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第六章:流れる鼓動、重なる願い
第86話・守られる強さ、守りたい願い
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「よくやったな、ルナ」
シグが、先ほどの傷を押さえながらも、ぽんと彼女の頭に手を乗せる。
「最初とは思えねぇ出来だったぜ。ちゃんと力も加減できてたし、痛くもなかった」
「……ほんとに?」
「本当だ」
短く、力強くうなずくその様子に、ルナフィエラの不安は、ようやく霧が晴れるようにほどけていった。
その横から、フィンがにこにこと覗き込んでくる。
「ルナ、ちゃんと“ヴァンパイア”だったね。ううん、それだけじゃなくて……すごく、綺麗だったよ」
「……綺麗?」
「うん。吸ってるときのルナ、すごく優しい顔してた。無理に奪うんじゃなくて、ちゃんと“もらってる”って感じで。なんか、見ててあったかくなったんだ」
フィンの言葉に、ルナフィエラの頬がほんのり染まる。
「……ありがとう、フィン」
そこへ、ヴィクトルがそっと近づき、ルナフィエラの前に片膝をついた。
彼の瞳は、今まで以上に深く澄んでいて、まるで彼女のすべてを見つめているようだった。
「……ルナ様。誇ってください。ご自身の力で、恐れを乗り越え、歩を進めたのです」
「でも、ひとりじゃ……できなかった。みんながいてくれたから」
「いいえ。確かに我々は傍におりました。ですが、“踏み出す”という行為は、どんなときもご自身にしかできぬことです。……あなたは、それをやってのけた」
静かに、けれど胸に染み入るように言われて、ルナフィエラは思わず俯いた。
(……嬉しい。けど、ちょっとだけ……恥ずかしい)
すると、ユリウスが彼女の背にそっと手を添えた。
「最初の一歩を踏み出した今なら、少しずつ“自信”も持てるんじゃないかな」
その手のひらの温もりは、どこまでも静かで優しかった。
「今日のルナは……とても美しかったよ。ああして人を頼れるようになったことも、受け入れられるようになったことも……全部、素敵な“成長”だ」
「成長……」
その言葉を胸の奥で繰り返す。
(私は……少しは、変われたのかな)
心の中でそう問いかけたとき、ふと、胸の内に湧き上がってくるものがあった。
これは、安心でも、安堵でも、達成感だけでもない。
(……あったかい)
ぽうっと身体が熱を持つような、誰かに優しく包まれたような感覚。
その正体を、ルナフィエラはまだうまく言葉にできなかった。
けれど、それが「恋」というものの入り口なのだと、ほんの少しだけ気づいたような気がした。
やがて立ち上がり、ルナフィエラは皆を見渡した。
「……本当に、ありがとう。……みんながいてくれて、よかった」
その言葉に、4人の騎士たちはそれぞれ違う形で微笑んだ。
誇らしげに、嬉しそうに、そしてどこか切なげに。
それでも、彼らの胸にある想いは、ただ一つ。
――彼女が、少しでも穏やかに、幸せであってほしい。
それは、誰よりも願っていることだった。
夜が深まるにつれ、古城の一室には静かな安らぎが満ちていた。
窓からは月明かりがやさしく差し込み、薄いレースのカーテンが静かに揺れている。
その寝台には、ルナフィエラとシグのふたりが並んでいた。
今夜の添い寝当番は、シグ。
ルナフィエラの頭は彼の腕にそっと乗せられ、シグは無言のまま、自然な動きでその体を受け止めていた。
まるでそれが当然であるかのように――誰よりも頼れる腕で、迷いなく彼女を守っていた。
ルナフィエラはまだ目を閉じてはいなかった。
けれど、シグの隣に身を委ねたまま、柔らかな吐息をこぼしていた。
「……あったかい」
ぽつりと漏れた言葉に、シグは小さく頷く。
「そうか」
シグの返事は、いつもと同じようにぶっきらぼうだったが、その声音にはどこか、柔らかなものが含まれていた。
「シグって、眠りが浅いんでしょ……?」
「そうだな。……昔からだ。物音ひとつで起きる」
「……ごめんね。私が、動くと……起こしちゃうよね……」
「構わない。ルナが、安心して寝られるほうが大事だ」
その言葉に、ルナフィエラは小さく目を瞬かせ、そしてふっと微笑んだ。
それはどこか安心したようで――少しだけ申し訳なさも含んだ、そんな表情。
「……ありがとう、シグ。……いつも、守ってくれて」
「……恩返しだからな」
シグはぽつりと答えた。
「昔、お前に助けられた。今こうしてるのは、そのおかげだ。だから……守るのは、当然だ」
ルナフィエラはその言葉を、じっと見つめたまま、黙って聞いていた。
胸の奥が、きゅうっとなる。
(恩返し……そう、だよね。きっと、最初は……)
けれど、今のシグは――いつも傍にいてくれる。
言葉は少ないけれど、行動で示してくれる。
わたしがどれだけ無防備でも、絶対に守ってくれると信じられる。
(……だから、私、安心して眠れるんだ)
ルナフィエラはそっと目を閉じ、シグの腕の中に身を寄せた。
それから間もなく、彼女はゆっくりと深い眠りに落ちていった。
静寂の中で、シグは眠らずに、そっとルナフィエラの髪に触れた。
あたたかくて、やわらかくて、まるで壊れものみたいに儚い。
気づけば、ルナフィエラは無意識のうちにシグの胸元にぎゅっと抱きついていた。
小さな身体が、自分を頼って眠っているというその事実に、シグは胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
「……ったく」
小さくつぶやくと、そっとルナフィエラの肩に腕を回す。
それは決して恋だと自覚していたわけではない。
ただ、守りたい。その一心だった。
けれど、このぬくもりが愛おしいと、そう感じてしまったのは――たぶん、はじめてだった。
シグが、先ほどの傷を押さえながらも、ぽんと彼女の頭に手を乗せる。
「最初とは思えねぇ出来だったぜ。ちゃんと力も加減できてたし、痛くもなかった」
「……ほんとに?」
「本当だ」
短く、力強くうなずくその様子に、ルナフィエラの不安は、ようやく霧が晴れるようにほどけていった。
その横から、フィンがにこにこと覗き込んでくる。
「ルナ、ちゃんと“ヴァンパイア”だったね。ううん、それだけじゃなくて……すごく、綺麗だったよ」
「……綺麗?」
「うん。吸ってるときのルナ、すごく優しい顔してた。無理に奪うんじゃなくて、ちゃんと“もらってる”って感じで。なんか、見ててあったかくなったんだ」
フィンの言葉に、ルナフィエラの頬がほんのり染まる。
「……ありがとう、フィン」
そこへ、ヴィクトルがそっと近づき、ルナフィエラの前に片膝をついた。
彼の瞳は、今まで以上に深く澄んでいて、まるで彼女のすべてを見つめているようだった。
「……ルナ様。誇ってください。ご自身の力で、恐れを乗り越え、歩を進めたのです」
「でも、ひとりじゃ……できなかった。みんながいてくれたから」
「いいえ。確かに我々は傍におりました。ですが、“踏み出す”という行為は、どんなときもご自身にしかできぬことです。……あなたは、それをやってのけた」
静かに、けれど胸に染み入るように言われて、ルナフィエラは思わず俯いた。
(……嬉しい。けど、ちょっとだけ……恥ずかしい)
すると、ユリウスが彼女の背にそっと手を添えた。
「最初の一歩を踏み出した今なら、少しずつ“自信”も持てるんじゃないかな」
その手のひらの温もりは、どこまでも静かで優しかった。
「今日のルナは……とても美しかったよ。ああして人を頼れるようになったことも、受け入れられるようになったことも……全部、素敵な“成長”だ」
「成長……」
その言葉を胸の奥で繰り返す。
(私は……少しは、変われたのかな)
心の中でそう問いかけたとき、ふと、胸の内に湧き上がってくるものがあった。
これは、安心でも、安堵でも、達成感だけでもない。
(……あったかい)
ぽうっと身体が熱を持つような、誰かに優しく包まれたような感覚。
その正体を、ルナフィエラはまだうまく言葉にできなかった。
けれど、それが「恋」というものの入り口なのだと、ほんの少しだけ気づいたような気がした。
やがて立ち上がり、ルナフィエラは皆を見渡した。
「……本当に、ありがとう。……みんながいてくれて、よかった」
その言葉に、4人の騎士たちはそれぞれ違う形で微笑んだ。
誇らしげに、嬉しそうに、そしてどこか切なげに。
それでも、彼らの胸にある想いは、ただ一つ。
――彼女が、少しでも穏やかに、幸せであってほしい。
それは、誰よりも願っていることだった。
夜が深まるにつれ、古城の一室には静かな安らぎが満ちていた。
窓からは月明かりがやさしく差し込み、薄いレースのカーテンが静かに揺れている。
その寝台には、ルナフィエラとシグのふたりが並んでいた。
今夜の添い寝当番は、シグ。
ルナフィエラの頭は彼の腕にそっと乗せられ、シグは無言のまま、自然な動きでその体を受け止めていた。
まるでそれが当然であるかのように――誰よりも頼れる腕で、迷いなく彼女を守っていた。
ルナフィエラはまだ目を閉じてはいなかった。
けれど、シグの隣に身を委ねたまま、柔らかな吐息をこぼしていた。
「……あったかい」
ぽつりと漏れた言葉に、シグは小さく頷く。
「そうか」
シグの返事は、いつもと同じようにぶっきらぼうだったが、その声音にはどこか、柔らかなものが含まれていた。
「シグって、眠りが浅いんでしょ……?」
「そうだな。……昔からだ。物音ひとつで起きる」
「……ごめんね。私が、動くと……起こしちゃうよね……」
「構わない。ルナが、安心して寝られるほうが大事だ」
その言葉に、ルナフィエラは小さく目を瞬かせ、そしてふっと微笑んだ。
それはどこか安心したようで――少しだけ申し訳なさも含んだ、そんな表情。
「……ありがとう、シグ。……いつも、守ってくれて」
「……恩返しだからな」
シグはぽつりと答えた。
「昔、お前に助けられた。今こうしてるのは、そのおかげだ。だから……守るのは、当然だ」
ルナフィエラはその言葉を、じっと見つめたまま、黙って聞いていた。
胸の奥が、きゅうっとなる。
(恩返し……そう、だよね。きっと、最初は……)
けれど、今のシグは――いつも傍にいてくれる。
言葉は少ないけれど、行動で示してくれる。
わたしがどれだけ無防備でも、絶対に守ってくれると信じられる。
(……だから、私、安心して眠れるんだ)
ルナフィエラはそっと目を閉じ、シグの腕の中に身を寄せた。
それから間もなく、彼女はゆっくりと深い眠りに落ちていった。
静寂の中で、シグは眠らずに、そっとルナフィエラの髪に触れた。
あたたかくて、やわらかくて、まるで壊れものみたいに儚い。
気づけば、ルナフィエラは無意識のうちにシグの胸元にぎゅっと抱きついていた。
小さな身体が、自分を頼って眠っているというその事実に、シグは胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
「……ったく」
小さくつぶやくと、そっとルナフィエラの肩に腕を回す。
それは決して恋だと自覚していたわけではない。
ただ、守りたい。その一心だった。
けれど、このぬくもりが愛おしいと、そう感じてしまったのは――たぶん、はじめてだった。
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