純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

第五章：みんなと歩く日常

第68話・旅路に咲く、優しさのかたち

朝の柔らかな陽光が街道に降り注ぐ中、5人はゆるやかなペースで歩いていた。
道の両脇には草花が揺れ、鳥のさえずりが遠くから聞こえる。

「ルナ、こっちの花、きれいだよ！」

フィンがルナフィエラの左手を握りながら、道端に咲く小さな花を指差して笑う。

その無邪気な笑顔に、ルナフィエラも自然と表情を和らげる。

「ふふ、ほんとだ。……ありがとう、フィン」

握られた手は温かくて、安心感に満ちていた。
フィンは、どこまでも自然にルナフィエラに寄り添ってくれる。

ルナフィエラの右隣には、いつも通りヴィクトルが控えていた。

「石が多い場所です。足元にはお気をつけください、ルナ様」

低く静かな声とともに、ルナフィエラがつまずきそうになるたびにすぐ腕を伸ばす。
まるで影のように、常にそばに寄り添い、過保護すれすれの近さで歩いていた。

先頭ではシグが鋭い視線で前方を見据えている。
背にはいつもの大斧を背負い、片手で地図を確認していた。

「この先で小さな休憩所がある。少し休んでいこう」

「うん、ありがとう。少し休みたいと思ってた……」

すぐに歩調を緩めたのは、ルナフィエラの異変を察知していたから。

その少し後方、周囲に気を配りながら歩くユリウスが柔らかく声をかけた。

「風も穏やかだし、今日は街まで無事にたどり着けそうだね」

魔力の繊細な感知能力で、何か異常があればすぐ察知できるのが彼の役割だ。

ルナフィエラを中心に自然と守るような陣形。
それは誰かが指示したわけでもなく、いつの間にか形作られていた。

今の彼女を大切に想う、4人それぞれの立ち位置がそのまま表れていた。



やがて、木々に囲まれた小さな泉のほとりにたどり着くと、シグが立ち止まり、皆に振り返った。

「ここでひと休みだ」

ルナフィエラが軽く頷くと、フィンは嬉しそうに彼女の手を引いて、泉のそばの石へと誘った。

「ほら、ルナ。ここ、座りやすそうだよ」

「ありがとう……フィン」

ルナフィエラが腰を下ろすと、すぐにヴィクトルが外套を広げて、彼女の背にふわりと掛けた。

「地面の冷えが伝わらなように。ルナ様。水を汲んでまいりますね」

そう言って、泉へ向かうヴィクトルの姿を目で追いながら、フィンが笑った。

「ヴィクトルって、ほんとお母さんみたいだよねぇ。……いや、お父さんかな？」

「どっちにしても、過保護だよね」

ルナフィエラがぽつりとつぶやくと、フィンがくすくすと笑う。

「でも、それだけ心配してるんだよ。……僕も、ルナの笑ってる顔が見れるなら、なんだってするけどね！」

そのまっすぐな言葉に、ルナフィエラは一瞬、目を瞬かせた。

（……やっぱり、フィンってまぶしいな）

そんなやりとりを少し離れて見ていたユリウスが、そっと近づいてきた。

「ルナ、水。冷たすぎないように魔法で少し温めておいたよ」

差し出された水筒を受け取りながら、ルナフィエラはふと、ユリウスの瞳に映る自分を見つめた。
少し前から、彼を見るたびに胸の奥が小さくざわめく。

「ありがとう、ユリウス……」

その一言が、なぜか少しだけ恥ずかしく感じられた。


しばらくの静けさの中、木々を通る風がそよぎ、泉の水面がきらきらと揺れた。

「そろそろ出よう」

先に立ち上がったシグの声に、皆がゆっくりと立ち上がる。

ルナフィエラがふらりと体を傾けたその瞬間、すぐさまヴィクトルの手が背を支えた。

「……大丈夫、少し立ちくらみがしただけ」

「では、しばらく私のそばを離れないようにお願いします。ルナ様」

やや強引に、けれどごく自然に彼女の手を引くヴィクトルの横で、
フィンが小さく拗ねたように口を尖らせた。

「僕だって、ずっとそばにいたのに～……！」

「フィンは軽いから支えにならない」

「ひどっ！」

そんな賑やかなやりとりが続く中、再び五人はゆっくりと街への道を歩き出した。