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第六章:流れる鼓動、重なる願い
第101話・“選ばない”という愛のかたち
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最初に声を上げたのは、フィンだった。
「……ううん、全然わがままじゃないよ!」
勢いよく椅子を引いて立ち上がると、ぎゅっと握った拳を胸の前に掲げながら、真っすぐな目でルナフィエラを見つめる。
「僕は……最初から、ルナが誰かを選ばなくてもいいって、思ってた。
だって……僕はルナと一緒にいたいだけだから」
少年のような無垢な熱量が、言葉に乗ってまっすぐに届く。
「ルナが笑っててくれたら、それで充分だよ。……それが、僕の幸せだもん」
フィンの言葉に、ルナフィエラは少しだけ目を潤ませる。
続いて、シグが静かに立ち上がる。
彼は腕を組んだまま、少しだけ視線を逸らすようにして呟いた。
「……選ばねえなら、それはそれで、俺らが勝手に守るだけだ」
「シグ……」
「もともと、ルナに選ばれるためにそばにいたわけじゃない。
ルナがここで生きて、飯食って、笑ってくれりゃ、それでいい」
不器用で飾らない言葉――けれど、ぶれない本音がそこにあった。
それが胸の奥深くに、じんわりと温かく沁みていく。
そのあとに、口を開いたのはユリウスだった。
カップを手にしながらも、その声にはいつになく真剣な響きがある。
「“選ばない”という選択を、“選んだ”のなら――僕はそれを尊重するよ」
穏やかな口調のまま、けれど確かな芯を持って続ける。
「僕たちはきっと、皆……少しずつ違うかたちで、君を愛してる。
でもそれは、順位をつけるようなものじゃない。“誰よりも”なんて、比べるものじゃない」
「ユリウス……」
「君がどんな形を選んでも……その心が壊れないなら、それでいい。
僕たちは……ルナが選んだ日々を、大事に生きていくよ」
そして最後に──
ヴィクトルが、静かに席を立つ。
騎士然とした姿のまま、ルナフィエラの前に進み出ると、ひざを折り、恭しく頭を垂れた。
「……この命は、貴女に捧げられたもの。選ばれることを望んだことは、今までも一度としてありません」
「ヴィクトル……でも、私は……」
「貴女の“在り方”を、尊重したいのです。
たとえ、私が隣に立てなくとも、貴女が微笑んでいられるのなら……それが、私の本望です」
低く、優しく響くその声に、また涙がにじむ。
「──ただ。
もしその傍に、私も在れるのなら。
これほど嬉しいことはありません」
ルナフィエラの目に、また涙がにじんだ。
誰ひとり、責めなかった。
誰ひとり、否定しなかった。
“選ばない”という選択にさえ、彼らはそれぞれの愛のかたちで寄り添ってくれた。
(……本当に、私は、幸せ者だ)
そう胸の奥で噛みしめながら、ルナフィエラはそっと涙を拭い、微笑んだ。
ひとしきり言葉を交わしたあと、空気にやわらかな静寂が訪れた。
ルナフィエラは椅子の背に軽く身を預けながら、ほっと息を吐く。
胸の奥を押さえていた重みが、ようやくほどけた気がした。
そして、そんな空気を軽やかに動かしたのは──フィンだった。
「じゃあさ! 今日も一緒に、散歩行こうよ!」
ひょいと手を挙げて、明るい声を響かせる。
その声に、ルナフィエラの瞳がぱちりと瞬いた。
「散歩……?」
「うん! 最近日差しも気持ちいいしさ。
昨日までのもやもやも、風に飛ばしちゃえばいいんだよ!」
「……いい案だ」
シグが静かに頷く。
「歩くのも悪くない。体調も安定してきてるしな」
「そうだね。リハビリを兼ねて、緩やかに歩くにはちょうどいい季節だよ」
ユリウスも笑顔で続ける。
その横でヴィクトルは控えめに一歩前に出て、そっと、ルナフィエラに問いかけた。
「……お身体に、無理はありませんか?」
「うん、大丈夫。今日は……きっと、いい日になる気がするの」
彼女の微笑みに、ヴィクトルは深く頷く。
「では、お供いたします」
そして、彼女は静かに席を立った。
その歩みは、昨日よりも少し軽やかで、どこか晴れやかだった。
思い悩んだ日々。
迷って、揺れて、涙した夜。
それらは決して無駄ではなかったと──
今の自分が、ちゃんと教えてくれる。
「ありがとう、みんな」
ルナフィエラは立ち止まり、もう一度、心からそう言った。
「今日も、みんなと一緒にいられることが……幸せだよ」
その言葉に、誰もが優しい微笑みで応えた。
扉が開き、朝の光が差し込む。
5人の影が、静かにその光の中へと溶けていく。
外には、いつもの森。
変わらぬ空。
けれど――今日から始まる時間は、ほんの少しだけ特別だった。
──5人で紡いでいく、穏やかな日々のはじまり。
そしてその先には、また新しい想いが、ゆっくりと芽吹いていく。
「……ううん、全然わがままじゃないよ!」
勢いよく椅子を引いて立ち上がると、ぎゅっと握った拳を胸の前に掲げながら、真っすぐな目でルナフィエラを見つめる。
「僕は……最初から、ルナが誰かを選ばなくてもいいって、思ってた。
だって……僕はルナと一緒にいたいだけだから」
少年のような無垢な熱量が、言葉に乗ってまっすぐに届く。
「ルナが笑っててくれたら、それで充分だよ。……それが、僕の幸せだもん」
フィンの言葉に、ルナフィエラは少しだけ目を潤ませる。
続いて、シグが静かに立ち上がる。
彼は腕を組んだまま、少しだけ視線を逸らすようにして呟いた。
「……選ばねえなら、それはそれで、俺らが勝手に守るだけだ」
「シグ……」
「もともと、ルナに選ばれるためにそばにいたわけじゃない。
ルナがここで生きて、飯食って、笑ってくれりゃ、それでいい」
不器用で飾らない言葉――けれど、ぶれない本音がそこにあった。
それが胸の奥深くに、じんわりと温かく沁みていく。
そのあとに、口を開いたのはユリウスだった。
カップを手にしながらも、その声にはいつになく真剣な響きがある。
「“選ばない”という選択を、“選んだ”のなら――僕はそれを尊重するよ」
穏やかな口調のまま、けれど確かな芯を持って続ける。
「僕たちはきっと、皆……少しずつ違うかたちで、君を愛してる。
でもそれは、順位をつけるようなものじゃない。“誰よりも”なんて、比べるものじゃない」
「ユリウス……」
「君がどんな形を選んでも……その心が壊れないなら、それでいい。
僕たちは……ルナが選んだ日々を、大事に生きていくよ」
そして最後に──
ヴィクトルが、静かに席を立つ。
騎士然とした姿のまま、ルナフィエラの前に進み出ると、ひざを折り、恭しく頭を垂れた。
「……この命は、貴女に捧げられたもの。選ばれることを望んだことは、今までも一度としてありません」
「ヴィクトル……でも、私は……」
「貴女の“在り方”を、尊重したいのです。
たとえ、私が隣に立てなくとも、貴女が微笑んでいられるのなら……それが、私の本望です」
低く、優しく響くその声に、また涙がにじむ。
「──ただ。
もしその傍に、私も在れるのなら。
これほど嬉しいことはありません」
ルナフィエラの目に、また涙がにじんだ。
誰ひとり、責めなかった。
誰ひとり、否定しなかった。
“選ばない”という選択にさえ、彼らはそれぞれの愛のかたちで寄り添ってくれた。
(……本当に、私は、幸せ者だ)
そう胸の奥で噛みしめながら、ルナフィエラはそっと涙を拭い、微笑んだ。
ひとしきり言葉を交わしたあと、空気にやわらかな静寂が訪れた。
ルナフィエラは椅子の背に軽く身を預けながら、ほっと息を吐く。
胸の奥を押さえていた重みが、ようやくほどけた気がした。
そして、そんな空気を軽やかに動かしたのは──フィンだった。
「じゃあさ! 今日も一緒に、散歩行こうよ!」
ひょいと手を挙げて、明るい声を響かせる。
その声に、ルナフィエラの瞳がぱちりと瞬いた。
「散歩……?」
「うん! 最近日差しも気持ちいいしさ。
昨日までのもやもやも、風に飛ばしちゃえばいいんだよ!」
「……いい案だ」
シグが静かに頷く。
「歩くのも悪くない。体調も安定してきてるしな」
「そうだね。リハビリを兼ねて、緩やかに歩くにはちょうどいい季節だよ」
ユリウスも笑顔で続ける。
その横でヴィクトルは控えめに一歩前に出て、そっと、ルナフィエラに問いかけた。
「……お身体に、無理はありませんか?」
「うん、大丈夫。今日は……きっと、いい日になる気がするの」
彼女の微笑みに、ヴィクトルは深く頷く。
「では、お供いたします」
そして、彼女は静かに席を立った。
その歩みは、昨日よりも少し軽やかで、どこか晴れやかだった。
思い悩んだ日々。
迷って、揺れて、涙した夜。
それらは決して無駄ではなかったと──
今の自分が、ちゃんと教えてくれる。
「ありがとう、みんな」
ルナフィエラは立ち止まり、もう一度、心からそう言った。
「今日も、みんなと一緒にいられることが……幸せだよ」
その言葉に、誰もが優しい微笑みで応えた。
扉が開き、朝の光が差し込む。
5人の影が、静かにその光の中へと溶けていく。
外には、いつもの森。
変わらぬ空。
けれど――今日から始まる時間は、ほんの少しだけ特別だった。
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