【完結】純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

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第二章:4騎士との出会い

第5話・ヴィクトルの誓い

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ルナフィエラの手に落とされた口づけは、驚くほどに慎重で、敬意に満ちたものだった。
それは、ただの忠誠の証ではない。
まるで、何よりも大切なものに触れるような、静かで揺るぎない想いが込められていた。

「……私は、あなたを信じてもいいの?」

ルナフィエラの問いに、ヴィクトルは迷いなく答える。

「誓います」

「この命に代えても、貴女をお守りすると」

彼の紅い瞳が、真っ直ぐにルナフィエラを捉えている。
まるで、この瞬間だけを待ち続けていたかのように——。

けれど、ルナフィエラはまだ戸惑っていた。

(私は、100年間ずっと一人だった……)

(それなのに、この人は本当に、私を探し続けていたの?)

ヴィクトルは、一度ルナフィエラの手をそっと離し、静かに言葉を紡ぐ。

「……ルナフィエラ様」

「貴女は、100年間、孤独だったとお思いでしょう」

「ですが——」

「私は、その100年を、貴女を探すためだけに使いました」

ルナフィエラの胸が、かすかに震える。

(……100年、ずっと……?)



「王家が滅びた夜、私は全てを失いました」

ヴィクトルの声は、静かだった。
それでも、その言葉の裏には、計り知れない想いが滲んでいる。

「主君も、誇りも、居場所も……何もかもが、一夜にして失われた」

「ですが、ただ一つ——“貴女が生きている”という可能性だけが、私のすべてを繋ぎ止めたのです」

紅き月の夜、王宮が血に染まる中、彼は戦っていた。
王家を守るために。
誓いを果たすために。

しかし、気づいたときにはすでに全てが崩れ去り、ただひとり生き残っていた。

(なぜ、私は生き延びたのか——)

(この命に、もう意味はないのか——)

その問いに答えたのは、ただひとつの可能性 だった。

——まだ、守るべきものがあるかもしれない。

——もし、王家の血を継ぐ者が生きているのなら——。

「私は、王家の滅亡を受け入れることができなかったのではなく……貴女のいない世界を受け入れられなかったのです」

「だから、貴女を探し続けた」

「世界の果てにあるとしても、必ず見つけ出すと」

「しかし、貴女の行方を知る者は誰一人としていませんでした」

100年前の惨劇の後、ヴァンパイアの王家に仕えていた者たちも、ほとんどが命を落としていた。
生き残った者たちも、散り散りになり、王家の名を口にすることすら恐れていた。

ヴィクトルは、長い間、王家の遺された記録や、わずかに生き延びた者たちの証言を求めて各地を巡った。

だが、手がかりは何もなかった。
まるで、ルナフィエラの存在そのものが消え去ったかのように——。

それでも、彼は決して諦めなかった。

「……無駄な旅だったとは、一度も思いませんでした」

「貴女がどこかで生きている限り、私は歩みを止めることなどできなかったのです」

「それが、私にとって唯一の“意味”だったのだから」



「……私は、そんなにも……あなたにとって、大切な存在なの?」

ルナフィエラは、自分の声がかすかに震えているのを感じた。

彼の言葉が、あまりにも真っ直ぐで、あまりにも純粋すぎた。

彼にとって、ルナフィエラは「王家の生き残り」だから大切なのではない。

ただ、「ルナフィエラという存在」そのものが、彼の生きる意味になっていたのだ。

ヴィクトルは静かに頷く。

「ええ」

「私にとって、貴女は唯一無二の存在です」

「貴女がいなければ、私はとっくに存在する意味を失っていたでしょう」

ルナフィエラの胸が、強く締め付けられる。

(そんなふうに言われたの、初めて……)

彼は ただの忠誠の騎士ではない。

彼女のために生き、彼女のために存在し続けると誓った者——。

ルナフィエラは、戸惑いながらも、小さく息を吐いた。

「……私は、今までずっと、一人で生きてきたわ」

「誰も、私を探してなんていないと思ってた」

「だから……その言葉を、信じていいか…まだわからない…怖いの」

ヴィクトルは、その言葉を否定しなかった。

代わりに、彼はゆっくりとルナフィエラの手を取り、再びその指先に口づけを落とした。

「ならば、信じていただけるまで、お側にいさせてください」

「私は、貴女の騎士として——」

「何度でも誓いましょう」

その声は、100年という時を超えてなお、決して揺るぐことのないものだった。

ルナフィエラは、彼の紅い瞳をじっと見つめた。

彼が、嘘を言っているようには思えない。

むしろ、こんなにも 「ただ私の存在だけを求める人」 がいたことに、驚いていた。


「……なら、私があなたの言葉を信じられるようになるまで……傍にいてくれる?」

ヴィクトルの目が、微かに柔らぐ。

「ええ、ルナフィエラ様」

「この命が尽きるその時まで、私は貴女の傍を離れません」

ルナフィエラの心の奥に、ゆっくりと温かいものが満ちていく。

彼女の孤独に終止符を打つように、静かに運命の歯車が回り始めた——。
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