【完結】純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

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第十章:星霜の果て、巡り逢う

第172話・湯気の余白に、4つの想いが触れる夜

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湯浴みを終え、髪を拭きながら廊下へ出た瞬間──

「ルナ様!」

「ルナー!」

左右から2つの影が滑り込むように現れた。
ヴィクトルとフィンだ。

(……え?)

2人とも髪がまだ少し湿っている。
つまり──自分たちの支度を最速で済ませ、ここでルナが出てくるのを待っていたということ。

「……湯冷めしてしまいます。ルナ様、こちらを」

ヴィクトルは懐からと薄手のストールを取り出す。
湯上がりに合わせて温度調整までされた、ごく柔らかな布。

肩に優しく掛けながら、触れる指先はどこまでも丁寧で、慎重だった。

「あとで温かいお茶もお持ちします」

その声音は、やはり“世話を焼ける幸福”に浸ってる。

(……そこまで準備しているの……?)

と驚く間もなく──
反対側から腕をぐいっと抱き寄せられた。

「ルナー……っ、湯上がりでほかほかしてる……かわい……!」

フィンだ。

距離が、近い。
近すぎる。

ルナの顔の横に、彼の頬がふわっと触れそうなほどの位置。

すぐさまヴィクトルが低く釘を刺す。

「フィン、ルナ様が歩けません。離れなさい」

「えぇー? 湯上りのルナ、めちゃくちゃ可愛いんだよ? 今離れるとか無理」

と言いながら、フィンはルナの手を両手で包み込み、じーっと見つめてくる。

目が完全に“とろけて”いた。

(……なんかもう…逆に何も言えない……)

湯浴みを手伝ってくれた使用人に礼を言う間も、2人は自然にルナの左右に寄り添い、歩幅まで合わせてついてくる。

ヴィクトルは歩くたびに肩のストールを整え、
フィンは嬉しそうに手を握ったまま話しかけてくる。

「ルナー、髪まだ少し濡れてるよ? あとで僕が……乾かしていい?」

「フィン。それはまず私に確認を──」

「いいよね? ルナ!」

「……あ、あのね……」

心の奥でそっとため息をつく。
この勢いを止めるのは、今日だけに限らず、一生無理だろう。

そんな確信を覚えながら、半ば諦めるように2人に身を預けた。


その後、案内されたのは皇族寮の中でも広めの客室。

壁には淡い光色の魔灯。
ソファーやテーブルも落ち着いた質感で整えられ、ふわりと温かい香りが漂っている。

(……きれい……)

さすがは皇族や大公家が使う寮。
“学生寮”という言葉から想像されるものとはまるで違う。

(こんな素敵な部屋を……用意してくれたんだ……)

ふわりと胸が温かくなる。

けれど──
その温度を壊さない程度の“違和感”が、すぐに空気を刺した。

近くにいたユリウスとシグが、黙ったまま部屋の奥を見つめている。

その視線の先にあるのは──
中央に置かれた一台のベッド。

広いベッド。
ふかふかで、すごく寝心地がよさそう。

……でも。

(…………あれ?これ、3人……が限界?)

横幅を見ただけで、なんとなくわかる。
そして気づいた瞬間、4人の“微妙な空気”の理由も理解してしまった。

(……あ。……そういうこと……?)

ルナはゆっくり振り返る。

4人とも、静かに──
しかし目の奥に火花みたいなものを宿して、ベッドを見ていた。

ヴィクトルは無言で拳を握りしめ、フィンは笑っているけど明らかに“負ける気ゼロ”の顔。

シグは腕組みの圧が凄まじく、ユリウスはこめかみに手を当てていた。

“どう考えても、争いになる”

ほんの数時間前に再会を果たしたばかりだというのに──
この空気は、前世の頃とまったく同じで。


そして、空気がぴしりと張りつめる。
誰も言葉を発していないのに、4人の間にある“無言の会話”が聞こえてしまうようだった。

──今日、誰がルナの隣で寝るか。
──誰も譲る気がない。
──どう考えても、全員がルナと寝たい。

ルナはベッドと4人を見比べて、そっと視線を落とす。

困惑。
でも、少しだけ、くすぐったいほどの幸福。
こんな風に想われる日が、また来るなんて思っていなかったから。

「……さて」

ユリウスが深いため息を落とした。

「予想通り、これは問題だな」

シグが腕を組んだまま呟く。

「お前ら……今夜譲る気、ないよな?」

ヴィクトルはきっぱりと。

「当然です」

フィンもにこにこしながら。

「僕も。絶対に」

(……でもやっぱり……3人までしか寝れない……よ…ね…?)

ひっそり思う私を中心に、みんなの気配はますます熱を帯びていった。
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