純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

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第七章:恋を知る夜、愛に包まれる朝

第123話・果てしない想いの先で

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フィンの無垢で真っ直ぐな愛に包まれ、
すっかり力を抜いたルナフィエラを、ヴィクトルがそっと抱き寄せた。

「……ルナ様。今度は私が」

低く甘い声とともに、彼の温もりが彼女を包み込む。
その瞬間、紅い瞳が大きく揺れ、小さく息を呑む。

(……触れられただけで、こんな……)

呼吸は浅く、胸の奥がじんわりと熱を帯びていく。
その変化に戸惑いながらも、彼女はそのぬくもりに身を委ねていった。

「……ヴィクトル……ごめんね………ちょっと、休ませて……」

うるんだ瞳で懇願され、彼の胸が強く締めつけられた。

「……承知しました」

抱きしめたまま、そっと額を彼女の髪に預けるように伏せる。
けれど、胸の内に秘めた想いが静かに揺れ、微かな熱が疼いた。

気を逸らすように水差しを手に取り、彼は一口だけ口に含むと、そっと彼女へと寄せる。
冷たい雫が彼女の喉を潤すと、ルナフィエラはわずかに目を細めた。

「ん……っ」

小さな吐息が漏れ、彼女の睫毛がふるふると揺れる。

「……っ……」

ルナフィエラはぷくっと頬を膨らませ頬を赤らめる。
その愛らしさに、ヴィクトルは心が抑えきれず軋むのを感じた。

「……申し訳ありません、ルナ様……もう、これ以上は……」

彼女の静かな瞳が、すべてを受け入れるように見上げてくる。
そして、再びあたたかな空気に包まれた。


――やがて、ヴィクトルの腕から解き放たれたルナフィエラを、ユリウスが優しく抱き上げる。
ベッドに背を預けるよう導かれ、その膝の上に座らされた彼女は、彼の深い瞳に引き込まれるように見つめた。

「……ルナ。君の意思で、僕を受け入れてほしい」

その声は穏やかで、けれどどこか誇り高く、彼女の心に届いてくる。
紅い瞳を潤ませながら、小さく頷いた。

寄り添った瞬間、心の奥まで響くような感覚に、ルナフィエラは思わず息を呑む。

彼の指先がそっと髪に触れ、静かに唇が重なった。
胸の奥が温かく満ちて、思わず瞼が震える。

(……どうして、こんなに……)

支える腕はしっかりと強く、彼の囁きはまるで子守唄のように耳をくすぐる。

「……可愛いよ、ルナ。君は本当に、僕を夢中にさせる……」

その言葉に胸が熱くなる。

「ルナ……もっと、僕に委ねて」

彼の声が、深く心に染み込む。

それだけで、思考が霞み、何も考えられなくなっていく。
彼の温もりと言葉だけで、世界が満たされていくようだった。


――そして。

ユリウスの腕の中で静かに目を閉じたルナフィエラは、
ふと気づけば、もう自分の力だけでは動けないほどになっていた。

彼女を見つめるシグの眉が、ほんのわずかに寄る。

(……また、最後か)

その苛立ちは、彼女ではなく、自分に向けられたものだった。
小さな体に無理をさせないよう、いつも最後になる――
その役回りが、彼の胸に鈍く突き刺さっていた。

「……シグ……」

掠れた声が、空気の中に落ちる。

シグは答えず、背後からその小さな体をそっと抱きしめた。

全身に伝わる、逞しくあたたかなぬくもり。
その腕の中にいる限り、彼女は不思議と安心していられる。

彼の手が腰を支え、ゆっくりと背を撫でる。
その荒々しくも優しい動きが、ただ静かに心を満たしていった。


胸の奥がじんわりとあたたかくなり、
言葉にならない想いが、涙となって頬を伝う。

(……わたしは、愛されているんだ……)

彼ら全員に。

その事実が、何よりも彼女を包み、癒し、深く満たしていく。

最後にはただ穏やかに、
シグの腕の中で深く呼吸しながら――
ルナフィエラは、幸せに満たされたまま、意識を委ねていった。


幾度も優しい想いを注がれ、心まで満たされたルナフィエラは、穏やかな安らぎに包まれると、そのまま静かに意識を手放していた。
胸の奥から広がる幸福感に守られるように、深い眠りへと落ちていく。

「……寝ちまったな」

低く呟いたシグに、他の3人は静かに頷き合う。

ユリウスは彼女の衣服を整え、ヴィクトルは髪を撫でながら汗を拭い取る。
フィンは寝床を整え、毛布を掛けやすいように準備を進めた。
誰に言われるでもなく、それぞれが自然に役割を果たしていく。

最後に、シグがルナフィエラを抱き上げ、整えられた寝台へとそっと横たえる。
彼自身も隣に身を横たえ、大きな腕で彼女を包み込む。
柔らかな髪を撫でながら、眠りにつく彼女の頭を胸に抱き寄せた。

「……安心して眠れ」

囁きは低く、けれど優しく温かかった。

ルナフィエラの安らかな寝息が重なり、4人の胸に静かな安堵が広がる。
やがてユリウス、ヴィクトル、フィンもそれぞれの寝床に身を横たえ、
長い夜は穏やかに幕を閉じていった。
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