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第六章:流れる鼓動、重なる願い
第98話・紅に誓う
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再び静けさが戻った寝室には、わずかな蝋燭の明かりと、月の淡い光だけが灯っていた。
ヴィクトルはルナフィエラの隣に腰を下ろし、まだ少し震えるように寄り添ってくる彼女の体温を静かに受け止めていた。
言葉はなかった。ただ、互いの鼓動が静かに重なり合う音だけが、穏やかに空間を満たしていた。
──限界だった。
理性で押さえつけてきた想いも、距離も、葛藤も。
ようやく、届いた。
ようやく、受け止めてもらえた。
ヴィクトルはそっとルナフィエラの肩に手を回し、もう片方の手で彼女の顎に優しく触れる。
「ルナ様……」
その呼びかけに、ルナフィエラがゆっくりと顔を上げた。
見つめ合った紅い瞳が、ゆっくりと引き寄せられるように重なる。
「……ずっと、こうしたかった」
そう囁くと、ヴィクトルはそのまま彼女の唇に、深く、丁寧なキスを落とした。
舌を絡めることもなく、ただ確かめるような口づけ。
けれど、その一瞬に込められた想いは、決して浅いものではなかった。
キスが解けると、ルナフィエラが恥ずかしそうに顔を伏せる。
けれど、逃げようとはしなかった。
「……ヴィクトル……もう、遠くに行かないでほしい……」
その小さな願いに、ヴィクトルは強く彼女を抱きしめた。
「離れません。二度と、ルナ様から目を逸らしたりしない」
その腕には、決意と温もりが宿っていた。
ルナフィエラが彼の胸に頬を寄せたとき、ふとヴィクトルの首筋に唇が触れた。
少しだけ戸惑いながら、そっと囁く。
「……ねえ、少しだけ……もらってもいい?」
その問いに、ヴィクトルの身体が小さく反応する。
けれど、ためらいはなかった。
「もちろんです。ルナ様が望むのなら、私はいつでも、差し出します」
静かに頷いたルナフィエラは、そっとヴィクトルの首筋に牙を立て──
ほんのひとしずく、彼の血を口に含む。
その瞬間、ヴィクトルの腕に力が入り、ルナフィエラをぎゅっと抱きしめ返した。
「……ルナ様……」
息を呑むように、甘い呻きが漏れる。
血が繋ぐ絆。
それはただの吸血ではなく、想いが通じ合った者同士の、深い交わりだった。
しばらくして、ヴィクトルの腕の中で静かに目を閉じていたルナフィエラが、ふとその胸元に頬を寄せる。
「……ねぇ、ヴィクトル」
「はい、ルナ様」
「……私、ヴィクトルの血…もらったのに、私の血あげてないなって思って」
その言葉に、ヴィクトルの全身が一瞬で硬直する。
「……それは……」
「私だけもらって……なんだかずるいよね。私も、ヴィクトルにあげたいの」
ルナフィエラは無垢な目で、微笑みながら言う。
そこには、悪気も、特別な意味もない。
ただ、大切な人と分かち合いたいという純粋な願いだけが宿っていた。
ヴィクトルは咄嗟に視線を逸らす。
「……ルナ様。それは、いけません」
「……え?」
「貴女の血は……純血のヴァンパイアのものです。かつての王家の証であり、我が種族が崇める高貴な存在の……」
ひと呼吸、彼は言葉を選びながら続ける。
「……その血をいただけるのは、特別な功績を立てた者、もしくは……正式に許された配偶者だけです」
「……よくわからないけど、ヴィクトルにとって……私の血は美味しくないのかなって、ちょっと思っちゃった」
ルナフィエラはぽつりと呟き、視線を落とす。
その小さな声に、ヴィクトルの理性が激しく揺らぐ。
「ち、違います。決してそういうわけでは──」
思わず前のめりになって否定するヴィクトルに、ルナフィエラはゆっくりと顔を上げた。
その表情は、寂しさも、戸惑いも、すべてを含んで、まっすぐにヴィクトルを見つめている。
「私は……あげたいと思ったの。だめ?」
その瞳に込められた一途な想いに、ヴィクトルは一瞬、言葉を失った。
「……私は……」
(欲しい……貴女のすべてを、誰よりも。
でも、それを口にすれば、俺はもう──ただの騎士ではいられない)
「……ですが、それを受け取るということは、私の立場を──」
「…もう王家はないし、私は、ヴィクトルがいてくれればそれでいい」
ルナフィエラの声は、囁きにも似た小さな決意だった。
「ヴィクトルは……私のために、いつもそばにいてくれた。
だから、私も……ヴィクトルに何か、できることがあるなら……してあげたいの」
「ルナ様……」
気づけば、彼女の指が自らの首元の髪を払っていた。
白く柔らかな肌が、蝋燭の光に照らされて浮かび上がる。
「……ヴィクトルは私から血をもらうの嫌なの?私が血をあげたいって思ってるのに……それって、変なこと?」
「……いえ、変では……ありません。むしろ……光栄の極みです」
ヴィクトルの手が、静かに震えていた。
目の前の少女は、何も知らずにその高貴な血を差し出している。
だが──
彼女の想いを、誇りを、ここで拒むことは、ヴィクトルにとってそれ以上の罪だった。
「……失礼、いたします」
深く頭を下げ、ヴィクトルはルナフィエラの首元へと顔を寄せる。
牙を立てる前、彼女の肌にそっと口づけを落とした。
「……ありがとうございます」
そして──
ほんのわずかに、牙を立て、血を啜る。
ほんの一雫、されどそれは──ヴィクトルにとって、生涯で最も甘く、尊い血だった。
(……こんなにも、温かいのか……)
口にした瞬間、全身に広がった魔力と温もりに、理性が軋みを上げる。
だが彼は、深く吸うことはせず、すぐに牙を引いた。
「……ルナ様……ありがとうございました。
この身に余る光栄……決して、忘れません」
ルナは小さく微笑んだ。
「どういたしまして、ヴィクトル」
それはまるで、他愛ない会話のようでいて──
ふたりの間に、揺るぎない絆が結ばれた、確かな瞬間だった。
ヴィクトルはルナフィエラの隣に腰を下ろし、まだ少し震えるように寄り添ってくる彼女の体温を静かに受け止めていた。
言葉はなかった。ただ、互いの鼓動が静かに重なり合う音だけが、穏やかに空間を満たしていた。
──限界だった。
理性で押さえつけてきた想いも、距離も、葛藤も。
ようやく、届いた。
ようやく、受け止めてもらえた。
ヴィクトルはそっとルナフィエラの肩に手を回し、もう片方の手で彼女の顎に優しく触れる。
「ルナ様……」
その呼びかけに、ルナフィエラがゆっくりと顔を上げた。
見つめ合った紅い瞳が、ゆっくりと引き寄せられるように重なる。
「……ずっと、こうしたかった」
そう囁くと、ヴィクトルはそのまま彼女の唇に、深く、丁寧なキスを落とした。
舌を絡めることもなく、ただ確かめるような口づけ。
けれど、その一瞬に込められた想いは、決して浅いものではなかった。
キスが解けると、ルナフィエラが恥ずかしそうに顔を伏せる。
けれど、逃げようとはしなかった。
「……ヴィクトル……もう、遠くに行かないでほしい……」
その小さな願いに、ヴィクトルは強く彼女を抱きしめた。
「離れません。二度と、ルナ様から目を逸らしたりしない」
その腕には、決意と温もりが宿っていた。
ルナフィエラが彼の胸に頬を寄せたとき、ふとヴィクトルの首筋に唇が触れた。
少しだけ戸惑いながら、そっと囁く。
「……ねえ、少しだけ……もらってもいい?」
その問いに、ヴィクトルの身体が小さく反応する。
けれど、ためらいはなかった。
「もちろんです。ルナ様が望むのなら、私はいつでも、差し出します」
静かに頷いたルナフィエラは、そっとヴィクトルの首筋に牙を立て──
ほんのひとしずく、彼の血を口に含む。
その瞬間、ヴィクトルの腕に力が入り、ルナフィエラをぎゅっと抱きしめ返した。
「……ルナ様……」
息を呑むように、甘い呻きが漏れる。
血が繋ぐ絆。
それはただの吸血ではなく、想いが通じ合った者同士の、深い交わりだった。
しばらくして、ヴィクトルの腕の中で静かに目を閉じていたルナフィエラが、ふとその胸元に頬を寄せる。
「……ねぇ、ヴィクトル」
「はい、ルナ様」
「……私、ヴィクトルの血…もらったのに、私の血あげてないなって思って」
その言葉に、ヴィクトルの全身が一瞬で硬直する。
「……それは……」
「私だけもらって……なんだかずるいよね。私も、ヴィクトルにあげたいの」
ルナフィエラは無垢な目で、微笑みながら言う。
そこには、悪気も、特別な意味もない。
ただ、大切な人と分かち合いたいという純粋な願いだけが宿っていた。
ヴィクトルは咄嗟に視線を逸らす。
「……ルナ様。それは、いけません」
「……え?」
「貴女の血は……純血のヴァンパイアのものです。かつての王家の証であり、我が種族が崇める高貴な存在の……」
ひと呼吸、彼は言葉を選びながら続ける。
「……その血をいただけるのは、特別な功績を立てた者、もしくは……正式に許された配偶者だけです」
「……よくわからないけど、ヴィクトルにとって……私の血は美味しくないのかなって、ちょっと思っちゃった」
ルナフィエラはぽつりと呟き、視線を落とす。
その小さな声に、ヴィクトルの理性が激しく揺らぐ。
「ち、違います。決してそういうわけでは──」
思わず前のめりになって否定するヴィクトルに、ルナフィエラはゆっくりと顔を上げた。
その表情は、寂しさも、戸惑いも、すべてを含んで、まっすぐにヴィクトルを見つめている。
「私は……あげたいと思ったの。だめ?」
その瞳に込められた一途な想いに、ヴィクトルは一瞬、言葉を失った。
「……私は……」
(欲しい……貴女のすべてを、誰よりも。
でも、それを口にすれば、俺はもう──ただの騎士ではいられない)
「……ですが、それを受け取るということは、私の立場を──」
「…もう王家はないし、私は、ヴィクトルがいてくれればそれでいい」
ルナフィエラの声は、囁きにも似た小さな決意だった。
「ヴィクトルは……私のために、いつもそばにいてくれた。
だから、私も……ヴィクトルに何か、できることがあるなら……してあげたいの」
「ルナ様……」
気づけば、彼女の指が自らの首元の髪を払っていた。
白く柔らかな肌が、蝋燭の光に照らされて浮かび上がる。
「……ヴィクトルは私から血をもらうの嫌なの?私が血をあげたいって思ってるのに……それって、変なこと?」
「……いえ、変では……ありません。むしろ……光栄の極みです」
ヴィクトルの手が、静かに震えていた。
目の前の少女は、何も知らずにその高貴な血を差し出している。
だが──
彼女の想いを、誇りを、ここで拒むことは、ヴィクトルにとってそれ以上の罪だった。
「……失礼、いたします」
深く頭を下げ、ヴィクトルはルナフィエラの首元へと顔を寄せる。
牙を立てる前、彼女の肌にそっと口づけを落とした。
「……ありがとうございます」
そして──
ほんのわずかに、牙を立て、血を啜る。
ほんの一雫、されどそれは──ヴィクトルにとって、生涯で最も甘く、尊い血だった。
(……こんなにも、温かいのか……)
口にした瞬間、全身に広がった魔力と温もりに、理性が軋みを上げる。
だが彼は、深く吸うことはせず、すぐに牙を引いた。
「……ルナ様……ありがとうございました。
この身に余る光栄……決して、忘れません」
ルナは小さく微笑んだ。
「どういたしまして、ヴィクトル」
それはまるで、他愛ない会話のようでいて──
ふたりの間に、揺るぎない絆が結ばれた、確かな瞬間だった。
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