純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

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第十章:星霜の果て、巡り逢う

第173話・眠りの席をめぐって、甘い温度が揺れ動く

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「……ルナ。ここに座ると言い」

ユリウスがルナの肩に軽く触れ、ソファーへ導いた。
使用人が用意してくれたお茶を手に取り、流れるような仕草で注いでくれる。

「巻き込まれると厄介だ。……飲んで落ち着こう」

「う、うん……」

カップを両手で持ち、そっと息をふく。
甘い香りが広がる──けれど部屋の中心では、甘さどころではない空気が渦を巻いていた。

ベッドの前で、3人が仁王立ちしている。

ヴィクトルは静かに、しかし明確に殺気のような気迫をまとい、フィンは笑顔のまま闘志を燃やし、シグは腕を鳴らしている。

まるで決闘前。

(ちょっと、怖い……)

ユリウスは隣でお茶を一口飲みながら、どうでもよさそうに言った。

「……始まったな」

「は、始まったって……あの……止めなくていいの……?」

「止まるなら最初からこうはなっていない」

(それは……そうかもしれないけど……!)

ユリウスが肩をすくめた瞬間。
白熱の三つ巴、開幕。

フィンが真っ先に手を挙げた。

「はいっ! 今日のルナの隣、僕!!」

「なぜお前が当然のように前に出るんだ」

ヴィクトルが無表情のまま、しかし目が笑っていない。

「え? だってルナ、僕の隣にいると安心して寝てたでしょ?」

「それは私も同じだ。むしろ私のほうが回数は多い」

「数とかもう関係ないじゃん!!」

するとシグが低く切り込んだ。

「……落ち着け。今日のルナは色々あって疲れてる。
なら“寝かしつけに長けてるやつ”が隣でいいだろう」

「では私だな」

ヴィクトルが即答。

「僕もだけど!!」

フィンが食い気味に叫ぶ。

「俺もだ」

シグが静かに腕を組む。
三者三様、主張がまったく譲らない。

言い合いはさらにヒートアップしていく。

「ルナ様は私の腕の中で最も深く眠られていた」
「フィンの腕じゃ安定しない」
「誰が安定しないって!?」

「お前らの声が安定しねぇんだよ……」

シグが頭をかきながら低く唸る。

「寝返りをうった時のルナ様の位置まで私は把握している」
「それ自慢なの!?」

「俺だって抱えたまま寝かしたことあるぞ」
「シグの腕、痛そう……」
「喧嘩売ってんのかお前」

(や、やめて……!)

まるで昔の光景が蘇ったみたいで、胸がちくりと切なくて、でも同時にくすぐったくなる。

ルナはそっとユリウスを見上げた。

「ユリウスは……いかないの?」

ユリウスはカップを傾けながら、呆れたような、でもどこか楽しそうな目をしている。

「……あの中に飛び込みたいと思うか?」

「…………やめとく」

「賢明だ」

ユリウスが静かに微笑み、ふたたびお茶へ視線を落とす。

争いはさらに泥沼へ。

フィン:「ルナの寝相、可愛いよね!」
ヴィクトル:「……可愛いとかそういう問題ではありません。危なくないように支えるのが先です」
シグ:「……お前ら、本気でうるせぇ」

3人が一斉に睨み合う。

争いがヒートアップしていく中、ルナはそっとカップを置き、小さく息を吐いた。

「……あのね」

3人は聞いていない。

そして──
諦め半分、ぼそりと本音が漏れた。

「……私、一人で寝ても大丈夫なんだけど……」

たったその一言。

それだけで──
空気が “ピタッ” と止まった。

3人の首が、ぎぎぎ……と揃ってこちらを向く。
瞳だけが鋭く光り──

「「「………………は?」」」

室温が数度下がった気がした。
ユリウスだけが深々とため息をつき、お茶をすする。

「あーあ……言ったな、ルナ」

「えっ、な、なに……?」

ヴィクトルが優しい笑顔のまま、声だけ氷点下になる。

「ルナ様が──ひとりで、寝る?」

フィンの笑顔が引きつる。

「や、やだよそれ!!」

シグは低く、地鳴りみたいに言う。

「……ありえねぇ」

3人の圧が一気にルナへ迫る。

(…………言わなきゃよかった)

ユリウスはカップを置き、静かに言った。

「ほら見ろ。
これだから余計なことは言わない方がいいんだ」
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