88 / 184
第六章:流れる鼓動、重なる願い
第86話・守られる強さ、守りたい願い
しおりを挟む
「よくやったな、ルナ」
シグが、先ほどの傷を押さえながらも、ぽんと彼女の頭に手を乗せる。
「最初とは思えねぇ出来だったぜ。ちゃんと力も加減できてたし、痛くもなかった」
「……ほんとに?」
「本当だ」
短く、力強くうなずくその様子に、ルナフィエラの不安は、ようやく霧が晴れるようにほどけていった。
その横から、フィンがにこにこと覗き込んでくる。
「ルナ、ちゃんと“ヴァンパイア”だったね。ううん、それだけじゃなくて……すごく、綺麗だったよ」
「……綺麗?」
「うん。吸ってるときのルナ、すごく優しい顔してた。無理に奪うんじゃなくて、ちゃんと“もらってる”って感じで。なんか、見ててあったかくなったんだ」
フィンの言葉に、ルナフィエラの頬がほんのり染まる。
「……ありがとう、フィン」
そこへ、ヴィクトルがそっと近づき、ルナフィエラの前に片膝をついた。
彼の瞳は、今まで以上に深く澄んでいて、まるで彼女のすべてを見つめているようだった。
「……ルナ様。誇ってください。ご自身の力で、恐れを乗り越え、歩を進めたのです」
「でも、ひとりじゃ……できなかった。みんながいてくれたから」
「いいえ。確かに我々は傍におりました。ですが、“踏み出す”という行為は、どんなときもご自身にしかできぬことです。……あなたは、それをやってのけた」
静かに、けれど胸に染み入るように言われて、ルナフィエラは思わず俯いた。
(……嬉しい。けど、ちょっとだけ……恥ずかしい)
すると、ユリウスが彼女の背にそっと手を添えた。
「最初の一歩を踏み出した今なら、少しずつ“自信”も持てるんじゃないかな」
その手のひらの温もりは、どこまでも静かで優しかった。
「今日のルナは……とても美しかったよ。ああして人を頼れるようになったことも、受け入れられるようになったことも……全部、素敵な“成長”だ」
「成長……」
その言葉を胸の奥で繰り返す。
(私は……少しは、変われたのかな)
心の中でそう問いかけたとき、ふと、胸の内に湧き上がってくるものがあった。
これは、安心でも、安堵でも、達成感だけでもない。
(……あったかい)
ぽうっと身体が熱を持つような、誰かに優しく包まれたような感覚。
その正体を、ルナフィエラはまだうまく言葉にできなかった。
けれど、それが「恋」というものの入り口なのだと、ほんの少しだけ気づいたような気がした。
やがて立ち上がり、ルナフィエラは皆を見渡した。
「……本当に、ありがとう。……みんながいてくれて、よかった」
その言葉に、4人の騎士たちはそれぞれ違う形で微笑んだ。
誇らしげに、嬉しそうに、そしてどこか切なげに。
それでも、彼らの胸にある想いは、ただ一つ。
――彼女が、少しでも穏やかに、幸せであってほしい。
それは、誰よりも願っていることだった。
夜が深まるにつれ、古城の一室には静かな安らぎが満ちていた。
窓からは月明かりがやさしく差し込み、薄いレースのカーテンが静かに揺れている。
その寝台には、ルナフィエラとシグのふたりが並んでいた。
今夜の添い寝当番は、シグ。
ルナフィエラの頭は彼の腕にそっと乗せられ、シグは無言のまま、自然な動きでその体を受け止めていた。
まるでそれが当然であるかのように――誰よりも頼れる腕で、迷いなく彼女を守っていた。
ルナフィエラはまだ目を閉じてはいなかった。
けれど、シグの隣に身を委ねたまま、柔らかな吐息をこぼしていた。
「……あったかい」
ぽつりと漏れた言葉に、シグは小さく頷く。
「そうか」
シグの返事は、いつもと同じようにぶっきらぼうだったが、その声音にはどこか、柔らかなものが含まれていた。
「シグって、眠りが浅いんでしょ……?」
「そうだな。……昔からだ。物音ひとつで起きる」
「……ごめんね。私が、動くと……起こしちゃうよね……」
「構わない。ルナが、安心して寝られるほうが大事だ」
その言葉に、ルナフィエラは小さく目を瞬かせ、そしてふっと微笑んだ。
それはどこか安心したようで――少しだけ申し訳なさも含んだ、そんな表情。
「……ありがとう、シグ。……いつも、守ってくれて」
「……恩返しだからな」
シグはぽつりと答えた。
「昔、お前に助けられた。今こうしてるのは、そのおかげだ。だから……守るのは、当然だ」
ルナフィエラはその言葉を、じっと見つめたまま、黙って聞いていた。
胸の奥が、きゅうっとなる。
(恩返し……そう、だよね。きっと、最初は……)
けれど、今のシグは――いつも傍にいてくれる。
言葉は少ないけれど、行動で示してくれる。
わたしがどれだけ無防備でも、絶対に守ってくれると信じられる。
(……だから、私、安心して眠れるんだ)
ルナフィエラはそっと目を閉じ、シグの腕の中に身を寄せた。
それから間もなく、彼女はゆっくりと深い眠りに落ちていった。
静寂の中で、シグは眠らずに、そっとルナフィエラの髪に触れた。
あたたかくて、やわらかくて、まるで壊れものみたいに儚い。
気づけば、ルナフィエラは無意識のうちにシグの胸元にぎゅっと抱きついていた。
小さな身体が、自分を頼って眠っているというその事実に、シグは胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
「……ったく」
小さくつぶやくと、そっとルナフィエラの肩に腕を回す。
それは決して恋だと自覚していたわけではない。
ただ、守りたい。その一心だった。
けれど、このぬくもりが愛おしいと、そう感じてしまったのは――たぶん、はじめてだった。
シグが、先ほどの傷を押さえながらも、ぽんと彼女の頭に手を乗せる。
「最初とは思えねぇ出来だったぜ。ちゃんと力も加減できてたし、痛くもなかった」
「……ほんとに?」
「本当だ」
短く、力強くうなずくその様子に、ルナフィエラの不安は、ようやく霧が晴れるようにほどけていった。
その横から、フィンがにこにこと覗き込んでくる。
「ルナ、ちゃんと“ヴァンパイア”だったね。ううん、それだけじゃなくて……すごく、綺麗だったよ」
「……綺麗?」
「うん。吸ってるときのルナ、すごく優しい顔してた。無理に奪うんじゃなくて、ちゃんと“もらってる”って感じで。なんか、見ててあったかくなったんだ」
フィンの言葉に、ルナフィエラの頬がほんのり染まる。
「……ありがとう、フィン」
そこへ、ヴィクトルがそっと近づき、ルナフィエラの前に片膝をついた。
彼の瞳は、今まで以上に深く澄んでいて、まるで彼女のすべてを見つめているようだった。
「……ルナ様。誇ってください。ご自身の力で、恐れを乗り越え、歩を進めたのです」
「でも、ひとりじゃ……できなかった。みんながいてくれたから」
「いいえ。確かに我々は傍におりました。ですが、“踏み出す”という行為は、どんなときもご自身にしかできぬことです。……あなたは、それをやってのけた」
静かに、けれど胸に染み入るように言われて、ルナフィエラは思わず俯いた。
(……嬉しい。けど、ちょっとだけ……恥ずかしい)
すると、ユリウスが彼女の背にそっと手を添えた。
「最初の一歩を踏み出した今なら、少しずつ“自信”も持てるんじゃないかな」
その手のひらの温もりは、どこまでも静かで優しかった。
「今日のルナは……とても美しかったよ。ああして人を頼れるようになったことも、受け入れられるようになったことも……全部、素敵な“成長”だ」
「成長……」
その言葉を胸の奥で繰り返す。
(私は……少しは、変われたのかな)
心の中でそう問いかけたとき、ふと、胸の内に湧き上がってくるものがあった。
これは、安心でも、安堵でも、達成感だけでもない。
(……あったかい)
ぽうっと身体が熱を持つような、誰かに優しく包まれたような感覚。
その正体を、ルナフィエラはまだうまく言葉にできなかった。
けれど、それが「恋」というものの入り口なのだと、ほんの少しだけ気づいたような気がした。
やがて立ち上がり、ルナフィエラは皆を見渡した。
「……本当に、ありがとう。……みんながいてくれて、よかった」
その言葉に、4人の騎士たちはそれぞれ違う形で微笑んだ。
誇らしげに、嬉しそうに、そしてどこか切なげに。
それでも、彼らの胸にある想いは、ただ一つ。
――彼女が、少しでも穏やかに、幸せであってほしい。
それは、誰よりも願っていることだった。
夜が深まるにつれ、古城の一室には静かな安らぎが満ちていた。
窓からは月明かりがやさしく差し込み、薄いレースのカーテンが静かに揺れている。
その寝台には、ルナフィエラとシグのふたりが並んでいた。
今夜の添い寝当番は、シグ。
ルナフィエラの頭は彼の腕にそっと乗せられ、シグは無言のまま、自然な動きでその体を受け止めていた。
まるでそれが当然であるかのように――誰よりも頼れる腕で、迷いなく彼女を守っていた。
ルナフィエラはまだ目を閉じてはいなかった。
けれど、シグの隣に身を委ねたまま、柔らかな吐息をこぼしていた。
「……あったかい」
ぽつりと漏れた言葉に、シグは小さく頷く。
「そうか」
シグの返事は、いつもと同じようにぶっきらぼうだったが、その声音にはどこか、柔らかなものが含まれていた。
「シグって、眠りが浅いんでしょ……?」
「そうだな。……昔からだ。物音ひとつで起きる」
「……ごめんね。私が、動くと……起こしちゃうよね……」
「構わない。ルナが、安心して寝られるほうが大事だ」
その言葉に、ルナフィエラは小さく目を瞬かせ、そしてふっと微笑んだ。
それはどこか安心したようで――少しだけ申し訳なさも含んだ、そんな表情。
「……ありがとう、シグ。……いつも、守ってくれて」
「……恩返しだからな」
シグはぽつりと答えた。
「昔、お前に助けられた。今こうしてるのは、そのおかげだ。だから……守るのは、当然だ」
ルナフィエラはその言葉を、じっと見つめたまま、黙って聞いていた。
胸の奥が、きゅうっとなる。
(恩返し……そう、だよね。きっと、最初は……)
けれど、今のシグは――いつも傍にいてくれる。
言葉は少ないけれど、行動で示してくれる。
わたしがどれだけ無防備でも、絶対に守ってくれると信じられる。
(……だから、私、安心して眠れるんだ)
ルナフィエラはそっと目を閉じ、シグの腕の中に身を寄せた。
それから間もなく、彼女はゆっくりと深い眠りに落ちていった。
静寂の中で、シグは眠らずに、そっとルナフィエラの髪に触れた。
あたたかくて、やわらかくて、まるで壊れものみたいに儚い。
気づけば、ルナフィエラは無意識のうちにシグの胸元にぎゅっと抱きついていた。
小さな身体が、自分を頼って眠っているというその事実に、シグは胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
「……ったく」
小さくつぶやくと、そっとルナフィエラの肩に腕を回す。
それは決して恋だと自覚していたわけではない。
ただ、守りたい。その一心だった。
けれど、このぬくもりが愛おしいと、そう感じてしまったのは――たぶん、はじめてだった。
1
あなたにおすすめの小説
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
召喚先は、誰も居ない森でした
みん
恋愛
事故に巻き込まれて行方不明になった母を探す茉白。そんな茉白を側で支えてくれていた留学生のフィンもまた、居なくなってしまい、寂しいながらも毎日を過ごしていた。そんなある日、バイト帰りに名前を呼ばれたかと思った次の瞬間、眩しい程の光に包まれて──
次に目を開けた時、茉白は森の中に居た。そして、そこには誰も居らず──
その先で、茉白が見たモノは──
最初はシリアス展開が続きます。
❋他視点のお話もあります
❋独自設定有り
❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付いた時に訂正していきます。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる