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第十章:星霜の果て、巡り逢う
第177話・甘やかな視線に囲まれて
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こうして──
ルナの学園生活は、4人の騎士たちに囲まれたまま始まった。
朝、目を覚ませば、視界の両側にルナの手を握ったまま眠るヴィクトルとフィンの姿がある。
「……おはようございます、ルナ様」
「ん……ルナ、おはよ……まだ寝ててもいいよ」
目は覚めているのに、どちらも離す気はないらしい。
指を絡めたまま、確かめるようにそっと手を寄せてくる。
ベッドの端では、ユリウスが静かに微笑んでいた。
「……その顔が見られれば、今日も悪くない」
少し離れたところで腕を組んでいたシグは、照れたように目を細める。
「寝起きのルナは……反則だ」
朝から、やけに甘い。
教室に入ると、フィンは当然のように先回りしていた。
「ルナ、ここね。ほら、座って。鞄は僕が持つから」
机も椅子もすでに整えられている。
ルナが腰を下ろすと同時に、フィンは隣の席へすべり込むように座った。
「さてと。今日からの授業、全部サポートするから。
魔法理論の小テストも、ほら、見てあげるね」
「……あ、うん。でもフィン、自分の勉強は……?」
「僕はいいよ。全部頭に入ってるし」
サラッと答えながら、教科書を開く。
“読むだけで理解できる天才”──フィンはそういう存在だ。
だから授業を聞く必要もなく、すべての時間を惜しみなくルナに使う。
ノートを取ろうとすればインクを補い、難しい式は簡潔に噛み砕いて説明してくれる。
「ここはね、こういう考え方をすると分かりやすいよ。
うん、ルナはこのやり方の方が合っていると思う」
視線は優しく、声音は甘い。
あまりにも近くて、あまりにも丁寧で。
これはもう、“授業”というより“フィンの個人指導”だった。
周囲の視線が、ひりひりと刺さる。
すると先生が、明らかに意地悪く、黒板に追加の問題を書き出した。
「では──フィン・ノクスフェルド。
1年生には少し難しいかもしれないが……解けるか?」
クラスがざわっとする。
フィンはペンを軽く回し、気の抜けた笑顔で答えた。
「はーい。できますよー」
立ち上がり、数秒で式を組み立て、きれいな文字で迷いなく黒板に解答を書き上げる。
先生の目がピクリと震えた。
「……ま、間違いは……ない……」
(すごい……)
周りの生徒たちが「またかよ」「やっぱ天才だな」と小声で騒ぐ。
先生が悔しそうに唇を噛んだのが見えた。
すると、後ろのほうでクスクス笑いが起きる。
フィンは何事もなかったように席へ戻り、ルナの隣に座る。
席につくと、ルナの髪が少し乱れているのに気づき、さりげなく指先で整えてくれる。
「……フィン、すごいね」
「え? 何が?」
「難しい問題なのに……すぐ解けて……」
フィンは少しだけ照れたように笑った。
「だってルナの隣にいたいから。
授業の内容くらい、先に全部終わらせておかないとね?」
(……そんな理由……ずるいよ…)
胸がまた熱くなる。
「だからね、ルナ。
僕に頼っていいんだよ。いつでも、全部」
声は優しくて、どこまでも真っ直ぐで。
その言葉が、どれほど心を支えてくれているか──
ルナ自身、まだうまく言葉にできなかった。
昼休みの鐘が鳴ると、教室の空気が一変した。
廊下の向こうから、低いざわめきが押し寄せてくる。
ルナはきょとんと瞬きをして、騒ぎの中心が廊下にあるらしいと気づく。
(な、なに……?)
思わず隣を見ると、フィンはノートを閉じながら、いつもの調子で肩をすくめた。
「……あぁ、ヴィクトルだよ」
「えっ……そんなに人気なの?」
小声で耳打ちすると、フィンは少しだけ苦笑する。
「まあ、公爵家だしね。顔もよくて、婚約者もいないし……
“狙ってる令嬢”は多いよ。……かわいそうなくらい」
言い方に、なぜか本気の同情がにじむ。
そのとき──
扉が、静かに開いた。
「──」
一瞬で、教室が息を呑む。
黒髪を整え、制服を完璧に着こなした公爵家の嫡男、ヴィクトル・ノワルデイン。
騒ぎが一斉に大きくなる。
「きゃああ……っ!」「今日も……来た……!」「尊い……!」
ルナは目を瞬かせるしかなかった。
(え……? 毎回こんな感じなの……?)
ルナの疑問と驚きなど、ヴィクトルには一切届いていないかのように。
彼は迷いなく、一直線にルナの机へ歩いてくる。
そしてルナの目の前で膝を折るように腰を落とし、柔らかい声で言った。
「ルナ様。……昼食へ参りましょう」
その声音だけは、周囲に向けられる完璧な貴族の仮面ではなく──
ルナにだけ向けられる、溶けるような甘さだった。
フィンがルナの耳元で小さく囁く。
「ね? でも、ルナしか見てないから」
(そ、そうなんだ……)
ルナは慌てて立ち上がろうとするが──
ほんの瞬きの間に、ヴィクトルの指先がそっとルナの手を包み込んだ。
自然すぎる。
迷いが一切ない。
「……こうしてお迎えできるとは。……何度でも夢かと思ってしまいますね」
その一言に、ルナの心臓がどくん、と跳ねた。
女子たちの「キャーーー!!」「何その甘さ!?」「聞いてない!!」という叫びが背景に遠のく。
ヴィクトルはルナの手を握ったまま、そのまま教室を後にする。
フィンもノートと鞄をまとめながら涼しい顔で続いた。
すると、一拍遅れて、「ええええーーーっ!!」
と、女子たちの悲鳴とため息が廊下いっぱいに響く。
ルナは振り返って小さく呟いた。
「……す、すごいね……」
フィンは楽しそうに笑う。
「いつものことだよ。ヴィクトルが来ると、だいたいこうなる」
(…………毎日こんな感じは……慣れない……)
けれど手を引かれる温もりは、確かに、前世で何度も感じた愛情そのものだった。
ルナの学園生活は、4人の騎士たちに囲まれたまま始まった。
朝、目を覚ませば、視界の両側にルナの手を握ったまま眠るヴィクトルとフィンの姿がある。
「……おはようございます、ルナ様」
「ん……ルナ、おはよ……まだ寝ててもいいよ」
目は覚めているのに、どちらも離す気はないらしい。
指を絡めたまま、確かめるようにそっと手を寄せてくる。
ベッドの端では、ユリウスが静かに微笑んでいた。
「……その顔が見られれば、今日も悪くない」
少し離れたところで腕を組んでいたシグは、照れたように目を細める。
「寝起きのルナは……反則だ」
朝から、やけに甘い。
教室に入ると、フィンは当然のように先回りしていた。
「ルナ、ここね。ほら、座って。鞄は僕が持つから」
机も椅子もすでに整えられている。
ルナが腰を下ろすと同時に、フィンは隣の席へすべり込むように座った。
「さてと。今日からの授業、全部サポートするから。
魔法理論の小テストも、ほら、見てあげるね」
「……あ、うん。でもフィン、自分の勉強は……?」
「僕はいいよ。全部頭に入ってるし」
サラッと答えながら、教科書を開く。
“読むだけで理解できる天才”──フィンはそういう存在だ。
だから授業を聞く必要もなく、すべての時間を惜しみなくルナに使う。
ノートを取ろうとすればインクを補い、難しい式は簡潔に噛み砕いて説明してくれる。
「ここはね、こういう考え方をすると分かりやすいよ。
うん、ルナはこのやり方の方が合っていると思う」
視線は優しく、声音は甘い。
あまりにも近くて、あまりにも丁寧で。
これはもう、“授業”というより“フィンの個人指導”だった。
周囲の視線が、ひりひりと刺さる。
すると先生が、明らかに意地悪く、黒板に追加の問題を書き出した。
「では──フィン・ノクスフェルド。
1年生には少し難しいかもしれないが……解けるか?」
クラスがざわっとする。
フィンはペンを軽く回し、気の抜けた笑顔で答えた。
「はーい。できますよー」
立ち上がり、数秒で式を組み立て、きれいな文字で迷いなく黒板に解答を書き上げる。
先生の目がピクリと震えた。
「……ま、間違いは……ない……」
(すごい……)
周りの生徒たちが「またかよ」「やっぱ天才だな」と小声で騒ぐ。
先生が悔しそうに唇を噛んだのが見えた。
すると、後ろのほうでクスクス笑いが起きる。
フィンは何事もなかったように席へ戻り、ルナの隣に座る。
席につくと、ルナの髪が少し乱れているのに気づき、さりげなく指先で整えてくれる。
「……フィン、すごいね」
「え? 何が?」
「難しい問題なのに……すぐ解けて……」
フィンは少しだけ照れたように笑った。
「だってルナの隣にいたいから。
授業の内容くらい、先に全部終わらせておかないとね?」
(……そんな理由……ずるいよ…)
胸がまた熱くなる。
「だからね、ルナ。
僕に頼っていいんだよ。いつでも、全部」
声は優しくて、どこまでも真っ直ぐで。
その言葉が、どれほど心を支えてくれているか──
ルナ自身、まだうまく言葉にできなかった。
昼休みの鐘が鳴ると、教室の空気が一変した。
廊下の向こうから、低いざわめきが押し寄せてくる。
ルナはきょとんと瞬きをして、騒ぎの中心が廊下にあるらしいと気づく。
(な、なに……?)
思わず隣を見ると、フィンはノートを閉じながら、いつもの調子で肩をすくめた。
「……あぁ、ヴィクトルだよ」
「えっ……そんなに人気なの?」
小声で耳打ちすると、フィンは少しだけ苦笑する。
「まあ、公爵家だしね。顔もよくて、婚約者もいないし……
“狙ってる令嬢”は多いよ。……かわいそうなくらい」
言い方に、なぜか本気の同情がにじむ。
そのとき──
扉が、静かに開いた。
「──」
一瞬で、教室が息を呑む。
黒髪を整え、制服を完璧に着こなした公爵家の嫡男、ヴィクトル・ノワルデイン。
騒ぎが一斉に大きくなる。
「きゃああ……っ!」「今日も……来た……!」「尊い……!」
ルナは目を瞬かせるしかなかった。
(え……? 毎回こんな感じなの……?)
ルナの疑問と驚きなど、ヴィクトルには一切届いていないかのように。
彼は迷いなく、一直線にルナの机へ歩いてくる。
そしてルナの目の前で膝を折るように腰を落とし、柔らかい声で言った。
「ルナ様。……昼食へ参りましょう」
その声音だけは、周囲に向けられる完璧な貴族の仮面ではなく──
ルナにだけ向けられる、溶けるような甘さだった。
フィンがルナの耳元で小さく囁く。
「ね? でも、ルナしか見てないから」
(そ、そうなんだ……)
ルナは慌てて立ち上がろうとするが──
ほんの瞬きの間に、ヴィクトルの指先がそっとルナの手を包み込んだ。
自然すぎる。
迷いが一切ない。
「……こうしてお迎えできるとは。……何度でも夢かと思ってしまいますね」
その一言に、ルナの心臓がどくん、と跳ねた。
女子たちの「キャーーー!!」「何その甘さ!?」「聞いてない!!」という叫びが背景に遠のく。
ヴィクトルはルナの手を握ったまま、そのまま教室を後にする。
フィンもノートと鞄をまとめながら涼しい顔で続いた。
すると、一拍遅れて、「ええええーーーっ!!」
と、女子たちの悲鳴とため息が廊下いっぱいに響く。
ルナは振り返って小さく呟いた。
「……す、すごいね……」
フィンは楽しそうに笑う。
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