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第10章 表舞台へ
12 まさかのスクープ
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始まった4か国首脳会談、まず口火を切ったのはウルベキナ王であった。
「会談を始まる前に、魔王陛下失礼ながらいくつかご質問をしてもよりしいですか?」
「ええもちろん」
最初に質問が飛んでくることはわかっていたこともあり、特に気にせず促した。
「ありがとうございます。では、魔王陛下は我らと敵対しないということでしたが、これはまことでしょうか?」
いきなりストレートな質問だが、人族はみな一番に知りたいことだろう。実際ウルベキナ王から
飛んだ質問に俺がどう答えるか、周囲にいる貴族たちもかたずをのんで聞き耳を立てている。
「その通りです。私はご覧の通り人族……という呼称でわかりますか?」
人族といってからウルベキナ王に通じるか聞いてみたが、残念ながらわからないようだ。
「では、まずそこから説明しますと……」
ここでまず人間についての真実を話した。もちろんこれらには周囲一帯が一斉に驚いている。
「そ、それはまことでしょうか、キリエルタ教の教えでは……」
ウルベキナ王ももれなくキリエルタ教の信者なので当然この教えを知っている。
「真実です。これは私が持つスキルによるもので、この世界の事象についていくらか記述があるのです。それこそこの世界の創造神が記したものです」
「それは、キリエルタ様ではないと」
「残念ながら、もちろんこれを信じろと言うのは無理があるかもしれませんが、しかし、ウルベキナ王そのキリエルタ自身もまたこの真実は理解しておりました」
「どういうことですか?」
「ウルベキナ王は神の御言葉という言語をご存じですか?」
ハッシュテル語のことだ。
「もちろんです。拝見したことはありませんが、だれにも読み解くことのできない言語であると伺っております」
「実はその言語は元はハッシュテル語と言い、創造神が人類に与えた言語であり、我々が使うすべての言語の元となったものなのです。なぜそれをキリエルタが知りえたのか、そこまではわかりませんが、私のスキルには当然その言語情報もあります」
「えっ! で、では?」
「はい、私には神の御言葉を解することが出来るということです。そして、私は実際聖教国へ赴きそれらを拝見しております」
「おお、なんと、それでそこにはなんと?」
「様々なことがありましたが、中でも注目するべきは、キリエルタは獣人族とは敵対していたようですが、ほかのドワーフやエルフに関しては交流するべき種族であると記していました。つまり、現在亜人と称しさげすむことはキリエルタの言葉に反する行為であると言えるでしょう。まぁ、これについてはどうやら私の先祖の責任もあるようですが」
「魔王陛下のご先祖ですか?」
「はい、これらは先日キリエルタ教の教皇の元を訪問した際に判明した事実ですが、どうやら私の父方の先祖をたどると聖人ダンクスへと行きあたるようです。そして、代々教会の関係者として励んでいたようです」
「そ、それは間違いないのですか?」
「はい、これは教皇自ら認めた事実ですよ」
そもそもこの事実は教皇が言い出したことで、俺はおろか父さんも伯母さんも知らなかったことだ。
「そういうこともあり、私は人族と争うとつもりは一切ないのです。まぁ、せめてこられればさすがに迎撃はしますが」
何度も言うが俺は別に無抵抗でやられるつもりは全くないが、自分からわざわざ攻めるつもりもない。
「それを信じてもよろしいですか?」
「ええ、もちろんです。専守防衛、相手から攻撃を受けることで初めてこちらも防衛のための力を使うという言葉があります。私はこれを貫くつもりです。それに、確かにかつての魔族は戦乱をもたらしましたが、長い間隠れ住んできた彼らの望みは平穏、だったなジマリート」
俺は背後に控えている魔族本人であり、その現代表者であるジマリートに尋ねた。
「その通りでございます陛下、我らが望みはただの平穏、争いなどは求めてはおりません」
ジマリートが力強くそう宣言したことで、ウルベキナ王を始め王たちがほっとしている。しかし、安心するのは少し早いので俺が付け加える。
「このように魔族は直接的な感情は持ち合わせておりません。しかし、我が国には魔族だけではなく獣人族、エルフ族、ドワーフ族とおり、現在彼らの身内が人族によって不当な扱いを受けております。すでに同盟を向済ませていただいているコルマベイントとブリザリアでは順次彼らの解放と返還が行われておりますが、いまだすべてというわけではありません」
「うむ、その通りだ。われとしてもすぐにでも解放したいところではあるが、何せ数が多い」
「ええ、我が国も同様です。また、解放を拒むものも多いのです。これには王として大変申し訳ないと謝罪するしかないでしょう」
コルマベイント王とブリザリア女王が続けてそう言ってくれる。
「いえ、2か国ともに全力を尽くしていただいており、感謝しております」
「そうなるとわが国はいまだ解放をしておりませんので、即刻に対処するべきでしょうな。お話を聞く限り彼ら他種族の方々に対して我らが行ってきたことは、まさに現在我が国がシムサイトにされていること、彼らの怒りは尤もと身に染みております」
「ありがとうございますウルベキナ王。同じ痛みを知る同士として、少しでも早く被害者が解放されるのを祈るとともに我が国も協力します。ついては、こちらを」
ということで、”収納”から、以前奴隷狩り拠点から奪った資料をまとめた物と、実際シムサイトで得た情報をまとめた資料を取り出した。
「こちらは?」
「この書類は以前、ラハイエート近くにあった奴隷狩りの拠点を襲撃しまして、その時に手に入れた資料の目録です。数が多いので後ほどお渡ししますよ」
「まことですか、それはありがとうございます。しかし、なぜ魔王陛下が?」
「魔王となる以前の私は旅人でして、ここウルベキナでも旅をしておりました。その際ですが……」
俺はここで、ウルベキナで出会った奴隷狩りについて話をした。
「なんとそのようなことが、まさかここのオークションにまで出品されていようとは」
「陛下、いつだったかラハイエートで保護された民がいたと聞き及んでおります。まさか、それが奴隷狩りの被害者ということでは」
「ふむであろう、まさか魔王陛下がそれを?」
「おそらくそうでしょう。拠点を襲撃した際保護したもの達をラハイエートに送り届けましたから、ただこちらも当時騒ぎとなるのを避けるためにすぐにその場を去りましたから」
「そうでしたか、いえ、その節は我が民をお救いいただきありがとうございます」
「いえ、それからもう1つの書類ですが、こちらはシムサイトで集めた情報となっております」
「拝見します……なんとっ! そんな馬鹿なっ!」
「いかがした。ウルベキナ王」
書類を見た瞬間驚いたウルベキナ王にどうしたのかとコルマベイント王が尋ねる。
「いえ、申し訳ありません。魔王陛下ここに記されていることはまことのことでしょうか?」
「ええ、事実です。おそらく貴国で得ている情報では、奴隷狩りをしているのはシムサイトにあるサカリームのエリエルト商会が主導しているというものではありませんか?」
この情報は俺が拠点で得たものだ。
「え、ええ、確かにそうです。ですから私はかの商会へ返還を求める書状を贈り続けております」
「残念ながらそれは隠れ蓑、私も実際のその商会に忍び込んだのですが、シロ、全く無関係です」
「なんとっ、そうか!」
「はい、それゆえに一向に色よい返事がもらえなかったというわけですな」
ウルベキナでは拠点から得た情報から、隠れ蓑の商会を犯人として考えていた。これは仕方ないなにせウルベキナではシムサイトに乗り込んで調査するということが出来ないのだから。そのため、ウルベキナが抗議していたのは、シムサイトとその商会であったようだ。そりゃぁ、あっちからしたら身に覚えのない話で戸惑ったことだろう。
「でしょうね。商会からしたら身に覚えのないことであり、シムサイトからしたら前体制が起こしたことであり、現体制には関係ないということでしょう」
こうした共和制ではよくある逃げ口上だ。
「魔王陛下の言うう通りです。シムサイトからの返事はすべてそのようなものです。しかし魔王陛下はよくご存じのようですね」
「身軽な旅人でしたからね。それに、シムサイトについては当時いろいろと調べておりましたから」
「ほぉ、それはうらやましい話だが、なぜシムサイトを調べていたのだ」
「ちょっとした興味本位ですよ」
これは本音で、当時の俺は村に帰っていたから暇つぶしと興味からシムサイトにちょくちょく通っていた。
それから俺たちはシムサイトへの対策を話し合うとともに、テレスフィリアとウルベキナの正式な国交を樹立させたことで、4か国同盟が成立したのだった。
尤も、まだ同盟が成立しただけで、具体的な話をする必要がありまだまだ会談は終わりそうにない。
「では同盟について具体的な話というわけですが、魔王陛下は我が国でフリーズドライ製造を行いたいとのことですが、それはよろしいのでしょうか?」
ウルベキナ王にはすでにコルマベイント王からの書簡で、俺がフリーズドライをエイルードで作りたいということを知らせている。そして、そのフリーズドライの開発者が俺であるということも併せてあるのでこうした質問が飛んできたのだろう。
「もちろんです。私としましてはむしろ遠く離れた我が国において、エイルードの料理を食べたいという考えもあるのです」
「遠く離れた地の料理ですか、なるほど、確かにそれも可能でしょう」
「ええ、そうですわね。わたくしもぜひそのエイルードの料理というものを食べてみたいものです」
「うむ、でありますな」
「ありがとうございます。実は本日そのことも含めてエイルードの領主であるミサリア・ナーダ・エイリアード伯爵を呼んであります。ミサリア」
「はっ、失礼いたします」
「おや、エイルードの領主殿は女性でしたか」
エイルードの領主登場にまず反応したのは同じ女性でもあるブリザリア女王だった。
「お初にお目にかかります。ミサリア・ナーダ・エイリアード伯爵と申します。そしてこちらに控えるは我がエイルードにおいて料理人ギルドギルドマスターを務めますロリエスタです」
そうやってきたのは伯爵だけではなく料理人ギルドのギルマスも一緒だったが、当然ギルマスは平民のためにガッチガチに緊張し一言もしゃべらない。
「コルマベイント王からの書簡を受けた際、たまたま2人とも王都に居りまして、そのまま滞在してもらいました」
エイルードから王都までそれなりに距離があり、この短時間で来れるとは思えずどうやったのかと思ったらどうやらたまたまいたらしい。
「そうであったか、それは重畳というものであろうな」
「ええ、いいタイミングです」
「ところで、いかがしました伯爵殿、それにロリエスタ殿も不可思議なお顔をされておられるようですが」
ここにきて伯爵とギルマスが妙な顔をしていると女王から指摘があったけれど、実際妙な顔をしているまるで鳩が豆鉄砲でも食らったような顔だ。
「あっ、いえ、申し訳ありません。その、失礼ながら魔王陛下がその……」
伯爵は俺を見てしどろもどろになりながら話し始めた。ああ、俺に気が付いたということか、まさか俺のことを覚えているとは思わなかった。なにせ、あの時の俺は間違いなくシュンナとダンクスの後ろに隠れていたのだからな。
「伯爵、魔王陛下といっても我々と同じ、恐れることはないぞ」
ウルベキナ王は伯爵たちが魔王である俺を恐れての反応だと思ったようだ。
「い、いえ、その、そうではありません。なんといいますか、魔王陛下が我がエイルードの恩人に瓜二つでありまして、驚いていたのです」
「恩人?」
「はい、陛下にも審査員としてご参加いただいていた料理大会の発案者です」
やっぱり覚えていたようだが、ここは別に隠すことでもないために素直に白状することにした。
「それは似ているわけではなく、本人ですよ伯爵、それとギルマスもご無沙汰しています」
「!?」
俺の告白に驚く伯爵とギルマスであった。また、ウルベキナ王もまた同じように驚いている。
「で、では陛下があの時の、スニル、殿?」
「ええ、今はスニルバルドと名乗っていますが、これは魔王となった際に改名したもので、元はスニルですよ」
「そ、そうでしたか、いや、そのその節はありがとうございました。おかげ様で我が街は食の街として知られ、各地から多くのものが集まるようになりました。また、お互いが競い合うようなったことで、料理人たちの腕も向上したことは否めません。これもすべて魔王陛下のおかげでございます」
伯爵が大仰にそういったが、そこまで盛り上げたのは伯爵とギルマスの手柄だと思う。
「私がやったのは料理大会をしてはという提案だけ、そこから先は伯爵と料理人ギルドギルドマスターの働きによるものですよ」
「ふむ、確かに貴公らの働きも大きいだろう、しかし、魔王陛下のアイデアがなければあそこまでのものはできなかった。ウルベキナ国王としても感謝する」
俺と伯爵のやり取りを聞いていたウルベキナ王もまた、俺に感謝の言葉を述べてきた。
「いえ」
「うむ、料理大会か、テレスフィリア王はなぜそのようなことを思いついたのだ」
話が終わったところでコルマベイント王が疑問の言葉を投げかけてきた。
「思い付きですよ。以前エイルードに立ち寄った際、最もうまいと思った店があったのですが、どうもそこが別の店のたくらみにより倒産の危機にありまして。そうなれば今後その店の料理を食べたくとも食べることが出来なくなります。そこで思いついたのが料理大会でして、彼の腕は間違いないと確信しておりましたから必ずそこで上位もしくは優勝すると思っていましたから」
「うむ、そうなれば店が繁盛するようなる。か」
「はい、実際狙い通り彼は優勝し、今ではかなり繁盛しているそうですよ」
「それは重畳でしたね」
という話をしつつ、具体的な話をしていったのだったが、さすがにその日だけではまとまりきらず、本日はウルベキナ王国に泊まり、明日もまた話し合いをすることとなった。
そんな夜、時刻はまさに逢魔が時という時刻、貸し与えられた王城内の客間でのんびりとしていると、不意に来客があった。
「陛下、ウルベキナ王陛下がお越しです」
そう言ったのは連れてきている魔族メイドだ。
「ウルベキナ王が、えっと、入ってもらってくれ」
「かしこまりました」
ということでやってきたウルベキナ王、一体何の用だろうか。
「失礼します魔王陛下」
「いえ、いかがしました?」
俺が聞くがウルベキナ王は、なかなか話しだそうとしなかった。どうしたのかと思ったら、ゆっくりと話し出す。
「先ほどの話の中で、魔王陛下がおっしゃっていたエイルードでの店、それはレイグラット亭ではありませんか?」
俺が料理大会を思いついた話をしたときの話で店名は出さなかったが、確かにその話はした。
「ええ、そうですが、ご存じですか?」
「ああ、やはりはい、実は……」
それからウルベキナ王が語りだした内容に、思わず絶句した。人間本当に驚くと声も出ないというが本当らしい。なにせ、なんと、なんと、なんと、ウルベキナ王には結婚を約束した女性がおり、その相手こそ俺もよく知るレイグラット亭、オクトの娘、バネッサだったのだから。
「会談を始まる前に、魔王陛下失礼ながらいくつかご質問をしてもよりしいですか?」
「ええもちろん」
最初に質問が飛んでくることはわかっていたこともあり、特に気にせず促した。
「ありがとうございます。では、魔王陛下は我らと敵対しないということでしたが、これはまことでしょうか?」
いきなりストレートな質問だが、人族はみな一番に知りたいことだろう。実際ウルベキナ王から
飛んだ質問に俺がどう答えるか、周囲にいる貴族たちもかたずをのんで聞き耳を立てている。
「その通りです。私はご覧の通り人族……という呼称でわかりますか?」
人族といってからウルベキナ王に通じるか聞いてみたが、残念ながらわからないようだ。
「では、まずそこから説明しますと……」
ここでまず人間についての真実を話した。もちろんこれらには周囲一帯が一斉に驚いている。
「そ、それはまことでしょうか、キリエルタ教の教えでは……」
ウルベキナ王ももれなくキリエルタ教の信者なので当然この教えを知っている。
「真実です。これは私が持つスキルによるもので、この世界の事象についていくらか記述があるのです。それこそこの世界の創造神が記したものです」
「それは、キリエルタ様ではないと」
「残念ながら、もちろんこれを信じろと言うのは無理があるかもしれませんが、しかし、ウルベキナ王そのキリエルタ自身もまたこの真実は理解しておりました」
「どういうことですか?」
「ウルベキナ王は神の御言葉という言語をご存じですか?」
ハッシュテル語のことだ。
「もちろんです。拝見したことはありませんが、だれにも読み解くことのできない言語であると伺っております」
「実はその言語は元はハッシュテル語と言い、創造神が人類に与えた言語であり、我々が使うすべての言語の元となったものなのです。なぜそれをキリエルタが知りえたのか、そこまではわかりませんが、私のスキルには当然その言語情報もあります」
「えっ! で、では?」
「はい、私には神の御言葉を解することが出来るということです。そして、私は実際聖教国へ赴きそれらを拝見しております」
「おお、なんと、それでそこにはなんと?」
「様々なことがありましたが、中でも注目するべきは、キリエルタは獣人族とは敵対していたようですが、ほかのドワーフやエルフに関しては交流するべき種族であると記していました。つまり、現在亜人と称しさげすむことはキリエルタの言葉に反する行為であると言えるでしょう。まぁ、これについてはどうやら私の先祖の責任もあるようですが」
「魔王陛下のご先祖ですか?」
「はい、これらは先日キリエルタ教の教皇の元を訪問した際に判明した事実ですが、どうやら私の父方の先祖をたどると聖人ダンクスへと行きあたるようです。そして、代々教会の関係者として励んでいたようです」
「そ、それは間違いないのですか?」
「はい、これは教皇自ら認めた事実ですよ」
そもそもこの事実は教皇が言い出したことで、俺はおろか父さんも伯母さんも知らなかったことだ。
「そういうこともあり、私は人族と争うとつもりは一切ないのです。まぁ、せめてこられればさすがに迎撃はしますが」
何度も言うが俺は別に無抵抗でやられるつもりは全くないが、自分からわざわざ攻めるつもりもない。
「それを信じてもよろしいですか?」
「ええ、もちろんです。専守防衛、相手から攻撃を受けることで初めてこちらも防衛のための力を使うという言葉があります。私はこれを貫くつもりです。それに、確かにかつての魔族は戦乱をもたらしましたが、長い間隠れ住んできた彼らの望みは平穏、だったなジマリート」
俺は背後に控えている魔族本人であり、その現代表者であるジマリートに尋ねた。
「その通りでございます陛下、我らが望みはただの平穏、争いなどは求めてはおりません」
ジマリートが力強くそう宣言したことで、ウルベキナ王を始め王たちがほっとしている。しかし、安心するのは少し早いので俺が付け加える。
「このように魔族は直接的な感情は持ち合わせておりません。しかし、我が国には魔族だけではなく獣人族、エルフ族、ドワーフ族とおり、現在彼らの身内が人族によって不当な扱いを受けております。すでに同盟を向済ませていただいているコルマベイントとブリザリアでは順次彼らの解放と返還が行われておりますが、いまだすべてというわけではありません」
「うむ、その通りだ。われとしてもすぐにでも解放したいところではあるが、何せ数が多い」
「ええ、我が国も同様です。また、解放を拒むものも多いのです。これには王として大変申し訳ないと謝罪するしかないでしょう」
コルマベイント王とブリザリア女王が続けてそう言ってくれる。
「いえ、2か国ともに全力を尽くしていただいており、感謝しております」
「そうなるとわが国はいまだ解放をしておりませんので、即刻に対処するべきでしょうな。お話を聞く限り彼ら他種族の方々に対して我らが行ってきたことは、まさに現在我が国がシムサイトにされていること、彼らの怒りは尤もと身に染みております」
「ありがとうございますウルベキナ王。同じ痛みを知る同士として、少しでも早く被害者が解放されるのを祈るとともに我が国も協力します。ついては、こちらを」
ということで、”収納”から、以前奴隷狩り拠点から奪った資料をまとめた物と、実際シムサイトで得た情報をまとめた資料を取り出した。
「こちらは?」
「この書類は以前、ラハイエート近くにあった奴隷狩りの拠点を襲撃しまして、その時に手に入れた資料の目録です。数が多いので後ほどお渡ししますよ」
「まことですか、それはありがとうございます。しかし、なぜ魔王陛下が?」
「魔王となる以前の私は旅人でして、ここウルベキナでも旅をしておりました。その際ですが……」
俺はここで、ウルベキナで出会った奴隷狩りについて話をした。
「なんとそのようなことが、まさかここのオークションにまで出品されていようとは」
「陛下、いつだったかラハイエートで保護された民がいたと聞き及んでおります。まさか、それが奴隷狩りの被害者ということでは」
「ふむであろう、まさか魔王陛下がそれを?」
「おそらくそうでしょう。拠点を襲撃した際保護したもの達をラハイエートに送り届けましたから、ただこちらも当時騒ぎとなるのを避けるためにすぐにその場を去りましたから」
「そうでしたか、いえ、その節は我が民をお救いいただきありがとうございます」
「いえ、それからもう1つの書類ですが、こちらはシムサイトで集めた情報となっております」
「拝見します……なんとっ! そんな馬鹿なっ!」
「いかがした。ウルベキナ王」
書類を見た瞬間驚いたウルベキナ王にどうしたのかとコルマベイント王が尋ねる。
「いえ、申し訳ありません。魔王陛下ここに記されていることはまことのことでしょうか?」
「ええ、事実です。おそらく貴国で得ている情報では、奴隷狩りをしているのはシムサイトにあるサカリームのエリエルト商会が主導しているというものではありませんか?」
この情報は俺が拠点で得たものだ。
「え、ええ、確かにそうです。ですから私はかの商会へ返還を求める書状を贈り続けております」
「残念ながらそれは隠れ蓑、私も実際のその商会に忍び込んだのですが、シロ、全く無関係です」
「なんとっ、そうか!」
「はい、それゆえに一向に色よい返事がもらえなかったというわけですな」
ウルベキナでは拠点から得た情報から、隠れ蓑の商会を犯人として考えていた。これは仕方ないなにせウルベキナではシムサイトに乗り込んで調査するということが出来ないのだから。そのため、ウルベキナが抗議していたのは、シムサイトとその商会であったようだ。そりゃぁ、あっちからしたら身に覚えのない話で戸惑ったことだろう。
「でしょうね。商会からしたら身に覚えのないことであり、シムサイトからしたら前体制が起こしたことであり、現体制には関係ないということでしょう」
こうした共和制ではよくある逃げ口上だ。
「魔王陛下の言うう通りです。シムサイトからの返事はすべてそのようなものです。しかし魔王陛下はよくご存じのようですね」
「身軽な旅人でしたからね。それに、シムサイトについては当時いろいろと調べておりましたから」
「ほぉ、それはうらやましい話だが、なぜシムサイトを調べていたのだ」
「ちょっとした興味本位ですよ」
これは本音で、当時の俺は村に帰っていたから暇つぶしと興味からシムサイトにちょくちょく通っていた。
それから俺たちはシムサイトへの対策を話し合うとともに、テレスフィリアとウルベキナの正式な国交を樹立させたことで、4か国同盟が成立したのだった。
尤も、まだ同盟が成立しただけで、具体的な話をする必要がありまだまだ会談は終わりそうにない。
「では同盟について具体的な話というわけですが、魔王陛下は我が国でフリーズドライ製造を行いたいとのことですが、それはよろしいのでしょうか?」
ウルベキナ王にはすでにコルマベイント王からの書簡で、俺がフリーズドライをエイルードで作りたいということを知らせている。そして、そのフリーズドライの開発者が俺であるということも併せてあるのでこうした質問が飛んできたのだろう。
「もちろんです。私としましてはむしろ遠く離れた我が国において、エイルードの料理を食べたいという考えもあるのです」
「遠く離れた地の料理ですか、なるほど、確かにそれも可能でしょう」
「ええ、そうですわね。わたくしもぜひそのエイルードの料理というものを食べてみたいものです」
「うむ、でありますな」
「ありがとうございます。実は本日そのことも含めてエイルードの領主であるミサリア・ナーダ・エイリアード伯爵を呼んであります。ミサリア」
「はっ、失礼いたします」
「おや、エイルードの領主殿は女性でしたか」
エイルードの領主登場にまず反応したのは同じ女性でもあるブリザリア女王だった。
「お初にお目にかかります。ミサリア・ナーダ・エイリアード伯爵と申します。そしてこちらに控えるは我がエイルードにおいて料理人ギルドギルドマスターを務めますロリエスタです」
そうやってきたのは伯爵だけではなく料理人ギルドのギルマスも一緒だったが、当然ギルマスは平民のためにガッチガチに緊張し一言もしゃべらない。
「コルマベイント王からの書簡を受けた際、たまたま2人とも王都に居りまして、そのまま滞在してもらいました」
エイルードから王都までそれなりに距離があり、この短時間で来れるとは思えずどうやったのかと思ったらどうやらたまたまいたらしい。
「そうであったか、それは重畳というものであろうな」
「ええ、いいタイミングです」
「ところで、いかがしました伯爵殿、それにロリエスタ殿も不可思議なお顔をされておられるようですが」
ここにきて伯爵とギルマスが妙な顔をしていると女王から指摘があったけれど、実際妙な顔をしているまるで鳩が豆鉄砲でも食らったような顔だ。
「あっ、いえ、申し訳ありません。その、失礼ながら魔王陛下がその……」
伯爵は俺を見てしどろもどろになりながら話し始めた。ああ、俺に気が付いたということか、まさか俺のことを覚えているとは思わなかった。なにせ、あの時の俺は間違いなくシュンナとダンクスの後ろに隠れていたのだからな。
「伯爵、魔王陛下といっても我々と同じ、恐れることはないぞ」
ウルベキナ王は伯爵たちが魔王である俺を恐れての反応だと思ったようだ。
「い、いえ、その、そうではありません。なんといいますか、魔王陛下が我がエイルードの恩人に瓜二つでありまして、驚いていたのです」
「恩人?」
「はい、陛下にも審査員としてご参加いただいていた料理大会の発案者です」
やっぱり覚えていたようだが、ここは別に隠すことでもないために素直に白状することにした。
「それは似ているわけではなく、本人ですよ伯爵、それとギルマスもご無沙汰しています」
「!?」
俺の告白に驚く伯爵とギルマスであった。また、ウルベキナ王もまた同じように驚いている。
「で、では陛下があの時の、スニル、殿?」
「ええ、今はスニルバルドと名乗っていますが、これは魔王となった際に改名したもので、元はスニルですよ」
「そ、そうでしたか、いや、そのその節はありがとうございました。おかげ様で我が街は食の街として知られ、各地から多くのものが集まるようになりました。また、お互いが競い合うようなったことで、料理人たちの腕も向上したことは否めません。これもすべて魔王陛下のおかげでございます」
伯爵が大仰にそういったが、そこまで盛り上げたのは伯爵とギルマスの手柄だと思う。
「私がやったのは料理大会をしてはという提案だけ、そこから先は伯爵と料理人ギルドギルドマスターの働きによるものですよ」
「ふむ、確かに貴公らの働きも大きいだろう、しかし、魔王陛下のアイデアがなければあそこまでのものはできなかった。ウルベキナ国王としても感謝する」
俺と伯爵のやり取りを聞いていたウルベキナ王もまた、俺に感謝の言葉を述べてきた。
「いえ」
「うむ、料理大会か、テレスフィリア王はなぜそのようなことを思いついたのだ」
話が終わったところでコルマベイント王が疑問の言葉を投げかけてきた。
「思い付きですよ。以前エイルードに立ち寄った際、最もうまいと思った店があったのですが、どうもそこが別の店のたくらみにより倒産の危機にありまして。そうなれば今後その店の料理を食べたくとも食べることが出来なくなります。そこで思いついたのが料理大会でして、彼の腕は間違いないと確信しておりましたから必ずそこで上位もしくは優勝すると思っていましたから」
「うむ、そうなれば店が繁盛するようなる。か」
「はい、実際狙い通り彼は優勝し、今ではかなり繁盛しているそうですよ」
「それは重畳でしたね」
という話をしつつ、具体的な話をしていったのだったが、さすがにその日だけではまとまりきらず、本日はウルベキナ王国に泊まり、明日もまた話し合いをすることとなった。
そんな夜、時刻はまさに逢魔が時という時刻、貸し与えられた王城内の客間でのんびりとしていると、不意に来客があった。
「陛下、ウルベキナ王陛下がお越しです」
そう言ったのは連れてきている魔族メイドだ。
「ウルベキナ王が、えっと、入ってもらってくれ」
「かしこまりました」
ということでやってきたウルベキナ王、一体何の用だろうか。
「失礼します魔王陛下」
「いえ、いかがしました?」
俺が聞くがウルベキナ王は、なかなか話しだそうとしなかった。どうしたのかと思ったら、ゆっくりと話し出す。
「先ほどの話の中で、魔王陛下がおっしゃっていたエイルードでの店、それはレイグラット亭ではありませんか?」
俺が料理大会を思いついた話をしたときの話で店名は出さなかったが、確かにその話はした。
「ええ、そうですが、ご存じですか?」
「ああ、やはりはい、実は……」
それからウルベキナ王が語りだした内容に、思わず絶句した。人間本当に驚くと声も出ないというが本当らしい。なにせ、なんと、なんと、なんと、ウルベキナ王には結婚を約束した女性がおり、その相手こそ俺もよく知るレイグラット亭、オクトの娘、バネッサだったのだから。
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カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
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村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
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ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
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