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第五章:みんなと歩く日常
第75話・夜が明けて、残るぬくもり
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ルナフィエラがゆっくりと瞼を開けると、目に入ったのは淡い光と、温かな腕の感触だった。
柔らかい毛布の中、彼女は誰かの胸元に抱かれるようにして眠っていた。
「……ん……」
小さく身じろぎすると、それに気づいたのか、彼の腕が優しく回される。
ルナフィエラが顔を上げるよりも早く、低く甘い声が耳元に届いた。
「おはよう。よく眠れた?」
その声に反応するように、ルナフィエラはゆっくりと顔を上げた。
視線の先にあったのは、銀色の髪と紫の瞳。
穏やかに笑むユリウスが、彼女を抱いたまま見つめていた。
「……ユリウス……?」
「うん。起こしちゃった?」
そのまま、彼はふわりとルナフィエラの額に唇を落とす。
一瞬のことで、ルナフィエラは目を瞬かせる。
「——っ……!」
驚いて顔を上げたその瞬間、
ユリウスの手が頬に添えられ、今度はその唇が、ルナフィエラの唇に触れた。
それは、優しくて、あたたかくて、
けれど思考を真っ白にするには十分だった。
「……っ……っっ……!!」
ルナフィエラの顔が瞬く間に真っ赤に染まり、目を見開いたまま固まる。
「……っ、な、な、なんで、⁉︎……っ」
言葉にならないまま、ルナフィエラは慌てて布団をかぶった。
もぞもぞと潜り込んだその姿があまりにも愛らしく、ユリウスは小さく笑う。
「朝からそんなに可愛い顔されたら……我慢できなくなるよ?」
布団の中でさらに赤くなったルナフィエラは、声も出せずに恥ずかしさに震えていた。
「でも、ちゃんと覚えてて。僕は、前にも言ったけど——本気だからね」
そう告げるユリウスの声は穏やかで、けれど確かな熱を含んでいた。
布団の中、ルナフィエラは胸元を押さえながら、静かに目を閉じる。
(……この気持ち、なんなんだろう……胸が、苦しいのに……嫌じゃない)
「……もう、出ておいで。苦しくない?」
布団の端をくい、と持ち上げると、そこには顔を真っ赤にしたまま目を逸らすルナフィエラがいた。
「……だめ。……まだ……むり……」
「可愛い」
つい漏れた言葉に、ルナフィエラはさらに小さく丸まってしまう。
その小さな背を、ユリウスはそっと抱き寄せ、後ろから優しく包み込んだ。
「……そんなふうに恥ずかしがるなら、もっとしたくなるのに」
「っ……! い、いじわる……」
「違うよ。大好きな子が、愛しくてたまらないだけ」
耳元で囁かれた言葉に、ルナフィエラの背筋がぴくりと震える。
「ユリウス……わたし、まだ……」
「うん、わかってる。焦らなくていい」
ユリウスの声は、深く穏やかだった。
そのままルナフィエラの髪に口づけ、頬に、首筋に——優しく、けれど執拗に甘やかすように。
「好きって言葉を、まだ返さなくてもいい。けど……感じてはほしい。僕がどれだけ、ルナのことを大切にしてるか」
「……わたし、わかんない、けど……でも……」
ルナフィエラはゆっくりと振り向き、潤んだ瞳で彼を見つめる。
「その……ぎゅってされるの、きらいじゃない、よ……」
「それは……嬉しいな」
微笑んだユリウスは、ルナフィエラを再び抱きしめ、今度はその額に静かに唇を落とす。
「ありがとう、ルナ」
やさしい声と、心地よい体温に包まれて。
ルナフィエラは静かに目を閉じた。
胸の奥で芽生えた何かが、確かに熱を帯びて広がっていくのを感じながら——。
朝の光が古城の食卓に差し込む頃。
長いテーブルには、湯気の立つスープや焼き立てのパン、色とりどりの果実が並び、心地よい香りが広がっていた。
「おはよう、ルナ!」
先に席についていたフィンが、ぱっと笑顔で手を振る。
その隣で、シグは軽く頷き、ヴィクトルは静かに立ち上がってルナフィエラの椅子を引いた。
「……ありがとう」
ルナフィエラはいつもよりほんの少し歩幅を狭めながら席に近づく。
顔を上げようとしながらも、目元がそわそわしていて、誰とも視線が合わない。
「……ルナ、なにかあったの?」
フィンが覗き込むように問いかけると、ルナフィエラはびくりと肩を震わせた。
「えっ……な、なんにも……」
慌てて首を振る様子に、シグがわずかに目を細める。
パンをちぎりながら、その視線は静かにユリウスへと流れていく。
ユリウスはいつものように悠然と食事をしていた。
が、その口元にはどこか得意げな笑みが浮かんでいた。
(また、なにかあったな)
3人の視線が、ほんの一瞬交差する。
けれどルナフィエラは、誰の視線にも気づかないふりをして、小さくパンをかじっていた。
頬がほんのり赤く染まっている。
照れ隠しに水を飲んでは、そっぽを向いて、また何かを口に運ぶ。
それがまた、不自然なほどに丁寧で——
「……ルナ様」
ヴィクトルが静かにスープを差し出すと、ルナフィエラはようやく顔を向けた。
「あ……ありがとう、ヴィクトル」
その瞬間、ふわりと優しい笑みを浮かべる。
それは、昨日までの彼女にはなかった柔らかさだった。
(……嫌がってる様子ではない)
ヴィクトルの目がわずかに和らぐ。
「……まあ、元気そうでよかったよ」
フィンも続けて、笑顔でフルーツをルナフィエラの皿に乗せてあげる。
「……食べすぎ注意、だけどねっ」
「ふふ……うん、ありがと……」
嬉しそうに笑うルナフィエラを、シグは黙って見守る。
だが、その手元のフォークは――果実を刺すには明らかに力が入りすぎていた。
(ユリウス……おまえ、どこまで踏み込んだ)
誰にも気づかれないように、鋭く一瞥を送る。
一方のユリウスはというと、ルナフィエラの隣でパンにジャムを塗りながら、彼女の皿にそっと添える。
「甘いのも、悪くない朝だよ」
「……うん」
ほんの一言だけど、ルナフィエラの声は小さく、けれど嬉しそうだった。
そして、彼女の指先がユリウスの袖口にちょこんと触れたのを、3人の視線は見逃さなかった。
(やっぱり……何か、あったな)
それぞれの胸に浮かぶ想いは違えど、
ルナフィエラが少しずつ誰かに心を寄せはじめていること。
それを、否応なく感じ取る朝だった。
柔らかい毛布の中、彼女は誰かの胸元に抱かれるようにして眠っていた。
「……ん……」
小さく身じろぎすると、それに気づいたのか、彼の腕が優しく回される。
ルナフィエラが顔を上げるよりも早く、低く甘い声が耳元に届いた。
「おはよう。よく眠れた?」
その声に反応するように、ルナフィエラはゆっくりと顔を上げた。
視線の先にあったのは、銀色の髪と紫の瞳。
穏やかに笑むユリウスが、彼女を抱いたまま見つめていた。
「……ユリウス……?」
「うん。起こしちゃった?」
そのまま、彼はふわりとルナフィエラの額に唇を落とす。
一瞬のことで、ルナフィエラは目を瞬かせる。
「——っ……!」
驚いて顔を上げたその瞬間、
ユリウスの手が頬に添えられ、今度はその唇が、ルナフィエラの唇に触れた。
それは、優しくて、あたたかくて、
けれど思考を真っ白にするには十分だった。
「……っ……っっ……!!」
ルナフィエラの顔が瞬く間に真っ赤に染まり、目を見開いたまま固まる。
「……っ、な、な、なんで、⁉︎……っ」
言葉にならないまま、ルナフィエラは慌てて布団をかぶった。
もぞもぞと潜り込んだその姿があまりにも愛らしく、ユリウスは小さく笑う。
「朝からそんなに可愛い顔されたら……我慢できなくなるよ?」
布団の中でさらに赤くなったルナフィエラは、声も出せずに恥ずかしさに震えていた。
「でも、ちゃんと覚えてて。僕は、前にも言ったけど——本気だからね」
そう告げるユリウスの声は穏やかで、けれど確かな熱を含んでいた。
布団の中、ルナフィエラは胸元を押さえながら、静かに目を閉じる。
(……この気持ち、なんなんだろう……胸が、苦しいのに……嫌じゃない)
「……もう、出ておいで。苦しくない?」
布団の端をくい、と持ち上げると、そこには顔を真っ赤にしたまま目を逸らすルナフィエラがいた。
「……だめ。……まだ……むり……」
「可愛い」
つい漏れた言葉に、ルナフィエラはさらに小さく丸まってしまう。
その小さな背を、ユリウスはそっと抱き寄せ、後ろから優しく包み込んだ。
「……そんなふうに恥ずかしがるなら、もっとしたくなるのに」
「っ……! い、いじわる……」
「違うよ。大好きな子が、愛しくてたまらないだけ」
耳元で囁かれた言葉に、ルナフィエラの背筋がぴくりと震える。
「ユリウス……わたし、まだ……」
「うん、わかってる。焦らなくていい」
ユリウスの声は、深く穏やかだった。
そのままルナフィエラの髪に口づけ、頬に、首筋に——優しく、けれど執拗に甘やかすように。
「好きって言葉を、まだ返さなくてもいい。けど……感じてはほしい。僕がどれだけ、ルナのことを大切にしてるか」
「……わたし、わかんない、けど……でも……」
ルナフィエラはゆっくりと振り向き、潤んだ瞳で彼を見つめる。
「その……ぎゅってされるの、きらいじゃない、よ……」
「それは……嬉しいな」
微笑んだユリウスは、ルナフィエラを再び抱きしめ、今度はその額に静かに唇を落とす。
「ありがとう、ルナ」
やさしい声と、心地よい体温に包まれて。
ルナフィエラは静かに目を閉じた。
胸の奥で芽生えた何かが、確かに熱を帯びて広がっていくのを感じながら——。
朝の光が古城の食卓に差し込む頃。
長いテーブルには、湯気の立つスープや焼き立てのパン、色とりどりの果実が並び、心地よい香りが広がっていた。
「おはよう、ルナ!」
先に席についていたフィンが、ぱっと笑顔で手を振る。
その隣で、シグは軽く頷き、ヴィクトルは静かに立ち上がってルナフィエラの椅子を引いた。
「……ありがとう」
ルナフィエラはいつもよりほんの少し歩幅を狭めながら席に近づく。
顔を上げようとしながらも、目元がそわそわしていて、誰とも視線が合わない。
「……ルナ、なにかあったの?」
フィンが覗き込むように問いかけると、ルナフィエラはびくりと肩を震わせた。
「えっ……な、なんにも……」
慌てて首を振る様子に、シグがわずかに目を細める。
パンをちぎりながら、その視線は静かにユリウスへと流れていく。
ユリウスはいつものように悠然と食事をしていた。
が、その口元にはどこか得意げな笑みが浮かんでいた。
(また、なにかあったな)
3人の視線が、ほんの一瞬交差する。
けれどルナフィエラは、誰の視線にも気づかないふりをして、小さくパンをかじっていた。
頬がほんのり赤く染まっている。
照れ隠しに水を飲んでは、そっぽを向いて、また何かを口に運ぶ。
それがまた、不自然なほどに丁寧で——
「……ルナ様」
ヴィクトルが静かにスープを差し出すと、ルナフィエラはようやく顔を向けた。
「あ……ありがとう、ヴィクトル」
その瞬間、ふわりと優しい笑みを浮かべる。
それは、昨日までの彼女にはなかった柔らかさだった。
(……嫌がってる様子ではない)
ヴィクトルの目がわずかに和らぐ。
「……まあ、元気そうでよかったよ」
フィンも続けて、笑顔でフルーツをルナフィエラの皿に乗せてあげる。
「……食べすぎ注意、だけどねっ」
「ふふ……うん、ありがと……」
嬉しそうに笑うルナフィエラを、シグは黙って見守る。
だが、その手元のフォークは――果実を刺すには明らかに力が入りすぎていた。
(ユリウス……おまえ、どこまで踏み込んだ)
誰にも気づかれないように、鋭く一瞥を送る。
一方のユリウスはというと、ルナフィエラの隣でパンにジャムを塗りながら、彼女の皿にそっと添える。
「甘いのも、悪くない朝だよ」
「……うん」
ほんの一言だけど、ルナフィエラの声は小さく、けれど嬉しそうだった。
そして、彼女の指先がユリウスの袖口にちょこんと触れたのを、3人の視線は見逃さなかった。
(やっぱり……何か、あったな)
それぞれの胸に浮かぶ想いは違えど、
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