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第六章:流れる鼓動、重なる願い
第100話・戻れた場所、守りたい時間
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「……そろそろ、起きましょうか」
ヴィクトルの低く穏やかな声に、ルナフィエラは彼の腕の中で小さく頷いた。
名残惜しさを抱えつつも、ゆっくりと身体を起こし、ふたりは朝の支度へと移っていく。
着替えを済ませ、髪を整え、鏡の前で並ぶふたりの姿は、どこか自然で──
そして、以前よりもほんの少し距離の縮まったふたりの姿が映っていた。
「……じゃあ、行こっか。みんな、もう起きてるよね」
「はい。ご一緒いたします、ルナ様」
変わらぬ口調。
けれど、その瞳にはこれまでよりも深い温かさが宿っていた。
食堂の扉を開いた瞬間、ふわりと焼きたてのパンの香ばしい香りが広がる。
「ルナー、おはよー!」
最初に声を上げたのはフィンだった。
テーブルの端に腰かけていた彼が、ぱたぱたと手を振り、にこにこと笑顔を向けてくる。
「おはよう、フィン。朝から元気だね」
「うん、今日はなんかすっごくいい気分! だからパンもふわっふわに焼けたよ!」
「……気分の良さがパンの焼き加減に反映されるのか?」
シグが小さくぼやきながら、焼きたてのベーコンを丁寧に皿に並べている。
その横ではユリウスが紅茶を注ぎながら、ふとルナフィエラとヴィクトルを一瞥する。
「……どうやら、仲直りできたみたいだね」
「えっ……」
ルナフィエラが思わず顔を赤く染める。
隣に立つヴィクトルはいつも通りの表情だったが、どこか柔らかさが滲んでいた。
「見ればわかるよ。お互い、ちゃんと目を見てるからね」
ユリウスはふっと優しく笑うと、紅茶の入ったカップをそっと彼女の前に差し出す。
「おはよう、ルナ。朝食はしっかり食べないとね?」
「う、うん……ありがとう、ユリウス」
「席、ここ空いてるぞ」
シグがトンと椅子を引いて示す。
その隣では、フィンがスープを混ぜながらニコニコと待っていた。
「ねえねえ、パンおかわりするでしょ? ルナの分、先に温めておこうか?」
「ありがとう、フィン。……今日は、いっぱい食べられそうな気がする」
そう言って、ルナフィエラは微笑んだ。
ふと視線を落とすと、テーブル越しにヴィクトルの指先がそっと自分の手に触れていた。
誰にも気づかれないように、けれど確かに――それは、彼の“そばにいます”という静かな証。
(……ちゃんと、戻れたんだ)
そう実感しながら、ルナフィエラは席についた。
5人で囲む、にぎやかな朝食。
特別な言葉はなくても、食器の音と小さな笑い声が心地よく響く。
それは、やわらかくて穏やかで──まるで、“これからの関係”をゆっくりと確かめ合うような時間。
湯気の立つ紅茶と、焼きたてのパンの香りに包まれて、ルナフィエラは心の底から思った。
(……やっぱり、ここが好き)
そうして始まった新しい朝は、
優しく、あたたかく、そして幸せなひとときだった。
朝食が終わる頃、食堂には静かな余韻が漂っていた。
テーブルに並ぶカップからは微かに湯気が立ち、外から吹き込む風がそっとカーテンを揺らしている。
その静けさの中、ルナフィエラはそっと椅子を引いて立ち上がる。
深く息を吸い、吐く。
その一連の動きに、自然と4人の視線が集まった。
「……あのね」
彼女の声は、小さかった。
けれど、その響きには確かな決意があった。
「昨日まで……私、すごく悩んでて……たぶん、それが態度にも出ちゃってたと思う」
その言葉に、ユリウスがそっと紅茶を置き、フィンもスプーンを止めてルナフィエラを見上げた。
シグは腕を組んだまま、真っ直ぐ彼女を見据えている。
そして、ヴィクトルは、何も言わず、ただ静かに彼女の声を待っていた。
「みんな……気づいていたと思うけど……私は、ヴィクトルのこと、ちょっと……避けてた」
ルナフィエラは唇をきゅっと結び、一瞬言葉を失いながらも、再びゆっくりと言葉を継いだ。
「私……ヴィクトルに嫌われたんじゃないかって、勝手に思い込んで……すごく不安で……でも、それをちゃんと言えなくて……」
「……ルナ」
フィンが小さく呼びかけようとしたが、ルナフィエラは首を横に振って制した。
「……ごめんなさい。……ちゃんと、最後まで言わせて」
一拍置いて、彼女は顔を上げる。
「ヴィクトルとは、昨夜話して……気持ちも伝え合って……誤解も解けたから。だから、そこはもう大丈夫」
そう言って微かに笑った顔は、どこか晴れやかだった。
けれど、次に続いた言葉にはまた、慎重さが戻っていた。
「でも……やっぱり私は、……誰か一人を“選ぶ”ってことが、できないの」
ふわりと空気が張り詰める。
「ユリウスも、シグも、フィンも、ヴィクトルも……みんな、すごく大切で、誰かを選ぶっていうことが……誰かを選ばないってことになる気がして……怖い」
ルナフィエラはぎゅっと胸元を握りしめる。
「……欲張りだよね。わがままなのもわかってる。……でも、それでも、今の私の正直な気持ちなの」
そして、もう一度顔を上げ、まっすぐに4人の目を見つめた。
「それでも、もし……みんなが、それでもいいって思ってくれるなら……私は、この古城で、5人で一緒に……これからも過ごしていきたい」
声は震えていなかった。
言葉は揺れていなかった。
けれど、目の奥には、不安と願いが交錯していた。
「……わがままで……こんなわたしで…ごめんね……」
ルナフィエラの言葉が静かに落ちる。
そのまま、部屋は一瞬、言葉を失ったように沈黙した──
ヴィクトルの低く穏やかな声に、ルナフィエラは彼の腕の中で小さく頷いた。
名残惜しさを抱えつつも、ゆっくりと身体を起こし、ふたりは朝の支度へと移っていく。
着替えを済ませ、髪を整え、鏡の前で並ぶふたりの姿は、どこか自然で──
そして、以前よりもほんの少し距離の縮まったふたりの姿が映っていた。
「……じゃあ、行こっか。みんな、もう起きてるよね」
「はい。ご一緒いたします、ルナ様」
変わらぬ口調。
けれど、その瞳にはこれまでよりも深い温かさが宿っていた。
食堂の扉を開いた瞬間、ふわりと焼きたてのパンの香ばしい香りが広がる。
「ルナー、おはよー!」
最初に声を上げたのはフィンだった。
テーブルの端に腰かけていた彼が、ぱたぱたと手を振り、にこにこと笑顔を向けてくる。
「おはよう、フィン。朝から元気だね」
「うん、今日はなんかすっごくいい気分! だからパンもふわっふわに焼けたよ!」
「……気分の良さがパンの焼き加減に反映されるのか?」
シグが小さくぼやきながら、焼きたてのベーコンを丁寧に皿に並べている。
その横ではユリウスが紅茶を注ぎながら、ふとルナフィエラとヴィクトルを一瞥する。
「……どうやら、仲直りできたみたいだね」
「えっ……」
ルナフィエラが思わず顔を赤く染める。
隣に立つヴィクトルはいつも通りの表情だったが、どこか柔らかさが滲んでいた。
「見ればわかるよ。お互い、ちゃんと目を見てるからね」
ユリウスはふっと優しく笑うと、紅茶の入ったカップをそっと彼女の前に差し出す。
「おはよう、ルナ。朝食はしっかり食べないとね?」
「う、うん……ありがとう、ユリウス」
「席、ここ空いてるぞ」
シグがトンと椅子を引いて示す。
その隣では、フィンがスープを混ぜながらニコニコと待っていた。
「ねえねえ、パンおかわりするでしょ? ルナの分、先に温めておこうか?」
「ありがとう、フィン。……今日は、いっぱい食べられそうな気がする」
そう言って、ルナフィエラは微笑んだ。
ふと視線を落とすと、テーブル越しにヴィクトルの指先がそっと自分の手に触れていた。
誰にも気づかれないように、けれど確かに――それは、彼の“そばにいます”という静かな証。
(……ちゃんと、戻れたんだ)
そう実感しながら、ルナフィエラは席についた。
5人で囲む、にぎやかな朝食。
特別な言葉はなくても、食器の音と小さな笑い声が心地よく響く。
それは、やわらかくて穏やかで──まるで、“これからの関係”をゆっくりと確かめ合うような時間。
湯気の立つ紅茶と、焼きたてのパンの香りに包まれて、ルナフィエラは心の底から思った。
(……やっぱり、ここが好き)
そうして始まった新しい朝は、
優しく、あたたかく、そして幸せなひとときだった。
朝食が終わる頃、食堂には静かな余韻が漂っていた。
テーブルに並ぶカップからは微かに湯気が立ち、外から吹き込む風がそっとカーテンを揺らしている。
その静けさの中、ルナフィエラはそっと椅子を引いて立ち上がる。
深く息を吸い、吐く。
その一連の動きに、自然と4人の視線が集まった。
「……あのね」
彼女の声は、小さかった。
けれど、その響きには確かな決意があった。
「昨日まで……私、すごく悩んでて……たぶん、それが態度にも出ちゃってたと思う」
その言葉に、ユリウスがそっと紅茶を置き、フィンもスプーンを止めてルナフィエラを見上げた。
シグは腕を組んだまま、真っ直ぐ彼女を見据えている。
そして、ヴィクトルは、何も言わず、ただ静かに彼女の声を待っていた。
「みんな……気づいていたと思うけど……私は、ヴィクトルのこと、ちょっと……避けてた」
ルナフィエラは唇をきゅっと結び、一瞬言葉を失いながらも、再びゆっくりと言葉を継いだ。
「私……ヴィクトルに嫌われたんじゃないかって、勝手に思い込んで……すごく不安で……でも、それをちゃんと言えなくて……」
「……ルナ」
フィンが小さく呼びかけようとしたが、ルナフィエラは首を横に振って制した。
「……ごめんなさい。……ちゃんと、最後まで言わせて」
一拍置いて、彼女は顔を上げる。
「ヴィクトルとは、昨夜話して……気持ちも伝え合って……誤解も解けたから。だから、そこはもう大丈夫」
そう言って微かに笑った顔は、どこか晴れやかだった。
けれど、次に続いた言葉にはまた、慎重さが戻っていた。
「でも……やっぱり私は、……誰か一人を“選ぶ”ってことが、できないの」
ふわりと空気が張り詰める。
「ユリウスも、シグも、フィンも、ヴィクトルも……みんな、すごく大切で、誰かを選ぶっていうことが……誰かを選ばないってことになる気がして……怖い」
ルナフィエラはぎゅっと胸元を握りしめる。
「……欲張りだよね。わがままなのもわかってる。……でも、それでも、今の私の正直な気持ちなの」
そして、もう一度顔を上げ、まっすぐに4人の目を見つめた。
「それでも、もし……みんなが、それでもいいって思ってくれるなら……私は、この古城で、5人で一緒に……これからも過ごしていきたい」
声は震えていなかった。
言葉は揺れていなかった。
けれど、目の奥には、不安と願いが交錯していた。
「……わがままで……こんなわたしで…ごめんね……」
ルナフィエラの言葉が静かに落ちる。
そのまま、部屋は一瞬、言葉を失ったように沈黙した──
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