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第七章:恋を知る夜、愛に包まれる朝
第118話・川辺の焚き火と、誓いの抱擁
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川のせせらぎを聞きながら、ルナフィエラはシグの膝に身を預けていた。
大きな腕に包まれる安心感に、まぶたは自然と重くなっていく。
「……よく頑張ったな」
低く落ちた声が耳に残り、彼女は小さく息を吐いて微睡んだ。
そんな彼女の様子を見て、ユリウスが周囲を見渡す。
「もう日も傾き始めている。この先の山道を進むのは危険だ。……今日はここで野営にしよう」
「賛成です。ルナ様の体力を考えても、今は休むべきでしょう」
ヴィクトルが頷き、すでに薪を拾い集め始める。
「やったー! 川もあるし、ここなら気持ちいい夜になりそう!」
フィンは嬉しそうに水を汲みながら声を上げた。
シグはルナフィエラを抱いたまま静かに言う。
「……異論はねぇ。ここなら水もある。俺が見張る」
こうして一行は川辺に腰を落ち着け、焚き火の準備を始めた。
ルナフィエラは仲間たちの動く気配を夢の中で感じながら、守られる温もりの中で小さく眠りへと落ちていった。
どれほど眠っていたのだろう。
ふと目を覚ますと、焚き火はすっかり大きくなり、赤々とした炎が夜の闇を照らしていた。
ルナフィエラは自分がまだシグの膝の上にいることに気づき、驚きと共に小さく瞬きをする。
「……あ」
身体を起こそうとした瞬間、背を支える温もりに気づく。
視線を上げれば、焚き火の明かりに浮かぶシグの無骨な横顔。どうやら眠っている間、ずっと抱えていてくれたらしい。
「……起きたか」
低い声が落ちて、焚き火の橙に照らされた横顔が映る。
ルナフィエラは小さく頷き、頬を赤らめた。
「……ずっと、ありがとう。重かったでしょ?」
「問題ねぇ。……お前は軽い」
素っ気ない声音なのに、腕の力は緩まない。
ルナフィエラは少し体を起こし、背中を彼に預けるようにして座り直した。
無骨な腕が自然と回され、背もたれのように支えてくれる。
そのとき、隣からいい匂いが漂ってきた。
視線を向ければ、焚き火の傍らでヴィクトルが鍋をかき混ぜている。
保存食の干し肉や野菜を煮込んでスープにしたものだ。
「お目覚めですか、ルナ様。……少しですが、召し上がれますよ」
深い紅の瞳と共に差し出された木の椀。
中には柔らかくほぐされた肉と野菜が浮かび、香草の香りが湯気と共に立ちのぼる。
「……わ、私のために?」
「はい。固いままでは召し上がりにくいでしょうから」
穏やかな声に胸がじんわりと熱くなる。
スプーンを受け取り、一口含めば――体の芯まで温めるような優しい味わい。
「……おいしい」
その呟きに、ヴィクトルの瞳が静かに和らぐ。
隣ではフィンが「僕も手伝ったんだよ!」と胸を張り、ユリウスは焚き火の火力を調整しながら「食べ終えたら少し休んでから寝よう」と淡々と告げる。
焚き火の赤、仲間の声、背中に伝わるシグの体温――。
それらすべてが心を温め、ルナフィエラは安心の吐息をもらしながら、スープをひと口、またひと口と口に運んでいった。
簡素な夕食を終えた一行は、しばし小さな会話を交わしながら炎を囲んでいた。
焚き火の炎が静かに揺れ、川のせせらぎが夜気に溶け込む。
「……そろそろ休むといい」
ユリウスが焚き火越しに静かに告げると、フィンが明るく頷いた。
「うん、ルナは今日は大変だったしね。もう寝た方がいいよ」
その言葉に異を唱える者は誰もいなかった。
ヴィクトルが自然に立ち上がり、ルナフィエラへ手を差し伸べる。
「ルナ様、こちらへ」
彼女はシグの膝の上で身を預けていたが、差し出された手を取ると、ヴィクトルに導かれるまま寝床へと移った。
シグは何も言わずに彼女を手放し、フィンと共に見張りの段取りを話し合い始める。
ユリウスも加わり、三人は当然のように「今夜はヴィクトルが隣だ」と受け止めていた。
毛布の上に身を横たえると、ヴィクトルは迷わず彼女の背に腕を回し、優しく抱き込む。
焚き火の灯りに照らされる紅の瞳が、深い愛情を湛えていた。
ルナフィエラは仮眠を取ったせいか、すぐには眠気が訪れず、ぽつりと尋ねる。
「……ヴィクトルも、旅慣れしているみたい。どうして?」
一瞬だけ言葉に詰まった後、彼は静かに答えた。
「……ルナ様を、100年探しておりましたので」
紅い瞳が大きく揺れる。
「……そうだった……ごめんね、私……」
謝罪の声に、ヴィクトルは首を振る。
「いいえ。ルナ様が悪いわけではありません。あの時、城に残られていたら……今ここにルナ様はいなかったでしょう。それほどまでに、あの状況は悲惨だったのです」
彼女の胸に生まれた申し訳なさと不安を敏感に感じ取ったのか、ヴィクトルは彼女の名を優しく呼んだ。
「……ルナ様」
顔を上げると、彼の唇がそっと重なる。
温もりを宿した口づけは、仕える者としての忠誠と、恋人としての深い愛情を重ね合わせていた。
唇が離れると、ヴィクトルは彼女を強く抱きしめ、囁く。
「もう、ルナ様から離れることはありません」
その声に、胸の奥の不安がふっと解ける。
ルナフィエラは小さく「……うん」と頷き、彼の腕の中に身を委ねた。
彼女の呼吸が次第に穏やかになり、安らかな眠りへ落ちていく。
ヴィクトルは腕の中の温もりを確かめるように目を閉じ、その夜はただひとり――彼女を抱きしめながら幸福を噛みしめていた。
大きな腕に包まれる安心感に、まぶたは自然と重くなっていく。
「……よく頑張ったな」
低く落ちた声が耳に残り、彼女は小さく息を吐いて微睡んだ。
そんな彼女の様子を見て、ユリウスが周囲を見渡す。
「もう日も傾き始めている。この先の山道を進むのは危険だ。……今日はここで野営にしよう」
「賛成です。ルナ様の体力を考えても、今は休むべきでしょう」
ヴィクトルが頷き、すでに薪を拾い集め始める。
「やったー! 川もあるし、ここなら気持ちいい夜になりそう!」
フィンは嬉しそうに水を汲みながら声を上げた。
シグはルナフィエラを抱いたまま静かに言う。
「……異論はねぇ。ここなら水もある。俺が見張る」
こうして一行は川辺に腰を落ち着け、焚き火の準備を始めた。
ルナフィエラは仲間たちの動く気配を夢の中で感じながら、守られる温もりの中で小さく眠りへと落ちていった。
どれほど眠っていたのだろう。
ふと目を覚ますと、焚き火はすっかり大きくなり、赤々とした炎が夜の闇を照らしていた。
ルナフィエラは自分がまだシグの膝の上にいることに気づき、驚きと共に小さく瞬きをする。
「……あ」
身体を起こそうとした瞬間、背を支える温もりに気づく。
視線を上げれば、焚き火の明かりに浮かぶシグの無骨な横顔。どうやら眠っている間、ずっと抱えていてくれたらしい。
「……起きたか」
低い声が落ちて、焚き火の橙に照らされた横顔が映る。
ルナフィエラは小さく頷き、頬を赤らめた。
「……ずっと、ありがとう。重かったでしょ?」
「問題ねぇ。……お前は軽い」
素っ気ない声音なのに、腕の力は緩まない。
ルナフィエラは少し体を起こし、背中を彼に預けるようにして座り直した。
無骨な腕が自然と回され、背もたれのように支えてくれる。
そのとき、隣からいい匂いが漂ってきた。
視線を向ければ、焚き火の傍らでヴィクトルが鍋をかき混ぜている。
保存食の干し肉や野菜を煮込んでスープにしたものだ。
「お目覚めですか、ルナ様。……少しですが、召し上がれますよ」
深い紅の瞳と共に差し出された木の椀。
中には柔らかくほぐされた肉と野菜が浮かび、香草の香りが湯気と共に立ちのぼる。
「……わ、私のために?」
「はい。固いままでは召し上がりにくいでしょうから」
穏やかな声に胸がじんわりと熱くなる。
スプーンを受け取り、一口含めば――体の芯まで温めるような優しい味わい。
「……おいしい」
その呟きに、ヴィクトルの瞳が静かに和らぐ。
隣ではフィンが「僕も手伝ったんだよ!」と胸を張り、ユリウスは焚き火の火力を調整しながら「食べ終えたら少し休んでから寝よう」と淡々と告げる。
焚き火の赤、仲間の声、背中に伝わるシグの体温――。
それらすべてが心を温め、ルナフィエラは安心の吐息をもらしながら、スープをひと口、またひと口と口に運んでいった。
簡素な夕食を終えた一行は、しばし小さな会話を交わしながら炎を囲んでいた。
焚き火の炎が静かに揺れ、川のせせらぎが夜気に溶け込む。
「……そろそろ休むといい」
ユリウスが焚き火越しに静かに告げると、フィンが明るく頷いた。
「うん、ルナは今日は大変だったしね。もう寝た方がいいよ」
その言葉に異を唱える者は誰もいなかった。
ヴィクトルが自然に立ち上がり、ルナフィエラへ手を差し伸べる。
「ルナ様、こちらへ」
彼女はシグの膝の上で身を預けていたが、差し出された手を取ると、ヴィクトルに導かれるまま寝床へと移った。
シグは何も言わずに彼女を手放し、フィンと共に見張りの段取りを話し合い始める。
ユリウスも加わり、三人は当然のように「今夜はヴィクトルが隣だ」と受け止めていた。
毛布の上に身を横たえると、ヴィクトルは迷わず彼女の背に腕を回し、優しく抱き込む。
焚き火の灯りに照らされる紅の瞳が、深い愛情を湛えていた。
ルナフィエラは仮眠を取ったせいか、すぐには眠気が訪れず、ぽつりと尋ねる。
「……ヴィクトルも、旅慣れしているみたい。どうして?」
一瞬だけ言葉に詰まった後、彼は静かに答えた。
「……ルナ様を、100年探しておりましたので」
紅い瞳が大きく揺れる。
「……そうだった……ごめんね、私……」
謝罪の声に、ヴィクトルは首を振る。
「いいえ。ルナ様が悪いわけではありません。あの時、城に残られていたら……今ここにルナ様はいなかったでしょう。それほどまでに、あの状況は悲惨だったのです」
彼女の胸に生まれた申し訳なさと不安を敏感に感じ取ったのか、ヴィクトルは彼女の名を優しく呼んだ。
「……ルナ様」
顔を上げると、彼の唇がそっと重なる。
温もりを宿した口づけは、仕える者としての忠誠と、恋人としての深い愛情を重ね合わせていた。
唇が離れると、ヴィクトルは彼女を強く抱きしめ、囁く。
「もう、ルナ様から離れることはありません」
その声に、胸の奥の不安がふっと解ける。
ルナフィエラは小さく「……うん」と頷き、彼の腕の中に身を委ねた。
彼女の呼吸が次第に穏やかになり、安らかな眠りへ落ちていく。
ヴィクトルは腕の中の温もりを確かめるように目を閉じ、その夜はただひとり――彼女を抱きしめながら幸福を噛みしめていた。
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