病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな

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第17話・選択の先に咲いた自由

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カフェでの外出をきっかけに、週に一度ほど。
奏一の休みに合わせて、二人で出かけるのが小さな習慣になった。

本屋では、棚に並ぶ背表紙の中から気になった一冊を手に取り、試し読みをする。

水族館では、暗い水槽の前でゆらゆらと漂うクラゲを無言で眺める時間がやけに心地よかった。

大型雑貨店では、色とりどりの文房具や新作のコスメを見比べ、買うかどうかで迷う時間すら楽しかった。

もちろん、何でも自由にできるわけじゃない。
人が多い観光地、屋外や長時間の歩行、声を使う場所、体調を崩しかねない食べ歩き――そうしたものははっきりと「ダメ」と言われた。

それでも、琴葉は嬉しかった。

親元にいた頃は、どんなに頼んでも自分の足で買い物へ行くことすら許されなかった。
必要な物はすべて母が選び、家に持ち帰ってくる。
学校と家と病院――その三つ以外の場所は、琴葉には存在しなかった。

けれど、奏一は違った。
条件付きとはいえ、“自分で選ぶ”ことを許してくれた。
それは、これまでの当たり前をひっくり返すほどの出来事。

外の空気を吸い、見たことのない景色に触れ、自分で選んだものを手にする――その自由が、どれほど心を軽くするかを、初めて知った。


——————

ある週末の午前中。
2人は車でショッピングモールへ向かった。
ガラス張りの大きな建物が近づくにつれ、胸の奥がじわりと高鳴る。

ーー洋服も、自分で選べるなんて。

着るものは、自分を外側から形づくる大切なもの。
けれど今までの服は、全て母が選んだものだった。
「似合うはず」という言葉で押しつけられた、同じような色と形ばかり。

だから、アパレルショップの前に立つだけで、妙な緊張が喉に詰まった。

「入りますか」

「……うん」

店内は明るく、夏物のワンピースやブラウスが並び、軽やかな色が目に飛び込んでくる。
琴葉は、マネキンの着こなしをちらちら見ながら、そっとハンガーを手に取った。
柔らかな生地の感触、色味の微妙な違い――
ひとつひとつが新鮮だった。

しばらく悩んだ末、一着のワンピースを手に取る。

「サイズは……これだと少し大きいかもしれませんね」

奏一が横からタグを確認し、同じデザインのワンサイズ下を差し出す。

「こちらを試着してみましょう」

試着室の鏡に映ったのは、見慣れない自分だった。
色も形も、母が選んだものとは違う。
裾を揺らすたび、胸がほんの少し弾んだ。

外に出ると、奏一が短く言う。

「似合っています」

淡々とした声なのに、その一言が驚くほど嬉しかった。

その一言に背中を押され、結局そのワンピースを購入することに。
レジで袋を受け取った瞬間、胸の奥にじんわりと達成感が広がった。


袋を抱えたまま店を出ると、モール内の通路は昼下がりの買い物客でほどよく賑わっていた。
琴葉は歩きながら、袋の中身を何度も思い浮かべてしまう。

――私が、自分で選んだ服。私のための服。

そう思うたび、胸の奥がふわりと軽くなる。

前を見ているつもりだったが、視線はどこか宙を漂っていた。
向かいから来る人影に気づくのが、一瞬遅れる。

「――」

ぶつかる、と思った瞬間、腕を引かれた。
軽く体が横に流れ、すれ違いざまの人と肩が触れることはなかった。

「……気をつけてください」

奏一は特に強くもなく、自然な力加減で琴葉を引き寄せてくれていた。
その動作があまりにも滑らかで、周囲から見ればただ一緒に歩いていただけのように見えるだろう。

「……ごめんなさい」

浮かれていたせいで、危うく他人にぶつかるところだった。
助けられたことも、自分の不注意も、どちらも恥ずかしい。

顔が熱を帯びるのを感じ、慌てて前を向く。
けれど隣を歩く奏一は、いつも通りの落ち着いた横顔だった。
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