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第26話・花を閉じ込めた甘いひととき
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休憩を挟み、温室をゆっくりと一周した後、ふたりは併設されているガラス張りのカフェへと向かった。
店の入り口では、色とりどりの花をあしらったメニュー看板が出迎えてくれる。
店内に足を踏み入れると、空調の効いた空気にふわりと甘い香りが混ざり、温室とはまた違うやわらかさが広がっていた。
窓際のテーブル席に通され、奏一がメニューを琴葉に手渡す。
「ご希望のスイーツ、ありそうですね」
「……あ、あった。これだ」
琴葉が指差したのは、SNSで見かけたあのスイーツ。
透明なゼリーの中に花びらが閉じ込められたグラスデザートと、エディブルフラワーをあしらった白いケーキ。
見た目が可愛くて、美しくて、まるで宝石みたいだった。
「それと、カフェラテ。ラテアートのやつも……」
「わかりました。注文してきますね」
そう言って、奏一がカウンターへ向かう。
その背中を見送りながら、琴葉は胸の奥がふわりと温かくなるのを感じた。
自分が「これがいい」と言って、奏一が自然に受け入れ、叶えてくれる。
それだけのことなのに――どうしようもないほど嬉しくて、心がほどけていく。
やがて運ばれてきたトレイには、写真以上に鮮やかで澄んだスイーツが並んでいた。
「すごい……」
琴葉はスマホを取り出し、光の入り方や背景を調整しながら夢中でシャッターを切る。
数枚撮ってふと顔を上げると、奏一が静かにこちらを見ていた。
「なに?」
「いえ……楽しそうで、何よりです」
その声音がいつもより柔らかくて、琴葉は照れたように目をそらした。
「……いただきます」
ゼリーをすくうと、つるんと花びらが揺れた。
ひと口運ぶと、ほのかな甘さと涼やかさが舌に広がる。
「……おいしい」
その瞬間、胸の奥に“普通の女の子みたいだ”という実感が広がった。
誰かとカフェでスイーツを食べて、笑って――そんな当たり前の時間が、ずっと手の届かない夢だった。
それを、叶えてくれたのは――奏一だ。
そっと視線を向けると、彼は変わらない表情のまま、どこか安心したように穏やか。
「……ありがとう」
ぽつりとこぼれた言葉は、どれだけ届いたのか分からない。
けれど、確かに自分の心の奥から出てきたものだった。
カフェでの余韻を残したまま、ふたりは併設されているクラフト体験施設へと足を運んだ。
建物は小さいが、中には所狭しと花やドライリーフ、ガラス瓶、精油などが並んでいて、まるで秘密のアトリエのような雰囲気だ。
「ご予約の遠野様ですね。お待ちしておりました。おふたり分、ご用意しております」
案内されたテーブルには、小皿に分けられた色とりどりのドライフラワーと押し花がずらりと並んでいる。
スタッフの説明を聞きながら、琴葉は思わず目を輝かせた。
「……かわいい……」
ピンクやラベンダー、白、淡いブルーにイエロー。
どれも小さくて繊細で、まるでガラス細工のような美しさだった。
ふと隣を見ると、奏一も同じように席につき、花材を見つめている。
「先生も作るの?」
「ええ。一緒に体験できるよう、予約を入れておきました」
「……意外」
無表情のまま手を動かす奏一だが、その動きはどこかぎこちない。
集めているのは淡いグリーンや白い小花ばかりで、控えめというか――地味というか。
「なんか……地味じゃない?」
「統一感を重視した結果です。これ以上華やかな構成は……私には難しいかと」
あまりにも真面目な返答に、琴葉は吹き出しそうになり、必死に唇を引き結んでこらえた。
「でも……先生と並んでこういうの作るの、ちょっと不思議。なんか、変な感じ」
「琴葉さんが選んだ場所ですから」
「うん。……選んでよかった」
小さくつぶやいた言葉には照れが混ざっていたが、その奥にある気持ちを奏一はしっかり受け止めているようだった。
やがて、温められたジェルワックスが注がれると、花たちは透明な中にふわりと浮かぶ。
琴葉のキャンドルは、黄色やオレンジ、白の花を組み合わせた、明るいビタミンカラーでまとめられていた。
まるで太陽の光をそのまま閉じ込めたような、あたたかくて元気の出る色合いだった。
「……すごい。きれい……」
何度も角度を変えて眺めながら、胸の奥がじんわり満たされていく。
“好き”を詰め込んだ、自分だけのキャンドル。それがこうして形になることが、ただ嬉しかった。
隣で完成した奏一のキャンドルは、淡いグリーンと白が重なり合い、
静かな水底に小さな花が咲いたような、落ち着いた色合いだった。
「それ、先生の? ……案外、悪くないかも」
「ありがとうございます。初めてのわりには、形になりました」
その短いやりとりでさえ、今の琴葉には胸をあたたかくするものだった。
店の入り口では、色とりどりの花をあしらったメニュー看板が出迎えてくれる。
店内に足を踏み入れると、空調の効いた空気にふわりと甘い香りが混ざり、温室とはまた違うやわらかさが広がっていた。
窓際のテーブル席に通され、奏一がメニューを琴葉に手渡す。
「ご希望のスイーツ、ありそうですね」
「……あ、あった。これだ」
琴葉が指差したのは、SNSで見かけたあのスイーツ。
透明なゼリーの中に花びらが閉じ込められたグラスデザートと、エディブルフラワーをあしらった白いケーキ。
見た目が可愛くて、美しくて、まるで宝石みたいだった。
「それと、カフェラテ。ラテアートのやつも……」
「わかりました。注文してきますね」
そう言って、奏一がカウンターへ向かう。
その背中を見送りながら、琴葉は胸の奥がふわりと温かくなるのを感じた。
自分が「これがいい」と言って、奏一が自然に受け入れ、叶えてくれる。
それだけのことなのに――どうしようもないほど嬉しくて、心がほどけていく。
やがて運ばれてきたトレイには、写真以上に鮮やかで澄んだスイーツが並んでいた。
「すごい……」
琴葉はスマホを取り出し、光の入り方や背景を調整しながら夢中でシャッターを切る。
数枚撮ってふと顔を上げると、奏一が静かにこちらを見ていた。
「なに?」
「いえ……楽しそうで、何よりです」
その声音がいつもより柔らかくて、琴葉は照れたように目をそらした。
「……いただきます」
ゼリーをすくうと、つるんと花びらが揺れた。
ひと口運ぶと、ほのかな甘さと涼やかさが舌に広がる。
「……おいしい」
その瞬間、胸の奥に“普通の女の子みたいだ”という実感が広がった。
誰かとカフェでスイーツを食べて、笑って――そんな当たり前の時間が、ずっと手の届かない夢だった。
それを、叶えてくれたのは――奏一だ。
そっと視線を向けると、彼は変わらない表情のまま、どこか安心したように穏やか。
「……ありがとう」
ぽつりとこぼれた言葉は、どれだけ届いたのか分からない。
けれど、確かに自分の心の奥から出てきたものだった。
カフェでの余韻を残したまま、ふたりは併設されているクラフト体験施設へと足を運んだ。
建物は小さいが、中には所狭しと花やドライリーフ、ガラス瓶、精油などが並んでいて、まるで秘密のアトリエのような雰囲気だ。
「ご予約の遠野様ですね。お待ちしておりました。おふたり分、ご用意しております」
案内されたテーブルには、小皿に分けられた色とりどりのドライフラワーと押し花がずらりと並んでいる。
スタッフの説明を聞きながら、琴葉は思わず目を輝かせた。
「……かわいい……」
ピンクやラベンダー、白、淡いブルーにイエロー。
どれも小さくて繊細で、まるでガラス細工のような美しさだった。
ふと隣を見ると、奏一も同じように席につき、花材を見つめている。
「先生も作るの?」
「ええ。一緒に体験できるよう、予約を入れておきました」
「……意外」
無表情のまま手を動かす奏一だが、その動きはどこかぎこちない。
集めているのは淡いグリーンや白い小花ばかりで、控えめというか――地味というか。
「なんか……地味じゃない?」
「統一感を重視した結果です。これ以上華やかな構成は……私には難しいかと」
あまりにも真面目な返答に、琴葉は吹き出しそうになり、必死に唇を引き結んでこらえた。
「でも……先生と並んでこういうの作るの、ちょっと不思議。なんか、変な感じ」
「琴葉さんが選んだ場所ですから」
「うん。……選んでよかった」
小さくつぶやいた言葉には照れが混ざっていたが、その奥にある気持ちを奏一はしっかり受け止めているようだった。
やがて、温められたジェルワックスが注がれると、花たちは透明な中にふわりと浮かぶ。
琴葉のキャンドルは、黄色やオレンジ、白の花を組み合わせた、明るいビタミンカラーでまとめられていた。
まるで太陽の光をそのまま閉じ込めたような、あたたかくて元気の出る色合いだった。
「……すごい。きれい……」
何度も角度を変えて眺めながら、胸の奥がじんわり満たされていく。
“好き”を詰め込んだ、自分だけのキャンドル。それがこうして形になることが、ただ嬉しかった。
隣で完成した奏一のキャンドルは、淡いグリーンと白が重なり合い、
静かな水底に小さな花が咲いたような、落ち着いた色合いだった。
「それ、先生の? ……案外、悪くないかも」
「ありがとうございます。初めてのわりには、形になりました」
その短いやりとりでさえ、今の琴葉には胸をあたたかくするものだった。
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