかを説明している。
「そんなに?」
「これでも、ポリーはまだいい方だと思うぞ。テレスフィリアは新しい国だし、俺がこんなだから国内では気にすることはないからな。でも、ウルベキナは伝統ある国だから、王と2人でいるとき以外は気を付けていなきゃいけないだろうし、下手すればほかの貴族からのやっかみなんかも受けることになるだろうし」
「やっかみって?」
麗香が聞いてきたので答える。
「そりゃぁ、今現在で言えば貴族令嬢たちは新王の嫁になろうと必死にアピールしているところだからな。それを横からかっさらう形になるんだから」
「あ、ああ、それは……」
俺の答えに麗香も理解したのか、顔をしかめている。女から受けるやっかみや嫉妬、想像しただけでも身震いする。
「うーん、それはテレスフィリアからってことならある程度は大丈夫だとは思うよ」
俺の言葉に顔を青くしていたバネッサであったが、そこにポリーからの言葉があった。
「どういうこと?」
母さんが首をかしげながらポリに尋ねる。
「うん、私、コルマベイントの王妃様に誘われてお茶会に出てるでしょ。その時最初のころは元平民とか、人間をいらぎったとか陰口言われて、王妃様がとりなしてくれていたんだけど」
ポリーの言葉はポリーだけじゃなく俺もまた、各国の貴族たちから言われていることだ。
「でも、私が着ていたドレスとか、麗香さんたちが来てからは、化粧品とかの話をするようになって、今ではちゃんと魔王妃として扱われているんだよね」
ポリーの言葉を聞いてちょっとほっとしているバネッサであった。ちなみに俺に対する陰口はまだそんなに収まっていない。いまだにコルマベイント貴族の中には俺に対して、いきなり化粧品各種を渡すようにと高圧的な態度で行ってくるものもいる。もちろん俺はこれでも魔王なので、それに屈することなくスルーしてるけどな。
「どんな世界でも、女性の美への探求は尽きないものね」
麗香がうんうんと頷いているが、俺もそれに同意だ。
「となると、バネッサは礼儀作法やダンスだけじゃなく、美容についても学ばないといけないんじゃない」
シュンナの言葉にみんながはっとした。
「そうなるわね。まさかテレスフィリア出身でありながら美容について何も知らないとかじゃ、まずいわね」
シュンナの言葉に母さんが同意したことで、バネッサの表情は固まった。なにせ、覚えることが増えたんだからな。
「それで、バネッサどうする。スニルが言うように貴族になって王様に嫁ぐ? もちろんこれは強制じゃないから、バネッサが嫌って言ったらそれまでの話なんだけど」
この場で一番の年上(実年齢)女性として、シュンナがバネッサにどうするかということを聞いた。
「……」
バネッサはその問いに真剣な表情で考えている。それを俺たちは静かに見守る。
「やる、私、キャリス様と結婚したい。だから、スニル君、お願いします」
決意を固めたバネッサがまっすぐな目で俺を見て言った。
「わかった。そういうわけだからオクト、いいか?」
ここにきてこれまで完全に蚊帳の外に置かれていたバネッサの父、オクトに最終確認の言葉を投げかけてみた。
「い、いや、ちょっと待て、俺には何が何だか、ちっともわからねぇ。誰か説明してくれ、いつから、というかリーラは知っていたんだよな。なんで、俺に言わないんだ?」
オクトが少々パニックになりながら自身の妻であるリーラに詰め寄る。バネッサはリーラには相談していたらしいが、実の父親であるオクトには全く話していなかった。そして、リーラもまたそんな話をオクトには一切していなかったらしい。
「そりゃぁ、こういう話は母親にするものでしょ。父親に恋愛相談する子なんていないんじゃない」
あっけらかんとリーラはそういったが、広い世の中どこかにはいると思うけどな。でも、確かに娘の立場からしたら父親には相談しづらいのは確かだろうな。まぁ、男だったらまず両親どちらでも相談はそうそうしないと思うが、間違いなく俺だったらしないし。尤も、するしない以前に俺には恋愛話はないんだけどな。
「いや、それでも教えろよ」
相談されなくても教えてくれればよかっただろうと、さらに詰め寄るオクトであった。
「そんなことはどうでもいいでしょオクト、それよりどうなのバネッサのこと認めるの認めないの、どっち?」
「そ、そんなもの……わ、わかった、わかったって、認める、認めればいいんだろ」
オクトとしては認めたくないだろうが、それを言おうとした瞬間シュンナから殺気が漂ったことで、オクトもしぶしぶ認めることにいたのだった。
「はは、それでスニル、1つ聞きたいんだけど?」
「なんだ?」
苦笑いを浮かべたポリーが俺に聞いてきた。
「どうして、バネッサさんを貴族に、こういうのってオクトさんを貴族にして、バネッサさんはその令嬢ってことで嫁がせるんじゃないの?」
ポリーも魔王妃としていろいろ学んでいるので、こうした知識も身についている。
「確かにその方がいいとは思うけど、以前オクトにテレスフィリアに来ないかと誘った時に断られているからな。今回も断るだろ」
「そうなの、オクト?」
俺の話を聞いていたシュンナがオクトにどうなのかと尋ねている。
「ああ、俺はここから離れる気はない。それに貴族なんて柄じゃないからな」
そんなわけでオクトではなくバネッサ自身を貴族にする必要があるというわけだ。
「さて、話もまとまったところで俺は王城に戻るけど、みんなはどうする?」
このままウルベキナの王城へと戻る俺だが、ここにみんなを残しても仕方ない気がするので、どうするか聞いた。
「あたしらはここに残るわ。バネッサからいろいろ聞かないといけないし、ダンクス頼んだ」
「はぁ、まぁいいけどよ。それじゃスニル俺は国に戻るから頼むぜ」
「あっ、俺もいいですか」
「それじゃ、俺も頼むスニル、ここは女のみの方がいいだろ男がいる空間じゃない」
父さんの言う通り、これから間違いなく怒るのはいわゆるガールズトーク、男がいていい空間とは思えない。
「わかった、それじゃさっさと戻るか」
「おう」
というわけで、俺はダンクス、父さん、孝輔の男3人を連れてテレスフィリアへと戻り、その後ウルベキナの王城へと戻ったのだった。
そうして、翌日4か国会談の続きである。
「それでは、引き続き会談を始めたいと思います。本日の議題ですが……」
ウルベキナの宰相が議題をいくらか並べていくが、その内容は主に昨日決めた同盟の細かい話となるが、正直俺にはほとんど理解できなかった。まぁ、この場にはジマリートもいるしあとで確認してみよう。それはともかく議題の中で気になったことがあったので上げておこう。
「続いて、軍事についてですが、これはこちらの同盟はいかような内容にいたしましょう?」
同盟の中の軍事について、これについてはかなり難しいと予想される。
「ふむ、難しいな。我がコルマベイント、ブリザリア、ウルベキナ3国に関しては今まで通りで問題なかろうが」
「ええ、テレスフィリアとなると問題がありますわね」
そう、テレスフィリア以外の3国に関しては全く問題なく、今までと同じく有事の際に駆け付けるというものでいいだろう。しかし、テレスフィリアはそうはいかない。
「ええ、テレスフィリアの民が人族であれば問題ないのでしょうが、我が国の軍となると大半が獣人族、つづいて魔族となっています。たとえ有事の際に我が軍を送り込んだところで無駄なトラブルを生むことになるでしょう」
そう、問題はそこでテレスフィリア軍の大半である獣人族というのは、以前ハンターたちと戦った戦士たちであり、何より人族を憎んでいる。そして、何よりその獣人族というのは戦場では肉の壁としてこれまでさんざん各国で使われてきた。これは、コルマベイントもブリザリアも、ウルベキナも例外ではない。その事実があることから、それぞれの軍からしたらテレスフィリア軍は屈強な肉の壁でしかないと考えるだろう、つまり、ともに戦う戦友ではなく配下、それ以下という扱いをしてくる可能性が高く、逆に獣人族たちも憎しみをますます募らせることになってしまう。というか、4か国同盟というが、これはあくまで俺たち上層部の話であって、まだ下部の連中は知らないわけであり、今もまだ奴隷となった獣人たちが肉の壁として扱われていることは間違いない。そんな中で、下手にわが軍を連れて行けるわけないよな。そんなことしたら敵味方関係なく入り乱れたカオスとなる。また、魔族に関しては俺が思っている以上に魔族を恐れているから、多くの魔族を連れて行った日にはどこからともなく攻撃が飛んできそうだ。そして、またもやカオスとなる。うん、どう考えてもカオスにしかならん。
「そうでしょう」
さて困ったものだと、4人の王は悩みだす。そうして、出した答えとして、ひとまず軍事の同盟自体は提携するが、実際に戦場へ赴くのは俺を含めシュンナとダンクス、または少数の兵士たちのみとなった。しかも、その兵士たちの条件として、人族に対しての悪感情を持っていないこととなった。そして、その軍事同盟はさっそくウルベキナで発動することになったが、それはまた後で説明するとしよう。
とまぁ、こうして何とか会談で話し合うべきことは終わり、そろそろ終えようとしたところで俺が最後の議題を投げる。
「最後ですが、ウルベキナ王にお願いがあります」
「お願いですか、どのようなことでしょう?」
「こうして此度、我ら4か国で同盟を結んだわけですが、残念ながらこの4か国のうち、我が国と貴国の間にのみ何ら縁がありません」
「そうなのですか?」
「はい、コルマベイントに関しては、私自身の故国であり、我妻となるもののコルマベイント出身です。そして、ブリザリアに関しましては、私の身内の中に出身者がいる上、実は先祖がブリザリアの教会で務め、中には枢機卿を務めた者もいるそうです」
俺が聖人ダンクスの末裔であることを知ったブリザリア女王から、そのダンクスの子孫が枢機卿を務めていたころがあると教えてくれた。
「このように、2か国とはすでに縁が結ばれておりますが、貴国とは、せいぜい友人がいる程度のものでしかありません。そこで、縁を強めるため、我が国に籍を置くものと、御身の婚姻を結んでいただきたいのです。もちろん、その者は人族でありもとは、平民という身分ではありますが、功績を得て侯爵としております」
「ほぉ、そのもの自信が爵位を得ているのか?」
「はい、本来であればその父親に爵位をと思っていたのですが、その者に断られてしまいまして、会えなくその娘に与えました」
「テレスフィリアでは女性でも貴族になれますのね」
「もちろんです。わが国はすべて実力主義、どのような力であれ力あるものであればだれでも立身出世がかなうとしております。まぁ、残念ながら今議会はすべて男性ですが」
「それは素晴らしいですわ。ですがよろしいのですか、その侯爵殿がウルベキナへ嫁ぐとなるとお家断絶の危機となりましょう」
貴族家当主が他国へ嫁げば当然その家はなくなってしまう。
「ええ、そこでウルベキナ王とそのものの子を1人、我が国で継いでもらえばいいのです」
「うむ、悪くはないが、であるな。どうであろうウルベキナ王、これは受けるべきと我も考えるが」
「ええ、そうですね。わたくしも反対はありませんわ」
裏事情を知らないコルマベイント王とブリザリア女王が後押しをしてくれた。さて、ウルベキナ王の返答やいかに。
「わかりました、幸い私には現在婚約をしている者はおりません。テレスフィリア王、ぜひお願いいたします」
ウルベキナ王はしばし考えたが、ハッとして今のような答えを出した。これはもしかしたら俺の狙いがバレたかな。まぁ、別にサプライズするつもりもないし、ばれても問題ないんだけどな。むしろバレたほうがうまくいくと思う。
「では、そのように」
こうして、ウルベキナ王とバネッサの婚姻がコルマベイント王とブリザリア女王の公認の元決まったのだった。
俺の言葉を聞いたバネッサが妙な言葉を出した。それもそのはず、いきなり貴族になれなんて言われても混乱するよな。俺だって、魔王になってくれと言われたときは混乱したものだ。でも、この方法しかバネッサがウルベキナ王と結婚する方法はない。
「どういうこと、スニル?」
ポリーからも意味が分からないという風に聞かれたので、詳しく説明しることにした。
「さっきも言ったように王との結婚となると最低でも高位貴族である必要があるんだが、今のバネッサは誰がどう見てもただの平民」
俺が言うとみんながうなずいた。
「これでは当然王と結婚なんて夢のまた夢だ。でも幸い俺が王を務めるテレスフィリアでは、まだまだ貴族席に余裕があり、少しでも功績があれば爵位を与えることが可能なんだ。そして、バネッサはすでにテレスフィリアに料理のレシピをいくらか提供するという功績を作っている。まぁ、オクトに爵位を与えて、バネッサはその令嬢としてもいいんだが、オクトはその気はないんだろ」
「ああ、ないな。俺はここで料理屋の店主をやってる方がいい、貴族なんてものになりたいとも思わないな」
俺の言葉にオクトは以前もそういったようにすぐさま断った。
「なら、バネッサを貴族にするしかないってわけだ」
「えっと、それはわかるけれど、いいの?」
「ん? なにがだ?」
「こういうのって議会で話し合わないといけないんじゃないの?」
ポリーも王妃ととしていろいろ学んでいるために、国の決定事項を俺の独断ではなく議会を通さなければならないのではないかと質問してきた。
「それなら問題ない、以前オクトを誘った時にすでに許可は得ていたんだよ。さっきまで忘れてたけど、その娘であるバネッサであれば問題ないだろ、一応後で聞いてみるけどな」
「そう、それならいいけど、そっか、それじゃバネッサさんは私と同じになるんだね」
ポリーが嬉しそうに言っているが、同じというのは平民から王妃にという立場になるということだろう。
「ちょっと違う気もするが、大方そうだな」
ポリーとバネッサでは同じ立場でも違いがある。
「というわけだバネッサ、バネッサにはテレスフィリアの高位貴族、そうだな侯爵あたりでいいか、その立場としてここウルベキナ王国へ嫁いでもらう。いわゆる政略結婚ってやつだな」
「スニルさん、そんなことできるんですね。よかったぁ」
「言ったろ、タイミングが良かったって、今このタイミングで無ければできることじゃないだろうな」
「……え、ええと、え、そ、その、それって、私、キャリス様と一緒になれるってこと?」
キャリスというのはウルベキナ王のことだろう。
「ああ、といっても大変だとは思うけど、どうする? ここからはバネッサ次第だ」
「大変って?」
「そりゃぁ、王妃様になるわけだもの。大変だよ。私だって結構大変だよ。毎日礼儀作法とか、ダンスとかいろいろやっているし」
先に王妃という立場であるポリーが自分がいかに大変な毎日を送っているのかを説明している。
「そんなに?」
「これでも、ポリーはまだいい方だと思うぞ。テレスフィリアは新しい国だし、俺がこんなだから国内では気にすることはないからな。でも、ウルベキナは伝統ある国だから、王と2人でいるとき以外は気を付けていなきゃいけないだろうし、下手すればほかの貴族からのやっかみなんかも受けることになるだろうし」
「やっかみって?」
麗香が聞いてきたので答える。
「そりゃぁ、今現在で言えば貴族令嬢たちは新王の嫁になろうと必死にアピールしているところだからな。それを横からかっさらう形になるんだから」
「あ、ああ、それは……」
俺の答えに麗香も理解したのか、顔をしかめている。女から受けるやっかみや嫉妬、想像しただけでも身震いする。
「うーん、それはテレスフィリアからってことならある程度は大丈夫だとは思うよ」
俺の言葉に顔を青くしていたバネッサであったが、そこにポリーからの言葉があった。
「どういうこと?」
母さんが首をかしげながらポリに尋ねる。
「うん、私、コルマベイントの王妃様に誘われてお茶会に出てるでしょ。その時最初のころは元平民とか、人間をいらぎったとか陰口言われて、王妃様がとりなしてくれていたんだけど」
ポリーの言葉はポリーだけじゃなく俺もまた、各国の貴族たちから言われていることだ。
「でも、私が着ていたドレスとか、麗香さんたちが来てからは、化粧品とかの話をするようになって、今ではちゃんと魔王妃として扱われているんだよね」
ポリーの言葉を聞いてちょっとほっとしているバネッサであった。ちなみに俺に対する陰口はまだそんなに収まっていない。いまだにコルマベイント貴族の中には俺に対して、いきなり化粧品各種を渡すようにと高圧的な態度で行ってくるものもいる。もちろん俺はこれでも魔王なので、それに屈することなくスルーしてるけどな。
「どんな世界でも、女性の美への探求は尽きないものね」
麗香がうんうんと頷いているが、俺もそれに同意だ。
「となると、バネッサは礼儀作法やダンスだけじゃなく、美容についても学ばないといけないんじゃない」
シュンナの言葉にみんながはっとした。
「そうなるわね。まさかテレスフィリア出身でありながら美容について何も知らないとかじゃ、まずいわね」
シュンナの言葉に母さんが同意したことで、バネッサの表情は固まった。なにせ、覚えることが増えたんだからな。
「それで、バネッサどうする。スニルが言うように貴族になって王様に嫁ぐ? もちろんこれは強制じゃないから、バネッサが嫌って言ったらそれまでの話なんだけど」
この場で一番の年上(実年齢)女性として、シュンナがバネッサにどうするかということを聞いた。
「……」
バネッサはその問いに真剣な表情で考えている。それを俺たちは静かに見守る。
「やる、私、キャリス様と結婚したい。だから、スニル君、お願いします」
決意を固めたバネッサがまっすぐな目で俺を見て言った。
「わかった。そういうわけだからオクト、いいか?」
ここにきてこれまで完全に蚊帳の外に置かれていたバネッサの父、オクトに最終確認の言葉を投げかけてみた。
「い、いや、ちょっと待て、俺には何が何だか、ちっともわからねぇ。誰か説明してくれ、いつから、というかリーラは知っていたんだよな。なんで、俺に言わないんだ?」
オクトが少々パニックになりながら自身の妻であるリーラに詰め寄る。バネッサはリーラには相談していたらしいが、実の父親であるオクトには全く話していなかった。そして、リーラもまたそんな話をオクトには一切していなかったらしい。
「そりゃぁ、こういう話は母親にするものでしょ。父親に恋愛相談する子なんていないんじゃない」
あっけらかんとリーラはそういったが、広い世の中どこかにはいると思うけどな。でも、確かに娘の立場からしたら父親には相談しづらいのは確かだろうな。まぁ、男だったらまず両親どちらでも相談はそうそうしないと思うが、間違いなく俺だったらしないし。尤も、するしない以前に俺には恋愛話はないんだけどな。
「いや、それでも教えろよ」
相談されなくても教えてくれればよかっただろうと、さらに詰め寄るオクトであった。
「そんなことはどうでもいいでしょオクト、それよりどうなのバネッサのこと認めるの認めないの、どっち?」
「そ、そんなもの……わ、わかった、わかったって、認める、認めればいいんだろ」
オクトとしては認めたくないだろうが、それを言おうとした瞬間シュンナから殺気が漂ったことで、オクトもしぶしぶ認めることにいたのだった。
「はは、それでスニル、1つ聞きたいんだけど?」
「なんだ?」
苦笑いを浮かべたポリーが俺に聞いてきた。
「どうして、バネッサさんを貴族に、こういうのってオクトさんを貴族にして、バネッサさんはその令嬢ってことで嫁がせるんじゃないの?」
ポリーも魔王妃としていろいろ学んでいるので、こうした知識も身についている。
「確かにその方がいいとは思うけど、以前オクトにテレスフィリアに来ないかと誘った時に断られているからな。今回も断るだろ」
「そうなの、オクト?」
俺の話を聞いていたシュンナがオクトにどうなのかと尋ねている。
「ああ、俺はここから離れる気はない。それに貴族なんて柄じゃないからな」
そんなわけでオクトではなくバネッサ自身を貴族にする必要があるというわけだ。
「さて、話もまとまったところで俺は王城に戻るけど、みんなはどうする?」
このままウルベキナの王城へと戻る俺だが、ここにみんなを残しても仕方ない気がするので、どうするか聞いた。
「あたしらはここに残るわ。バネッサからいろいろ聞かないといけないし、ダンクス頼んだ」
「はぁ、まぁいいけどよ。それじゃスニル俺は国に戻るから頼むぜ」
「あっ、俺もいいですか」
「それじゃ、俺も頼むスニル、ここは女のみの方がいいだろ男がいる空間じゃない」
父さんの言う通り、これから間違いなく怒るのはいわゆるガールズトーク、男がいていい空間とは思えない。
「わかった、それじゃさっさと戻るか」
「おう」
というわけで、俺はダンクス、父さん、孝輔の男3人を連れてテレスフィリアへと戻り、その後ウルベキナの王城へと戻ったのだった。
そうして、翌日4か国会談の続きである。
「それでは、引き続き会談を始めたいと思います。本日の議題ですが……」
ウルベキナの宰相が議題をいくらか並べていくが、その内容は主に昨日決めた同盟の細かい話となるが、正直俺にはほとんど理解できなかった。まぁ、この場にはジマリートもいるしあとで確認してみよう。それはともかく議題の中で気になったことがあったので上げておこう。
「続いて、軍事についてですが、これはこちらの同盟はいかような内容にいたしましょう?」
同盟の中の軍事について、これについてはかなり難しいと予想される。
「ふむ、難しいな。我がコルマベイント、ブリザリア、ウルベキナ3国に関しては今まで通りで問題なかろうが」
「ええ、テレスフィリアとなると問題がありますわね」
そう、テレスフィリア以外の3国に関しては全く問題なく、今までと同じく有事の際に駆け付けるというものでいいだろう。しかし、テレスフィリアはそうはいかない。
「ええ、テレスフィリアの民が人族であれば問題ないのでしょうが、我が国の軍となると大半が獣人族、つづいて魔族となっています。たとえ有事の際に我が軍を送り込んだところで無駄なトラブルを生むことになるでしょう」
そう、問題はそこでテレスフィリア軍の大半である獣人族というのは、以前ハンターたちと戦った戦士たちであり、何より人族を憎んでいる。そして、何よりその獣人族というのは戦場では肉の壁としてこれまでさんざん各国で使われてきた。これは、コルマベイントもブリザリアも、ウルベキナも例外ではない。その事実があることから、それぞれの軍からしたらテレスフィリア軍は屈強な肉の壁でしかないと考えるだろう、つまり、ともに戦う戦友ではなく配下、それ以下という扱いをしてくる可能性が高く、逆に獣人族たちも憎しみをますます募らせることになってしまう。というか、4か国同盟というが、これはあくまで俺たち上層部の話であって、まだ下部の連中は知らないわけであり、今もまだ奴隷となった獣人たちが肉の壁として扱われていることは間違いない。そんな中で、下手にわが軍を連れて行けるわけないよな。そんなことしたら敵味方関係なく入り乱れたカオスとなる。また、魔族に関しては俺が思っている以上に魔族を恐れているから、多くの魔族を連れて行った日にはどこからともなく攻撃が飛んできそうだ。そして、またもやカオスとなる。うん、どう考えてもカオスにしかならん。
「そうでしょう」
さて困ったものだと、4人の王は悩みだす。そうして、出した答えとして、ひとまず軍事の同盟自体は提携するが、実際に戦場へ赴くのは俺を含めシュンナとダンクス、または少数の兵士たちのみとなった。しかも、その兵士たちの条件として、人族に対しての悪感情を持っていないこととなった。そして、その軍事同盟はさっそくウルベキナで発動することになったが、それはまた後で説明するとしよう。
とまぁ、こうして何とか会談で話し合うべきことは終わり、そろそろ終えようとしたところで俺が最後の議題を投げる。
「最後ですが、ウルベキナ王にお願いがあります」
「お願いですか、どのようなことでしょう?」
「こうして此度、我ら4か国で同盟を結んだわけですが、残念ながらこの4か国のうち、我が国と貴国の間にのみ何ら縁がありません」
「そうなのですか?」
「はい、コルマベイントに関しては、私自身の故国であり、我妻となるもののコルマベイント出身です。そして、ブリザリアに関しましては、私の身内の中に出身者がいる上、実は先祖がブリザリアの教会で務め、中には枢機卿を務めた者もいるそうです」
俺が聖人ダンクスの末裔であることを知ったブリザリア女王から、そのダンクスの子孫が枢機卿を務めていたころがあると教えてくれた。
「このように、2か国とはすでに縁が結ばれておりますが、貴国とは、せいぜい友人がいる程度のものでしかありません。そこで、縁を強めるため、我が国に籍を置くものと、御身の婚姻を結んでいただきたいのです。もちろん、その者は人族でありもとは、平民という身分ではありますが、功績を得て侯爵としております」
「ほぉ、そのもの自信が爵位を得ているのか?」
「はい、本来であればその父親に爵位をと思っていたのですが、その者に断られてしまいまして、会えなくその娘に与えました」
「テレスフィリアでは女性でも貴族になれますのね」
「もちろんです。わが国はすべて実力主義、どのような力であれ力あるものであればだれでも立身出世がかなうとしております。まぁ、残念ながら今議会はすべて男性ですが」
「それは素晴らしいですわ。ですがよろしいのですか、その侯爵殿がウルベキナへ嫁ぐとなるとお家断絶の危機となりましょう」
貴族家当主が他国へ嫁げば当然その家はなくなってしまう。
「ええ、そこでウルベキナ王とそのものの子を1人、我が国で継いでもらえばいいのです」
「うむ、悪くはないが、であるな。どうであろうウルベキナ王、これは受けるべきと我も考えるが」
「ええ、そうですね。わたくしも反対はありませんわ」
裏事情を知らないコルマベイント王とブリザリア女王が後押しをしてくれた。さて、ウルベキナ王の返答やいかに。
「わかりました、幸い私には現在婚約をしている者はおりません。テレスフィリア王、ぜひお願いいたします」
ウルベキナ王はしばし考えたが、ハッとして今のような答えを出した。これはもしかしたら俺の狙いがバレたかな。まぁ、別にサプライズするつもりもないし、ばれても問題ないんだけどな。むしろバレたほうがうまくいくと思う。
「では、そのように」
こうして、ウルベキナ王とバネッサの婚姻がコルマベイント王とブリザリア女王の公認の元決まったのだった。
10
あなたにおすすめの小説
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
ポリ 外丸
ファンタジー
普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。
海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。
その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。
もう一度もらった命。
啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。
前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる