病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな

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第47話・夜明けのぬくもり

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まぶたの裏が、ゆっくりと光に満たされていく。
目を覚ました瞬間、感じたのは、あたたかなぬくもりだった。

(……手、つないだまま……)

自分の手が、誰かの手と重なっている。
その感覚に導かれるように、琴葉はゆっくりと瞳を開いた。

朝の柔らかな光が、カーテンの隙間から差し込んでいる。
見慣れた部屋の天井。
そしてすぐ傍に、ベッド脇の椅子に腰かけた奏一の姿があった。

白衣の袖口を少し揺らしながら、目を閉じている。
眠っているのか、それともただ目を休めているだけなのか――
その横顔は、昨夜と変わらず静かだった。

「……先生……」

掠れた声で呼びかけると、まるでその瞬間を待っていたかのように、奏一がすぐに目を開ける。
そして、繋がれたままの手を確かめるように、そっと指を握り直した。

「おはようございます。……体調はどうですか?」

「……うん、大丈夫そう。昨日より……ずっと楽」

その言葉に応えるように、奏一の手が額へと伸びる。
ひんやりとした指先がそっと触れ、熱を確かめると――
ふっと、彼の表情が緩んだ。

「熱、下がっていますね。ひとまず、安心して大丈夫そうです」

「……よかった……」

身体はまだ少し重いけれど、昨夜のだるさは、ほとんど残っていなかった。

安堵とともに、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。

(……本当に、ずっとそばにいてくれたんだ)

繋がれたままの手。
きっと、自分が眠っている間も、離さずにいてくれたのだろう。

それが嬉しくて、愛しくて、琴葉の胸はまた、きゅっと締めつけられる。

「先生……ありがとう」

「いえ、あなたは……私にとって、大切な人ですから」

そう言って、やさしく琴葉の髪を撫でる。
その手のひらが心地よくて、琴葉は小さく目を細めた。

「……では、診察をしましょうか」

少しだけ仕事の色を滲ませた声で、奏一がそう告げる。
琴葉はぱちりと瞬きをして、彼を見上げた。

「……今?」

「ええ。朝食と薬の前に、体の状態を確認しておきましょう」

そう言いながら、奏一は静かに立ち上がり、白衣のポケットから聴診器を取り出した。

見慣れた仕草なのに、今朝はなぜだか胸がざわめいてしまう。
自分でもわかるほど、心臓の鼓動が早くなっていた。

「では、服のボタン……上だけ、外しますよ」

「……う、うん」

頷くのが精一杯だった。

けれど奏一の手つきは、いつも通り落ち着いていて、淡々としている。
その変わらなさが、今の関係との距離を際立たせて、
余計に鼓動がうるさく感じられた。

「すぐ終わりますから、楽にしていてください」

静かに――心音を聴き始める。

部屋に響くのは、自分の心臓の音だけ。
トクン、トクン、と早鐘のように鳴るその音を、奏一がどんな顔で聴いているのか、琴葉には怖くて確かめられなかった。

「……心拍、少し早めですね。熱の影響もあるかもしれませんが……」

「……そ、それって……」

「問題ありません。音もリズムも正常です。次は背中を――」

促されるまま体を横向きにし、背中にも聴診器が当てられる。
そのあと、血圧を測られ、体温も確認された。

奏一の動きは、どこまでもスムーズで、どこまでも“医者”。

それが、少しだけ寂しくもある。

「はい、異常は見当たりません。熱も平熱まで下がっていますね」

「じゃあ……大学、行っても――」

「それは許可できません」

きっぱりと遮られて、琴葉は小さく肩をすくめた。

「今日は、絶対安静です。
午前中は、食後に薬を飲んで、もう一度しっかり休みましょう」

「……はぁい」

やさしいけれど、有無を言わせない口調。
けれど、その厳しさがどこかくすぐったくて、琴葉は小さく笑った。

――彼がそばにいてくれる限り、きっと大丈夫。

そんな確かな安心感が、胸の奥に、ふんわりと灯っていた。
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